第3章 アイソトープ
§2 使用状況

2−1 アイソトープの輸入

 アイソトープの輸入は前年度にひきつづき急速な増加のあとをたどつたが,その状況は,(第3-1図),(第3-1表),(第3-2表)にしめすとおりである。

 現在,わが国で生産できるアイソトープは後述2-2のとおり半減期のみじかいごく特殊のもので,その数量も,全需要中に,ごくわずかのウエイトしか占めていない。需要の大部分を,英,米などの海外にあおいでいる。
 したがつて,使用者の希望に応じ,適宜入手し,供給の円滑をはかる必要があるので,アイソトープの使用確認申請書を通じ,利用者の意向を反映して,供給を確保するとともに,アイソトープの輸入の促進がはかられている。32年4月からは,関税定率法の一部改正をおこない,アイソトープの輸入に関し,免税の措置が講ぜられることになつた。
 現在わが国に輸入されているアイソトープは,その核種が40種あまりあり,おもなものについて,輸入実績,毎年の輸入金額は(第3-1表),(第3-1図)のとおりである。
 実際に輸入されたアイソトープで,需要の多いものはC060,.P82 I181,C14,S35,Ca45などでP32,I31,Co60の輸入量がいちじるしくのびている。わが国のアイソトープ利用は用途面でも,利用度でも,今後ますます拡大するものとかんがえられるので,輸入はさらに増加するものとおもわれる。

2−2 アイソトープの国内生産

 国内におけるアイソトープの生産は,Na24,K42などの半減期が非常にみじかくて,海外より輸入することの困難なものにかぎられている。現在までに国産化されたものは主として科学研究所の24トンサイクロトロンによるものであり,その数量もきわめて少量である。((第3-3表))

 32年9月から運転を開始した日本原子力研究所東海研究所の,JRR-1(ウオーターボイラ-型原子炉)では,アイソトープの試験的生産をおこなう計画で,32年12月7日には,Na28を40%含有した炭酸ソーダの結晶体1gをJRR-1に挿入し,半減期15時間のNa246mcの生産にはじめて成功した。これは原子炉によるアイソトープ生産としては日本としてはじめてのことであつた。
 国内における標識化合物の生産は,輸入されたアイソトープにより,30年から小規模にはじめられ,(第3-4表)のように,漸次増加し,現在では,その種類も40種におよんでいるが,需要の大部分は,輸入でまかなわれている。

2−3 アイントープ使用の機関数

 アイソトープを使用する機関は,(第3-5表)のとおり年々増加しているが,最近では,実用面を担当している工場や病院の数がいちじるしく増加しつつある。

 同一機関でも事業所(大学では各学部ごと)ごとにかぞえてみると,アイソトープを使用する事業所数は,(第3-6表)のとおりである。なお現在までにアイソトープを使用した実績のある事業所の総数は500カ所以上に達する。

 32年度におけるアイソトープ使用事業所の部門別事業所数は,(第3-7表)にしめすとおりである。

2−4 アイソトープ使用の専門分野

 部門別にアイソトープの使用件数の推移をみると(第3-8表)のとおりで,各部門で増加している。医学部門の使用件数がもつとも多く,全体の60〜70%をしめているが,内容的にみれば工業部門のしめるウエイトは大きい。それは工業部門関係のアイソトープ使用件数は,全体の8〜10%にすぎないが,量的には比較的大量でCO60についてみれば,全体の約60%をしめるからである。32年度における専門分野別使用件数は医学が最大で60.0%,農学,生物学(生物と動物)が16.7%,物理,化学13.4%,工業9.9%の順となつている。

 医学部門では,基礎研究から,診断,治療までひろい範囲にわたつてアイソトープが利用され,25年以来32年まで,つねに,全分野に対,して60〜70%の使用率をしめている。そして同部門でつかわれるアイソトープ,のおもなものは,P32,S35,C060,I31,Au198である。
 農学・生物・動物部門では,現在のところアイソトープは,ほとんど調査研究用として使用されているといえよう。おもなアイソトープは,トレーサー用としてP32,S85,また内部照射用としてP32が多くつかわれるほか,外部照射線源としてCo60が相当量つかわれている。
 工業部門では,アイソトープの用法は大部分が研究室規模のものであつたが,最近では,直接実用面にむすびついた実験や試験用にさかんにつかわれる傾向にある。アイソトープの使用.件数からその用法を大別すると,工業部門では,放射線源利用に65%,トレーサー利用に35%,理工学部門では,原子核物理の研究に約10%,トレーサー利用に約50%,放射線源利用に40%となつている。
 理工学関係ではCo60の使用が最近いちじるしく増加している。


目次へ          第3章 第3節へ