第4章 核燃料の開発
§3 原子燃料公社の探査

 公社においては,地質調査所が実施する基礎的な調査と並行して,35年度に完成が予定されている国産第1号原子炉に,国産天然ウランが供給できるよう努力することを目標として,ウラン鉱の探鉱,開発および核原料の生産を行うこととし,31年度はとくにウラン鉱探鉱に重点をおいて,事業を開始した。
 公社の行う探鉱は,地質調査所と緊密な連けいを保ちつつ,地質調査所の基礎的調査の結果,企業化調査の必要が認められた地域に対して,さらに詳細な探鉱,すなわち,鉱床精査,物理および化学探鉱等の地表探鉱により,鉱床の水平的分布を探査する一方,試錐および坑道探鉱により,鉱床の下部探鉱を行い,鉱床の分布,地下への広がりおよび鉱石の賦存状況,品位ならびに鉱量等を確認し,企業価値の判定を行うとともに,鉱床の開発方針樹立に努めることとしている。
 31年においては,地質調査所が29,30年度にわたつて実施した基礎調査の結果,鉱脈型鉱床と確認され,有望と認められた鳥取県倉吉鉱山(旧小鴨鉱山およびその附近の地点を合む)および岡山県三吉鉱山ならびにわが国において初めて発見された水成鉱床であつて有望と認められた鳥取,岡山県境人形峠鉱山に重点をおいて探鉱を開姶し,32年度にはさらに探鉱を継続拡大する一方,探欽が進捗して開発価値が認められた地区については,租鉱権または鉱業権を設定し,開発に必要な諸施設を整備して,採鉱に着手する準備を整えることとし,まず31年9月初旬から探鉱の準備に入り,倉吉,三吉および人形峠鉱山の鉱床精査に着手した。
 これら事業のための実行予算は次のとおりである。

3−1 地区別探鉱状況および成果

 ((第4-2図〜第4-5図参照))

3-1-1倉吉鉱山
 ((第4-4図参照))
 本鉱山については,30年7月,歩谷鉱床(旧小鴨金山,金含有最高20g/t)において,ウラン鉱を合有する硫化鉱物を産出することが,民間の一探鉱家によつて報告された。その後,地質調査所により,詳細な地質調査と放射能測定を主とする調査が行われた。
 本鉱山は,倉吉市(山陰線上井駅南西方3km)南方4〜8km,小鴨川,竹田川の両流域にまたがり,標高300〜600mの山岳地帯にある。
 地質は主として粗粒黒雲母花崗岩と,これを貫く安山岩,半花崗岩,ペグマタイト等から成つている。
 鉱床は,黒雲母花崗岩を母岩とする熱水性のウラン鉱床および鉱染鉱床であつて,本地区ウラン鉱床発見の端緒となつた旧小鴨鉱山を含む歩谷(あるきだに)地区のほか,円谷(えんだに),よころ谷および広瀬の諸地区がある。これらの諸鉱床を合む東北東方向の長さ約3,000m,幅約700mの地帯は,ウラン鉱床の胚胎が期待される有望鉱化帯として,今後多角的な探鉱作業を実施する価値が認められている。
 ウラン鉱物としては,燐銅ウラン鉱,燐灰ウラン鉱等の二次鉱物のほか,最近,旧小鴨金山坑内で探取された鉱石が,コフイナイト(Coffinite)であることがほぼ確実となり,本地区において,初めて待望の初生ウラン鉱物が発見されるに至つた。各地区の状況は次のとおりである。
 i) 歩谷地区
 公社は,旧金山本脈の下部探鉱に重点をおき,あわせて,平行脈の調査のため試錐(6本,総廷長675m)およびトレンチを実施し平行脈の存在と連続性を確認した。これらの諸調査の結果下部探鉱の必要が認められたので,予定立入坑道270mを推進することとし,31年度においてはこのうち40mを推進した。
 ii) よころ谷地区
 公社の事業開始とともに露頭から坑道探鉱に着手し,150mを達成して,坑内2カ所において不規則塊状鉱染鉱床七確認した。部分的に相当多量の燐銅ウラン鉱,燐灰ウラン鉱を含むもの,花崗岩との境が漸移ではあるが急変するもの等きわめて不規則な形態を示している。これと並行して,鉱床下部の探鉱を試錐(4本総延長148m)により実施し,類似鉱体を確認した。
 他方,既知鉱床を含む広面積にわたり,電気探鉱およびトレンチを実施し,若干の新鉱床の存在を知ることができた。
 以上の探鉱の結果,今後は試錐に重点をおくことが適当であるという結論を得た。
 iii) 円谷地区
31年7月,地質調査所の調査により露頭が発見された鉱床で,輝水鉛鉱石英脈中にウランを含むものであつて,卜レンチを実施した結果,露頭延長約500mを確認した。さらに試錐(2本,140m)により,鉱床の下部探鉱を行つた結果,露頭地並下50mにおいて,優勢な鉱脈を確認した。
 また,露頭部から■押探鉱100mを推進した結果,鉱床は石英粘土脈で数条の支脈を分岐し,その地点は富鉱部となつており,絹雲母化作用が顕著である。また,硫化鉱物の多い黒色の石英脈および黒色の粘土脈はウラン含有率が高いことが判明した。円谷鉱床は,倉吉鉱山の鉱床中鉱脈の規模ならびに品位ともに最も優勢であつて,今後の重点は本地区に指向する必要が認められる。

