第2章 原子炉
§4 動力試験炉

1.選定までの経過

 日本原子力研究所では,軽水型の大型原子力発電所をわが国で運転する以前に,同種の小型軽水炉で十分経験を得ておく必要があるとして,出力1万kW級の動力試験炉を導入することを32年度に決定し,動力試験炉委員会の設置,調査員の米国への派遣等を行なってきた。
 この炉の設置のおもな目的としては
①動力炉プラントの運転および保守に関しての実験の経験を得ること。
②動力用原子炉系の特性を理解するため,実験および試験を行なうこと。
③燃料要素の性能試験,舶用炉への応用等を含め,各種の研究および開発を行なうこと。
 があげられている。
33年度には,米国での調査員の調査結果に基づき,発注先として適当と認められたメーカーおよびコンサルタント10数社から第1次見積書が提出された。これらを検討した結果,8月には第1次選定として,ACF(ACF Industries, Inc,),GE-Ebasco(GeneraI Electric Co.-Ebasco Servlces Inc.),Westinghouse-Bechtel(WestinghouseElectricCorporatiOn-BechteI Corporation)の3グループが選ばれたが,その後ACFが辞退したため,GE,Westinghouse両グループを対象として第2次の検討が進められた。
 他方,仕様書の検討,特に試験炉としての融通性を検討するために,中立の立場にある米国インタニュクレア社をコンサルタントとして使用し,その結果を参照して最終仕様書が作成された。
34年1月には両グループから最終見積りが提出され,技術面,経済面での検討を加えた結果,試験研究を遂行するのにより便利であるとの理由で,GF/-Ebascoグループの自然循環沸騰水型原子炉を動力試験炉として採用することに内定した。
 なおGE社の見積金額は,試験装置を含めて約31億円であり,これに建屋,初期装荷燃料等を加えると合計約48億円となる。
 現在,引き続き正式契約のための交渉が進められており,また,これと並行して,原子力委員会原子炉安全審査専門部会において,安全性の審査が行なわれている。契約から完成までの期間は30ヵ月と見積られている。

2.原子炉の概要

 この炉は,自然循環直接サイクル沸騰水型で,熱出力は46.7MW,正味電気出力は11・7MW,熱効率は25%である。
 炉心は,2.6%濃縮ウランのUO2ペレットをジルコニウム合金で被覆した燃料要素と,減速材兼冷却材の水とからできており,ウラン装荷量は,235Uで111kgとなっている。この炉心を囲んで,高さ約8.5m,直径約2.1血の炭素鋼製圧力容器があり,冷却材の圧力は63気圧,温度は276°Cである。
 炉の制御は,ボロン不銹鋼でできた16本の制御棒を下部から挿入する方式によっており,このほか緊急時用として,ボロン水による炉心スプレイ装置を備えている。
 炉の格納容器は,直径約15m,高さ約38mの円筒状で,3.5気圧の内圧に耐えられるようになっている。
 この炉の主目的は,動力炉の特性を知るための各種実験を行なうことにあるので,建設の当初から必要な融通性を持たせることになっている。
 たとえば,①一部の燃料要素自体に特殊な計装をほどこし,炉心内の各種パラメータを測定できるようにし,②舶用負荷,その他急変する負荷を模擬するため,バイパス回路を設け③将来の出力増加に備えて,圧力容器遮蔽バイパスコンデンサー等の容量をあらかじめ大きくとり,④試料照射や国産部品の試験が行なえるようにし,⑤現在の自然循環方式に対し,将来は強制循環方式がとれるようあらかじめ圧力容器にノズルを設けるなどの配慮がなされている。


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