第4章 核燃料の開発
§5 核燃料の製錬計画

5−1 原子燃料公社の製錬計画

 原子燃料公社は,35年度末に完成予定の国産第1号原子炉に必要た天然ウランの供給を当面の目標として,32年度にウラン製錬の試験操業を行う方針をたてた。
 しかし,ウラン製錬については,外国文献によりかなり発表されているが,実際の技術的条件や施設建設の仕様は十分わかつていないので,慎重に検討した上,具体的な計画を定めることにしている。その基本的な考え方としては,ウラン製錬の4工程,すなわち,(1)ウラン鉱石の選鉱抽出工程,(ii)高純度ウラン化合物をつくる精製工程,(iii)金属ウランをつくる還元工程,(iv)金属ウランの熔解造塊工程のうち,まず精鉱を原料とし,金属ウランを作る精製,還元,熔解造塊の3工程の諸施設を32年度内に建設し,試業操業を行うとともに,つづいて国内ウラン鉱の選鉱抽出工程設備を完成する予定である。
 31年度では,鉱石の分析能力を強化するほか,他機関で開発中の製鉱に関する研究に協力する一方,製錬パイロツトプラントの資料調査を行うこととし,32年度製錬関係予算として2億2,299万5,000円を計上した。
 その内訳は次のとおりである。

 なお,この予算に計上したとおり,製錬パイロットの試験操業む行うため,32年度中には海外からウラン精鉱を輸入する必要がある。

5−2 試験工場のウラン製錬方式

 第3章で述べたように,ウラン製錬に関する研究は,低品位ウラン鉱から乾式によるウラン精鉱法の研究,国内産ウラン鉱石の選鉱・製錬,熔融塩電解によるウラン精錬に関する研究,ウランのカルシウム還元に関する研究が行われている。これらの研究はまだ完了していないので直ちに製錬方式としてパイロツトプラントを建設することができない状況である。
 従来,ウラン製錬技術については,秘密にされていたので情報の入手は困難であつたが,31年末米,英,加三国が大幅な原子力情報の機密を解除をしてから製錬施設の一部視察も可能になつた。
 そこで金属ウラン生産を担当する原子燃料公社としては,海外のウラン製錬技術を実地に調査した上,国内で育成されつつある研究成果を勘案してウラン製錬方式を定め,必要な技術は海外から導入することが考慮されている。

5−3 海外ウラン入手への努カ

 国内のウラン鉱床の調査は着々と実施されつつあるが,今後の原子力発電の進捗等を考慮するとウランの需要は莫大なものとなり,国内資源の開発のみをもつてこの需要を十分に満し得るものとは考えられない。
 したがつて政府としても,海外ウランの入手について関心を持ち,対策を講じてきた。
 現在ウラン鉱の主要生産国としては,米国,カナダ,南阿連邦,ベルギー領コンゴ,ソ連等が挙げられるが,ウラン鉱は各国ともに政府の管理下にあり,自由に入手することはできない。
 カナダは大量の埋蔵量むもち,開発を促進しているので,現在は生産量のほとんど全部を米国と英国に売却しているが,近い将来に他の国への輸出余力を持つようになるものと予想されている。したがつて政府では,訪英原子力調査団の英国における調査の終了後カナダを訪問し,ウラン精鉱の対日輸出の可能性につき打診させた。その結果これに対して好意的な明るい見通しが与えられた。
 さらにまたわが国としては,国際原子力機関の成立に対しては当初から積極的にこれに参加することを表明してきたがその他に,東南アジア方面にもウラン資源の存在が予想されるので31年末には調査員を派遣して,タイ国の事情を調査せしめた。


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