第3章 日本の立場
§4発展への期待

この章の初めに,世界の原子力開発においてわが国は,はるかにおくれた一団に属するといった。しかし今後はど うであろう。力を入れて努力すれば,先進の一団に追いつき,これを追い抜くこともできるのだろうか。
 原子力発電というレースに参加している国々は,いずれも力を入れ懸命に走っている。日本が力を入れ努力しているといっても,それ以上の力を入れている国々もある。その上,わが国はまだ出発したばかりなのに,これらの国々は今までの蓄積もきわめて大きい。そうしたことを考えると,先進国とわが国の差は,少々わが国が努力してみたところでどんどんと距離を増していくと言った心配さえもある。
 しかし,わが国もやがて先頭の一団に追いつき,少なくともこれと対等に走るようにならねばならない。原子力の場合,先頭を切る者はまず道を作って行かねばならない。ときには大回りもしている。後から追いかける者は,先きに進んだ者のやり方をみながら,作ってくれた道を走ることもできる。必ずしも先進国が過去10数年間に払った投資をする必要はない。原子炉について言っても,今こそ動いているのは小さな研究炉1基であるが,第2号炉は35年初めには動き始める。これも外国から買うものではあるが,33年度に着工した第3号炉はいわゆる・国産1号炉で,これは大部分われわれ自身が設計,製作するものである。日本原子力研究所にはこのほか1万kWの動力試験炉も置かれることに決っていて,近く発注の見込みである。
 日本原子力発電株式会社が,英国から導入しようとしている15万kWの天然ウラン黒鉛ガス冷却型動力炉も,安全性の審査が進捗しているから遠からず採否が決まるであろう。原子力研究開発の度合は何も原子炉の数によって評価さるべきではないが,こうしてみてくると日本は後進国の中ではドイツあたりと並んでかなり進んでいるといえよう。日本は従来外国の知識を取り入れ,これをわがものとして消化することは上手であった。たしかに先進国のあとを追うのは比較的楽であるし,その距離をつめることもさしてむずかしいことではないかもしれない。
 しかし問題はそれから後にある。いつまでも先進国のあとを追うのではなしに,やがて自分みずからの道を切り開いていかねばならない。それは前に述べたように外国がどうあろうとも日本は原子力を自分のものとしなければならぬ立場にあるからである。そしてその時こそ原子力基本法にうたわれた「進んで国際協力に資する」という言葉が生きてくるのである。
 それは困難ではあっても,やり方いかんでは成功する可能性が十分あると期待できる。


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