第2章 原子力開発態勢の整備
§5 原子力予算の概要

 原子力開発の規模と速度を定めるには,国家予算が大きな役割を果している。したがつて原子力予算の見積りは原子力政策に連る重要な意義をもつているといえる。ここに原子力予算に関する見積り,配分を審議し,決定する任務が原子力委員会に課せられたゆえんがある。
 わが国の原子力予算は29年度に初めて2億5,000万円が計上され,予算編成上一つのエポツクをなしたが,当時としては原子力の研究開発を進める上に,不確な奈問題が多く,結局は翌年度に1億6,806万円を繰越さざるをえぬ事情となつた。したがつて30年度の原子力予算はこの繰越額を含めて,3億6,806万円が試験研究費等に充当されたのである。
 予算面からみれば,29年度,30年度は,原子力開発の序幕であり,調査の段階であつたといえるが,31年度からは原子力委員会,原子力局等が活躍をはじめ研究開発態勢の整備に伴い成長期に入り原子力予算も画期的に増加されるに至つた。すなわち,31年度原子力予算は現金20億円,債務負担行為16憶円,計36億円に増額されたのである。
 この予算の特徴としては,原子力の研究開発の実施機関たる日本原子力研究所の経費および原子燃料公社の経費がはじめて登場したことである。また31年度予算では海外留学生も30名の派遣に相当する経費が認められ,ワシントン,ロンドンに新しく海外駐在官(原子力アタツシエ)が置かれることになつたほか,国立試験研究機関における研究も拡充されることになつた。
 32年度予算は原子力委員会がその調整に努力し,その成立までには,曲折がみられたが,結局現金60億円,債務負担行為30億円,計90億円に決定された。
 わが国の各年度における原子力予算をそれぞれ歳出額と対比すると,26年度0.024%,30年度0.02%でその比率は極めて低かつたが,31年度0.35%,32年度0.79%とかなり高まつてきている。すなわちわが国の原子力予算の規模は,逐年絶対的にも相対的にもかなり大幅に増加しつつあるといえる。
 なお,原子力予算の財政資金に占める位置を考えてみるに米国,英国のようにその軍事利用を行つている諸国においても平和利用にかなりの量の財政資金を当てている。これは原子力平和利用の分野は,一部実用化された部分もあるとはいえ,まだ大部分研究開発の段階にあるためと考えられる。
 いま各国の原子力予算を,それぞれの財政規模と対比すると,米国の3.3%を筆頭に,英国1.5%,フランス1.1%,カナダ0.78%,となつており,わが国の32年度原子力予算の歳出額中に占める割合0.79%は,ほぼカナダなみといえよう。しかしカナダの原子力予算はカナダ原子力会社に割り当てられた資金のみでおるため,わが国の原子力予算はなお国際的にみてかなり小規模なものであるといえる。


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