第1章 開発態勢の整備
§1 機構と活動状況

1−2 日本原子力研究所

 特殊法人日本原子力研究所は31年6月その前身の財団法人原子力研究,所を再編して設立されたわが国の原子力開発の中心機関であつて,原子力の基礎応用研究,原子炉の設計・建設・運転,技術者の養成,アイソトープの生産等をその任務としており,所要資金の大部分を政府より供給されている。
 発足第2年度目の32年度は原子力研究所が確固たる礎を築いた年度といえよう。すなわち,東海研究所の第1期建設を達成し,その研究陣を東海村に移転させ,重要研究機器・施設を整備し,人員を増加して陣容をかため,その組織を再編して能率的な運営をはかつた。この間,わが国最初の原子炉JRR-1を完成し,また,東京にアイソトープ研修所を開設するなど,基礎固めの年度にふさわしい活動がおこなわれた。
 31年度は敷地が決定した直後のことでもあり,予算規模も少なく(建設費予算額約3億4,900万円,債務負担行為額約7億2,300万円)その建設も土地の造成からはじめなければならなかつたので,31年度末に完成したのはわずかにJRR-1建屋,フアンデグラフ建屋,倉庫の一部などで,ガス,水道,電気設備は仮工事ですませ,道路は松林をとりさつた程度であつた。
 32年度にいたり,建設費予算額は22億5,200万円,債務負担行為額5億2,000万円となり,32年9月までに東海村へ移転できる態勢をととのえることを目標として本格的な建設にのりだした。31年度に着工された諸建物すなわち,工作工場,研究第1棟,同第2棟,放射線照射室建屋,食堂を完成し,さらに新規工事として着手した事務本館,冶金特別研究室建屋を建設した。また,JRR-2建屋は32年8月に,化工特別研究室建屋,開発試験室建屋は33年1月に,廃棄物処理場建屋は同3月に着工し,工作工場の増築とともに目下工事進行中である。
 また研究所の電気,水道,ガス供給系統の本工事をおこない,ガス設備,浄水設備,変電所,ボイラー室を整備し,構内道路の舗装もすすみつつある。とくに研究所の用水については,恒久的設備として32年12月久慈川よりの取水工事(約7km)に着工した。
 一方,地盤,地下水,海流の調査,ボーリング,土地の精密測量を実施して,放射能をとりあつかう関係上貴重な建設の基礎データをえた。
 住宅の整備は所員がその研究に専心するために不可欠の条件であるのですみやかに充足をはかるよう心がけ,32年度には水戸および東海村に住宅,独身寮等130名分を建設し,さらに232名分を建設中である。なお,東京より東海村への移転をいそいだために,一時的な住宅の不足をまねき,その他厚生施設の整備もおくれていたので職員の間に住宅問題の至急解決を要求する声がおこつた。そこでこの問題について経営者,職員間の話合いがおこなわれた結果,早急に対策がとられ,年度末にはほぼ満足すべき状態となつた。
 年度当初,東海村にあつた研究部門はわずかにJRR-1,フアンデグラフ,保健物理の一部にすぎなかつたが,東海村の研究室がつぎつぎと完成していつたので,それまで東京の各所,すなわち,東京本部,科学研究所,東京大学,東京工業試験所その他に分散していた研究陣を11月から逐次移動させ,年度末までにはほぼ移転を終了し,はじめて本格的な研究の態勢がとられるにいたつた。
 予算の大部分をしめる研究費も31年度にくらべ飛躍的な増加をきたした。すなわち101頁の第2-3表のとおり試験研究費は16億6,500万円(別に負担行為額9億4,900万円)となり,他方,東海村の建屋建設が軌道にのり,出張研究の悩みを解決できるようになつたので,大きな設備の発注,据付をおこなうことができた。
 すなわち,JRR-1を完成し,重要な中性子源としてその照射実験,アイソトープの試験的生産の手段をうることとなつた。原子炉開発関係においては,天然ウラン・重水型の指数凾数実験装置を建設し,均質型増殖炉の臨界実験装置の建設に着手した。
 工学関係では一連の国産一号炉燃料要素試作設備を整備中であり,また,各種冷却材の熱除去試験用のループを製作中である。化学関係では質量分析装置,分光光度計,X線結晶構造解析装置,その他各種の分析測定機器を整備した。他方,放射線応用の関係ではC060 10,000Cをおさめる照射室を完成し,20MeVの直線加速器を発注した。保健物理関係では各種の放射線測定器,モニター類をそなえ,さらに放射線管理上重要な気象観測塔,モニタリング・ステーション,モニタリングカーを配備し,原子力研究にうれいないようにしている。このほか研究活動の活発化にともない放射性廃棄物を生ずるので,廃棄物貯蔵および処理施設の一部がつくられた。
 研究所の人員総数は31年度末290名で,そのうち研究関係者は98名であつたが,32年度中に大幅な増員がおこなわれ,32年度末で総員449名,うち研究関係者235名となつた。研究者は主として大学,官庁試験所等から集められ,優秀な中堅研究員を獲得した。一方,留学生約10名を海外に派遣して,この分野の技術の吸収をはかつた。
 前述のように研究所の整備,移転の実施,人員・施設の充実にともない,今まで暫定的であつた組織を半恒久的な体制に再編することとなつた。それまでは,事務部門が全体の構成上比較的大きな比重を占めていたが,32年度中に研究部門が大いに拡充された。前年度までは研究部門は原子炉開発,保健物理,第1基礎,第2基礎の4部から成つていたが,組織改正後は新たに原子力工学部をもうけ,基礎研究と原子炉開発部との中継的段階および工学に特有の問題をとりあつかうこととなり,金属,機械装置,計測制御,化学工学の各研究室から構成された。原子炉開発部はその性格をかえて,現業的な部分を独立分離し,JRR-1管理室,JRR-2建設室,動力炉準備室をおいた。また第1基礎,第2基礎はそれぞれ物理部,化学部として基礎研究にあたることとなり,また放射線応用部をもうけて,アイソトープの試験的生産,放射線応用の研究をおこなうこととなつた。


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