第1章 開発態勢の整備
§1 機構と活動状況

1−1 原子力委員会と原子力局

 原子力委員会設置の目的は,原子力基本法にしめされているように,原子力の研究,開発および利用に関する国の施策を計画的に遂行し,原子力行政の民主的運営をはかることにあり,原子力委員会は,この目的を達成しうる組織と権限をあたえられている。
 すなわち,原子力に関する重要問題は,すべてこの委員会で企画,審議,決定され,かつ,その決定は,内閣総理大臣が尊重しなければならないこととなつている。また,その庶務は原子力行政の実施機関としての科学技術庁原子力局が,かねておこなうこととなつており,実質的には,原子力委員会および原子力局は両者一体となつて,原子力施策を計画的かつ強力に推進することを可能としている。一方,委員会の構成は,科学技術庁長官である国務大臣と国会の同意をえて内閣総理大臣が任命する4人の委員からなるが,委員は,各分野を代表する者がえらばれて,原子力行政の民主的運営がはかられている。
 32年度における原子力委員会および原子力局のおもな足どりをたどると次の点があげられる。
 原子力委員会の重要な任務の一つとして,原子力開発の計画をあきらかにし,これを基軸として原子力施策を推進すべきことがあげられる。各年度の計画は,31年度にひきつづき,32年5月,32年度計画を,33年4月,33年度計画を決定したが,31年9月暫定的にさだめられた長期計画の一環として「発電用原子炉開発のための長期計画」を32年12月に決定し,50年度にいたる間の発電用原子炉開発の方向をあきらかにしたことは,特記すべきことであろう。
 わが国の原子力開発は原子力基本法にもあきらかなごとく,国際協力のもとにすすめられなければならない。原子力開発の分野における国際協力の増進は,32年度における原子力委員会の活動において重点のおかれたところであり,32年4月,原子力に関する対外措置を決定し,国際原子力機関の発足に協力し,米英と原子力一般協定の締結の交渉にはいるための準備をすすめることなどをきめたが,その後この方針を強力に推進し,国際原子力機関は,32年7月発足してわが国もこれに参加し,米英との原子力一般協定は,33年6月調印をみた。
 次に実用規模発電炉の導入は,その時期,受入機構,型式等につき,大いに議論がたたかわされた問題であつたが,委員会では,あらゆる角度から慎重検討の末,電力その他関係業界の協力をえて民間会社を設立し,その会社によつて,実用段階にたつした発電用原子炉をできるだけすみやかに海外から導入することを32年8月決定し,日本原子力発電株式会社の設立をみることとなつた。同会社の訪英調査団もすでに帰国し,導入のための準備がすすめられているが,原子力委員会および原子力局では,同発電炉の安全性を中心に予備的検討を開始している。
 また33年度原子力予算については,32年度夏以来検討を開始し,関係各方面の意見を徴しつつ,予算案作成の準備を進め,審議をかさねて原子力関係経費の見積および配分計画をさだめた。
 以上のほか,核融合反応に関する研究の推進,あるいは放射線障害防止の技術的基準に関する法律案等の企画,審議,決定がおこなわれたのである。
 なお,原子力開発の発展につれて,原子力行政の事務量が増大し,原子力行政機構も強化された。原子力委員会の参与も32年度に10人増加されて25人となり,専門委員の定数も32年度は20人増加して50人になり,33年度は150人に増加した。
 これにともない,原子力委員会の専門部会として32年度においては動力炉,放射能調査,原子燃料,原子力船,原子炉安全の5部会がもうけられていたが,33年度には原子炉安全審査,原子炉安全基準,核融合,重水,金属材料,核燃料,核燃料経済,原子力船,放射能調査の9部会に拡大されて活動しており,原子力委員会の調査審議機能は,いちじるしく強化されることとなつた。


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