第2章 日本原子力研究所における研究
§1 概説

 日本原子力研究所は30年末財団法人として出発,翌31年6月特殊法人にきりかえられたが31年4月茨城県東海村に敷地が決定されてから約2年,鋭意,研究所の整備をはかつてきた。32年はまだ建設途上であつたが,それまで研究者が東京都内の既存の研究施設を一部借用して出張研究をしていたものがきりかえられて一応自己の研究室をつかいはじめた。
 待望のウオーターボイラー型原子炉JRR-1が8月には運転を開始し,若干の研究は成果をあげたが,本研究所の原子力技術開発においてはたす役割はその基礎的な部分の研究開発であり,長期を要するようなものが多い関係もあり,ほとんどの研究はすベリだしたばかりであるといえよう。
 これを予算の面からみると,第2-3表にしめされるように32年度は31年度に比し,総額において約4.5倍に急増し,43億4,500万円であるがこの約90%は原子炉,研究施設をはじめとし,住宅施設にいたるまでの建設費であり,特に研究施設費は前年度に比し約8倍の17億5,100万円に達し,建設しつつ研究をおこなつている本研究所の姿をしめしている。原子炉の建設についてみると,総額において前年度の約2.5倍,7億9,200万円が支出されJRR-1が完成され,JRR-2の工事に着手し,JRR-3(国産1号炉)の設計をすすめた。試験研究費(研究施設および研究諸経費)の内訳は第2-3表にくわしいが,金額からみれば基礎研究,工学的研究,原子炉開発試験,放射線管理および保健物理研究,アイソトープ製造利用研究および全研究に共通的な研究管理施設の各部門にほぼ同程度の予算がわりあてられ,各部門の並行的な整備がおこなわれている。これを前年度に比較すると,第2-3表のごとく,31年度は主として基礎研究にかぎられていたのが,32年度に工学部門,原子力開発部門,アイソトープ製造部門などの急増したのがめだつている。

1−1 原子炉設置の計画とその概況

 現在,日本原子力研究所に設置され,あるいは建設中であり,あるいは計画されている原子炉は(第2-1表)にしめすとおりであり,この他に,熱出力50MW程度の材料工学試験炉の設置,熱中性子増殖炉,高速中性子増殖炉の開発もかんがえられているが,具体的計画となつていない。増殖炉については国産開発をめざし,基礎研究に着手している。

 JRR-1は何分にもわが国はじめての原子炉であり,その建設にはいろいろの困難に遭遇したが,8月臨界に達したあと,外部および内部の50件余りの利用がおこなわれ,発生総熱量は年度末までに2,000kwh余におよび,各種実験のほか短寿命のアイソトープ生産に効果を発揮した。
 JRR-2はAMFアトミツクス社およびその下請である三菱グループ協力のもとに順調に工事がすすめられ,33年度末には完成の予定で,こ の型式(CP-5型)としては世界最高の熱出力1万kWをねらい,完成後の活用が期待される。
 JRR-3は熱出力1万kWの天然ウラン重水型で詳細設計を本研究所と各部分担当の数メーカーが協力しておこなつており,33年秋には着工予定で国産1号炉として完成までにえられる経験は貴重なものとなろう。この型の設計に必要な指数■数実験はこれに使用する天然ウランや重水が予定どおりはいらぬため単に予備実験にとどまつた。また,冷却水の整流装置,流動抵抗,燃料要素の振動などの基礎実験は,この型のモデルによりメーカーと協力しておこなわれている。
 濃縮ウラン水冷却型動力炉の基礎的な試験研究をおこなうための動力試験炉はその詳細について検討中であり,33年度中には契約を完了し,34年秋頃には着工が予想され,本研究所動力試験炉第1号としてこの型の動力炉の開発に重要な役割をはたすであろう。
 増殖炉は燃料の経済性の見地から,将来わが国でとるべき炉型であると予想されており,この開発は本研究所の重要な役割とかんがえられているが,外国でも技術的にまだ充分に開発されていないのでわが国においても長期的に開発をすすめる必要があろう。32年はウラン,トリウムなどの入手が困難であつたので,常温,常圧下のスラリーの性状,軽水と重水をもちいて中性子の減速距離測定や若干の実験装置の試作を行つた程度で,まだ研究のための装置をつくる予備的段階である。

