第3章 日本の立場
§3原子力開発の必要性

原子力の研究,開発に立ちおくれ,核原料資源も貧困なわが国は逆に世界で最も原子力の恩恵を受けねばならぬ国 である。わが国はもともと,石油石炭にも恵まれていない。水力資源にも限界がみえている。これらの資源を極力 開発しても50年には必要なエネルギーの約半分は輸入に持たねばならなくなることは長期経済計画で明らかなと おりである。半分ぐらいと軽く考える訳にもいかないだろうというのは,その大部分は石油であって,運ぶだけで もおそらく現在の3倍以上のタンカーを必要とし,それに応じて港湾,精製工場も作らねばならない。原子力発電な らば,燃料資源に恵まれず,同じ輸入に待つとしても必要なイエローケーキは1年間に船1隻もあれば十分であり,所 要外貨も節減できよう。
 原子力発電ばかりでなく,長期的にみれば原子力船の問題も日本として放っておくわけにはいかない。現在ではまだ平和的な用途としてはソ連の砕氷船レーニン号とアメリカの貨客船サバンナ号があるのみであるが,いずれは原子力船時代が来ることは必然と考えられている。世界で有数の造船国,海運国としてのわが国は,このようなすう勢に対して無関心ではありえず,むしろ積極的に原子力船を開発して新しい事態に対処しなければならない。
 原子力のもう一つの利用方法であるアイソトープの利用はわが国にとっては非常に適したものと言うべきであろう。元来わが国は食糧資源にも工業資源にも恵まれない。原料を輸入し,加工して輸出することによって生きていかねばならないが,原料を有効に使って優秀な製品を作るというような面でもアイソトープの利用は魅力的である。
 わが国としては好むと好まざるとにかかわらず原子力を開発していかねばならない。しかもその時期は少しでも早いほうがよいし,また早くこれを利用しうる立場にある。原子力発電は今や経済的になってきたといっても,水力火力の発電原価が安い米国等では,まだ太刀打ちしていくわけにはいかないが,水力や火力の発電原価が高いわが国でならば割合に早くこれにとって代りうるであろう。


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