第6章 放射能調査
§3 32年度における放射能調査

3−1 放射能調査の推進

 前述の原子力委員会の申し合せに従い,原子力局においては,32年度より放射能調査の総合推進を図るべく関係各省庁機関の協力を求め常時観測網の確立を目途として,32年度放射能調査計画を立案し,その予算は原子力局において一括計上することにし,この放射能調査計画に基き,目下関係各機関で調査を実施中である。
 さらに本年当初より始まつた英国のクリスマス島の水爆実験,米・国のネバダにおけゐ実験等によつてますますとの科学的総合調査の重要性が加わつてきたので原子力委員会に放射能調査専門部会を,また科学技術庁に放射能調査各省連絡会を設け,組織的な放射能調査の推進をはかることとした。
 なお放射能の調査に使用された従来の年次別の経費はおおむね(第6-1表)のとおりである。

3−2 32年度放射能調査実施要領

 この調査の目的は,わが国の原子力平和利用の推進を図るためにわが国の放射能の分布,生活環境の汚染度等につき放射能レベルを調査し,もつて将来の原子力時代に備え,放射能による汚染を防止し,国民生活への影響を最小限ならしめるための基礎資料とするものである。
 調査対象として,大気放射能(浮遊塵埃,落下塵埃,降雨降雪等),地表放射能(上下水,食品,土壌,農作物等),海洋放射能(海水,海底沈澱物,海洋生物等),自然放射能(大気,水中のラドン,トロン等,空気中の宇宙線特に中性子中間子等),特殊地点の放射能(東海村周辺,東京湾),人畜の放射能が調査の対象に挙げられている。
 この調査では,従来より各機関が行つてきたC.P.M.単位の測定方法の向上とその方法の統一を図ることおよびその放射性物質の元素分析(例えばSr90Cs137の分析)を行ろことに重点をおいている。
 大気放射能についでは,気象庁がこの業務を担当し,一般観測として札幌,仙台,東京,大阪,福岡の各管区気象台および中央(気象庁本庁)で浮遊塵埃,落下塵埃,降雨降雪の定時定量の測定を行い,これを気象研究所に送付して元素分析を実施する。簡易観測として稚内,釧路,秋田,輪島,八丈島,米子,室戸岬,鹿児島,鳥島の気象官署もこれに参加することになつている。また上層大気の放射能調査として気球(γゾンデ),飛行機による観測を行い,飛行機観測により得た試料はこれを気象研究所で分析を行うのである。
 海洋放射能については,海上保安庁,気象庁海洋気象部等がこの業務を担当し,日本における定点について海水を年2回以上測定調査し,必要に応じ気象研究所等で元素分析を行う。海洋生物海底沈澱物については,東海区水産研究所が中心となつて,日本近海の重要な4定線(房総半島沖,金華山沖,新潟沖,大瀬崎沖)についてサンプルの採取を各海区水産研究所が行い,これを測定して,必要な分析は東海区水産研究所が実施する。
 地表放射能については,上下水(井戸水,天水,河川水,水道水,下水等)および食品を全国6ケ所の地方庁衛生研究所において調査し,これの元素分析は放射線医学総合研究所の施設の完備するまでの期間を国立衛生試験所で行う。また農作物及び土壌については,農業技術研究所が中心となつてその試料(米,麦,野菜,茶,牛乳,飼料作物,土壌等)の分析を担当し,各地域農業試験場がその試料の採取及び測定を行い,これに協力する。
 自然放射能では宇宙線の測定を科学研究所が担当し,東京および乗鞍山上で主として中性子,中間子の測定を実施する。
 特殊地点としては,東海村周辺を日本原子力研究所が担当し,本年は原子炉を中心として半径7粁の地域の大気,地表,海洋の放射能を調査し,東京湾を東海区水産研究所が年2回,東京湾から相模湾に及ぶ海域における海水,海洋生物,海底沈澱物の放射能の測定および分析を行う。
 人畜の放射能に関しては,人体および家畜の各臓器,血液,排泄物,骨について前者を放射線医学総合研究所が,後者を家畜衛生試験場が担当し,その測定および分析を実施する。


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