第2章 核燃料
§2 わが国における核原料資源の探鉱

2−1 概説

 わが国における放射性鉱物鉱床に関する調査研究は,かなり以前からおこなわれていたのであるが,これらはいずれも地質,鉱物あるいは化学上の学術的な見解によるものが多く,したがつて規模も小さく,調査研究対象は,ペグマタイト脈または砂鉱にともなうものに限定されていた。
 32年の原子力予算成立を契機として,原子力開発の基本的事項である核燃料の開発のため,国内のウラン鉱床についての資源的な見通しを早急にうる必要が強調されるにおよび,とりあえず通商産業省地質調査所において,ウラン鉱床に関する資料を収集,検討し,調査技術を確立するとともに,ひろく各種の鉱床型式に関する調査研究を推進して,わが国におけるウラン資源賦存の可能性を検討し,探鉱方針の確立をはかることとした。
 これらの調査研究の結果,わが国においてウラン鉱床の賦存が予想される地域は,酸性迸入岩地帯およびその周縁部,酸性火成岩地帯ならびに堆積岩地域の一部であることが判明したので,国内ウラン資源探鉱の基本方針として,これらの地域に対して,すみやかに放射能強度分布調査を組織的に実施して放射能異常地の発見につとめるとともに,放射能異常地に対して,各種の調査を効果的に実施して,放射性鉱物鉱床の実態を解明し,さらにその開発を推進することとした。

 このため,31年度において,地質調査所の充実,原子燃料公社の設立等,調査開発機構を整備するとともに,これらの機関がおこなう探鉱開発業務の円滑な遂行をはかるため,核原料物質開発促進臨時措置法を制定するほか,民間企業の行う探鉱に対して,補助金を交付する等の施策が樹立され,ここに国内核原料資源に対する探鉱開発が本格的に開始されるにいたつた。
 地質調査所においては,全国的規模において,基礎的な探鉱を担当することとし,とりあえず北上,阿武隈山地,近畿,中国,北九州の酸酸性迸入岩地帯およびその周縁部約8万平方キロメートルを重点的にとりあげ,31年度を初年度として3カ年計画をもつて放射能強度分布調査,放射能異常地調査を組織的におこない,鉱床の経済的価値判定のための基礎的な資料の獲得につとめることとした。31年度においては,16,200平方キロメートルにわたり,エヤーボーン調査およびカーボーン調査により放射能強度分布調査をおこなうとともに,地質鉱床調査,物理探鉱,地化学探鉱および構造試錐等により放射能異常地調査を実施した結果,岩手県野田玉川鉱山,宮城県磐井鉱山,岡山県山宝鉱山および新美川鉱山,島根県小馬木鉱山および真砂鉱山,鹿児島県垂水鉱山等について,優勢な放射能異常を発見し,ウラン鉱物の存在を確認した。
 原子燃料公社においては,地質調査所等の探鉱の結果有望とみとめられる地区に対して,民間企業と協調をとりつつ鉱床を精査して経済的価値を判定するなど,企業化調査を分担することとし,31年度においては,鳥取県倉吉鉱山,岡山県三吉鉱山および鳥取,岡山県境にある人形峠鉱山について探鉱を実施した。とくに人形峠鉱山は鉱況が優勢であり,かつ相当の鉱量賦存が予想されるにいたつた。
 32年度においては,前年度にひきつづきさらに規模を拡大して探鉱が実施されたがその状況は次のとおりである。

