第2章 日本原子力研究所における研究
§3 基礎研究の実施

3−1 原子核物理の研究

 原子炉材料の核物理的研究を目的とし,次のようなことがおこなわれた。
 国産黒鉛が原子炉用材料としてどの程度使用可能であるかを検討するため,2種類の国産黒鉛をもちいて国産黒鉛中における熱中性子の拡散距離の測定をした。次に水素をふくむ媒質中における高速中性子の減速過程を一研究するため,フアンデグラフ加速器をもちいて14MeVの高速中性子を・つくり,これが軽水により減速されるまでの距離を測定し,さらにおなじくフアンデグラフ加速器をもちいて原子核乾板による高速中性子の非弾性散乱状態を測定した。またJRR-1に附設して低速中性子による炉材の核物理的研究をするための装置として,パイルオツシレーター,スローチヨツパー,クリスタルモノクロメーター等を試作した。そのほか高速中性子による原子炉材料の非弾性散乱の研究を積極的におこなうためフアンデグラフ加速器をパルス運転させるのに必要な設計変更をおこない,33年度よりパルス運転をさせて実験をおこなう予定である。

3−2 固体物理の研究

 核燃料の固体物理的研究ならびに原子炉材の照射損傷の研究を目的として次のようなことがおこなわれた。本研究に必要な性質をそなえた適当なウラン試料の入手が困難であつたのでその準備段階として入手可能な国産ウランについてウランの物理的性質の測定,すなわち,熱的性質(比熱),格子構造,電気的性質(熱起電力)の測定をおこない,さらにウランと異方性が類似している亜鉛を使用してその拡散異方性の測定法を確立し,適当なウラン試料の入手があればこの方法で利用できるようにした。また材料が中性子照射をうけて,結晶格子が歪む際に内部に蓄積されるエネルギーが不純物を添加することによつて,どう変化するかを拡散法を用いて検討した。

3−3 物理化学の研究

 溶媒抽出法による使用済燃料の再処理試験装置の基礎資料をうる目的で溶媒抽出法の機構を理論的に解明し,あたらしい溶媒発見の検討をおこなうとともにさらに使用済燃料を弗化したのち分溜する再処理方法について基礎的調査をおこなつた。

3−4 放射化学の研究

 核燃料,核分裂生成物,原子炉材の放射化学的研究を目的として,次のようなことがおこなわれた。

I 核分裂生成物の放射化学的研究
 燃焼度,増殖利得等の原子炉定数の化学的測定法および燃料再処理過程における核分裂生成物の迅速分析等を目的とした研究で,試作したガンマ線シンチレーションスペクトロメーターをもちいて Cs137,Ru106,その他ガンマ線放射性の核分裂生成物の迅速分析法およびU285,U238の定量法を確立した。また蓚酸型陰イオン交換樹脂等をもちい沈澱濾過法により核分裂生成物の分離法を研究し,33年度には,放射性廃棄物より有用放射性同位元素の分離精製に関する研究に発展させる予定である。そのほかにウラン試料およびトリウム試料を原子炉で照射してえられるネプチニウム,プルトニウム,プロトアクチニウム等を分離精製しこれらの重元素の化学的性質を詳細に検討する研究に着手した。

II 廃棄物処理の化学的研究
 核分裂生成物中のルテニウムは,液相,固相および気相においてその化学的挙動が非常に複雑であるため,燃料再処理,廃棄物処理において最も厄介な元素である。したがつて,Ru103,Ru106の完全分離法の検討を開始して沈澱濾過法により約95%のRu106を容易に分離することができた。

III 放射化分析法の研究
 ジルコニウム,ハフニウムの定量について従来おこなわれている分光分析法では100ppm以下の定量は不可能であつたが,JRR-1を用いてジルコニウム試料を1分間照射し,Hf178(n.γ)Hf179m反応で得られる半減期19秒のHf179mより放射されるガンマ線の強度を測定する放射化分析法によると,数ppm迄のハフニウムを±3%程度の精度でしかも僅か数分間の操作で定量することが可能となり,その方法がジルコニウム中のハフニウムの標準分析法として確立された。
 なお,シリコン,ゲルマニウム中に存在するきわめて徴量の不純物についても放射化分析法で検討し,シリコン中の砒素,銅,インヂウム,ナトリウム,鉄,アンチモン等の定量法を確立した。

3−5 分析化学の研究

 核燃料,炉材料は従来の諸工業において生産または,使用された物質とことなり,厳格な純度を要求され,徴量の不純物の定量が問題である。したがつて核燃料,炉材料の品位決定ならびに製造法の改良のためにこれらの分析法を早急に確立する必要がある。このような目的の下で次のような研究がおこなわれた。

I 核燃料の分析化学的研究
 常量より微量にいたるウラン,トリウムの分離定量法として,ウランまたは,トリウムのオキシン錯塩をクロロホルムで定量的に抽出し,微量ウランまたは微量トリウムを比色定量する分析法を確立した。
 なお,スペクトル分析法によりウラン中のほう素,鉄,マンガン,バナジユウム,マグネシウム,等を定量する方法を検討し,ほう素については  0.05ppm迄の定量が可能どなり,さらに中性子線の吸収測定により,ほう素,希土類元素等の吸収断面積の大きい不純物元素の総量をほう素相当量としてもとめるシヨツトガン法の装置を試作して検討している。

II 原子炉材料の分析化学的研究
 ジルコニウム中のハフニウムをスペクトル分析により,100ppmまでの定量測定をした。また黒鉛中のほう素を酸化ランタンをもちいて濃縮し,相対蒸溜法をもちいて0.Olppmないし0.02ppm迄の定量法を確定した。


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