原子力開発利用基本計画

1.原子力開発利用長期基本計画

(昭和31年9月6日内定)
 原子力委員会

(1)目的
 わが国における原子力の研究,開発および利用について,長期にわたる基本的かつ総合的な目標,方針等を設定することにより,原子力の平和利用を計画的かつ効率的に推進することを目的とする。

(2)前提条件
(a)原子燃料については,国際管理機構の確立等により輸入は順次緩和されるものとする。
(b)原子炉用材料およびその原料の購入並びにこれらの生産技術の導入についても,その制約は順次緩和されるものとする。
(c)エネルギー需給の見とおしについては,経済企画庁,通商産業省公益事業局および資源調査会が作成したエネルギー需給の想定資料を参者とするものとする。

(3)開発の目標
 原子力の研究,および利用は,わが国のエネルギー需給の問題を解決するのみでなく,産業の急速な進展を可能にし,学術の進歩と国民の福祉の増進をもたらすものであることにかんがみ,すみやかにその実用化を図り,特にわが国情に最も適合する型式の動力炉を国産化することを目標とする。このため基礎研究に力を注ぐとともに,関連技術を育成し,原子力工業の基盤の確立に努める。

(4)方針
① 原子力の研究,開発および利用を進めるにあたつては,動力としての利用面と放射線の利用面とを平行的に促進するものとする。
② 本計画の期間は一応動力炉を国産化する時期を目標とするが,すみやかにこの目標時期に到達するため,当初の間は外国技術の導入を積極的に行うこととし,このため海外諸国との協力を緊密にすることは勿論,国際管理機構,地域開発機構等との連けい協力を密にすることとする。
③ 今後における原子力開発の基本は,原子燃料の供給態勢如何によることが大であるので,すみやかにその態勢を確立するよう努力するものとする。
④ 原子燃料は,極カ国内資源に依存し,その開発を促進することとするが,やむを得ない場合には不足分を輸入することとする。この場合にも,できる限り製錬加工は国内で行うこととする。
⑤ 燃料要素の再処理については,極カ国内技術によることとし,原子燃料公社をして集中的に実施せしめる。
⑥ 原子炉に関する研究は,日本原子力研究所を中心として行い,その研究施設は関係研究者に開放することとし,原子炉の建設は当分の間同研究所に集中するものとする。
⑦ わが国における将来の原子力の研究,開発および利用については,主として原子燃料資源の有効利用の面から見て,増殖型動力炉がわが国の国情に最も適合すると考えられるので,その国産に目標を置くものとする。
⑧ 動力炉に関する技術の吸収向上,原子力発電の諸条件の検討等の目的のため,相当規模の動力炉数基をできるだけすみやかに海外に発注する。
⑨ わが国の電力事情から見て,国産による増殖動力炉の完成以前に,相当数の動力炉が輸入され,または国産されることが予想されるが,この場合には⑧の動力炉の運転成果を十分活用するものとする。
⑩ 船舶用原子炉については,わが国における造船および海運の重要性と世界の趨勢とにかんがみ,なるべくすみやかに実用化のための試作に着手することを目標として研究の推進を図るものとする。
⑪ 発電用および船舶用以外の動力への原子力の利用については,現状においてはその将来を十分予測できないので今後の諸外国における研究の進展に応じてあらためて考慮する。
⑫ 工業用または医療用の原子炉については,その将来性にかんがみ研究を進めるものとする。
⑬ 大学における研究教育用の原子炉については,わが国における原子力の研究の進展に応じてその設置を考慮するものとする。
⑭ 原子燃料の効率的な利用と原子炉の集中とにより原子力の研究および開発の急速な進展を期するとともに,これらに伴う危害および障害の防止を図るため,原子炉等の管理に関する法律(仮称)を制定するものとする。
⑮ 放射線の利用については,その応用範囲が広はんであり,科学技術の振興,経済の発展等に及ぼす影響が大きいので,極力民間,公立,国立の試験研究機関における研究の促進およびその成果の普及を図るものとする。
⑯ アイソトープの利用の促進にあたつては,まずその供給を確保する必要があるのですみやかに国産への移行を図り,わが国においてアイソトープの自給が可能となるよう配慮するものとする。
⑰ 原子力関連技術については,原子炉およびその必要資材を国産するため),またその技術の開発が広く科学技術一般の水準の向上と新産業の開拓を招くことにかんがみ,極力その育成に努める。
⑱ 原子燃料の有効利用等の見地からウラン,トリウムおよびプルトニウムについて十分な基礎研究を行うこととする。
⑲ 将来予想される濃縮ウランの需要に備え,ウラン濃縮の基礎研究の推進を図るものとする。
⑳ 核融合については,情報の収集に努力し,調査を進めるものとするが,研究の進展に応じてあらためて施策を講ずる。
(21) 原子力に関する基礎研究については,大学における研究を促進し,これと緊密に提携して研究成果の交流等にも意を用いることとする。
(22) 原子力の研究,開発および利用にあたつては,科学技術者の養成が不可欠であることにかんがみ,基礎部門および応用部門の各分野においてその養成訓練を図るものとし,とりあえず科学技術渚の再教育に重点を置くが,恒久的な方策としては大学における教育の充実に努めることとする。
(23) 原子力の研究,開発および利用の進展に伴い,放射線障害の防止に万全を期するためすみやかに放射線障害防止法(仮称)を制定し,あわせて国立の放射線医学総合研究所(仮称)を設置するものとする。
(24) 上記の方針に従い,今後緩急に応じて逐次事項別の年次計画を策定し,本計画の具体化を図るものとする。
(25) 本計画は,今後における原子力の研究,開発および利用の進展状況等を勘案して,必要に応じ修正するものとする。

