第1章 はじめに
§4他の行政機構との関係

原子力委員会は政策決定機関であって実施機関ではない。実施機関の中核的なものは科学技術庁原子力局であっ て,企画から実施までを実質的に一貫して遂行できる体制をとっていることはすでに述べた。しかし行政実施機構 は科学技術庁原子力局だけではない。たとえば原子力発電や原子炉資材等は通商産業省,原子力船は運輸省の行政 と深い関係を持ち,放射線障害防止およびアイソトープ利用の面ではほとんどの省庁が実施に関係する。原子力の 利用が現実化し,進展するにつれ,これら各省庁もまたそれに即応して体制を整えてくるのは当然であろう。通商 産業省は,32年8月公益事業局に原子力発電管理官(34年9月に原子力発電課に改組された)を新設し,34年4月には企 業局に原子力産業参事官を新設して省内の原子力行政の取りまとめ役とした。運輸省も34年8月には原子力船管理 官室を置き,また造船技術審議会の中に原子力船に関する小委員会を設けた。これらの行政機構と原子力委員会は どういう関係に立つのであろうか。原子力委員会設置法には原子力委員会所掌事務として「関係行政機関の原子 力利用に関する事務の総合調整に関すること」および「関係行政機関の原子力に関する経費の見積りおよび 配分計画に関すること」とを掲げている。
 つまり原子力委員会は各省庁の原子力行政を調整する機能を持ち,各省庁の原子力行政の基本となるようなことを決める立場にあるといえよう。そしてその目的のために,予算の面から調整機能を働かすことを明らかにしているといえよう。ただし,大学における研究経費の調整は,原子力委員会設置法成立の際の国会の決議に基づき,原子力委員会はこれに関与していないし,科学者技術者の養成訓練に関しても大学における教育研究に係るものを除くことになっている。これらはいわゆる「学問の自由」の原則を尊重した結果である。


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