第3章 民間および国立研究機関における研究
§7 放射線測定器および放射線監視装置

7−1 放射線監視装置

 放射線測定装置が原子力開発に必要不可欠なものであることはいうまでもない。したがつてこの種装置を急速に開発し放射線による障害の発生を未然に防止するため,原子力開発の当初よりこの研究に重点がおかれてきた。
 研究当初にあたる29年には,原子力開発にともない必要と予想される測定器の基礎的調査がおこなわれ,つづいて30年,31年にはその試作研究が補助金,委託費等により主として民間企業において推進されてきたのである。
 その結果一般的な測定装置については諸外国において市販されているものとほぼ同程度の性能のものが試作されるようになり一部のものは市販されるようになつた。
 32年度においてはさらに高性能の装置を開発するとともに従来の研究を利用して実際に放射能により汚染されるおそれのある場所に設置する汚染監視装置の試作をおこなつている。
 すなわち従来の研究は放射線のエネルギーを電気エネルギーに変換する検出部とこの電気エネルギーを増幅し,計数し,指示する計数部とに重点がおかれていたが,さらに測定対象である試料の採取方法の研究にも重点がおかれるようになつたのである。
 この装置は空気中にふくまれている放射性ちりを監視する空気汚染監視装置,空中その他にふくまれている放射性ガスを監視する放射性ガス監視装置,水中にふくまれている放射能を監視する水汚染監視装置の3種に大別されるが,いずれの装置も一定試料を連続的に採取する方法,この試料中にふくまれている放射能の種類,エネルギーに応じてもつとも効率よく確実に測定する方法に相当困難な問題があるが着々とその成果をあげている。

7−2 放射線測定材料

I 有機化合物による放射線測定
 放射線量測定のための有機化合物の研究は31年度より,その可能性につき,広範囲の有機化合物について定性的な研究を実施してきた。
 32年度においては,前年度にえられた結果より,とくにハロゲン化ベンゼンに着目して,線量の104レントゲン〜 106レントゲンの範囲内における放射線による分解反応を追求して,この範囲内における簡便にして正確な線量測定法の確立を目標としている。

II ガラス線量計
 コバルトを含んだガラスまたは銀活性ガラスにガンマ線を照射するとその紫外線透過度がほぼ106レントゲン程度までは照射積分量に比例して減少する。また硫化カドミウム単結晶はその電気抵抗が照射度に応じて変化するのでこれを可視光線,X線等の照度計に利用することはすでにおこなわれている。
 このようなことを利用して,安全作業のための携帯式で信頼度のたかい線量計を作るために,コバルトガラス,銀活性ガラスならびに硫化カドミウム単結晶の生成の研究をおこなうとともに100キュリー程度のCo60ガンマ線源を利用して,ガラスでは106レントゲン程度,硫化カドミウムについては毎分100レントゲン程度の照射試験をおこない試作品の実用性をたしかめる。かくしてコバルトガラスおよび銀活性ガラスについては102〜106レントゲン程度の積分照射量に対し紫外線吸収係数が比例直線性をたもち,かつ室温褪色性のないものを目標として研究をすすめている。また硫化カドミウム光電導セルについては,50ボルト以下の乾電池とμAメーターを使用して放射線量を直視することができ,しかも毎分100レントゲン程度の照射率まで良好な比例直線性をたもつものを目標として研究している。

7−3 放射線測定器材料の研究

 原子力においては測定器が放射線源に近接して設置される場合が多く,このため測定器が放射線の照射をうけて種々の問題が発生するおそれがある。とくに今後は大量照射をうけることも予想され,このため測定器の部品が変化をうけるばかりでなく測定器の性能,ひいては原子炉そのものに対し,大きな影響をおよぼすこともかんがえられる。したがつて原子力開発をすすめるにあたつてこの問題を至急解決する必要がある。
 このため32年度委託研究費でこの問題をとりあげることとなつた。
 この研究は放射線の照射に時間を要するので,C060 100キュリーを線源として使用し,測定器部品のうち放射線により変化をうけるものを絶縁材料のようなものと半導体,抵抗体のようなものとに二分して研究することにした。
 この研究は32年度,33年度の2年間にわたつて実施される予定である。

7−4 放射線標準の設定

 放射線測定を正確にするため,29年度から放射能の標準を設定するための研究に着手し,35年度までに一応完了することを目標としている。
 この計画はほぼ予定どおりすすみ,32年度には中性子標準,アルファ線標準の設定をおわり,Co60,Sr90によるベータ線放射能標準をすでに配分できるようになつた。
 一方これらの標準を設定した後,国際的にその精度を比絞する必要があるが,エツクス線標準についてはすでにカナダ等のものと比較しており33年度には中性子束標準,アルファ線放射能標準資料,ガンマ線量標準源等の国際比較も行う予定である。
 なおこれら標準を利用した放射能測定器の検定を開始している。


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