第1章 原子力開発態勢
§2 日本原子力研究所

2−1 財団法人原子力研究所の設立

 30年6月濃縮ウランの受入れに関する日米研究協定が仮調印され,早急に研究用原子炉を設置することとなり,その原子炉の設置および運転を担当する機関を整備することが必要になつた。この問題は原子力利用準備調査会において前々から検討を続けられていたものでおるが,原子力に関する行政機関と実施機関とを分離するか否か,またその性格をどうするか等の議論に終始して容易に結論を得られず,そのため暫定的な措置として30年7月民間の機関として発足させることとなり,まず財団法人を設立し実質的業務を開始することとなつた。かくて産業界の協力により2,990万円を基金として「財団法人原子力研究所」が30年11月末に設立された。

2−2 研究所敷地の決定

 財団法人原子力研究所の敷地については,経済企画庁原子力室において,国有地等で原子力施設に適した候補地を探していたが,原子力研究所の設立後30年末以来研究所内に土地選定委員会が設けられ,22の候補地点について,科学的な検討が加えられた。
 原子力研究所の土地選定委員会は2月8日次のような結論を出して,原子力委員会に報告しその決定を仰いで来た。

 原子力委員会は2月15日臨時委員会を開いてこの問題を討議した結果,研究所側の意見を尊重して,武山を実験用原子炉敷地の第一候補地と決定し,動力試験用炉は水戸に置くことも同時に決定した。しかし武山地区は米軍基地として使用中であつたので米軍の意向を打診した結果,米側からは,とくに日本政府が強く要求し,かつ代替施設を提供するならば,返還を考慮しようという回答が得られた。
 原子力委員会はこれらの報告を受けて審議した結果,正式に米国に対して基地返還の要請を・行う及き時機であるとして「研究所敷地は武山を適当と認める」旨の委員会決定を行い内閣総理大臣に報告したが,適当な代替施設の提供が困難であることおよび武山地区は将来自衛隊の使用が予想されることなどの理由から政府は原子力委員会に対して再考を求めた。これに対し原子力委員会は,政府の回答を止むを得ざるものとして武山を断念し,これに代るものとして水戸市郊外東海村を選ぶこととし,研究所の敷地問題は解決をみた。

2−3 日本原子力研究所の設立

 立ちおくれた日本の原子力研究を強力に推進するためには,各界の全面的協力によつて有能なる研究者を結集し,国家がこれに対して資金的に強い裏付けをすることが必要であり,そのためには暫定機構としての財団法人原子力研究所に対して何らかの立法措置を加えなければならぬということは各界の一致した意見であつた。
 もともと財団法人の設立を提唱した当時,経済企画庁長官は「財団法人は寄附金以外に寄附者からの借入によつて経費を賄い,借入金は将来特殊法人に切換える際株式に振替えることとしたい」と説明を行つて,将来の原子力研究所の性格を特殊法人とすることを目標にしていた。しかし国会における原子力合同委員会の考え方は公社論であつて,この意見の対立は「原子力基本法」制定の時も調整せられず,その際は性格を明らかにせず単に「政府の監督の下に……原子力研究所を置く」とするにとどまつていた。
 31年を迎え原子力委員会が発足すると,原子力局は民間出資をも含めた特殊法人を内容する法案を作成し,一方国会合同委員会側からは公社とする法案が原子力委員会に提示された。また大蔵省側からは予算審議の過程において純然たる国立機関とすべき旨の見解が明らかにされ,ここに原子力委員会は原子力研究所の性格を特殊法人とするか,公社とするか,あるいは国立機関とするか,についての決定を迫られることになつた。
 原子力委員会は過去の経緯や情勢にとらわれず,委員会として最善と考えられる結論を見出すために数次に亘り検討を加えた結果,原子力研究所は次のような要請を満たす必要があると考えた。

 以上の観点から,特殊法人を選ぶ場合についてみると民間資金の導入の結果としてその株主的発言権を認めることは,将来好ましからざる影響をもつことになりはしないかという懸念もあり,資金を民間から導入する場合もその発言権には制約を加えるべきであるとの意見があり,あるいはまた資金は全額国家資金として,民間との協力は他の面で考えてはどうかとの意見もあつた。これらの点を考慮して原子力委員会は国会合同委員会側および大蔵省側と交渉を行つた結果,民間出資を認めるが民間出資者は株主的発言権をもたぬこと,研究所の業務の運営や人事について一切介入しないこと,将来経理上余剰が生じたときに一定限度の剰余分配を受けうること等を特色とした特殊法人とするととに意見の一致を見た。この線にそつて日本原子力研究所法の原案が作成され3月5日国会に提出された。同法案は,4月末無修正で国会を通過し,5月4日公布施行された。政府は直ちに設立委員会を設け民間出資の募集,定款の作成,役員の選衡等新法人の設立準備を始めた。民間出資については,政府出資額の2億5,000万円以下でなければならないので,2億5,000万円を限度として募集したのであるが,産業界の原子力開発に対する熱意を反映してほとんど限界いつぱいの2憶4,800万円の申込みを受け,特に電力界は財団設立時と同様,きわめて積極的で総額の約60%(1億5,000万円)を負担した。
 かくして6月15日日本原子力研究所は財団法人原子力研究所の権利義務および職員ならびにその業務を引き継ぎ,4億9,800万円の資本金をもつて発足した。

2−4 業務

 研究所は,その業務として原子力に関する基礎および応用の研究,原子炉の設計建設および操作,原子力関係研究者および技術者の養成訓練ならびに放射性同位元素の生産販売等を行うことになつている。
 研究所は前記のように財団法人の業務を引継いで発足したので,財団当時から行われてきた基礎的調査に基いて設立後直ちに東海村における研究所の建設に全力を集中し,31年8月起工式を行い,ウォーターボイラー型原子炉およびファンデグラフ粒子加速装置の建屋を始め,諸研究室及びこれらに附帯する施設の建設をいそいだ。
 研究所の設置する原子炉については第2章において詳述されているが,そのほか研究所においては原子力の研究のための主要な装置としてファンデグラフ粒子加速装置を31年内に設置し,続いて線型加速器の発注を行い,原子核物理的研究を行うこととしている。
 上記以外の原子力に関する基礎および応用の研究については,いまだ建設の段階にあるため本格的な研究には着手していないが,研究方法の決定,研究設備の整備等今後の研究の準備を進める一方,緊急に必要な研究については外部の大学,研究機関等を利用して研究を続けている。
 研究者および技術者の養成訓練については,諸施設の整備をまつて始める予定であり,33年からアイソトープ研修所を東京に設ける準備を進めているが,このほか研究所職員を急速に養成するため海外に留学生を派遣している。
 最後にこれらの業務に伴う放射線障害その他の災害の防止については一方において防止方法の研究を行い,他方現実の災害防止のための措置をとつており,特に原子炉からの廃棄物および放射線の影響を防ぐことに留意している。


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