第4章 核燃料の開発
§2 地質調査所の探査

2−1 核原料資源の調査計画

 地質調査所で行う国内ウラン資源の開発のため基礎調査の予算は次のごとくであつた。

 29年度は地質調査所は準備段階としてペグマタイト鉱床に伴う放射性鉱物を対象として調査を開始し,一方このほかに諸外国鉱床の例から地質学的にウラン鉱等の存在の可能性のある地点の選定に意を用い,その一部の探査を実施した。
 30年度においては繰越分,追加分を加えて,約3,199万円をもつて調査と並行して試験装置の整備に努め,とくに分析施設については保安上の見地から慎重に設計され,30年度末に一部の完成を見た。また前年度の継続調査と,さらに地質鉱床学的見地から未知の型の鉱床発見に努め,中国地方に小鴨鉱山(鳥取県)・人形峠(鳥取・岡山両県)・三吉鉱山(岡山県)等でウラン鉱の発見がなされ,地質調査が行われた。この間にエアボーン調査およびカーボーン調査も一部試験的に実施されている。
 31年度においては本格的な調査段階に入る年として調査計画を検討し,次表に示す3ヵ年計画を立案し,その第1年度として,当初1憶円の予算が計上された。

 この計画は当時の状況から推定した調査対象地域約8万km2の面積に対してエアボーン,カーボーンおよび地表調査を実施するものであり,もつとも可能性のある花崗岩を主とする酸性迸入岩体とその周辺部および一部水成岩地帯を対象として取り上げたもので,これらに対して放射能強度分布調査,放射能異常地点発見,放射能異常地点の地質調査等を実施するとともに,これらの実施のための調査用および室内試験用機器の整備を行うことを内容とした計画である。

2−2 調査方法の確立

 ウラン鉱床調査は放射能測定器(ガイガーカウンタ,シンチレーションカウンタ等)によらなければならない。とくにわが国の核原料物質としては,ペグマタイト鉱床に伴うもの以外はほとんど知られていなかつたために,ますその調査方法の検討に重点をおき,ペグマタイト鉱床に伴う放射性鉱物を対象として,カウンタ類の使用法,各地点における測定値の比較,自然放射能測定値と異常値の比較など,全くの初歩的なものから出発せざるを得なかつた。したがつて当初は調査方法の確立を第一の目標とし29年度を経過するとともに,次いで調査用機器の整備,室内試験用機器の整備とともに,調査地域の拡大を目ざして探査を実施した。
 調査方法とくにエアボーン調査およびカーボーン調査など外国に広く行われている方法をわが国の地形を考慮して採用し,30年度中に中国山脈の花崗岩地帯を試験地域としてテストを実施し,鳥取県において約20時間の飛行をし,また人形峠周辺についてカーボーンを行つた。このテスト中に人形峠鉱床が発見された。
 かくして,31年度から本格的な調査を実施できるような計画を立て,その第一年度の計画を実施した。
 31年は前記3カ年計画の初年度としてとくに核原料資源調査を専任とする核原料資源課が新設され,15名の増員がなされた。他の各部課も以前ど同様資源調査に参加して目標達成に努力しているが,これらめほかに各大学および通産局の職員も兼務となつてこの調査に参加し,その要員は31年現在専任で参加している25名を合めて108名となつている。
 i) 放射能強度分布調査 
 とれは飛行機おるいはジープなどで相当広範囲に放射能強度の調査を行うことを主とするほか,飛行機やジープには不適当な山岳地形の地帯には直接,人による調査を行う。人員編成はエアボーンは5名を一班とし,飛行機に高性能のシンチレーションカウンタや附属装置をけい載し,高度平均200mを格子線状に飛んで強度分布を調べる。カーボーンは5名を一班としてジープにシンチレーションカウンタを積んで,ジープの走り得るあらゆる道路を組織的に走つて,強度分布を調べる。山岳地帯の人によるものは大体2名を一班として,人夫を必要数もつて行う。
 ii) 放射能異常地調査
 強度分布調査の結果異常を認めた場合にはカーボーンによつてさらにその周辺を調査するが,直接人によつて異常地点の確認とその分布範囲などを調べる。
 iii) 鉱床調査 
(ii)によつて相当強度の異常地点を確認した場合にはこの地点を中心にして試料の採取,鉱床の胚胎状況等を主として測量を伴う調査を行い,さらに必要と認めたときは地質構造や鉱床分布状況調査のため試錐あるいは物理探鉱,化学探鉱などを併用する。この場合には直接鉱床調査を行うもの2〜3名,測量2名,試錐2名,物理探鉱4名,化学探鉱2名,人夫必要数が参加して実施する。
 iv) 室内試験
(ii)〜(iii),とくに(iii)によつて野外調査の多くのデータを得て,試料を中心として鉱物分離,鉱物鑑定などを行うと同時に化学分析を実施する。またこれらと並行してウラン鉱物の成因などの研究的な業務も実施する。

