第7章 アイソトープ利用の効果

 わが国アイソトープの利用の現状が,ここ2,3年基礎的研究段階より,実用的な応用段階へと移行しつつあることは,さきの使用状況からも明らかであるが,これは単にわが国のみの現象ではなく,世界的な傾向であるといっても過言ではない。特にこの傾向の著しい分野としてアイソトープの工業利用を,その筆頭に掲げることができよう。
 今この面における諸外国の実例をみてみると,すでに発表されていることではあるが,昨年のジュネーブ会議において,米国原子力委員会は,米国におけるアイソトープの工業利用の経済的効果が年間最高5億ドル(1957年)にのぼると発表し,その後の調査によれば,アメリカのみならず,ソ連においても,アイソトープ工業利用による年間節約額は,約15億ルーブル(1957年),フランスでは年間少なくとも55億フラン(1957年)というような事例が発表されている。
 もちろんこれらの諸国と比べ,わが国のアイソトープの利用が,特に民間企業にまで盛んに浸透しだしたのは,ここ2,3年来のことで,その多くは試験的な段階で,その節約額まで,数字をあげてうんぬんすることは困難だが,一部では約30億円と推定されている。しかし現に先のアメリカにおける5億ドル節約についても,その後行なわれた米国原子力産業会議の調査により,その節約額は,米国原子力委員会の発表の10分の1,5,000万ドルと公表されている。これでわかるように,その推定は非常にむずかしい要素がある模様である。
 しかし,アイソトープの現場的利用による効果が,単に経済的にうんぬんできえなかったのみに過ぎないのであって,この間多くの効果があったことはいうまでもない。


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