第9章 放射線障害防止
§2研究成果

1.日本原子力研究所

33年度においては,保健物理部が中心となって次の諸研究を行なった。
(1) 原子炉その他放射線取扱における放射線防護の研究としてJRR-2,JRR-3の安全対策としての遮蔽,放射線防護の検討,国産B2O3含有鉱石たるペーシャイト鉱石を使用した重コンクリートの中性子およびr線遮蔽の実験および速中性子用比例計数管同時計数法を用いたシンチレーション・スペクトロメーターの試作研究を行なった。
(2) 放射線管理における低汚染検出法向上のための研究として,微量の放射線量率,放射性物質を検出し,核種を決定,定量するために,低バックグラウンドカウンターを使用した人体中の微量放射性物質測定装置の設計を行ない,また大気申,水中等の放射性物質の濃縮法を研究した。
(3) 汚染除去および防止の研究として,衣類汚染除去法,尿中の放射性物質の迅速分析法,衣類モニター特性改善,金属表面の汚染除去法等を研究した。
(4) 個人管理法の改善に関する研究として,組織における各種放射線の吸収線量およびLET線量の測定のために球型比例計数管の試作研究等を行なった。
(5) 個人管理,研究室管理および野外管理に関する業務および研究として,フィルムバッジ,ポケット線量計による個人被曝線量の測定および各実験室建物内外の放射線量率,空中放射性ガス,塵あい濃度,表面放射性汚染度等の測定ならびに各種管理区域の建物設備に対する障害防止の見地からの勧告がなされた。なおモニタリング・ステーションはすでに第4までの建設を終って運転に入り,研究所内外の放射能水準を監視しており,第5〜第7もすでに建物の建設を終了した。
(6) その他汚染除去管理および汚染除去工場の内部設備の整備,気象,海洋等の放射能観測調査,事故にそなえる非常管理について研究した。

2.放射線医学総合研究所

 本研究所は(1)放射線による人体の障害ならびにその予防,診断および治療に関する調査研究を行なうこと,(2)放射線の医学的利用に関する調査研究を行なうこと,(3)放射線による人体の障害の予防診断および治療ならびに放射線の医学的利用に関する技術者の養成訓練を行なうことを主要目的として32年7月発足して以来,着々人員の充足,機構,施設の整備に努めている。33年度においては,定員70名,予算約5億6,900万円,さらに34年度は163名,5億8,317万円をもってすでに32年10月に決定をみた千葉市黒砂町の約68,400m2の敷地に本部棟,講堂,研究棟,付属棟,X線照射棟,中性子線源室,温室,守衛所,車庫,変電所等の主要建物が完成し,なお34年度以降においても引き続き付属病院,第2r線照射棟,アイソトープ実験棟,動物舎,ベータートロン棟,養成訓練用宿舎,看護婦宿舎,東海分室,その他諸研究装置の設置が計画されている。機構については,34年3月31日付をもって,管理部,養成訓練部のほか物理,化学,生物,生理病理,障害基礎,環境衛生,臨床の7研究部合わせて9部となった。
34年7月1日には,庁舎第1期工事の完成に伴なって,関係者500余名の参加の下に開所式が行なわれ,各地に分散していた研究所の業務はすべて統合され今後の研究の大きな進展が期待されることとなった。
33年度においても多くの研究が行なわれたが,まず個人および環境についての放射線の測定方法およびその吸収線量の算定法から始まり,防護用遮蔽についての研究にいたる放射線による障害の予防診断に関する研究,さらに基礎的研究として生体内におけるCs,Sr等の分析,定量法,生物体に対する放射線照射の影響等があり,なお実際的意義が特に深い最大許容量に関する研究,一歩進んで放射線保護物質の研究等にまで広がっている。なおその他重要な研究テーマとして食品の汚染とか廃棄物処理に関する問題があり,このような広範囲にわたる研究は34年度以降においても本庁舎の完成と相まってますます積極的に押し進められるが,特に今後留意さるべき問題点は次のごとく要約される。
(1)個人被曝線量の測定についてX線,γ線の線量率の大なる場合の測定方法の確立。
(2)表面放射能の測定方法の研究。
(3)放射線障害を評価する上には従来用いられていた種々の計測値が用いられているが,国際的にもラド単位系に統一する必要があり,その換算方法に関する実験的,理論的調査研究。
(4)フォールアウトの人体に対する影響を調べる基礎として種々の試料中のCs,Srその他の核種の分別定量法の研究および大気→雨水→大地→作物→生物→排せつへの移行過程の究明。
(5)国民全体に対する各種放射線による被曝線量の算定および放射線障害のうち被曝後,長期間を経て発現する障害の状況と寿命短縮との関連。
(6)わが国の最大許容量の確立。
(7)被曝および被照射体の障害軽減のための保護物質の研究。
 なお,当研究所は,34年度からは障害防止関係技術者の養成訓練を開始する計画であり,35年度には病院棟も完成して,障害防止上の諸研究の推進とともにアイソトープを利用した診断治療も開始され,わが国の放射線の生物,人体関係の研究センターとして完成をみる予定である。

3.民間における研究

 民間においても,次のような研究が行なわれた。
(1)放射線影響に対する保護物質に関する試験研究。本研究は放射線照射の生物に及ぼす影響を明らかにし,生物実験によって保護作用を有する有機化合物を系統的に探索することを目的として32年度に引き続き33年度にも実施された。保護効果の期待された化合物は一般に毒性も強く,種々の困難があったが含砒素ジチオカーバイド化合物に有効なものが発見され,その保護機構の解明によって今後の実用的薬剤の探究に役だつものと思われる。
(2) γ線用および中性子用フィルムバッジの改良研究。これはアイソトープの取扱者および原子炉関係作業者の健康管理の完全を期するため,γ線用バッジの乳剤包装の改良,中性子用フイルムバッジの包装改良,フィルムバッジケースの改良等について研究された。この研究結果によって,γ線用フィルムバッジの感度上昇,小線量の測定精度の向上,またγ線用および中性子用フィルムバッジの包装の簡易化,物理的特性潜像退行特性の向上による実用性の増大がみられ,今後,原子炉操作,アイソトープ取扱等に従事する多くの研究者,作業者の健康管理がより容易になりまた包装の簡易化による製品コストの引下げが可能と考えられる。


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