第1章 原子力開発態勢
§7 原子力予算

7−1 概説

 29年3月いわゆる三派修正案によつてわが国最初の原子力予算が成立し29年度2億5,000万円が計上され,引続き30年度には前年度の繰越額1億6,806万円に加えて2億円が計上された。31年度の予算については各方面から飛躍的な増額が期待されるに至つたが,特にこの問題を真先に取上げたのは国会側であつた。すなわち30年9月海外における原子力事情の視察から帰朝した各党各派の代表4議員が羽田で出した声明には「原子力に関する予算は3年間に300億」とうたわれ,その後上記4議員を含み与野党有志議員が結成した合同委員会がその案としてまとめた31年度予算要求見込額は原子力研究所に対する出資金22億円を含めて総計85億円に上つた。これに対し31年度予算概算要求として当時各省から大蔵省に要求されていたものの合計は総額65億円と推計されていた。
 ちょうどそのような時期に,31年1月から原子力委員会が発足したわけであり,委員会の最初の課題は各省から要求されていた原子力関係の予算に調整を加え,必要最少限度の額の確保に努力する,ことであつた。もともと31年度予算要求と,して各省から大蔵省に提出されていたものは,原子力予算としての一貫した方針に沿つたものでなく,しかも各省それぞれの立場から編成され,類似の事項についても甚だしい異同がみられるという事情もあり,またすでに予算案国会提出の期日が近づいていたこともあつて,原子力委員会の附した調整意見は,必ずしも十分な検討を経たものとはいい難い点があつた。
 しかし31年度は原子力の研究開発は漸く準備調査の時代から実施推進に移行する時期に入つたわけであり,とくに原子力研究所,原子燃料公社等の研究開発実施機構の新設を考慮して最少限度36億円を確保すべきであるとの方針をとり,原子力委員会は関係当局と折衝を行い上述の国会方面からの強力な支持もあつて結局31年度原子力予算は32年度にわたる債務負担行為額16億円を含んで一応形の上では36億円が確保されるということになつた。
 31年度が前述のとおりいわばでき上りかけたものに若干手直しを加え,早急にとりまとめただけにすぎないのに比して32年度予算は原子力委員会が当初から一定方針の下に実質的な調整を行つた最初の総合的な原子力関係予算といえよう。すなわち科学技術庁設置に関する閣議決定に基づいて各省庁の原子力関係予算の一部(国立試験研究機関の事業費,試験研究補助金等)が科学技術庁予算に一括計上されることなり,これに委員会および原子力局の経費と各省要求分に調整を加えたものとを合わせて,原子力関係予算はすべて原子力委員会の調整を経て)科学技術庁及び各省から概算要求として提出されたわけである。
 最初原子力委員会に持込まれた原子力関係の予算要求額の合計は170億円余りであつた。原子力委員会としてはとれらの要求を研究の重複とか実施可能性とか,国家予算として支出することの妥当性とかいうような見地から調整して,結局120億円が必要であるという結論を出すに至つた。この額でも前年度に比すれば一応飛躍的な増加と考えられるが,前年度は日本原子力研究所にしても原子燃料公社にしても発足の年であり,しかも年度途中に発足し,準備的な業務が相当部分を占めていたのに対し,32年度はその内容を充実して積極的に業務を発展せしめる時期となるのでどうしても予算の増加は避けられないという見解をとつたものである。このような要求に対する大蔵当局の査定は相当峻烈を極めたが,国会合同委員会等の積極的な支援により最終的には現金予算60億円,債務負担行為額30億円,計90億円に決定された。
 この決定予算額は前年度に較べれば現金において40億円,債務負担行為額において14億円の増加でおり,合計において2.5倍と相当の増加率ではあるが,その内容については辛うじて長期計画遂行の裏打ちができるとはいえ,わが国における原子力の研究開発が大きく実施段階への第1歩をふみ出した際としては必要最小限度の予算といわざるをえない。

7−2 29年度予算

 29年,第19国会において成立した原子力予算は次のとおりである。
 29年度原子力予算のうち原子力平和的利用研究補助金およびウラン資源調査費の実行に関する方針については,原子力利用準備調査会において次のとおり決定された。

 なお,上記原子力予算の実行については,通産省が同省に設置した原子力予算打合会にはかつて,その実施方針について次のとおり決定した。
 29年度予算実施状況は次の通りである。(試験研究補助金内訳は(105)頁参照)

7−3 30年度予算

 30年度としては,29年度に引き続き新たに,原子力平和的利用研究費として2億円を計上したので,29年度からの繰越金1億6,806万円とおわせる3億6,806万円となつた。その予算の実施については前年度同様,原子力予算打合会にはかつた結果,調査・研究は,国立の試験所(東京工業試験所,大阪工業技術試験所,名古屋工業技術試験所,地質調査所,電気試験所)および民間会社の研究所において行われることとなり,また新しくアイソトープ利用の研修のため留学生を米国に派遣すること,実験用原子炉の建設を中心とする原子力の研究を行うための暫定的機構として設立された財団法人原子力研究所に対し補助金を交附することが決定された。30年度予算の実施状況は,(次表)のとおりである。

7−4 31年度予算

 31年度においては,原子力の研究,開発および利用の重要性にかんがみ日本原子力研究所,原子燃料公社の新設等を行うとともに,研究費の大幅の増額により,原子力の研究,開発および利用の充実をはかることとし,20億2,000万円の予算を計上した。これに30年度からの繰越分7,285万円をあわせて,20億9,285万円となつた。
 なお,このほか,原子炉の購入等のため国庫債務負担行為額として16億円を計上した。31年度予算計上額は次のとおりである。

 31年度予算の実施状況の主なものは,次のとおりである。

7−5 32年度予算

 32年度は年度当初に,わが国初めての原子炉(ウオーターボイラー型)が日本原子力研究所に据え付けられ,同研究所もこれを中心としていよいよ原子力に関する基礎および応用の研究,実験ならびに技術者の養成訓練の態勢を整備するとともに,広く学界,国立試験研究機関および民間との間に緊密な連けいをとり,総合的に研究開発を推進することが予定された。
 一方国産炉に対する燃料供給ともテンポを合わせ本年度は原子燃料公社において探鉱を行う外,鉱石の買上も実行し,選鉱,製錬にも一歩を進めることとしている。また,原子力利用の具体化にともないこれに随伴する障害防止については万全を期する必要がおり,本年度新しく放射線医学総合研究所を設けることとなつた。

 上記の考え方に基き32年度の予算の重点としては,次の諸点をうたうこととなつた。

 以上必要な予算として60億円を計上した。
 なお,このほか,国庫債務負担行為額として30億円を計上した。
 32年度予算計上額は(前頁第1-5表)のとおり,である。


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