第2章 原子炉の設置
§2 動力用原子炉の調査

 30年のジュネーブの原子力平和利用国際会議以後,諸外国とくに英米両国の動力用原子炉開発は積極化してきたが,わが国においても,31年に入つて原子力委員会が活動を開始し始めた頃から,海外諸国の実用規模の動力炉を輸入しようという動きが活発に,なつてきた。31年1月,正力原子力委員会委員長が「5年以内に実用的原子力発電所を建設したい」という言明を行つて論議をまきおこしたのは,その一つのあらわれである。
 その後英国原子力公社の産業部長ヒントン卿が,同年5月中旬に来日し,原子力発電についてみずからの豊富な体験を語るとともに,わが国の原子力開発に関して助言を行つたが,とくに英国型原子力発電所の発電コストが経済べースにあうことを明言し,各界の関心をあつめ,これが発端となつて,その調査に訪英原子力調査団が派遣されることとなつた。
 との調査団は10月下旬から1ヵ月間,英国において原子力発電所とその輸入問題について調査を行い,団員の一部は米国およびカナダをも調査の上帰国した。それと相前後して国会議員からなる原子力政策調査団,産業界を中心とした原子力産業使節団も欧米の原子力事情を調査して帰国し,各界の動力用原子炉に対する関心は一そう高められた。
 32年1月になつて,訪英原子力調査団の英国における調査報告と米国の視察報告が原子力委員会に提出された。その要旨は次のとおりである。
 すなわち地震対策,安全度の問題,原子炉の寿命,および発電所の負荷調整等については,今後十分検討する必要がおるが,英国型原子力発電所の実用性は相当明確となつてきており,新鋭火力発電所にくらべ現在のととろ若千高いように思われるが,,将来の火力発電用燃料費が上昇する傾向を考慮すれば,すでに経済ベースに合う点にきたものと考えられる。
 わが国において,原子力の基礎研究を推進すべきことはもちろんであるが,わが国の原子力利用が立遅れていること,およびエネルギー事情から,早期に先進国の原子力発電設備を輸入することが望ましく,それには技術的,経済的問題がおる程度判明した英国型を輸入した方がよいという見解がとられている。
 また,輸入するには,まず国内において地震対策等の問題点を検討し,第二に再度調査団を派遣して細部の検討を行い,第三に日英間に原子力協定を締結し,第四に原子力発電所建設の事業主体と輸入すべき発電炉の規模,基数を決定しておく必要があるとし,なお規模としては1基当り10〜15万kWがよいと附け加えている。
 一方,原子力委員会に設けられている動力炉専門部会では差し当り英国型原子力発電所を取りあげ問題点の検討を進め,さらに地震対策について別に原子炉地震対策小委員会を設け検討を行つている。なお同部会においては濃縮ウラン型動力炉についても技術的経済的な問題をとりあげることになつている。


目次へ          第3章 第1節へ