第3章 民間および国立研究機関における研究
§3 燃料および燃料要素

3−1 抽出精製

I 燐鉱石からウランの抽出
 燐鉱石中には,原産地によつては,その中にU3088して0.01〜0.05%程度のウラン分を含有していることは,はやくからしられているところであつた。しかもわが国に輸入される燐鉱石は年間150万トンに達し,これを無為に流失することは,いまだウラン地下資源を十分に確保していないわが国においては,みのがすべからざるウラン資源ということができる。
 このため,29年度から,燐鉱石よりウラン抽出に関する研究が実施され,31年度においては,32年度までの継続研究として,原子力平和利用研究補助金により,「燐鉱石よりウランの抽出」,「共沈法による燐鉱石中のウランの抽出に関する研究」の2研究が実施され,本年度において完了した。
 前者は,燐鉱石を硫酸処理して製造した燐酸をイオン交換樹脂塔を通過させて,ウランを吸着,抽出する研究である。この場合,燐酸は当然燐酸肥料として回収しなければならないのはもちろんであるが,イオン交換樹脂抽出法の面よりみて,酸濃度のひくい方が抽出率は有利であり,燐酸回収の面よりみての濃度に当然限度がある。このへんに当研究の問題点があるのであるが,燐酸処理の最適条件の検討に成功した。
 後者については,燐鉱石を硫酸中に硫酸チタンを投入して燐酸チタンを沈澱せしめ,その際ウランを共沈させてウランを回収する研究であるが,本年度において,工業化の際の燐酸液濃度,硫酸チタン液濃度,硫酸チタン添加量,ゲル生成時間,ゲルよりウランの分離等に対応する諸問題の検討に成功した。
 燐鉱石よりウランの抽出については,以上の段階まで,一応,有機溶剤抽出法以外の諸方式について,29年よりはじまり32年度をもつて検討が終了したのであるが,今後は以上の成果を基として,現在,米国で工業化されている有機溶剤抽出法をどのように処理するかが問題点となるであろうとかんがえられる。

II ペグマタイト鉱石からのウランの抽出
 いわゆるペグマタイト鉱石からのウランの抽出に関する研究は,ふるくからおこわれていたが,明確にウランを対象として研究されたのは,29年度の原子力平和利用研究からであつた。
 その処理は低品位で,組成が複雑なため,非常に困難で,ちかい将来"において企業化されうる問題でないとの判定で,国立試験研究機関において研究がなされることとなり,31年度より工業技術院資源技術試験所において比重選鉱,静電選鉱,磁力選鉱,浮遊選鉱,加圧溶解等,選拡製錬について一連の研究がおこなわれている。
 国内産ペグマタイト鉱石以外に,東南アジアで産出されるペグマタイト系鉱石であるモナザイトの処理は,ふるくからわが国においても希土類元素の採取を目的としておこなわれていたのであるが,今日では,むしろ含ウラントリウム鉱石とみなされる傾向もあり,これを対象としての処理研究が相当多数の民間企業において,自己資本でおこなわれている。
 研究内容は酸溶解とアルカリ溶解の優劣,その後処理としてのイオン交換樹脂法,溶剤抽出法等の単独処理,または組合せ処理による諸元の検討で,現在,原子炉に使用しうる酸化トリウムが小規模でつくられて-いる。

III 人形峠鉱石からのウランの抽出
 わが国において,現在,150万トンにおよぶ確定鉱量をもつ唯一のウラン鉱山である人形峠鉱山より産出するウラン鉱石を処理する方式を確立することは,重要な課題である。
 このため,31年度より原子力平和利用委託研究により,「国内産ウラン鉱の選鉱製錬上の研究」が実施され,優先磨鉱,硫酸溶解,イオン交換樹脂法,有機溶剤抽出法等の一連の処理方式を確立し,人形峠鉱石が十分に処理可能なことを実証した。
 しかしながらこれで問題は解決されるものではないので,32年度原子力平和利用委託研究により「低品位ウラン鉱の有機溶媒による抽出精製に関する試験研究」を実施し,有機溶剤抽出による連続処理の方法を確立することを目的とし,現在研究中である。
 このほかに,人形峠鉱石を対象とし,工業技術院東京工業試験所において「乾式法によるウラン精錬法」の研究が実施されている。
 これは一種の流動床塩化炉により,鉱石中のウランを塩化して分離しこれを有機溶剤抽出によつて精製する研究で,現在継続中である占

3−2 還元

I カルシウム還元
 カルシウム還元によるウラン化合物より金属ウランの製造に関する研究は,30年,31年の両年に原子力平和利用委託研究による「カルシウム還元による金属ウランの製造に関する研究」が実施され,フレオンによる四弗化ウランの製造および四弗化ウランと金属カルシウムによる金属ウランの製造について,研究を終了し,カルシウム還元による金属ウランの製造に関する諸条件を究明する二とに成功した。
 しかしながら,金属ウラン製造の場合,マグネシウム還元による方が,経済的に有利であり,世界各国における金属ウラン製造方式はほとんどこの方式によつており,わが国における金属ウラン製造方式も後述するごとくマグネシウム還元法を採用することになるのであるが,この研究によつて,わが国における金属ウラン製造の基礎がつちかわれ,マグネシウム還元法採用に発展したのである。また,いわゆる原子力新金属製造の際のテルミツト法開発の基礎につながる研究でもあつた。

