第3章 民間および国立研究機関における研究
§2 原子炉

2−1 動力炉の設計研究

 動力用原子炉に関しては,日本原子力研究所で基礎的な設計研究をおこない,民間においては電機メーカー,造船会社,電力会社,海運会社等でそれぞれ自社の技術的特長あるいは従来からの技術提携等を考慮して,特定のタイプの動力炉をえらんで,研究がすすめられている。

I ガス冷却型動力炉の研究
 天然ウラン炭酸ガス冷却型動力炉は燃料に天然ウラン,減速材に黒鉛,冷却材に炭酸ガスを使用している。冷却材の炭酸ガスは10気圧前後の圧力で数百度の高温のもとに熱伝達がおこなわれるのでこの型式の動力炉の研究はまず回転部分の軸封装置の研究,炭酸ガス圧送機の研究等から着手された。また電熱による模型伝熱回路を試作しての研究もおこなわれようとしている。これらの研究もその一部は政府の補助金による助成措置がとられている。

II 水冷却型動力炉の研究
 水冷却型としては,沸騰水型動力炉および加圧水型動力炉の二つのタイプが見込みあるものとしてアメリカにおいて開発されつつあるが,一方わが国の主要電機メーカーや造船会社もこれに着目してはやくからそれらの資料調査,基礎研究にあたつていた。いずれも濃縮ウラン燃料,軽水減速,軽水冷却であるが,沸騰水型が約60気圧の飽和蒸気を発生させてこれを循環させるのに対して,加圧水型は約140気圧の加圧水を循環させるという相違がある。いずれにしても高温高圧の水や蒸気をつかい,その圧力,温度,沸騰現象等が原子炉の動作に微妙な影響をおよぼすので,まずこのような高温高圧下の熱伝達,漏洩防止等の研究をおこなうことから水冷却型原子炉の研究が着手された。その手段としてこれらの研究をおこなつているメーカーは,熱伝達回路を試作し,ウラン燃料棒のかわりに高出力の電熱棒を使用して加熱をおこなう方式をとつている。
 政府は31年度以来これらの研究の一部に補助金を交付して助成をおこなつている。

III 液体金属冷却型動力炉の研究
 原子炉冷却材としてナトリウム,ナトリウム-カリウム合金,蒼鉛等の液体金属をもちいることは,熱伝達上非常に有利であり,とくに高速中性子増殖炉等の冷却材としてはもつともすぐれているものであることがよくしられている。
 一方,在来工業の分野では大量にこれら液体金属をとりあつかう例がほとんどなくそれらに関する技術,資料も非常に少ない。したがつて液体金属回路における熱伝達,流動,腐食,精製,漏洩防止,圧力損失等の研究をすすめておくと同時に,なるべくはやい機会にその操作になれておくため,政府は31年度以来補助金を交付して研究を助成している。

2−2 原子炉付属機器の研究

 原子炉の冷却材循環系に使用される機器は,腐食,放射線損傷,漏洩,圧力,温度等において非常にきびしい条件が要求される。そのため材料の選定,加工技術等に解決しなければならない困難な問題が多い。とくにインコーネル,ステンレス鋼等の特殊材料の溶接,機械加工等の技術を確立する必要がある。
 これらの問題点解決のため,高圧密閉型電動ポンプ,電磁ポンプ,炭酸ガス圧送機,原子炉用弁,液体金属流量計,液面計,圧力伝達器等に関する研究がつづけられており,一部はその成果をあげつつある。これらの一部には,政府の補助金による助成もおこなわれているが,今後もさらに,大型および高性能のものの試作をおこない,それらの実用化をはからなければならない。

2−3 原子炉の計測制御の研究

 原子炉の制御は,従来他の方面において使用されていた場合よりは非常な精密さを要求され,かつ応答時間がはやいことを要する。そのため,原子炉の出力を精密に制御し,非常の場合には安全棒を迅速に作動させるため,精密な計測装置,それらからの信号を計算し応答する装置,および制御棒駆動装置が必要である。
 これらの研究を促進するため政府は29年以来,委託費および補助金を交付して各種の中性子測定装置,制御棒駆動装置,シミユレーター等一連の制御系の試作研究をおこなわせ,一部それらの作動試験もおこなわせた。しかしながら今までの研究は研究用原子炉等きわめて簡単な場合を対象としての基礎的なものが主であるので,高温,高圧,大容量の動力炉を対象としての計測制御装置の研究を早急におこなう必要がある。
 原子力船の場合は,陸上原子炉とことなつたさらに苛酷な条件下での制御ということが必要とされるので,船舶用原子炉の制御に関する基礎研究が,造船会社においてもおこなわれており,32年度には,そ,れらの一部に対して政府より補助金の交付もおこなわれている。


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