第10章 災害補償
§3わが国における研究体制

わが国においでも,32年ごろからこの問題との取組が活発に行なわれるようになったが,その概要は次のとおりで ある。
 原子力委員会および原子力局においては,原子炉等規制法立案のころから第三者賠償責任に関する規定の必要性につき検討を行なっていたが,内外の情勢が十分整っていなかったため成案を得なかった。その後地道に研究を続け,33年10月に下記のごとき「原子力災害補償についての基本方針」を原子力委員会の名において決定,続いてこの方針に従い,専門的な事項を審議するため原子力災害補償専門部会を設置し,さらに諸外国の制度および動向を調査するため官民からなる調査団を海外に派遣したほか,34年2月から開かれた国際原子力機関の「原子力災害に対する民事責任および国家責任に関する専門家会議」に出席すべき専門家を推薦するなど次々と具体的な動きを示している。

 「原子力災害補償についての基本方針」
原子炉等による万一の重大な核的災害に基く第三者の損害賠償の問題については,原子炉設置者等が所要の賠償能力を具備することが可能となり,同時に被害者たる第三者に対して正当な補償を適確に行なえるような体制を確立し,原子力に携る事業者および第三者の不安を除去することをもって,その基本方針とする。

 このため下記のような方針をとることとする。
(1)原子炉設置者等が原子炉の運転等を行なうにあたっては,それによる災害に基づく損害を賠償する相当の能力を具備することを必要とするよう所要の措置を講ずる。
(2)(1)の能力を実質的に具備できるようにするため,現行保険業法に基づく原子力責任保険の実現を促進し,原子炉設置者等が当該原子力責任保険に加入することを可能ならしめる。
(3)さらに損害賠償に関する種々の問題を解決するため,諸外国の動向を参酌の上,民営の原子力責任保険を主体とする原子力災害賠償補障制度の確立を図る。
(4)以上の措置のみで不十分な問題がある場合には,国家補償の問題を含めてその解決策につきさらに検討する。
33年10月22日にその設置が決定された原子力災害補償専門部会は同年11月25日に第1回の会合を開いて以来,原子力委員会から諮問された原子力賠償責任,原子力責任保険,その他国家補償等原子力災害補償に関する重要事項を審議しているが,34年6月には「原子力賠償責任保険約款案審議の要約」を取りまとめた。以来引き続いて,前記基本方針の(3)でうたわれた原子力損害賠償補障制度の内容につき鋭意検討を行なっている。
 日本原子力産業会議では,32年5月から同会議内の法制,経済両委員会の専門委員からなる研究会をもっていたが,33年2月原子力災害補償問題特別委員会を,またその下部機構に専門委員会を設置し,政府関係者も交えて本格的に検討を行ない,33年6月に「原子力災害補償問題研究中間報告書」を作成,「原子力災害補償体制の整備についての要望書」とともに関係方面に送付した。その後34年7月には「原子力災害補償問題研究報告書」を作成した。
 日本損害保険協会においては,,日本原子力研究所のJRR-1建設が剌戟となって,32年2月原子力保険特別委員会を損保10社の代表で組織し,周年12月にはその研究報告書を協会の理事会に報告した。その報告に基づき,33年3月には原子力保険プール結成準備委員会を損保7社と協会および料率算定会のメンバーで協会内に設け,さらにその下部組織として専門委員会をおいてプール結成を目途とする具体的な動きを開始した。33年に至りその専門委員会を発展的に解消,新たに一般,責任,財産の3小委員会を組織し,大蔵省銀行局および科学技術庁原子力局等の委員も加えて,原子力保険の引受けのための具体的問題につき本格的な検討を行なっている。34年4月には,原子炉設置者に損害賠償措置を講ずることを強制する「核原料物質,核燃料物質および原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」が公布され,遅くともこの法律施行までにこの損害賠償措置の実質的内容をなす原子力責任保険の引受態勢を確立する必要に迫られている。


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