第3章 アイソトープ
§1 概説

 昭和25年米国から,アイソトープが初輸入されてから,その有用性に対する認識は,次第にたかまり,急速にその需要はのびてきた。さらに利用面からみると,当初は,各部門とも基礎研究が主体となつていたが,年とともに応用部門の利用がまし,最近では,漸次工業部門の利用がふえてきている。
 大量線源用C060は,27年,はじめて米国から170Cが輸入されたが,当初は,ラジオグラフ,γ線探傷器,厚み計,液面計などの試作,研究,あるいは悪性腫瘍癌などの治療法の研究などの従来のx線,ラジウムなどの代用としてCo60の線源利用の研究の段階にすぎず,したがつて,その線源も小さなものであつた。しかし年とともにその実用化はすすみ,使用件数も増加してきている。とくに医療関係では,遠隔大量照射装置の普及とともに,線源も大量化し,1カ所で100〜1,000Cとなつてきており,将来この面の利用は,ますますのびていくものとかんがえられる。さらに最近では,,産業についても,物質変性,反応促進あるいは食品殺菌,品種改良などあたらしい利用分野が開拓され,現在100〜300 C程度の照射施設が関係研究機関にもうけられ研究がすすめられつつあるが,今後この面の基礎研究はますますすすめられるとともに,工業化の試験研究もおこなわれる傾向がみとめられ,その1カ所あたりの線源も大量化するものとかんがえられる。海外におけるこの面の研究あるいは実用化は,相当すすめられている情勢にあるので今後わが国でも,諸外国に遅れをとらないよう鋭意努力する必要がある。
 Co60以外のアイソトープも,最近その使用は急速にのびてきた。これらはおもに,トレーサーとして反応および機構の解明,動植物および人体の生理機構の解明,医薬品の改良,あるいは悪性腫瘍の診療などに利用されている。その絶体量はCo60にくらべ僅少ではあるが,その利用は各核種にわたつており,また利用面の開拓も今後ますますすすみ,その使用量も当分は増加の一途をたどるものとおもわれる。
 このように,基礎科学の研究をはじめ,医・農・工の各分野にわたり,トレーサーあるいは線源として,その需要はここ当分増加の一途をたどるとおもわれる。したがつて,この急増する需要に応ずるためには,当分は従来どおり,米,英,加などからの輸入にあおがねばならないが,なるべくすみやかに国内の自給態勢を確立し,需要に応じてアイソトープをとくに輸入品より低廉に供給する必要がある。このため日本原子力研究所のJRR-1,JRR-2,とくにJRR-3(国産1号炉)などの原子炉を活用し,供給をはかる必要がある。
 アイソトープを利用しての研究面も,年とともに発展しているが,32年度においては,前年度より,さらに一段と飛躍した。それは第2回原子力シンポジウムや第2回アイソトープ会議(33年2月開催)に発表された論文の質と量とからみてもいえることである。国際的にもアイソトープに関する知識の交流普及を目的として,32年9月第1回アイソトープ国際会議がパリでひらかれ,わが国からは論文を提出し,18名の科学者技術者が参加したほか,32年5月には日,米原子力産業会議共催の合同会議が東京,名古屋,大阪で開催されて,数百名の関係者が参加し,原子力利用についての研究発表,知識の交流がおこなわれた,一方本年秋の国連主催の第2回原子力平和利用国際会議にも,政府は参加することに決定した。また国連放射線影響科学委員会にも,政府代表が出席して人類に対する放射線の影響に関する調査研究に協力している。


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