2−2 地質調査所の探鉱

 32年度においては31年度を初年度として開始された核原料資源調査3カ年計画の第2年目として,93,055千円の予算と139名(うち併任者13名)の調査員をもつて,酸性迸入岩地帯とこれらの岩類に関連のある各種タイプの鉱床および鉱山等について調査をおこなつた。
 すなわち,放射能強度分布調査としては,エヤーボーン調査により岩手,島根,山口および福岡各県について約21,100平方キロメートル,カーボン調査により岩手,岐阜,島根,愛媛,および福岡各県下について約16,900平方キロメートル,合計38,000平方キロメートルにわたつて調査をおこない,前年度調査面積とおわせて3カ年計画において予定した調査面積8万平方キロメートルに対して約70%の調査を完了した((第2-1図)および(第2-2図参照))
 また放射能強度分布調査の結果にもとづき,合計約70地区に対して,地質鉱床調査,物理探拡,地化学探鉱,および,構造試錐等により放射能異常地調査をおこない,その結果北海道下川鉱山,岩手県山口鉱山,宮城県大内鉱山,山形県朝日および大成鉱山,岐阜県平瀬および黒川鉱山,岡山県大笹および阿部鉱山等,全国にわたり,多数の地区において放射能異常の発見および放射性鉱物の確認等があらたにおこなわれるとともに,前年度において放射能異常が確認された岩手県野田玉川鉱山,山口県西宇部地区,鹿児島県垂水鉱山等については,鉱物および鉱床の産状および賦存の規模等が解明された。
 主要な成果は第2-3表のとおりである。

 以上の調査の結果,わが国におけるウラン鉱床について,地質学的背景の一部があきらかとなり,また鉱床学的分類がある程度可能となるとともに,従来ウラン鉱物の存在を予想しなかつた地域において放射能異常を確認し,調査地域の再検討が必要とされるにいたつた。
 すなわち,金属鉱床中のウラン鉱物の鉱化作用は,主として白亜紀から第三紀初期におよぶいちじるしい酸性深成岩の活動の後,火成作用によるものであつて,このような鉱床の分布地域は,構造的に,東北日本の外側および西南日本内帯の二つにわけられる。
 従来の調査は,主としてかかる地質状況の地帯を中心として企画,実施されてきた。しかしながら最近の調査により,新第三紀の酸性深成岩類に関連する鉱床,新期火山岩類地域,さらに北海道下川鉱山の例にみられるキースラーガー型鉱床等の従来ほとんど未調査であつた鉱床型式および地域に放射性鉱物の存在がみとめられ,現在実施中の3カ年計画完了後,さらに範囲を拡大して調査を積極的に推進する必要が痛感されるにいたつた。
 また,ウラン鉱床の調査方法についてもいちじるしい技術的成果をあげた。エヤーボン調査は,広範の調査にはきわめて便利であり,とくに中間地方の準平原地域に対して有効であるとともに,山岳地帯に対しても,高度および地形補正に関する技術が確定され,いちじるしい成果をあげうるようになつた。さらに,カーボン調査の有効性が実証され,エヤーボン調査とくみあわせて,両者あいおぎなつて調査を実施することが効果的であることが確認された。
 なお,放射性元素の放射線測定による分析,放射性鉱物の化学分析,分光分析等の資料も備蓄され,また分析技術についていちじるしい発展がみられた。

2−3 原子燃料公社の探鉱

 32年度においては,探鉱費予算約2億円をもつて,31年度にひきつづき倉吉,人形峠および三吉鉱山について,とくに重点を人形峠鉱山において,地表精査,試錐坑道探鉱等をおこなうと同時に,あらたに地質調査所等の調査により有望とみとめられた岩手県北上地区,宮城県気仙沼地区,山形県鶴岡地区,岐阜県黒川地区,岡山県南部地区,山口県防府北方地区,鹿児島県垂水地区,その他の放射能異常地に対して地表精査,試錐をおこなつた。なお,坑道および試錐探鉱の成果の概要は,(第2-4表)および(第2-5表)にしめすとおりである。

I 人形峠鉱山
 本鉱山は年度当初は倉吉出張所管内の一地区として探拡をおこなつたが,探鉱開発を重点的に促進する必要がみとめられたので,昭和32年8月1日人形峠出張所を開設した。
 人形峠鉱床は,中新生末期の堆積鉱床であつて,基盤である花崗岩の上に堆積された礫岩層が含ウラン鉱床となつている。32年度末までに探鉱した結果により,不整合面直上で品位がたかく,東西方向にむかつて比較的安定し,峠一夜次間の3kmにわたつてウラン層が連続することを確認した。また同様の鉱床がさらに東方にむかつて,赤和瀬,恩原,辰已峠方面へひろがつており,さらに以東の精査が必要であることが判明した。((第2-3図参照))

