第1章 原子力開発態勢
§6 原子力技術者の養成

6−1 海外留学生の派遣

 原子力の研究開発に立ち後れたわが国では,先進諸国の技術を速かに吸収することの必要性が当初から痛感されていたが,外国の原子力研究は,その主体が軍事研究にあつたため,機密事項が多く,数年前までは,直接原子力関係の技術を習得するための留学は甚だ困難であつた。
 しかしながら,米国においては,30年3月アルゴンヌ国立研究所に国際原子炉学校が設立され,オークリツジ原子核研究所のアイソトープ学校も同年から外国人専用のコースを設けるなど種々の措置が講ぜられ,また英国では,ハーウエルの原子炉学校およびアイソトープ学校が30年から外国人にも開放されるなど,次第に外国人科学技術者の受入れが行われるようになつてきた。もちろん,従来ともノルウエー,スエーデン等では,各国の科学者をその研究機関に受入れて共同研究を行つていたのであるが,米,英,仏,加の門戸一部開放と,大学における原子力関係講座の開設,教育訓練用原子炉の設置など,最近の海外受入れ状況は大巾に緩和されつつある。
 31年度までわが国からの留学生は原則として国家公務員に限られていたが,32年度からは民間企業の職員をも考慮することになつた。従来の年度別派遣状況は(第1-1表)のとおりである。

6−2 国内におけるアイソトープ技術者の養成

 25年に初めてアイソトープが輸入された当時,これを取扱うことのできる技術者は,大学および特殊な研究所の一部の学者に限られ,その数も数十人にすぎなかつたので,この取扱技術者の養成は,アイソトープの利用促進上重要な問題であつた。そこで26年10月に日本放射性同位元素協会において第1回のアイソトープ利用技術講習会を開催された。以来この種講習会はおおむね毎年2回開催され,31年度末までに合計9回実施されたが回を重ねるに従い講習期間も廷長され,講習内容も充実し,30年度からは1回の会期として講義1週間,実習2週間とし,漸次技術の向上が図られた。
 したがつて講義の内容も原子物理,放射化学,アイソトープの技術および応用,放射線生物物理,実験室の設計,健康管理等の学課がふくまれ,また実習では,各種計測器による物理化学実験,測定法,,オートラジオグラフイ,医学,工学,農業方面の見学実習等かなり広範囲に実施してきた。しかし,講義は大学等の施設を借用し,1回に相当数の人員を収容することも可能であるが,実習では,特殊な実験室(アイソトープ実験室)を必要とするので,毎回開催するごとに応募者は非常に多数にのぼるが,収容施設の関係上応募者の2〜3割しか収容できず,開催回数を増加することも,借用機関の本来の研究に支障をきたすので困難な状況にあつた。この講習会に出席した人員は,31年度末までに2,950名,そのうち実習を受講した者906名であつて,これらの技術者は,目下大学,国立または民間の試験研究機関等でアイソトープの利用とその研究に重要な役割を果している。

 この状況から32年度中に日本原子力研究所の一部門としてアイソトープ研修所を東京に設立することになつた。アイソトープ研修所は,アイソトープの取扱い,放射線の測定法,アイソトープの障害防止および各産業への利用に関する基礎訓練を行い,アイソトープ技術者の養成を図ることを目的とし,これに必要な講義,演習,実習,実験および見学を行うものであつて,一般訓練は4週間をもつて1コースとして,1コース約30名,年間200名ないし250名を養成することになつている。

6−3 大学における原子力科学技術者の養成

 大学における原子力関係科学技術者の養成は,32年4月から東北大学,東京工業大学,京都大学および大阪大学の各大学院に原子力関係の専門課程が設けられ,いよいよ開始される運びになつた。
 この間,すでに30年度には原子核物理の基礎研究のために原子核研究所が東京大学に設置されるとともに,原子力平和利用の機運が日毎に高まるにつれて全国各大学においても原子力関係科学技術者を養成するための講座の開設が検討されはじめた。
 原子力委員会は,文部省,日本学術会議,大学等の関係者と数回会合し,研究者,技術者の養成,研究用原子炉および施設の設置等について協議した。その結果,原子力科学技術者の養成は大学院に専門課程を設けて行うこと,学部に学科を設置することはしばらく延期すること,担当大学は一応,東北,東京,東京工業,京都,大阪の五大学とすることなどが決定された。
 これらの趣旨を尊重して,本年4月から前記5大学に原子力関係講座が増設されるとともに,これらの大学院に原子力関係の専門課程または講座が設置されることになつたのである。


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