第5章 昭和33〜34年の特色
§3 34年度予算の特色

原子力委員会は重要な任務の一つとして,毎年原子力の研究,開発,利用に関する予算を見積り,配分計画をたてる ことになっている。この場合の予算とは原子力委員会や原子力局の予算のみならず,日本原子力研究所や原子燃料 公社の予算,また広く各省庁の試験研究機関の予算や民間に対する補助金等をも含むものである。原子力委員会は 例年のように33年7月から8月にかけて34年度予算に関して審議した上で見積方針を決定したが,通常国会の審議を 経て確定した34年度の原子力予算の特色は次のとおりである。
 まず予算総額についてであるが,附録年度別原子力予算表にみられるように29,30両年度の2億円台から31年20億円,32年60億円,33年度78億円と飛躍的に上昇傾向をたどっていた原子力予算は,34年度初めて74億円と前年度に比べてわずか5%ではあるが減少した点が著しい特徴である。これは建設期における建築物,諸機械設備等の調達がようやく一段落してきたことを物語るものであって,わが国の原子力予算の規模がこの程度で落ち着いたとみるべきではなく,今後研究開発が一進展を示す時期にはまた巨額の予算を必要とするに至るであろう。
 次に内容的にみると34年度最大の重点が置かれたのは人員の充実であって,日本原子力研究所は256名増加して1,006名に,原子燃料公社は97名増加して410名に,放射線医学総合研究所は70名増加して163名に,また原子力局も既述のように29名増加した。
 これら関係機関の人員充足とは別に,広く原子力関係科学者,技術者の養成訓練のためには,従来から海外留学,日本原子力研究所のアイソトープ研究所,あるいは原子炉の短期の運転訓練等があったが,34年度からは同じ日本原子力研究所に「原子炉研修所」を開設することになり,また放射線医学総合研究所においても,放射線障害防止関係の人員の養成訓練業務を開始することになった。
 施設的な面からみると,33年度わずかに1億円であった動力試験炉の予算は34年度はいよいよ建設にとりかかるものとして10億円に増加したほか,34年度から新しく3ヵ年計画で農林省にガンマフィールドを設けることになったことが注目される。
 なお放射線障害防止に関しては,従来の方針を継続し,関係研究の促進,放射線利用施設の改善,従事者の教育訓練を行なうほか,34年はアイソトープ利用に伴う放射線廃棄物の処理が,利用者にとって困惑するところであり,また必ずしも十分でない点に着眼し,廃棄物処理事業を一手に行なう適当な機関を選び,これに補助金を支出して,一括集荷,貯蔵して障害の防止に万全を期することとした。


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