1)峠地区
 峠地区は,31年度に開坑した1号坑,2号坑,3号坑の掘進をつづけるとともに4号坑を開坑し,各坑道を100mごとに連絡して鉱床の賦存状況を探査した。また鉱層の厚さおよび品位分布を把握するため,探査用鉱井を坑道沿に掘穿し,合計坑道延長2,403mに達した。
 そのほかトレンチ126m3,試錐14孔763mを実施した。当地区の鉱量は品位0,05%U308の場合,約36万トンと予想される。

2)夜次地区
 夜次地区は,33年1月に開坑し,南部,北部2本の坑道を掘進し,650mに達した。そのほかトレンチ1,532m3,試錐40孔1,096m等をおこなつた。当地区の鉱床は品位が良好であり,平均品位0.06%U308,鉱量は約37万トンと予想される。

3)赤和瀬地区
 トレンチ1,537m3,試錐15孔589mを実施した。その結果基底礬岩層の存在を確認し,試錐により300〜720cPmの放射能異常がみとめられた。
 ことにより,平均品位0.03%U308,鉱量20万トンと予想されている。

4)中津河〜恩原地区
 トレンチ955m3,電気探K2.24km2,試錐23孔1,310mを実施した。その結果,基底礬岩層の存在を確認し,かつ試錐により,安山岩の溢流の下部につよい放射能異常(2,OOOcpm)を確認した。本層は,地表下約100mの深部にほぼ水平に賦存しており,かつ,峠地区および夜次地区をむすぶ直線上特につよい放射能異常がみとめられ,人形峠拡山における鉱床の特性として注目されるものである。33年度において調査した分を含めて,予想されるところでは,平均品位0.07U308%,埋蔵量約50万トンである。

II 倉吉鉱山
 倉吉鉱山の鉱床は,黒雲母花崗岩を母岩とする熱水性のウラン鉱床および鉱染鉱床であつて,歩谷,よころ谷,円谷および広瀬の諸鉱床よりなつており,さらにこれらの鉱床をふくむ東北東方向に長さ約3,000m,幅約700 mの地帯は,・ウラン鉱床の胚胎が期待される有望地帯である。
 32年度は前年度にひきつづき,歩谷および円谷地区を中心として,地表精査および試錐により既知鉱床の鏈先延長の確認および平行脈の発見につとめるとともに,坑道探鉱により鉱床下部の状況を調査した結果,さらに鉱床下部について探鉱を実施する必要がみとめられた。

1)よころ谷地区
 前年度にひきつづき,坑道探鉱を170m実施した。その結果,水平的な拡がりは大きくなく,また試錐7孔588mを実施した結果,垂直的にもきわめて不規則な状態をした鉱床であつて,品位,鉱量ともにあまり期待することができないことが判明したので,一応探鉱を中止した。

2)歩谷地区
 旧坑の下部30mをめがけて,前年度にひきつづいて立入坑道を掘進し,途中2条の平行脈を捕捉して,本鏈に着脈した。その後,各脈の鏈押探鉱をおこない,合計748mを掘進した。このほか,トレンチ2,567m3,電気探鉱0.29km2,試錐7孔492mを実施して,鉱床の水平および垂直方向の連続性をたしかめた。特に本鏈については,試錐により大切坑レベルより60m下部において,かなり鉱況が優勢であることを確認した。

