第1章 概説
§2 32年度における原子力技術開発の段階

 31年度の原子力技術の研究開発は,態勢の整備と急増した予算,一般の原子力に対する認識の増大などにたすけられて大きく進展した。この年度における研究のすべり出しは,一部民間企業で動力炉のための研究をはじめた以外は熱出力1万kWの国産1号炉の建設と,濃縮ウラン型研究炉の設置をいそぐとともにあらゆる分野の研究をすすめる態勢がとられていた。
 しかしながら,31年中頃から,とみに動力炉の開発が身近かなものとして登場するにいたり,同年9月に原子力委員会で内定した原子力開発利用長期基本計画においては,原子燃料資源の有効利用のために,将来の原子力研究の目標を増殖型動力炉の国産におき,その研究をすすめるとともに,当初の間は外国技術の導入を積極的におこなうことを企図し,相当規模の動力炉数基をできるだけすみやかに海外に発注するなどの措置が方針としてかんがえられた。この頃から,わが国の原子力研究開発の規模は拡大し,速度ははやめられる気運となつたのである。
 この間にあつて,原子力委員会動力炉専門部会を始め,関係方面において動力炉に関する調査がすすめられ,またこの年の10月には動力炉に関する訪英調査団の派遣,その他原子力産業使節団,原子力政策調査団などの海外における調査がおこなわれた。
 動力炉についてのくわしい状況は第3部第1章にのべられているが,要するに32年度は発電用動力炉導入の準備がすすめられる一方,国内の原子力技術の研究開発のすすめ方もこれらの気運に呼応して大きく転回したといえよう。すなわち,前年度始めまでは主として国産の研究炉をまず国内の技術開発およびそれにより生産された材料をもちいてつくることを第1目標とし,次の段階として動力炉をかんがえていたのが,動力炉の輸入と動力炉に関する諸般の国内研究をすすめることにより,すみやかに動力炉技術の修得をはかり,以前かんがえていたよりもはやく実用動力炉の国産化をはかる態勢となつたのである。
 このような態勢のもとにあつて,動力炉の完成品を買うばかりでなく,今後の原子力技術研究開発のためには,海外から個々の技術導入の問題が登場,してくるであろう。この場合に,国内における研究と技術導入との調整が,また重要な問題となるであろう。すなわち,日本原子力研究所などを中心にして基礎的な技術水準の向上につとめ,また,従来のわが国の技術の特徴をいかして,なるべく技術導入の部分をへらすとともに,技術導入がおこなわれる場合には,これの効果的な吸収をはかる準備をすすめることも重要であろう。もちろん,技術導入の終極の目的は国内技術の培養におかれるから,国内技術を効果的に,かついちじるしく高めるものにかぎらるべきであろう。
 いずれにしても,必要とされる原子力開発のテンポとにらみあわせ,総合的な見地から,かつ長期的にみて,もつとも効果的な研究のすすめ方をたえず追求してゆくことは原子力関係者に課せられた今後の大きな課題である。


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