第5章 原子炉用材料の開発
§6原子炉およびその付属装置に必要な材料およびその加工

1.ステンレス鋼

 ステンレス鋼の研究は30年度から行なわれているが,この期間には次のごときものが行なわれた。
 原子炉材料として使用されるAIS工規格304および347のステンレス鋼の製造についての研究は32年度において完了したので,33年度としてはこれに引き続いてこれら材料のステンレス鋼管の製造および加工についての研究が行なわれた。すなわち原子炉用としては小径薄肉かつ長尺のものが使用され,しかも精度が高く引張強さの高いものが必要とされる。そこで外径約8mm厚さ約0.5mmのステンレス鋼管のマンドレル引抜きとリーリングによる製造法について研究した。そして小径薄肉のステンレス鋼管が従来の方法の約1/2に短縮された工程で冷間引抜きを可能ならしめるとともに,特に精度の高いものは特殊心金によるプラグ引きによって精度が外径で±0.03mm,厚さで±0.02mmというものが得られた。
 また原子炉冷却材循還用配管として耐高温高圧用に使用されるステンレス鋼管の遠心鋳造法による製造法の研究が34年度までの継続研究として始められた。一般にこの方法によって製造されたステンレス鋼管は溶接管,引抜管より均質であり,肉厚のものが容易に製造でき,その製造価格も著しく低減しうるが,実用上満足すべきものは製造されていない。本研究は遠い心鋳造のための溶鋼成分,鋳型の厚さ,予熱温度,回転数,鋳込温度等の検討とともに試作品の機械的性質,検査法等について研究を行なう。
 またステンレス鋼管を被覆材とし,酸化ウラン焼結体を燃料とする燃料要素の製造法について,ステンレス鋼管の燃料棒端部の密封溶接法,燃料集合体の組立法等について検討し,かかる燃料要素を国内生産する場合の製造技術上の資料を得ようとする研究も34年度までの継続研究として行なわれている。
 一方原子炉圧力容器用の超極厚クラッド鋼のオープンサンドウィッチ法,セミサンドウィッチ法による庄延製造法について研究が行なわれ,厚さ200mmのクラッド鋼の製造法を確立した。
 一方347,304のステンレス鋼はコバルト,マンガンおよびタンタルの含有量が多く(約CoO.3%,Mnl.5%,Ta0.1%)これら中性子吸収断面積が大きくかつ中性子照射により半減期の長い放射性同位元素に変化するので,これらの元素を極度に制限した(C0 0.05%,Mn O.2〜0.3%,TaO・03〜0・05%)新しいステンレス鋼についても,その製造法および加工法ならびに原子炉材料としての適合性等について種々研究を行なった。かくしてステンレス鋼のすぐれた性質をそこなうことなく,コバルト,マンガン,タンタルを制限したステンレス鋼の製造に成功した。

2.アルミニウムおよびその合金

 この期間においては前年度に引き継ぎ,原子炉用として最適のアルミニウム合金の成分要素の決定を目的として,原子炉用アルミニウムおよびその合金材料に関する研究が実施された。
2 S,52S,61Sの3種類のアルミニウムについて,その中の微量成分が,その物理的,化学的性質にいかなる影響を与えるか種々検討し,高温水に対する耐食性は種類にかかわらず99.99Alベースのものは99.8%,Alベースに比し劣ること,2SアルミニウムについてはFe/Si≒ξ2,Si≦0.15%のものが一般に耐食性がよいこと等,原子炉用としてのアルミニウムについて種々の資料を得た。このほかアルミニウム合金の放射線照射下での腐食,浸食に関する研究が日本原子力研究所で実施された。

3.溶接

 アルミニウム合金は原子炉構造材料として広く用いられており,その浴接法もイナートガスアーク溶接法の出現によって飛躍的に発展したが,なお気孔,割れ等の欠陥を溶接部に包含することが少なくないので,これらを解決するために原子炉用としてのアルミニウム合金施工法と検査方法について研究が32年度より引き続き行なわれ,一応その溶接法およぴ検査法の基準を決定した。
 またステンレス鋼の溶接についても前年度に引き続き,溶接金属中の気孔の発生防止,溶接割れの防止に必要な適正溶接施工法ならびにその検査法について研究が行なわれ,TIG(非消耗電極式イナートガスアーク溶接法)MIG(消耗電極式イナートガスアーク溶接法)および被覆アーク各溶接法についてその適正溶接条件および検査法を一応決定することができた。
 このほか圧力容器用超厚板構造鋼およびクラッド鋼の溶接施工法に関する研究が行なわれた。この研究によってTIGおよび被覆メタルアーク溶接法による厚さ85mmのアルミキルド構造鋼および厚さ100mmのクラッド鋼の溶接法の基準および検査法を確立することができた。
 このほか原子炉用ステンレス鋼溶接部の熱脆化と熱応力破壊の防止に関する研究等が行なわれた。

4.ジルコニウムおよびその合金

 国産ジルコニウムスポンジを使用したジルコニウム合金を工業生産するに先だち,あらかじめ適当な合金組成を決定し,高温強度と耐食性を兼ね備えたジルコニウムの開発を目指して,国産ジルコニウムに各種合金要素を添加した場合の溶成条件およびその合金の機械的性質,耐食性について検討し,加工度,強度,製造法との関連において研究が進められている。

5.マグネシウム合金

 マグネシウムの合金に関する研究としては,原子炉用の燃料被覆材として使用されるマグネシウム合金の優秀な鋳塊製造法を確立するため,マグノックスA-12を研究対象として,フラックスの溶解,鋳造条件と鋳塊内欠陥との関係,アルゴン溶解鋳造法による鋳塊と普通溶解法による鋳塊の比較検討等を行なっている。またこの材料の高温における諸性質について冶金学的研究を行なっている。

6.その他

 原子炉の熱遮蔽材として有効であるボラールの製造にについて溶解冶金法によるボロンカーバイドとアルミニウムの均一複合体すなわちボラールの造塊方法ならびにその圧延法について研究がなされ,その製造法を確立した。このほか鉛含有量のきわめて高い(比重6.2)脈理,気泡等が少なく透過率の高い(D線透過率25%以上)大型放射線遮蔽用窓ガラスの製造研究が行なわれている。


目次へ          第6章へ