第3章 核燃料
§3 探鉱

わが国における核原料資源の探査は主として工業技術院地質調査所と原子燃料公社の手で進められている。また 政府は民間企業に対して探鉱奨励金を出して助成に努めている。33年度は組織的な探査を開始してから3年目にな るが,この調査によって鳥取,岡山県境に堆積型ウラン鉱床として人形峠鉱床が発見された。この型の鉱床は当初 予期されていないものであった。世界的に著名なウラン鉱床の大部分は地質学的には地球上,最古期の片麻岩,花 崗岩類からなる楯状地,あるいは主として花崗岩類からなる山塊,高原地域に発達している。また鉱床の型式から みると堆積型の層状鉱床が全体の90%を占めている。わが国はそのような大規模な地質的基盤をもたないため,あ まり大きな鉱床は期待できないが,地質条件の複雑さから中小規模の鉱床にはいろいろな型のものが存在している 。数年前まではわが国の放射性鉱物はペグマタイトまたは砂鉱中にしか知られていなかったのであるが,最近は鉱 脈型や堆積型の鉱床が相次いで発見され,むしろこれらのほうが資源的に意味を有することがわかってきた。中で も人形峠鉱床は原子燃料公社の手で開発が進められているが,平均品位0.06%(u3o8)埋蔵量140万ton以上 に及ぶものと見積られている。これは一鉱山としては世界的にも中規模のもので国産資源開発上最も期待をいだ かせるものである。

1.地質調査所の探鉱

33年度は31年度を初年度とする3ヵ年計画の3年目にあたり,ほぼ所期の計画に盛り込まれた調査を完了した。29年度以降準備期間および3ヵ年計画終了までの5年間に使用された経費および参加した研究員は次のとおりである。(経費は人件費を含まず,研究員のうち( )内の数字は所外からの併任者)
       年度別経費と研究員数
     年度   経費(千円)  参加した研究者(人)
     29      6,765      36(2)   準備期間
     30     31,992      83(7)   主としてペグマタイト鉱床に重点をおく
     31     90,560     126(18)   3ヵ年計画
     32     94,500     139(13)   主として酸性迸入岩地帯に重点をおく
     33     72,895     132(23)
 このような経費と研究員を動員して31年から国内における核原料資源賦存可能地域約20万平方粁のうち,とりあえず酸性迸入岩とその周辺地帯および堆積岩地帯の一部を含む約8万平方粁を重点的に取り上げ
 放射能強度分布概査  エアボーン,カーボーン/地表地質概査,鉱山坑内調査  76,000km2/および900ヵ所
 放射能異常地調査  (カーボーン,地質鉱床調査)     120ヵ所
 鉱床調査 (地質鉱床調査,物理探査,地化学探査)      30ヵ所
 室内研究
 を行なった。(第3-1図)は各年度に使用した経費と探鉱面積の関係を示し(第3-2図)はそれらの結果判明した放射能鉱物鉱床の分布および型を示したものである。

現在までに企業化の見通しをたてうるのは人形峠鉱山のみにすぎないが,これと似た堆積型の鉱床を予測させるものが33年中に山形県東田川郡下に2ヵ所,その他同じく新第三紀の炭質岩(宮城県大内)および頁岩中の団塊(新潟県中条)に見出された。また岩手県野田玉川鉱山,栃木県加蘇鉱山をはじめとして古生層中のマンガン鉱床の中にも注目すべきウラン含有を示すものが相次いで発見された。
 これらの資源としての最終的な評価は今後の探鉱をまって決定されることとなろう。
 以上,3ヵ年計画の完結を総括してみるとさしあたっては人形峠型の新期陸成堆積岩中の鉱床により多くの期待がもたれ,この型の鉱床の探査を組織的に実施することが望まれる。またこの3ヵ年計画の実施に伴って上述以外の堆積型鉱床中(中生代および新生代の湖成層,潟成層,含亜炭層,閉鎖した盆状の海成層,古生代の含マンガン粘板岩層など)にウラン鉱物が認められた。
 このような観点にたって,34年度以降残りのウラン鉱床賦存可能地域12万平方粁に及ぶ地域の探査を逐次行なって,一応全国的規模に及ぶ組織的調査を完結し,国内ウラン資源の実態を把握する方針のもとに,34年度においては,この12万平方粁のうち24,800平方粁の探鉱を行なうことになっている。

