第3章 原子力技術の開発
§1 概説

 もともと原子力技術は米英等の先進国において軍事目的をもつて厳重な国家管理,のもとに集中的に育成されたものでおるが,30年8月ジュネーブで開催された原子力平和利用国際会議を契機として原子力開発利用の技術は逐次公開されるに至つた。現在,米国原子力委員会または英国原子力公社は,原子力技術を民間企業に開放し原子力の平和利用を推進しており,その規模の雄大さは原子力発電に端的にあらわれている。
 わが国の原子力の開発利用は,29年度からスタートしたのでおるが,著しく立ち遅れているわが国としては当初は調査の段階に過ぎなかつた。しかしその後研究開発態勢の整備,海外技術情報の入手と相まつて原子力技術が育成されるようになりつつある。
 わが国の原子力平和利用の開発については,研究炉,動力炉等がわが国の技術と資材によつて建設運転され,一万国内で製造されたアイソトープが各分野に利用され効果を挙げることが一応の目標であるといえる。
 このような情勢をできるだけ早く,しかも堅実に作り出すために,研究開発の中心的機関として日本原子力研究所,原子燃料公社が設立された。
 日本原子力研究所は,他の研究機関または企業で保有するのに適しない研究炉や特徴のある実験設備を整備し,原子力の研究開発を積極的に推進する中枢的機関である。しかし日本原子力研究所が原子力の研究機関として活動できるのは茨城県東海村に新しく施設が建設されてからでおり,31年度には,既存の研究機関の協力をえて基礎的な研究を進める一方研究設備の整備に重点がおかれたのである。
 原子力の開発は広い分野にわたつているので,既存の研究機関がもつ研究力に期待するところが大きい。すなわち大学における基礎研究はもちろん,国立試験研究機関,民間企業の応用研究がそれである。
 原子力予算においては,日本原子力研究所,原子燃料公社および国立試検研究機関における原子力関係の試験研究経費が組まれているほか,民間企業に対して交附する補助金,委託費が計上されている。これらの研究開発は,かなり進捗し,すでに相当の成果を収めつつある。たとえば政府の補助金,委託費によつて開発された原子炉用黒鉛,特殊セメントおよび各種計測器等は実用の域に達しているとみられている。
 しかし原子力技術は,新しい分野でしかもまだ十分わかつていない点があり広範囲で系統的な研究開発がつみ重ねられなければならない。また最近わが国で研究されている各種型式の原子炉の設計は,原子炉工学の技術培養に寄与するであろうが,実際の原子炉建設からみれば演習の域をでないであろう。
 かように,わが国の原子力技術はまだ揺らん期ともいえるもので,今後の発展にまつべきものが多いのである。
 しかしながら実用規模の発電用原子炉が導入されようという現段階においては,関連原子力技術の確立は焦眉の急でおり,これがためには,一貫した総合研究計画のもとに研究力を結集する要があろう。
 本章においては,原子力技術のうち,主として原子炉に関連する技術について31年度までの研究開発状況を概観することとし,参考のため,章末に原子力予算による研究項目とその研究費との一覧表を掲げることにした。


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