第8章 科学者・技術者の養成
§1概説

 科学技術発展のテンポの緩漫な時代にあっては,研究室ならびに大学における新らたな科学,技術の成果が,実際に工業化されるまでにはかなりの時日を必要としていた。しかし,原子力をその一つの頂点とする近代科学世界においては,研究室は工業的実用に直結しており,多数の最新の知識を修めた科学者,技術者が,その産業の開発に欠くべからざるものとなっていることは論をまたない。
 この世界的な傾向は,32年に米国原子力委員会が実施した同国原子力関係科学者技術者調査にもはっきりと示されている。すなわち,同年秋における調査実数は,技術者18,750人,科学者13,500人,技術的経営者2,550人に及び,さらに推定数を含めると合計は38,000人に達するが,なお各分野において科学者,技術者の不足を訴えており,この不足傾向は今後も当分継続するであろうと報告されている。
 わが国の原子力開発は,世界各国に比してかなり遅れて着手されたため,そのギャップを取りもどすべく,急テンポで研究開発態勢を整えてきたが,今やJRR-1の運転開始,JRR-2の建設,さらに動力試験炉および実用発電炉の導入契約進行と,本格的開発利用段階に第一歩を踏み出したといえよう。しかしながら,これに伴う原子力関係科学者,技術者の養成は,急速な増加充実を求むべくもなく,産業界および各試験研究機関においては,その不足に悩まされている。
 かかる現状にかんがみ,原子力委員会はその実態を把握するため,33年8月にアンケートを実施し,さらに34年1月には,原子力関係科学者技術者養成訓練専門部会を設置してその集計結果を検討するとともに原子力関係科学者,技術者の養成訓練計画の検討,大学における原子力利用に関する教授研究に対する要望事項の検討等を行なっている。


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