第2章 原子力開発態勢の整備
§1 原子力委員会と原子力局

 30年の末に,いわゆる原子力三法が成立して,わが国の原子力平和利用の大網が示されたが,31年初頭には,原子力委員会が原子力政策の最高決定機関として発足し,同時に総理府に原子力局が新設され,原子力行政機構が確立された。なお原子力局は,これまで原子力行政を担当してきた経済企画庁原子力室および工業技術院原子力課の事務と,科学技術行政協議会のアイソトープ関係事務とを継承して,一元的機構として発足したのである。
 原子力委員会設置の目的は,原子力基本法にも示されているように,「原子力の研究,開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し,原子力行政の民主的運営を図る」ととにある。したがつて,この目的を達するためには,第一に各分野において行われる原子力の利用を総合的に推進し得る機構であり,かつ第二に,各分野の意見が十分に反映し得る機構であることが要求される。
 第一の点についてみると,原子力委員会は,原子力の平和利用に関する重要問題について,企画,審議,決定を行い,内閣総理大臣はこの決定を尊重しなければならないことになつている。また原子力委員会の庶務を担当する原子力局は,委員会とほぼ同様の範囲の事務を実施する行政機関であるので,原子力委員会と原子力局とが一体となつて活動することが期待される。31年5月には総理府の外局として科学技術庁が発足し,原子力局もその内局となつた。このことは原子力委員会と原子力局との関係を変化させるものではないが,原子力行政は科学技術行政全般との関連を深めるように要請されることになつた。
 第二の点について原子力委員会の構成は,科学技術庁長官である国務大臣と両議院の同意を得て内閣総理大臣の任命する4名の委員からなる。この4名の委員についても,とくに原子力委員会の設置の目的から各分野を代表するような構成が考えられ,学界,産業界,労働界と関係の深い委員が選ばれた。さらに広く各界の意見を反映させるために参与会を設け,重要な問題についてはその意見をきいて決定を行つている。
 原子力委員会の任務は「原子力の研究,開発及び利用に関する事項について企画し,審議し,及び決定する」ことにあるが,その具体的な内容として,関係行政機関の原子力関係の事務の総合調整あるいは予算の見積りおよび配分計画などの強力な企画権限をゆだねられ,関係行政機関との関係いかんが原子力委員会の運営に重要な関連をもつていた。この点に関し,委員会は原子力局と一体となり関係行政機関の多大の協力を得るととができ,その結果,諸般の事項にわたる委員会の決定が十分に尊重される態勢が築かれたのである。
 原子力委員会の31年度の活動は,原子力の平和利用の進展のあらゆる分野にその足跡をとどめているが,特にわが国の原子力の研究開発利用の拠つて立つべき計画を作成したことは注目される。すなわち31年3月には長期および各年度の原子力開発利用基本計画作成の要領を定め,5月にはとりあえず31年度の計画を作成し,9月に入つて暫定的に長期計画を定めた。これらの計画を基軸として,原子力委員会は一貫した原子力政策を推進してきたのである。


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