2.原子燃料公社の探鉱

33年度は探鉱費予算約2億7,000万円をもって,前年度に引き続き,人形峠鉱山に重点をおき,倉吉鉱山,岐阜県黒川鉱山とともに,主として試錐および坑道探鉱を実施した。
 また人形峠北方神倉から三朝周辺,東郷地区に至る間に人形峠鉱床に類似の堆積型鉱床の存在を予想し,主として地表探鉱,試錐探鉱を重点的に実施して,この存在を確かめることができた。
 その他,北上山地,山形県鶴岡地区,宮城県気仙沼地区,岡山南部(大笹,剣山),山口県防府北方地区,鹿児島県垂水地区,その他の放射能異常地に対して探鉱を行なった。
 以上の探鉱成果は概略下記のとおりである。

(1)人形峠鉱山とその周辺

〔人形峠鉱山〕
 前年度までは,予想鉱量の域を出なかった峠,夜次地区が精密探鉱の結果,峠地区3号坑以南についてはU3080.05%として,23万ton,夜次地区はU3080.06%として34万Lonがおのおの確定鉱量として算出されるに至り,また中津河地区はU3080.07%として約50万ton以上の予想鉱量が試錐によって算出された。赤和瀬地区は露頭の一部に含ウラン礫岩層が認められたので,試錐および坑道探鉱を試みた。その結果,同様の礫岩層が分布するが,きわめて低品位で,鉱量計算の段階には達しなかった。
 峠,夜次地区の坑道探鉱によって発見された黒色ウラン鉱物は,世界で初めての新種であり「人形石」として命名された。リン灰ウラン鉱はいわゆる酸化帯に,人形石を主とする富鉱帯は基盤花崗岩の凹所(チャンネル)に生成されている場合が多いこと,基盤の凹凸の状態等も概略ながらわかってきた。

〔人形峠周辺地区〕
 人形峠鉱山と類似の堆積層の分布が予想される周辺地区を探鉱した結果,中津河東部,辰巳峠,倉見,険所峠等において放射性露頭を発見,一部については露頭線の追跡および試錐探鉱を行なった。

(2)倉吉鉱山とその周辺

〔倉吉鉱山〕
 現在までの探鉱結果ではこの地区におけるウラン鉱床の発展性,すなわちその鏈幅の増大,ウラン品位の向上,鉱量の増加等には大きな期待をもつことは困難であることが判明した。以上の理由により,倉吉鉱山の探鉱は一応昭和33年度をもって打ち切ることになったが,ウラン鉱床の賦存状況,生成機構等の点について鉱詠型ウラン鉱床の探鉱に多くの指針を得ることができた。

〔三朝周辺地域〕
 人形峠北部の鳥取県側の花崗岩を基盤とする地域について不整合面を探鉱したところ,神の倉,三徳,鉛山,東郷の各地区において,放射性露頭が点々と発見されるに至り,予期以上の成果をおさめた。さらにこれら露頭間の追跡を行ない,花崗岩と安山岩質熔岩の間に概して連続的かつ広範囲にわたって堆積層の存在が判明した。深部への広がりと品位分布を検討するため,神の倉,三朝,東郷地区において試錐探鉱を強力に実施し,かつ東郷地区においては坑道探鉱に着手した。

(3)東北,岐阜,岡山およびその他の地域
 人形峠,倉吉鉱山およびその周辺のほか,公社所有ならびに出願鉱区,探鉱契約鉱区および地質調査所はじめその他の研究機関等の調査により,有望とみられる地区に対して探鉱を実施した。
 岐阜県黒川鉱山は含ウラン銅鉱床として,坑道約500m,試錐約590mのほか,トレンチ,電探,Uスコープ(示向性放射能探査車)等によって総合的な探鉱を行ない,鉱床実態の究明に努めた。
 岡山地区では,大笹,剣山の2地区に主として試錐探鉱を行ない,剣山において良好なる結果を得ている。
 鹿児島の垂水鉱山ではすでにウラノフェンが同定され,約160mの坑道取あけを行ない,錫とウランの関係を解明して探鉱を継続する。
 東北では山形県鶴岡南方の多くの鉱脈型鉱床および堆積型鉱床,北上山地の数十ヵ所にのぼる公社出願鉱区を含む旧坑調査を精査,トレンチ,電探等によって実施した。なお,34年度は予算3億2,500万円をもって人形峠鉱山および北方の神倉から三朝周辺,東郷地区に至る間の堆積型鉱床に重点をおいて探鉱を進めている。

3.民間の探鉱

 工業技術院地質調査所および原子燃料公社とともに,わが国の核原料物質の探鉱には民間企業もその一翼をになっている。
 政府においては,31年度以来,探鉱補助金を交付して,これを奨励,推進してきているが,33年度も32年度に引き続き3,000万円の予算を計上し,これを18鉱山に交付した。なお34年度に約2,000万円を13鉱山へ交付することとなった。


目次へ          第3章 第4節へ