第2章 日本原子力研究所における研究
§2 原子炉の設置

2−1 JRR-1の運転開始とこれによる実験の開始

 炉本体の据付工事は,32年4月末をもつて一応完了し,5月以降8月中旬までは,ヘリウムガスをもちいて配管系統の漏洩試験ならびに臨界実験のための制御機器,中性子計測装置等の調整試験をおこない32年8月26日から翌朝にかけて燃料の注入をおこない,第7回目の燃料注入で臨界に達し,わが国最初の原子炉の運転が成功裡におこなわれた。臨界に達したときの出力は60mWで臨界量はU235に換算して1,170gである。その後燃料を追加して出力をたかめ,現在では燃料挿入量はU235分で,1,296.3gである。9月以降実験孔における中性子の分布およびX線の強度測定並びに炉の動特性の試験等をおこない,11月下旬には短時間ではあるが高出力の試運転がおこなわれた。炉の円滑なる運転を期するため12月下旬より33年1月末までは炉の運転をやめて,地下水浸水対策工事をほどこした。
 2月より所内外の炉の共同利用を試験的におこない,4月迄に学術会議,産業会議,同位元素協会等を経由して,大学,国立試験研究所,民間会社等により23件,及び所内研究室により28件の利用実験がおこなわれた。その主なものは,アイソトープの製造,原子物理実験,各種材料照射試験おょび遺伝に関する実験等で,これらは大部分25kWの経済出力でおこなわれ,JRR-1の日々の運転時間は,正味4時間ないし5時間であるがJRR-1の運転開始以来32年度末までの発生熱量は2,147kWhである。
 なお,この期間におけるJRR-1利用によるアイソトープの生産量は下記のとおりである。

2−2 JRR-2の建設状況

 JRR-2の製作についてはAMFアトミツクス社ならびに,炉本体価格のうち約3分の1をAMFアトミツクス社より依託をうけて三菱グループがあたり,これと並行して32年9男より炉室工事および付属研究室の建屋工事を開始して,32年末では,その大半ができて現在仕上工事をおこなつている。三菱グループの製作分は,重水タンク,熱遮蔽,二次(軽水)冷却系統,実験孔関係,ヘリウムガス循環系関係などである。
 32年度はじめには,本体の据付工事に着手するが,建屋の完成は33年8月,炉全体の組立完成は33年度末の予定で,それ迄に原子炉運転に必要な燃料4kg(U235分),重水約8トンを入手する準備をすすめている,また炉を使用して物理,化学,生物学等の基礎研究,材料試験ならびに放射性同位元素を生産する予定である。

2−3 JRR-3の建設

 JRR-3・は輸入原子炉JRR-1,JRR-2の後をうけて日本原子力研究所に設置される研究原子炉で,基本的な計画,設計,材料仕様の選定等の基礎より建設にいたるまで,総て国産技術でおこない原子炉の設計,製作,建設についての全般的な経験をうるとともに完成後も自由に手をくわえて改良し原子炉技術開発の促進をはかろうとするものである。
 このような目的のために,将来の改造の際取替の困難な遮蔽やコンクリートにうめこまれる配管等は40MW程度までの出力増大にたえるよう考慮して設計している。
 設計研究については,29年より,日本学術振興会,財団法人原子力研究所をへて,日本原子力研究所にひきつがれ,32年4月その設計仕様書を完成し,以後下記の諸会社と協同設計をおこない32年10月1次設計を完成した。
 協同設計の幹事会社は次のとおりである。
 炉 本 体…… (株)日立製作所 石川島重工業(株)(放射性同位元素取扱設備)
 水ガス系 ……三菱グループ(三菱造船(株) 新三菱重工(株) 三菱日本重工(株) 三菱電機(株))(株)日立製作所(重水系の1部)
 計測制御系……東京芝浦電気(株) 富士電機製造(株)(水ガス系の計測)
 設計書類については,33年1月カナダのチヨークリバーにある原子力研究所に,主として安全性の見地から検討をもとめ,その検討の結果生じた不都合な点を修正して2次設計をおこない,ひきつづき製作据付にはいる予定である。
 すなわち33年に機器の製作,34年据付,35年7月据付完了,以後試験をおこない,35年11月には臨界に達することを目標にしている。
 JRR-3の各部分の概要は次のとおりである。

1)原子炉本体

a)炉心タンク
直径2,800mmのアルミ製タンクで重水をいれその中に燃料棒が格子状に配列されるようになる。
b)燃料棒
直径25mm長さ883mmの天然ウラン棒に2mmの厚みのアルミシースをかぶせ,これを3本のピンでつないである。燃料棒の最大本数は245本で1年間連続使用可能で,その燃焼率は約600MWD/Tの予定である。
c)黒鉛反射体
炉心タンクと熱遮蔽タンクの間に約800mmの黒鉛をいれその中を炭酸ガスを循環し冷却する。
d)熱遮蔽タンク
内張にボラル,外側に厚さ100mmの鉛をはつた直径450mm高さ4,600mmの鋼製タンクである。
e)生体用遮蔽
熱遮蔽タンクの鉛の外側に約1,600mmの高密度コンクリート(比重3.8)をながしこんだものである。

2)実験設備
 各種実験ならびにアイソトープ製造をするため次のごとき実験設備がある。
 a)中央実験孔   1本 直径200mm
 b)サーマルコラム 1本 1,500mm角
 c)垂直実験孔
  炉心タンク内 3本 直径130mm
  生体用遮蔽内 4本 直径100mm
 d)水平実験孔  1本 直径300mm
         2本 直径200mm
         4本 直径150mm
         1本 直径100mm
 e)ニユーマチツクチユーブ 2本 直径30mm
 f)垂直照射孔
  炉心タンク       3本 直径60mm
  黒鉛反射体内      27本 直径60mm
 g)水平照射孔       1本 直径100mm
 h)アイソトープトレイン  2本 300mm×200mm
 i)計測孔         13本 直径150mm

3)水,ガス系統
 主として炉本体の冷却をする水,ガス系統には重水系,ヘリウムガス系,炭酸ガス系,熱遮蔽冷却系,中央実験孔冷却系,緊急用冷却系,二次冷却水系,排水系等がふくまれる。

4)計測制御設備
 炉の運転状態を計測記録し,炉の運転の安全性を確保するとともに定常運転中は炉の出力を一定にたもつように自動制御することを目的として制御系統,中性子計測系統,放射線モニタ等がある。

5)燃料取扱設備
 燃料を取替えたり使用済燃料を冷却貯蔵,輸送するために燃料取替装置,使用済燃料貯蔵水槽,使用済燃料水中搬出装置,冷却架台,輸送用容器等がある。

2−4動力試験炉の設置準備

 天然ウラン型のいわゆるコールダーホール改良型については,第3部にのべられるように実用化の段階にきているとみられているが,濃縮ウランについては,まだ採算のとれる段階にないとかんがえられるので,この型の炉の特殊性にかんがみ,実用発電炉と増殖炉に関する技術のうち,熱伝導動特性,燃料要素に関する技術の開発を促進し,あわせて原子力船に関する技術の開発に資するために,33年度より3カ年計画で濃縮ウラン軽水型1〜 1.5万kW程度の動力試験炉の導入をおこなうこととなつた。このため本研究所内に,動力試験炉委員会をもうけ,動力試験炉の型式,導入時期,使用計画,必要経費等を詳細に検討し,購入見通しをえたので,動力試験炉仕様書ならびに契約に関する資料をうるため,動力試験炉調査員5名を米国に派遣して調査をおこなつた。


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