第2章 世界の動き
§3開発の現状

世界の原子力の研究開発は上述のように一段と進歩したが,しかしその速度は期待されたほどでなかったことも確 かである。
 前述したように核融合についてはジュネーブ会議でも幾多の実験装置が発表されたが,まだ熱核反応は確認されず,今後いかにして研究を進めるかについては暗中模索の段階であることが判明した。
 動力炉についていえば,英国の天然ウラン黒鉛ガス冷却型と米国の濃縮ウラン軽水型が実用化の段階に入りつつあるが両者ともにまだ改良の余地が多く,完全に在来の発電所に対して優位にたっためには経済性の面でつき破らねばならぬ壁があり,一方これに続く新型式炉はいずれもまだ研究の段階にある。たとえば英国が増殖炉を遠い将来の目標にしつつも,その実用化までの開発方針として低濃縮ウランを使用するAGR(AdvancedGas Cooled Reactor)に期待をかけているし,また米国も有機材型や液体金属型等を開発計画の中に折り込んでいる。
 このように,この期間中原子力の実用化が必ずしも数年前に予想したほどの速度で進まなかったのは一つには原子力の開発が地について来たことのあらわれといえるが,それと同時に,エネルギー事情の変化という要素もあずかっている。
 特にヨーロツパにおいては数年前には将来のエネルギー需給が逼迫するという見通しから,スエズ動乱によって味わった石油の供給に対する不安感がさらに原子力の開発に拍車をかけた。しかし,一時的であるとの見方もあるが,エネルギー消費の伸びが予想より低く,また次々に開発される石油,天然ガスの流入によって各国の貯炭が急激にふえ,石炭の生産制限,炭鉱労働者の整理が行なわれるという現象があらわれてきた。
 今のところ各国ともこのエネルギー事情の変化に基づいて,原子力開発の方針を変更してはいないし,このような環境にもかかわらず,その遂行への努力を重ねていることは注目に値する。


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