2−3 調査成果の概要

((第4-1図参照))地質調査所の調査が本格的になつたのは31年度からであつて,調査の成果が現われ始めたのは30年度末頃からであつた,29,30年および31年度までに得られた成果の概要は次のとおりである。
 わが国のウラン鉱床は大別して次の三つに分けられる。

(A) この型のものは,わが国の花崗岩地帯中のペグマタイト地域に多く存在しているもので,地質調査所が29,30両年度主力を注いだのはとの型の鉱床で (a)福島県水晶山地域,(b)同県石川町地域および(C)岐阜県苗木町地域である。
(a) 水晶山地域では鉱物としては,トロゴム石(Thorogummite)フエルグソン石(Fergusonite)(以上は肉眼的にも見える),閃ウラン鉱(Uraninite),褐簾石(Allanite),阿武隈石,ゼノタイムその他が含まれているが,いずれも局部的に不規則に含まれているので量的な比率算定は困難である。
(b) 石川町地域では鉱物としてはジルコン(Zircon),褐簾石,フェルグンン石, サマルスク石(Samarskite),モナズ石(Monazite),燐灰ウラン鉱(Autunite),燐銅ウラン鉱(Torbernite)などであるがこれらも水晶山地域と同様に不規則に含まれているので量的な比率算定は困難である。
(C) 苗木町地域では,花崗岩およびペグマクイト鉱床に由来したいわゆる砂鉱床で,全地区の第4紀層の砂礫中に胚胎している。鉱物は,多種多様であるが主なものはモナズ石,恵那石で他のものは微量である。品位は原鉱で,0.001〜0.003%Uを示し,水ヒ精鉱品位は0.03%U程度を合む。鉱物はウランよりむしろトリウムが多い傾向がある。
(B)との型の鉱床は従来全く知られていなかつたもので,とれの発見は今後のウラン鉱床の探査にきわめてよい手懸りを与え,国内ウラン資源に対する従来の考え方を一変せしめる材料となつている。
 小鴨鉱山(情報による,鳥取県倉吉市)および三吉鉱山(岡山大学による,岡山県倉敷市)はいずれもこのB型の鉱床発見の初めのもので,地質調査所が30年度,31年度上半期に集中的に調査を実施し,さらに31年8月原子燃料公社の企業化調査の対象となつたものである。(詳細,公社記事参照)その他山宝鉱山(岡山県川上郡)の銅・螢石の脈に伴うもの,祖生鉱山(山口県玖珂郡)のモリブデン鉱床に伴うものたどの発見があつた。さらにとくに31年末には松岩鉱山(含銅硫砒鉄鉱を稼行中,官城県気仙沼市)に高放射能鉱物の発見があり,その後鉱物は閃ウラン鉱なるととが判明した。との事実はさらに東北地方とくに北上山地一帯に相当な期待をかけられるととになり,直ちにエアボーン探査を実施し,さらにカーボーンを実施した結果放射能異常2〜3地区を発見した。松岩鉱山については,採取された試料の一部によれげ0.16%U・0.11%U(隆盛坑),1.41%U・0.067%U(前田坑)を示すものがあつた。との地区についてはさらに32年度には詳細な調査が行われる予定である。

 そのほか岡山県笠岡北東方地域の金属鉱山で新美川鉱山および八代鉱山の一部に高放射能鉱物を認め,また島根県小馬木鉱山(モリブデン鉱山)でも選鉱尾鉱中に閃ウラン鉱を発見,山口県西宇部栄和鉱山(タングステン鉱山)でも放射性泡蒼鉛鉱を確認している。
(C) この型の鉱床もBと同様全くわが国には知られなかつた鉱床で,30年11月地質調査所カーボーン班が岡山,鳥取県境附近(人形峠と命名した)を進行中に,道路に沿う切通しの部分で著しい高放射能異常を発見して以来鋭意探鉱を推進して,平均0.05〜0.06%Uの品位の含ウラン成層鉱床(厚さ1.9〜3.8mの礫岩・砂岩の互層)がさらに東方に拡大分布しており,わが国で鉱量のまとまつた唯一の鉱席であることが認められた。この地区についてはすでに31年10月から人形峠を中心として原子燃料公社が坑道探拡を実施して,さらに詳細な資料が得られている。((詳細は公社記事参照)
 これらのほかエアボーンおよびカーボーン調査による異常地区の発見があり,いずれも32年度に引き続き地表調査を予定している地区が多い。
 このようにして,31年度までに発見された放射能異常地の数は予想外に多くあり,さらに32年度以降も探査地域を拡大して組織的探査を計画している。


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