3)円谷地区
 円谷地区には数条の平行脈があり,これらにたいしては立入および鏈押坑道を合計893m掘進して,深部の探拡をおこなつた。そのほか,トレンチ1,340m3,電気探鉱0.4km2,試錐21孔2,076mを実施し,平行脈を捕捉するとともに,鉱床の下部に対する連続性をたしかめた。なお,鉱脈はかなり高品位のところもあるが,一般に規模は当初露頭調査により推定したほど大きくはなく,平行脈が雁行状に賦存していることが判明した。

4)広瀬地区
 トレンチ511m3,試錐3孔131mを実施したが。おもわしい結果はえられず,探鉱を中止した。

III 三吉鉱山
 前年度にひきつづき,坑道探鉱270m及び試錐7孔626mを実施した。この結果,露頭附近にみられた二次鉱物である砒銅ウラン鉱の初生鉱物とかんがえられるコッフイ石の存在をたしかめた。しかしながら,鉱況はおもわしくなく,本年度をもつて,坑道探鉱は一応中止することに決定した。

IV その他の地区
 通商産業省地質調査所等の概査の結果,有望とみとめられた地区に対しては,地表精査,試錐等をおこない,今後の探鉱方針の樹立につとめた。

1)地表精査
 岩手県北上地区,宮城県気仙沼地区,山形県鶴岡地区,岐阜県黒川地区,岡山県南部地区,山口県防府北方地区,鹿児島県垂水地区等において発見された放射能異常地に対して,延936日にわたり鉱床調査をおこなつた。

2)試錐
 宮城県羽田鉱山(気仙沼地区)についは,5孔,450mの試錐をおこない1カ所において,-65m附近で300cPmの異常をみとめた。
 山口県松力谷鉱山(防府北方地区)については,1孔,73mの試錐をおこなつたが,放射能異常はみとめられなかつた。

2−4 民間の探鉱

 調査の進展にともない,全国各地において有望鉱床が逐次発見されつつあり,とくに東北,中部および中国地方においては,現在ウラン鉱以外の鉱物を対象として稼行中の鉱山に,あたらしく有望なウラン鉱床が発見されてきた。
 このような鉱山を中心として,民間におけるウラン探鉱もようやく軌道にのりつつあり,政府としてはさらにこれを促進するため,前年度にひきつづき探鉱費補助金として3,000万円の予算を計上し,(第2-6表)にしめすとおり交付を決定した。

2−5 ウラン鉱石の買上価格

 地質調査所の調査による新鉱床の発見,探鉱費補助金の交付などにより,民間企業においても漸次探鉱意慾がたかまりつつあるが,さらに民間企業に長期的指針をあたえ,生産を効率的に促進するため,原子力委員会においては,原子燃料公社がむこう5カ年間に買入れる鉱石の価格および条件について,通産省,大蔵省等の了解をえて6月29日,その基準を次のとおり決定した。
 本価格は,外国よりイエロケーキを輸入した場合を基準とし,粗製錬費を推定して鉱石価格を推算した上,生産奨励措置を加味して,さらに国内ウラン資源の実情および鉱脈型金鉱山の諸経費の統計等を参考にしてさだめたものであつて,諸外国の鉱石買上価格に比較して,特に低品位鉱石の価格が割高となつている。((第2-7表参照))

I 基準価格

1)稀鉱酸により容易にウランを抽出できる鉱石
 価格は基礎価格と品位割増金の二本建とし,次の基準による。ただし,U308の含有率0.10%未満であつて,特に必要とする鉱石については,別にさだめる基準による。

a)基礎価格
 基礎価格の限度は,含有U308量に,次の品位別U3081kg当り価格を乗じたものとする。

b)品位割増金
 鉱石1トン中,2キログラムをこえるU308を含有する場合は,そのこえる部分につき,U3081キログラム当り500円を限度として前号の基礎価格に加算する。

2)1)以外の鉱石別にさだめる。

II 運賃に対する加算
 鉱山最寄駅より公社の鉱石受入場所までの貨車運賃(荷扱料を含む)については,鉱石1トン当り1,000円を限度として,貨車運賃実費の半額を公社が負担することとし,これを鉱石買入価格に加算する。


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