第3章 民間および国立研究機関における研究
§6 原子炉およびその付属装置に必要な材料およびその加工

6−1 ステンレス鋼

 ステンレス鋼の研究は30年度より,原子力平和利用委託研究によりおこなわれてきた。
 31年度より32年度までの継続研究として,原子力平和利用研究補助金をより,「原子炉用ステンレス鋼鋼材の製造に関する研究」および「原子炉用ステンレス鋼の溶接等に関する研究」が実施された。
 前者は高周波真空溶解によるAISI,304L,316,347製造条件と非金属介在物等の成分の影響,加工性,機械的性質,耐食性等を研究し,その製造方式を確立した。
 後者は,前者と同様な鋼種について,溶接の際の溶接部の亀裂,残留応力,組織変化等とその防止に関する研究を母材と溶接棒の両面より実施し,適切な化学成分ならびに溶接条件の検討を終了した。
 また,ステンレス鋼の溶接は,ステンレス鋼製の装置の加工の生命となるべきもので,以上の研究のみでは,その溶接法が確立されたとはいえない。このため,32年度より原子力平和利用委託研究により,「原子炉及びその付属装置に必要なアルミニウム及び不銹鋼の溶接施工並びに検査に関する試験研究」が実施され,現在研究中である。もちろんこの研究のみによつて,すべてが,完成するものではないが,一応原子炉用の溶接およびその検査の方式ならびに基準を確立する。
 なお,32年度より科学技術庁金属材料研究所において,  「純粋原料による不銹鋼の諸性質の研究」がおこなわれ,いわゆる348および349よりもつと配合成分を限定したステンレス鋼を試作し,その性質をきわめ今後の原子炉用ステンレス鋼の新鋼種開発をおこなおうとしている。
 今後は,新鋼種の開発,燃料被覆用薄肉小口径管の製造法等,まだ,溶解,加工にのこされた課題が相当あり,これらが今後の研究対象となるであろう。

6−2 アルミニウムおよびその合金

 アルミニウムおよびその合金については,31年度より原子力平和利用委託研究により「原子炉材料としてアルミニウムおよびその合金の耐食性に関する研究」が実施され,32年度において終了した。
 これは,市販の純アルミニウムおよびその合金,すなわち,2S,52S,56S等について,原子炉用として使用可能であるかどうかを検討することを目的として,これらのアルミニウムおよびその合金について,合金成分その他の含有物が耐食性におよぼす影響,高温水による耐食性の決定,防食法,耐食挙動等を検討し,市販のアルミニウムおよび合金のうち,原子炉用として使用可能なものが判明した。要するに,むしろ純アルミニウムよりある程度,けい素,マグネシウム等を含有する合金系がのぞましいことが判明された。
 32年度においては,おなじく委託研究により「原子炉用アルミニウム及びその合金材料に関する試験研究」が実施され,前記の研究を基礎として,微量成分としていかなる金属,非金属がどの程度の含有量により,どのように性能が変化するかを積極的に検討することになつた。これより,原子炉用として最適のアルミニウム合金の成分要素が決定されるであろう。
 また,アルミニウムおよびその合金の加工のうち,とくに問題となる溶接について,32年度より原子力平和利用委託研究により「原子炉及びその付属装置に必要なアルミニウム及び不銹鋼の溶接施工並びに検査に関する試験研究」により,溶接法および検査法の基準を検討することとなり,現在研究中である。

6−3 ジルコニウムおよびその合金

 ジルコニウムについては,わが国においてはすでに,原子炉に使用しうる純度と称され,米国にも輸出される程度のものがすでに企業化され製造されている。
 ジルコニウムとハフニウムの分離については,すでに工業化された段階にあるといえるが,名古屋工業技術試験所においては,分析を主体とした「ジルコニウムとハフニウムの分離に関する研究」が昭和31年度よりおこなわれている。ジルコニウムとハフニウムの分離法については,イオン交換法,有機溶剤抽出法についておこない,現在ハフニウム50ppm以下と推定されるジルコニウムの製造とその分析法の確立に成功し,なお現在研究継続中である。
 このため,わが国における民間企業のジルコニウムに対する興味はむしろジルコニウム合金の溶製にある。
 ジルコニウム合金の研究については,32年度より原子力平和利用研究補助金により「原子炉用ジルコニウム合金の溶解加工に関する研究」がおこなわれ,真空アーク溶解炉によるジルカロイ2,ジルカロイ3の溶製およびその加工を目的として,現在研究中である。
 今後のジルコニウムの合金の研究は,既知の合金成分のものの溶製よりむしろ新配合の合金の溶製およびそれらの加工についておこなわれるであろう。

6−4 窯業材料

 重コンクリートは熱サイクルをうけると成長し,これが大塊コンクリートの亀裂発生の原因の一つとなるといわれており,このため,動力炉およびこれに付帯する装置のコンクリート構造部分が熱サイクルをうけたために生ずるコンクリートの成長現象に関し,コンクリート材料,製造方法,熱サイクルの種類および与え方と成長度の関係ならびに歪の分布を研究し,これが対策に関する具体的な資料をうるべく研究中である。
 原子炉の遮蔽体の施工に関する研究は31年度よりひきつづいておこなわれたが,32年度にもちこされていた精度向上のための型枠およびこれの支持方法と施工方法の研究については,型枠について,パネルは反覆使用による狂いをふせぐため板を両面にはり,さらに耐水処理をくわえ,枠材には均質な乾燥木材あるいは軽量鋼をもちい,支持工には接合部のゆるみを生じない調節可能な構造が必要な点から鉄骨造りが適当である等を確認し,打止り精度についてはガンマ線透過試験等により施工上とくに留意すべき点を明確にし,平坦度については前記パネルをあげた。

6−5 その他

 モリブデン,ニオビウム,タンタル,チタン等の金属およびその合金による耐熱耐食材料,あるいはサーメツト,セラミツクスによる耐熱耐食材料等が,原子炉用構造材料として,注目されているものであるが,現在のところ一部が潜在的に研究されているにすぎない状態で,今後の課題となるものとおもわれる。
 以上にのべた金属材料の研究において,それぞれ溶製および加工については,十分検討ができるが,原子炉用としてその性能を十分に判定するためには,高温高圧による動的腐食研究と,放射線損傷の研究が必要である。
 これについて,現在においては,民間企業のみでは研究が十分おこなえないとの判定で,高温高圧下の動的腐食研究は科学技術庁金属材料研究所,放射線損傷の研究について日本原子力研究においてそれぞれ研究をおこなう態勢になつている。
 なお,前述した構造材料のほか,32年度,より原子力平和利用研究補助金により「原子炉用ボロンスチールの製造に関する研究」がおこなわれ,制御材構造材としての高ボロン含有鋼の製造が研究されている。
 このほか,測定器に使用されるB10濃縮の研究が31年度より原子力平和利用委記研究により継続研究中である。


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