第2章 日本原子力研究所における研究
§5 工学的研究

5−1 燃料材料冶金の研究

I 金属ウランの高周波真空誘導溶解炉による溶解鋳造に関する研究
 高周波真空誘導溶解炉(10kW,430kC,溶解量最大4kg,外熱式)をもちいて溶解鋳造に関する基礎実験をおこなつたが,使用した地金は,32年10月までは国産ウランでその使用総量は,約18kg,溶解回数は,再溶解をふくめて40回以上である。33年1月以降は,フランスより輸入したウラン(800kg)の一部をもちいて数回おこなつたが,国産ウランに比して,ガス放出量は少ないことがみとめられた。なお国産ウランの溶解鋳造については,特にガスの放出,スラッグ,酸化物とウランの分離,鋳塊の収縮孔,ピンホールの有無などについて,データをもとめることができた。しかし,本格的な溶解鋳造の実験は33年度よりフランス製ウラン地金によつておこなう予定である。

II 棒状ウラン製造法に関する研究
 上記テーマによりえられた鋳塊の一部を小型のエアーハンマーにより熱間鍜造をおこない,丸棒および厚板の素材をつくり,焼鈍後ロールにより冷間圧延をおこない,加工硬化を測定するとともに,加工組織,再結晶の進行状態,再結晶粒子の大きさ等を詳細に検討した。しかし,エアーハンマー,ドローベンチ,スエージングマシン,100馬力の二段溝ロール等をもちいて行う加工の本格的研究は,33年度よりおこなう予定である。

III 棒状ウランの加工状態と物理冶金的性質の関連性に関する研究
 加工された棒状ウランの繊維組織,ベータ焼入およびサーマルサイクリング試験による変形等を目的として,ベータ焼入により変化する結晶粒の状態の検討並びにサーマルサイクリング試験等を若干おこなつた。

IV 原子炉の減速材および冷却材による腐食とこれにおよぼす放射線の影響
 高温,高圧下の静水中におけるアルミニウムの腐食状態を特に電気化学的見地から検討し,さらに流動水中における腐食および浸食実験装置を試作するとともに,アルミニウムについて,JRR-1による照射の影響を検討した。

V そのほかの研究
 そのほかウランをもととするU-zr,U-Mo, U-Cr, U-Al各1%合金の高温酸化ならびにジルコニウム,マグノツクス等の加工性について研究調査した。

5−2 計測制御の研究

I 原子炉計測制御系の研究
 JRR-1について中性子束の測定をおこない,炉出力に関し貴重な基礎資料をうるとともに増幅器,ガスシンチレータ等の計測器類の検討をおこなつた。また前年度試作したシミュレータと本年度の整備器材とを組み合わせて原子炉自動制御系のモデルをつくり,制御特性の基礎的検討をおこなつた。

II JRR-1の制御特性の研究
 制御特性試験装置を試作してこれをJRR-1の実験孔に取り付け中性子吸収材料を挿入することにより炉に急激な変化をくわえ,炉の動特性の検討をおこなつた。

5−3 機械装置の研究

 原子炉よりなるべく大量の出力を効率よく安全にとりだすことを目的として次のようなことをおこなつた。

I 表面沸騰の研究
 31年度試作した表面沸騰伝熱実験装置を使用して焼入れ限度,熱伝達系数,燃料棒内の温度分布,流体抵抗等を測定し,さらに高圧下の表面沸騰の研究をおこなうための装置の試作設計をおこなつた。

II 液体金属の取扱いおよび流動の研究
 液体金属特にナトリウムの取扱い,切断,爆発性,耐食性を調査して,その取扱いに習熟するとともに流動状況を実験する液体金属実験装置を試作設計した。

III 冷却用フインの炉出力増加におよぼす影響の研究
 高圧ガス容器中にもうけた模擬燃料棒にフインをとりつけ,フインの取付状態,液体の圧力,温度を変化した場合の熱伝達率,流体抵抗,フイン間の渦の生成,消滅等を測定検討した。

5−4 化学工学の研究

I 溶媒抽出法による燃料再処理装置の研究
 31年度および32年度試作のパルスコラム2基をもちいで,水一醋酸一ベンゼン系,水-UO2(NO3)2-TBP系で抽出実験をおこない,パルス振巾,パルスの周波数,プレート間隔等の測定をして,パルスコラムの運転特性性能等を検討した。また,イオン交換による精製装置を試作して各元素の挙動,樹脂層内の分布等を測定するとともに31年度試作した硝酸回収装置をもちいて,フオルマリンによる分解データを採集した。
 そのほか攪拌式の抽出装置の可能性を検討して,ミキサーセトラー式抽出装置を試作設計した。

II 廃棄物処理装置の研究
 本研究所に設置する廃棄物処理場の設計資料をうるために放射性煙霧体,放射性廃液の処理に関する研究をした。

5−5 アイソトープの製造研究

 アイソトープ製造における不純物の分離の研究をおこなうとともに純度の高いアイソトープをうるためにサイクトロトロンをもちい,シラード・チヤーマーズ法によりCu64をつくり,比放射能の高い同位元素製造の研究をおこなつた。またJRR-1を利用してNa42,K42,Cu64等のアイソトープ製造法を確立した。


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