第5章 昭和33〜34年の特色
§2各種原子炉の設置問題

日本原子力研究所にすでに設置され運転中のJRR-1(ウォーターボイラー型原子炉)のほか,既計画のJRR-2(濃縮 ウラン重水型,いわゆるCP-5型),JRR-3(天然ウラン重水型,いわゆる国産1号炉)の2つの炉については,いずれも工 期をのばさざるをえなかった。前者はCP-5型としてすでに知られた型ではあったが,この型のものとしては出力に おいて世界最大のものであり,実験目的からも新しい設計を取り入れたため,製作会社の設計変更,工事遅延等が重 なったからである。後者については,なにぶんにもわが国の設計による最初のものであり,設計に慎重を期したの と国内製作会社との間の発注交渉に手間取ったためであるが,34年4月には発注することができた。
 以上のほか日本原子力研究所においてかねて検討中の動力試験炉が,いよいよ33年度から予算の裏付けができて設置計画が確立した。動力炉の建設,運転,保守の経験を得,また動力炉系の特性を試験する等広い目的をもって設置しようとするもので,33年度はおおむね準備期とし33年度末に発注する予定であった。しかし炉の仕様の検討に慎重を期したので,34年1月炉型は沸騰水型,発注先はGE-Ebascoグループと内定したが,まだ発注に至っていない。
 また32年以来建設のための予算措置まで準備されていた関西方面の大学のための研究炉(スィミングプール型)については,本年もまた設置候補地についての地元民の反対運動のため,文部省,京都,大阪両大学はじめ関係者の努力にもかかわらず計画を進めることができなかった。原子力委員会としても関西方面に大学の共同の研究炉が設置されること自体については望ましいことと考えてこれに協力してきたのであるが,今後とも原子力に関する正しい知識の普及によって適正な計画が実施されることを期待している。
 大学における教育用,研究用の原子炉についてはもう一つ33年度から注目すべき現象がみられた。それは私立大学における原子炉設置の傾向である。東海大学はすでに33年4月に設置の許可申請を提出していたが,34年2月には立教学院が,続いて6月には五島育英会(武蔵工業大学)が設置の申請を行なった。このような申請をどう処理するかについては原子力委員会としてはすでに32年12月に検討の上,基準を作っていた。すなわち教育用炉と研究用炉とでは若干異なる点もあるが,要するに規制法の条件に合致し,教育,研究のスタッフ等設置の目的を達しうるとみられれば,その設置を認めるという考え方である。東海大学の分については設置場所が市街地である所から問題にされ,大学側で再検討することになったため保留されたが,立教学院については7月,五島育英会については10月,それぞれ厳重な審査の上,許可された。
 日本原子力発電株式会社が英国から導入しようとしている動力炉については,設置者である日本原子力発電株式会社や,これを審査する原子力委員会等は慎重にこれに対処してきた。これに対し主としてその安全性をめぐる賛否の論がこの期間を通じて新聞紙上等でも再三報ぜられ,世人の関心を集め,「プラスの温度係数」と言うような専門的な言葉が一般国民の口にのぼるほど,原子力に対する知識と原子力問題が国民の関心の的となったことは,導入の過程における大きな収獲であったとも言うことができよう。
 なおまた原子力の開発が進むにつれ,関係産業界の研究もまた一段と活発化し,材料試験炉を待望する声も次第に強くなってきた。


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