3-1-2  人形峠鉱山
((第4-3図参照))人形峠は,鳥取・岡山県境にあつて,中国背梁山脈の分水嶺をなし,海抜735mの高所にある鳥取県倉吉市と岡山県津山市を結ぶバス道路がこの峠を縦走し,冬期を除き交通の便がよい。
 鉱床の分布地帯一帯はいわゆる中国準平原に含まれ,,丘陵性のゆるやかな地形を示し,基盤は,黒雲母花崗岩〜含角閃石・黒雲母花崗岩からなつており,

 人形峠層と称する第三紀の含ウラン淡水性堆積層がこれをおおつて,ほとんど水平に堆積している。本層は,人形峠をほぼ西縁として,東方岡山県側に広くつらなり,現在までの調査では,岡山県下赤和瀬部落の東側丘陵まで,東西の廷長約3kmの間,鉱床を確認している。さらに東方の恩原貯水池の周辺にも,本層に対比される第三紀層が分布しているので,鉱床はさらに拡大される可能性がある。
 本層は,下部から基底礫岩層,頁岩,砂岩の縞状互層からなり,その上を高清水層と称する火山礫岩,凝灰質塊状泥岩等の不規則互層から成る地層が被覆している。
 ウラン鉱は,主に人形峠層の礫岩層に集中して含有され,頁岩,砂岩の縞状互層の部分では,ウランの含有は急激に低下する。礫岩層の厚さは平均1.5〜2.Omである。ウラン鉱物としては,燐灰ウラン鉱を主とし,黒色ウラン鉱物も産する。
 本地区の探鉱はまず県境地区から着手し,当初,トレンチおよびピット等によつて地表探査を進めさらに試錐(4本,170m)を行つた結果,鉱床の分布拡大が認められた。また坑道探鉱は,4坑口により,合計500m推進し,さらに32年度において引き続き継続して推進しており,鉱床の実態は逐次判明しつつある。すなわち,二次鉱物である燐灰ウラン鉱からなる富鉱部の賦存状況および規模を知ることができる。
 本鉱床は,国産ウラン資源として,大規模のものであることが漸次明らかとなりつつあるが,本地区については,さらに隣接の夜次,赤和瀬および恩原地区鉱床の実態を把握し,総合的な開発計画が樹立できるよう今後大規模な探欽を早急に実施する必要が認められる。

3-1-3  三吉鉱山((第4-5図参照))
 本鉱山は,大正年間からクングステン鉱山として,小規模に断続的に稼行されていたもので,第二次大戦後選鉱場を建設して採鉱に着手したが,ほとんど出鉱することなく休山した。29年8月,岡山大学によつて砒銅ウラン鉱が発見され,本邦において最初に発見された鉱脈型ウラン鉱床として,世間の注目をあび,地質調査所が地表調査を行つた。
 本鉱山は,倉敷市の北方2.5kmの地点に位置し,附近の地形は一般に低く,海抜100〜130m程度の丘陵性山地である。
 附近の地質は,主に黒雲母花崗岩からなり,北方にはこれに接触して古生層が分布する。
 鉱床は,花崗岩の周縁部に発達する気成石英脈群で,一般に走向北1O0〜30°西,東70°〜800の傾斜を示す。脈幅は一般に0.1〜0.2m,砒銅ウラン鉱は,鉱脈およびグライゼンの割目に沿つて産するが,その量は少ない。
 探鉱は,坑道および試錐探鉱を主とし,随時鉱区内外の地表調査を実施し忙いる。
 坑道探鉱は,110m実施したが,目下ウランのあり方について検討中である。また試錐探鉱は,さらに別の地点の下部探鉱を目的として3本(205m)を掘さくし,いずれも着脈した。今後は,とくにこの地点の下部について,坑道探鉱を実施する必要が認められる。

3−2 作業別探鉱実績総括

 なお,原子燃料公社が31年度にウラン,トリウム鉱の試掘出願した鉱区数は次表のどおり72鉱区に及んでいる。


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