第6章 燃料製造技術の研究開発
§1ウランの製錬

1.粗製錬

 国産鉱石からのイエローケーキ製造技術を開発するために原子燃料公社は茨城県東海村に粗製錬試験施設を建設した。この施設は(第6-1図)に示すとおり大別して破砕・浸出・抽出の工程からなる。
 このうち破砕浸出工程は33年度申に完成をみた。この工程では塔式粉砕機を用い摩砕と同時に硫酸浸出を行なう。
 抽出工程においては移動床式イオン交換法と溶媒抽出法とが併用されているが,前者はウラン濃度の低い浸出スラリーを処理するに適し,後者はウラン濃度の比較的高い清澄液の処理に適している。将来本格的な操業を行なう際に採用さるべき方式をこのいずれか一方に決定するには今後の試験にまたねばならない。もし移動床式イオン交換方式が利用しうるならば

① 給液の完全な清澄化を必要としない。
② 連続操作により装置は比較的小規模なものでよい。
③ 向流操作でウランの抽出率は高く溶離薬品の消費は低く,製品濃度および純度が高い。
 このような利点があげられるが,さらに大きな利点としては精製錬工程におけるエキサー法と直結して,粗製錬工場で四フッ化ウランUF4を作る可能性も考えられる。
 この施設の本格的操業に先だち人形峠産鉱石からのウラン浸出に関する研究が行なわれた。湿式製錬においてコストに大きく響く因子として鉱石中の有価成分が易溶性であるかいなかが問題になるが,人形峠産鉱石に対して硫酸濃度と浸出時間,再浸出および酸化剤の影響等について試験した結果,硫酸濃度60g/lで60分浸出させると80/lも浸出する易溶性を示した。再浸出においても浸出残渣の50%が浸出された。
 人形峠から産出するウラン鉱石の直接抽出製精法に関する研究として32年度から引き続き低品位ウランの有機溶剤による抽出精製について研究が行なわれた。この研究は有機溶剤による抽出と電解還元とを根幹とした四フッ化ウランの新しい製造法を開発した。すなわちこの方法は鉱石から硫酸浸出した浸出液をD-2-EHPA(2エチールヘキシール燐酸)とTBP(トリブチルリン酸)のケロシン溶液で抽出した電解還元を行なった後,再びDDPA(ドデシルリン酸)のケロシン溶液で抽出し,後20%フッ酸でフッ化し四フッ化ウランを得る方法であり,工程中にイエローケーキを沈殿させることを必要とせずかつ有機相で直接フッ化できる等の利点がある。
 鉱石から総合収率85~90%の収率でウランを抽出することができた。
 また鉱石中のウランを直接塩化によって分離する乾式法によるウラン精錬法の研究も32年度に引き続き行われた。これは一種の流動床塩化炉により,鉱石中のウランを直接塩化して分離するものであるが,この方法により人形峠鉱石からウランの捕集率約88%でU808濃度約4.5%の塩化物を得ることができた。引き続き装置の改良,塩化処理鉱残渣の利用等について研究が進められている。
 以上のほか,前年度から引き続いて行なわれた「リン鉱石からのウラン抽出」に関する研究については高収率でウランを取得することができるとともにリシ酸アンモニア系高度化成肥料の製造原料として回収リン酸等を利用しうることが認められた。また「ペグマタイト鉱石からのウラン抽出に関する研究」に関しては32年度から引き続き一連の基礎研究が行なわれている。

2.精製錬

 精製錬に関して原子燃料公社に精製還元中間試験工場が33年12月に建設され一連の試験研究が行なわれている。この工場は金属ウラン日産30kgの設備能力を有しており,ここで採用された精錬法は米国オークリッジ国立研究所で研究開発されたエキサー法とその後に続く金属マグネシウム還元工程からなる。この精製方式は,在来法として多くの工場で採用されている硝酸溶解,溶媒抽出,乾式フッ化の方式と異なり塩酸溶解,イオン交換,湿式フッ化の工程を採用しており連続操業が容易であって,工程の簡略化がはかられている,加熱操作が少ない等,多くの特長を有している。
 同工場は34年3月末に約80kgインゴットの生産に成功して以来その製品の質的向上,装置の改善,収率の向上等工業化への試験を進めている。
 ここで採用された方式は塩酸を使用する関係上製品に好ましくない塩素混入の危険および湿式フッ化沈殿の方式を採用するためフッ化ウランに結晶水が残る等の問題が考えられたが,試験の結果,実際的な問題とはならないことが判明した。
 第1回還元に供した試料は南ア産精鉱である。このイエローケーキは精鉱生産時の■焼温度が高いので酸に対する溶解性はいくぶん悪いのではないかと懸念されたが実験を重ねた結果,少量の酸化剤を添加することによって解決した。
 フッ化沈殿工程において得られるUF4中に含まれる不純分含有量について当初はFe,Ni,Clの値が多かったが,その後,UF4沈殿の洗浄を十分にすれば満足しうるものとなることが明らかとなった。またUF4′中においてウラン還元を阻害するH20,U02F2,U02等の酸素の化合物含有量は在来法による場合よりむしろ低く,タップデンシティも27~35とかなり高いということから,これまで湿式法にまつわる欠点として指摘されていた問題点は解消された。
 一方この工程に用いる各種機器,特にその材質の点に関して若干の問題があった。そのうち電解還元槽付属のポンプに関しては他の材質を使用することで解決し,陽極の短寿命である点についてはさしあたり予備陽極で取替を行なうほかはないが,恒久策として電解槽自体の改良について検討を行なった。
 還元に際しては30%過剰のMgをUF4とともにボンベに装入し,炉温を730°Cに保つが,反応を開始するまでに約3~4時間を要する。鋳造温度は1,300~1,4000°Cで行なっている。
 このようにして作られたウランインゴットは34年9月末現在約400kgに達した。当初は不純物Fe,Niの値がかなり高かったが,その除去に関して種々検討が行なわれた結果,最近のものは国産1号炉用インゴットの規格に合格しうるものとなっている。
 その他インゴットの硬さ等に影響を与えるCについてはマリンクロッド社やエルドラド社のディンゴットのように,はなはだ含有量の少ないものが現われてきている傾向からみて,今後さらにその混入を防止することを考える必要がある。
 かくて今後の収率の向上をはかるため,各工程のリサイクルおよび溶解鋳造の際の最適条件の検討,安定した品質を確保するための管理方式の確立等が検討されている。


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