第7章 アイソトープ利用の効果
§1工業利用

アイソトープの工業利用は他の各分野からもはるかに期待のかけられているものであり,わが国においては医学, 農学,理学などの分野よりも多少遅れてスタートしたにもかかわらず,近時は研究から応用の段階へと進展してき た。まずその工業利用研究には大きくわけて, 1)トレーサーとしての利用 2)ラジオグラフィー 3)計測,制御  4)線源利用の四つに分けられる。

1)トレーサーとしての利用

 トレーサーとしての利用についての研究は,工業的に,摩耗,拡散,腐食,流量および流速の測定,漂砂および漏水の調査,物理化学現象の研究,化学反応機構の研究などがその対象となるものである。
 たとえばアルミナ製造の際にボーキサイトの放射化,および32Pの利用により,ボーキサイトの溶解工程における各成分の移動,溶液の流れ等を追跡し,溶解工程ならびに反応時間の短縮をはかった。また苫小牧港における応用も顕著な成果の一つとして注目されているが,そこではトレーサーを用いて湾内での漂砂の移動状態を追跡しその結果砂の港内への流入がないことが判明して,築港とともに数万トンの大型船の出入が可能となり,これからの発展が期待されるに至った。
 このような例は伊良湖崎港についても報告されている。さらに今後全国十数ヵ所でこのような調査が望まれている。この他222Rnを用いて地中埋設ガス導管の漏洩を深査測定する方法につき研究され非常に感度よく簡単に測れることがわかった。

2)ラジオグラフィー(非破壊検査)

 重工業の発展に伴って溶接,鋳造の非破壊検査の要求が増大し,アイソトープ(主として60Co,最近では137Cs)を利用したγラジオグラフィーが多方面にわたって賞用されるようになってきたが,33年度においても多くの研究がなされ,その基礎的な諸事実の解明とともに,応用分野の拡張が企てられた。たとえば線源(60Co)と露出頭(ExposureHead)との間を空気により伝送し,作業の安全性と狭隘箇所での使用を可能にする遠隔操作型透過検査装置の試作がなされ,また火力発電用プラントに用いる高温蒸気管の溶接接手についてその溶接途中での検査法か改善された。このγラジオグラフィーは,透過力が強く,価格が安く,線源が小型,軽量で移動させやすい等の長所を持つので将来のなおいっそうの発展が期待されている。

3)計測,制御への応用

 これは自動制御および広義での品質管理への関連として考えられるものであって,すでに実用化の段階になったものもあるが,これらに対する33年度の研究をあげてみよう。
 それぞれ被測定物の条件により厚み計,液面計,濃度計等が主として研究考案されその応用用途を拡大しつつある。60Coをγ線源として車両,レール,検出器を結ぶ放射線継電器を作り,耐久性,耐震性のある信号機が考案試作された。また溶鉱炉の炉壁に60Coを埋め込み,その操業中での侵食状況を調査する方法が開発され,その結果炉の管理方法を再検討し,炉の寿命を延長することも可能となろう。その他金属薄板,ゴムシート,フィルム,紙等の製造の際,その厚みを自動的に測定し,その均一化に大いに役だっている等その新分野への応用には顕著なものもみられる。

4)照射効果の利用

 これは放射線照射による高分子物質の変性,化学反応の促進,菌種の改良および殺菌などに大別できる。
 たとえばポリエチレンの耐熱性,絶縁性を増加させたり,各種合成繊維の染色性を向上させる等の研究応用がなされその効果が知られてきたが,33年度ではさらに,ポリ塩化ビニルにγ線照射を行なうと架橋反応が促進されるとか,ポリスチレン,ポリビニルアルコール等の高分子物質の塩素化がγ線により可能となり,またアクリロニトリルをジメチルスルホキシド中でγ線重合を行ない,延伸倍率がすぐれ着色しない良好な糸が得られた。


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