第3章 民間および国立研究機関における研究
§9 核融合の研究

 核融合反応が人類将来のエネルギー源として大きな期待をもちうるものであることは数年来内外の著名学者によりしばしば主張されてきた。
 もしわれわれが核融合反応によるエネルギーを利用できるようになれば単位質量あたりの発熱量U235に比して数倍以上であること,重水素が資源的に無尽蔵であること,放射性廃棄物がほとんどでないこと,直接発電の可能性がつよいことなど,多くのすぐれた利点によりあたらしい産業革命さえも期待できよう。
 したがつて米英ソ等においては,この方面の研究が相当大規模におこなわれているとのニュースが断片的に報道され,また国内においても大阪大学工学部では数年来核融合反応を目標として超高温プラズマの研究をおこない相当の成果をおさめていた。
 そこで原子力委員会においては,これに関する内外の事情をしるため,32年2月および10月の2回にわたつて関係学者と会合をひらき意見を聴取した。
 この結果原子力委員会は従来は核融合反応については調査の段階にとどめていたのをあらためて積極的に研究開発をおこなう方針をあきらかにした。
 核融合反応研究の方向は低温においてμ一中間子を利用する方法,衝撃波による方法等もかんがえられるが現在もつとも有望とされているのは超高温プラズマによる方法である。この方法は大電流放電により超高温プラズマをつくり熱核反応をおこさせようとするもので,英国において発表されたゼータ,大阪大学において研究されているものとともにこの方式である。
 しかしながらこれらの研究はようやく数百万度の超高温発生に成功した段階であつて熱核反応に必要だといわれている数千万度ないし数億度にいたるためにはさらに画期的な研究を必要とする。
 このためにはまつたくあたらしい分野でありあまりしられていない超高温プラズマの状態を観測して理論的に解明すること,放電電流を大きくするとか,放電時間をながくする等の方法によりできるだけたかい超高温プラズマを発生させることに重点をおいて研究される必要があろう。
 原子力委員会はこの方向にそつて研究を開始することとして,大電流放電施設をもつている電気試験所の研究費として33年度に2,000万円を計上し,大電流放電の研究をおこなわせるどともに33年度委託研究費の一部をこれにあてることとして公募した。応募したおもな研究は高測カメラの製作により超高温プラズマを観測する研究,底インダクタンス大容量コンデンサーの試作,短絡発電機により放電時間をながくする方法等があり,これらの研究は慎重に検討された結果33年度に実施される予定である。


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