1−2 実施された研究の概要

I 基礎研究
 原子炉物理,核物理,固体物理,放射化学などの基礎的研究はただちに生産にむすびつくものではないが,生産の基礎として十分開発される必要があり,これらの研究は日本原子力研究所の重要な任務である。これらの研究は長期にわたり,連続的におこなう必要のあるものが多く,本年度においては次のような研究に着手した。
 ラジウム・べリリウム中性子源やフアンデグラフ加速器をもちい原子炉材料の核物理的研究がおこなわれ,またJRR-1 をこの目的につかうための準備がすすめられた。国産ウランの物理的性質の測定や使用済燃料再処理の装置製作の調査もおこなわれ,また放射化学の分野では燃焼度,増殖利得等の化学的測定法,再処理過程の核分裂生成物迅速測定法などの研究,放射性同位元素分離法の基礎研究などがおこなわれている。
 また,JRR-1でジルコニウムを照射しジルコニウム中に不純物としてふくまれるハフニウムをいわゆる放射化分析法によつて定量する研究がおこなわれたが,これによつて数ppmまで分析ができるようになつた。おなじ放射化分析法によりシリコン,ゲルマニウム中の不純物測定の研究もおこなわれ,また,他の方法により,ウラン,トリウムなどの微量分析の研究もおこなわれた。

II 工学的研究
 工学的研究のうち,原子炉構造および付属機器については,一般的共通的な部分を本研究所が,製造に関する研究を民間の企業がおこなうこととなつている。さらに原子炉に必要な材料のうち,減速材,制御材,遮蔽材,特殊耐蝕耐熱性の合金,その他の材料などに関する研究をのぞくほか,上記のようなかんがえ方で,国立研究機関と協力することになつており,核燃料の成型加工,核燃料の冶金的研究,ウラン濃縮の研究,再処理に関する研究なども民間,国立研究機関,あるいは燃料公社と協力して行つている。
 以下に本研究所の本年度における工学的研究の概要をしめす。
 燃料については,ウランの溶解,鋳造の小規模な試験,棒状ウランの各種製造法などが研究された。減速材の冷却材による腐蝕と,これにおよぼす放射線の影響はJRR-1 をもちいておこなわれている。
 計測制御の関係では,原子炉制御系のモデルをつくり基礎的に検討をおこない,またJRR-1についてその動特性の研究をおこなつた。
 機械装置としては水冷却の場合の表面沸騰の基礎実験をおこなうとともに液体金属についての実験に着手し,また高圧ガス中の燃料棒の冷却用のフインについて研究をおこなつている。
 化学工学においては脈動をあたえて抽出の効率をよくするためのパルスコラム2基をつくつて溶媒抽出法の研究を行い,イオン交換樹脂法についても各種の研究をおこなつている。
 なお放射性廃棄物処理施設の調査をおこない,アイソトープ製造法についてもその確立をはかつた。

III 保健物理および放射線管理
 防護器材および汚染除去の研究をおこない放射能除去法の基礎をつくつた。なお研究室の管理のための諸準備をすすめ,汚染除去材料の整備をもおこなつた。保健管理ではポケツト線量計やフイルムバツヂをもちい,さらに血球検査を行つているが,支障のあつた所員は全然いない。
 モニタリングは3カ所において連続的行つており,また,土壌,植物,水,魚類,農作物などの検査も定期的におこなつている。海岸の調査も開始された。
 10kCのCo60によるガンマー線照射施設は33年8月に完成し,その後,大量放射線源として各種の研究に活躍するであろう。


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