(5)計画の内容

(a)原子燃料の供給計画
(イ)基本的な考え方

(ロ)計画の内容

(b)原子炉の建設計画
(イ)基本的な考え方

(ロ)計画の内容

(c)アイソトープおよび高エネルギー放射線の利用の研究の促進
(イ)基本的な考え方

(ロ)計画の内容

(d)日本原子力研究所の業務計画
(イ)基本的な考え方

(ロ)実験研究の重点
 日本原子力研究所において実施する主要な実験研究は,次のとおりとする。
(ハ)実験研究用の原子炉
 原子炉開発の将来の目標は,増殖動力炉の国産化にあり,このため下記の研究用原子炉および実験炉を設置して国内技術の培養を図るものとする。
(ニ)輸入動力炉
(ホ)放射線の利用の研究

(e)原子燃料公社の業務計画
(イ)基本的な考え方

(ロ)核原料資源の精査
(ハ)採鉱
(ニ)核原料物質または粗製核燃料物質の買上等
(ホ)製錬
(ヘ)燃料要素の加工
(ト)燃料要素の再処理および廃棄物の分離処理

(f)関連技術の育成計画
(イ)基本的な考え方

(ロ)技術育成計画の内容

(g)放射線による障害の防止
 わが国の原子力の研究,開発および利用の進展に伴い留意すべき放射線障害の防止については,原子炉等の管理に関する法津(仮称)および放射線障害防止法(仮称)をすみやかに制定し,原子炉,放射性物質,放射線発生装置等に関する規制を行い,また,これらに伴う保安上および保健上の措置を講ずるものとする。これと平行してわが国の自然放射能を総合的に調査し放射線の障害防止に資するものとする。また,国立の放射線医学総合研究所(仮称)を設置し,放射線障害に関する基礎および応用の研究を行い,あわせて放射線の医学への利用の研究ならびに放射線に関する医師および技術者の養成を行うものとする。

(h)科学技術者の養成訓練計画
 原子力の研究,開発および利用にあたつては,その分野が全く新しいものであるので,とりあえず各分野における専門技術者の再教育に重点を置くものとし,原子炉物理,原子炉化学,保健物理,熱伝導,計測制御,炉材料,機械装置,核原料物質の選鉱および製錬,燃料要素の加工,燃料要素の再処理および廃棄物の分離処理の各部門,応用面としてのアイソトープの利用,動力への利用,放射線障害防止等の部門に分けて,それぞれ養成訓練を行うこととする。
 このためさしあたりは海外に留学生を派遣することとするが,国内における設備の完成に伴い,国内における訓練に逐次重点を指向するものとする。なお,日本原子力研究所においても科学技術者の養成訓練等を行う施策を講ずる。関連産業における枝術者の育成については,上記の施策によるほか国の補助金の交付等による試験研究の推進にあたつて関連産業内においてこれを行うことをあわせて考慮する。


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