第1章 原子力開発態勢
§8 原子力開発利用基本計画の策定

8−1 概説

 わが国はエネルギーの面から見ても原子力の開発が望まれているにもかかわらず,その研究開発は著しくおくれている。したがつてその立ちおくれをとり戻すために特別の努力が必要でおるが,その研究開発もできるだけ効率的に行われねばならず,そのためにはまた当然国家としての計画が必要となるわけである。
 原子力委員会は発足早々,32年度予算案および原子力関係法律案の作成等の審議を急いでいたが,原子力開発計画を定めることが重要な使命であるとしてその策定に当ることになつた。
 しかし研究用原子炉の設置計画については原子力利用準備調査会で決定された「原子力研究開発計画」の線に沿つてウオーターボイラー型原子炉を購入する準備が進められており,原子力委員会としては取急ぎ「31年度における原子炉の導入計画について」を決定し「原子力研究所にウオーターボイラー型原子炉1基を購入せしめるとともに,CP-5型原子炉を発注せしめる」こととしたのであつた。その後原子力委員会がその責任において原子力開発利用に関する総合的な基本計画を策定するため31年3月22日「原子力開発利用基本計画策定]要領」を定めた。
 この策定要領によると,基本計画は長期計画と年度計画の二つに分けて策定されることになる。そして長期計画は現在の段階では具体的な計画として策定するととは困難な状況なので,開発利用の方針とその目標等を中心として策定するにとどめ,具体的な事項については長期計画に基ずき毎年策定する年度計画によることとしている。

8−2 31年度基本計画

 原子力委員会としては長期にわたる構想について意見の交換を行いつつも,とりあえず31年度基本計画の策定を行うこととし,4月第一次原案を審議し,参与および各方面の意見を徴して,5月31日正式に決定,内閣総埋大臣に報告した。
 この計画は次の6項目に分れているが,その内容の中主なものを摘録すれば次のとおりである。
(1) 原子炉の建設
 日本原子力研究所に次の研究用原子炉を設置する。

(2) 核燃料物質の開発
(3) 関連技術の育成
 炉の設計,機械装置および炉材料等の生産技術を確立するため前年度に引続き委託費,補助金を交附して,その育成を図る。
(4) アイソトープの利用促進
(5) 放射線障害防止
(6) 技術者の養成訓練

8−3 長期基本計画

 原子力委員会は長期基本計画を策定するに当つて,将来の原子炉設置または原料開発等について多岐にわたる問題点を摘出し併せてこれに対し考慮されている考え方の主要なものを列記した「原子力開発利用長期基本計画策定上の問題点」を各界に提示して,意見を求めた。
 これに対する回答は関係各方面からよせられたが,これらの意見をもとに数次にわたり検討し,参与会にはかつた後9月6日「内定」という形で発表されるに至つた。この計画が正式の決定でなく「内定」とされた理由は,訪英原子力発電調査団,原子力産業使節団おるいは訪米原子力政策調査団等相次いで海外調査が行われる予定であつたので,これらに参加した人々の帰朝後,海外事情の新知識に基ずき再び検討を加えて,よりよきものにした上で正式決定としたいという希望によつたものである。しかしその後再検討を加えられながらも,正式決定に至らず内定という形のまま現在に至つている。
 長期基本計画の内容は原子力開発利用の事項別計画と日本原子力研究所,原子燃料公社の業務計画で構成されている。事項別の六計画の基本的な考え方を要約すれば次のとおりである。

(1) 原子燃料の供給
原子燃料については,極力国内における自給態勢を確立するものとする。このため,国内資源の探査および開発を積極的に行い,あわせて民間における探査および開発を奨励する。また,不足分については海外の資源を輸入し得るよう努力する。なお,将来わが国の実情に応じた燃料サイクルを確立するため,増殖炉,燃料要素再処理等の技術の向上を図る。
(2) 原子炉の建設
基礎的研究より始めて,国産による動力炉を建設するため必要な各段階の原子炉を国内技術をもつて建設し,これらの成果を利用して動力炉を国産することを究極的な目標とする。このため,海外の技術を吸収することを目的として各種の実験炉,動力試験炉,動力炉を輸入し,すみやかに技術水準の向上を図ることとする。なお,最終的に国産を目標とする動力炉は,原子燃料資源の有効利用ひいてはエネルギーコストの低下への期待という見地から,増殖型動力炉とする。
(3) アイソトープおよび高エネルギー放射線の利用研究の促進
アイソトープおよび高エネルギー放射線の利用の研究については,各分野における研究に活路を与えきわめて短期間に技術の飛躍的な改変をもたらす可能性がおることにかんがみ,その研究の促進と成果の普及を図ることとする。また,増大する傾向にあるアイソトープ需要に備え,極力その国産化を図るものとする。
(4) 関連技術の育成
関連技術の育成については,助成措置により技術の確立を図り,将来わが国において建設される原子炉およびその関連設備の生産,建設等を極力国内技術によつて行い得る態勢を関連産業内に熟成せしめることを目標とする。このためさしあたり工業化に必要な基本的技術の育成を主目的としその後は需要の情勢に応じて適宜量産化を図る。なお,さしあたつて企業化するには採算上困難であると認められる原子炉構成材料,機械装置,燃料要素等については,特に保護育成の措置を講ずるものとする。
(5) 放射線による障害の防止
わが国の原子力の研究,開発および利用の進展に伴い留意すべき放射線障害の防止については,原子炉等の管理に関する法律(仮称)および放射線障害防止法(仮称)をすみやかに制定し,原子炉,放射性物質,放射線発生装置等に関する規制を行い,また,これらに伴う保安上および保健上の措置を講するものとする。これと平行してわが国の自然放射能を総合的に調査し放射線の障害防止に資するものとする。また,国立の放射線医学総合研究所(仮称)を設置し,放射線障害に関する基礎および応用の研究を行い,あわせて放射線の医学への利用の研究ならびに放射線に関する医師および技術者の養成を行うものとする。
(6) 科学技術者の養成訓練
原子力の研究,開発および利用にあたつては,その分野が全く新しいものであるので,とりあえず各分野における専門技術者の再教育に重点を置くものとし,それぞれ養成訓練を行うこととする。このためさしあたりは海外に留学生を派遣することとするが,国内における設備の完成に伴い,国内における訓練に逐次重点を指向するものとする。


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