II 電解還元
 四塩化ウランの溶融塩電解による金属ウランの製造に関する研究は,30年度より工業技術院電気試験所において実施され,本年度において,1kg規模による連続電解法の諸条件の検討が終了した。
 しかしながら,現在世界各国で,工業規模により実施されているマグネシウム還元法に比較して,溶融塩電解法は,今後さらに,中間試験,工業化試験を実施し,工業化のための諸元を明確にする必要がのこつているので,マグネシウム還元法が,一応採用されているが,今後はこの方向にむかつて研究開発をおこなうことは,将来のわが国ウラン製造技術のため必要であろう。

3−3 溶解加工

I 溶解造塊
 金属ウランの溶解造塊に関する研究は,31年度より原子力平和利用研究補助金により「天然ウランの溶解及び造塊に関する研究」が33年度までの継続研究として実施されている。これは真空アーク溶解法による良質なウランインゴツトの製造に関する研究である。
 このほか,他の民間企業においても,ウラン合金の溶製のため,高周波真空溶解法の研究が実施されている。
 以上の民間企業は応用研究,原子力研究所はその基礎という分担で相互の連絡を密にし,研究を推進する態勢がで,きている。
 なお今後は,天然ウラン溶解およびウラン合金の溶製のため,アーク炉および高周波炉による溶解法,溶解後の熱処理,加工等の技術の確立およびこれらの装置の改良のための研究がますます必要となるであろう。

II 被覆
 原子炉燃料は,アルミニウム,ジルコニウムおよびステンレス鋼などで被覆して使用する。
 31年度より原子力平和利用研究補助金による「原子燃料の被覆に関する研究」で天然ウラン燃料を,アルミニウムまたはジルコニウムをもちいて被覆し,所定寸法の燃料要素を製造する研究がおこなわれ,現在33年度までの継続研究として実施中である。
 なお,このほかにジルコニウム合金,マグネシウム合金,ステンレス鋼等による燃料被覆があるが,むしろ,これらの合金系の溶製および加工法の研究として燃料被覆に関する研究を包含して研究がすすめられており,今後において,これら新金属の冶金学的研究がある段階に到達してからあらたに実際に燃料を使用した被覆法および検査法の研究が実施されるようになるとおもわれる。

III 粉末冶金
 粉末冶金法による燃料体製造の研究については31年より原子力平和利用研究補助金により「UO2-Al系分散型プレート原子炉燃料要素の粉末冶金法による製造研究」がおこなわれ,本年度において終了した。これは酸化ウラン粉末とアルミニウム粉末の焼結物を,全面がアルミニウムで被覆された所定寸法のプレートに圧延する研究で,焼結条件,圧延条件等の検討を終了した。これはわが国においてはじめておこなわれた粉末冶金による燃料体製造である。
 ついで32年度より,原子力平和利用研究補助金により「酸化ウラン核燃料の製造法に関する研究」がおこなわれ,酸化ウラン粉末製造の諸条件,焼結条件,仕上げ法などについて現在研究中である。
 粉末冶金法による燃料体製造については,溶解により製造されるウラン燃料の欠点を克服し,耐熱,耐食性がたかく,長時間燃焼にたえうる燃料体製造方式としてはやくから注目されてきたところであり,今後はサーメツトあるいはセラミツクス系の燃料体によることが,多くなるものとおもわれる。
 わが国の高度の粉末冶金技術を使用することにより,これらの燃料体製造研究は有利に開発しうるであろう。

3−4 トリウム

 トリウムについては,前述したごとく,モナザイト処理については,ふるくから,多くの研究機関において研究されてきた。
 31年度より,原子力平和利用研究補助金により「金属トリウムの乾式製錬法」により,トリウム化合物のカルシウムまたはマグネシウム還元による金属トリウムの製造研究がおこなわれ,トリウム化合物の精製およびカルシウムまたはマグネシウム還元による金属トリウム製造の際の諸条件を検討し,一応金属トリウムの製造に成功した。
 また,31年度より,工業技術院電気試験所においても,溶融電解による金属トリウム製造の研究を実施し,成功した。
 以上の研究において一応,金属トリウムの製造技術は確立されたのであるが,酸化トリウムの精製については,イオン交換樹脂法,あるいは有機溶剤抽出法等の単独処理か,またはその組合せ処理によつておこなつているが,その成果を判定するには分析技術の確立等,なお研究の余地がある。
 また,金属トリウム製造の際,トリウムは,だいたい粉末状になつて採取されるので,これを溶解するか,焼結せねばならないが,この段階の研究はまだ十分におこなわれていない。
 今後は,酸化トリウムの精製および金属トリウム,トリウム化合物の粉末冶金の研究の開発が必要である。


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