第1章 開発態勢の整備
§2 関係法令の整備

2−1 核原料物質・核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の施行

 原子力がつねに平和目的にのみ利用され,さらにその利用が計画的におこなわれ,また原子力の利用が災害をもたらさないようにして公共の安全をはかることを目的とする「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」は,32年5月国会をとおつたが,関係政令および府令が法律とともに施行のはこびとなつたのは32年の12月であつた。この原子炉等規制法は核燃料物質については量をとわず規制する建前であつたが,これは核燃料物質であるウラン化合物が亜鉛分析等の試薬として広汎に使用されている実情にそわないので,微量使用について規制を緩和する一部改正法が33年4月に成立し5月に施行された。
 この法律の内容については,前年度の報告にのべているので,ここでは,法律施行のための法規の整備および施行の上での問題の概観にとどめることとする。
 核燃料物質および核原料物質の範囲をさだめたのは,「核燃料物質,核原料物質,原子炉及び放射線の定義に関する政令」であるが,すでに「原子力基本法」によつてあきらかにされていたように,その規制対象の捉え方はアメリカ式の「原料物質」と「特殊核物質」やイギリス式の「指定物質」とはことなつて原子炉に燃料として使用できる物質を「核燃料物質」とさだめ,その原料になりうる物質を「核原料物質」とする方式をとつている。
 ところが「核燃料物質」である高品位のウランやトリウムであつても,試薬等原子力以外の工業上の使途にもちいられるので,これらの使用を阻害しないために使用量のわずかなものはその規制を緩和することとなつた。この際,許可のいらない種類は天然ウランと減損ウランおよび天然トリウムにかぎられたので,アメリカでいう「特殊核物質」の取扱いが天然元素に比しきびしくなりアメリカ式把え方にややちかづくこととなつた。
 なおアメリカ,カナダとも天然元素の微量使用については規制を緩和している。
 製錬事業というのは,核原料物質または核燃料物質に含まれるウランまたはトリウムの比率をたかめるための処理をおこなう事業をさすのであるが,規制法においては,わが国の原子力の開発利用の計画的な遂行という観点から,製錬事業についてはとくに指定制という厳重な制度をさだめている。しかし,現在すでにモナズ石処理業者が約10件製錬事業を営んでおり(許可申請中),この能力は合計して年間八三酸化ウランで約900kg,酸化トリウムで約2,OOOkgにおよぶので,この処理が今後の課題である。
 原子炉は周知のとおりすでに日本原子力研究所のJRR-1が運転されているが,規制法にもとづいて原子炉主任技術者が認定選任され,保安規定の実施と保安の監督にあたつている。JRR-2の設計および工事の方法も規制法によつて認可されて建設が着々とすすめられている。新たな設置許可については教育用小型原子炉をもうける申請が33年4月に1件提出され,目下慎重に検討がすすめられている。なお,原子炉主任技術者の資格ありと科学技術庁長官によつて認定された者は,33年5月末で4名である。
 核燃料物質の使用の許可をうけた者は,33年5月末現在で11件に達している。いずれも原子力開発のための研究用のもので,1件で複数の目的を有するものが多いが, 目的別にみるとウランの製錬研究8,加工研究8,その他の研究2,トリウムの製錬研究3,加工研究およびその他の研究が各1である。これらの年間予定使用量は,金属ウラン約1,100kg,各種ウラン化合物約900kg,トリウム化合物約240kgの見込であり,ほかに試薬等の目的に使用される量があるわけである。
 これら製錬事業の指定,原子炉設置の許可および核燃料物質使用の許可は,いずれもその施設の位置・構造・設備が災害の防止上障害がないとみとめられた者に対してなされるものであるが,その設備がどう運用されるか問題であり,規制法は,製錬事業については保安規定の認可,原子炉設置については主任技術者の選任と保安規定の認可をもつて安全の確保をはかつており,核燃料物質の使用者に対しては総理府令でさだめる技術上の基準の遵守を要求している。


目次へ          第1章 第2節(2)へ