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【資料編】

7 世界の原子力に係る基本政策

(1)北米

① 米国

 米国は、2022年3月時点で93基の原子炉が稼働する、世界第1位の原子力発電利用国であり、2020年の原子力発電比率は約20%です。また、ボーグル原子力発電所3、4号機の2基の建設が進められています。
 米国では、シェールガス革命により2009年頃から天然ガス価格が低水準で推移しており、原子力発電の経済性が相対的に低下しています。こうした状況は電気事業者の原子力発電の継続や新増設に関する意思決定にも影響を及ぼしています。連邦議会では、原子力発電に対しては、共和・民主両党の超党派的な支持が得られています。2018年9月には、先進的な原子力技術開発等を促進する「原子力イノベーション能力法」が成立しました。2021年1月に就任した民主党のバイデン大統領は、気候変動対策の一環として先進的原子力技術等の重要なクリーンエネルギー技術のコストを劇的に低下させ、それらの商用化を速やかに進めるために投資を行っていく方針です。高速炉や小型モジュール炉(SMR)等の開発にも積極的に取り組み、エネルギー省(DOE)が「原子力分野のイノベーション加速プログラム(GAIN)」や「革新的原子炉実証プログラム(ARDP)」等を通じて開発支援を行っており、多数の民間企業も参画しています。また、35年ぶりの新規着工となったボーグル3、4号機建設のために、政府の債務保証プログラムを追加適用する手続の推進等の施策も行っています。さらに、バイデン政権では、米国内にとどまらず原子力分野における国際協力も進められています。2021年4月には、国務省が気候変動対策の一環として国際支援プログラム「SMR技術の責任ある活用に向けた基本インフラ(FIRST)」を始動しました。同年11月に国務省が公表した、原子力導入を支援する「原子力未来パッケージ」では、米国の協力パートナーとして、ポーランド、ケニア、ウクライナ、ブラジル、ルーマニア、インドネシア等が挙げられています。
 米国における原子力安全規制は、原子力規制委員会(NRC)が担っています。NRCは、我が国の原子力規制検査の制度設計においても参考とされた、稼働実績とリスク情報に基づく原子炉監視プロセス(ROP)等を導入することで、合理的な規制の実施に努めています。2019年1月には、NRCに対し予算・手数料の適正化や先進炉のための許認可プロセス確立を指示する「原子力イノベーション・近代化法」が成立しており、規制の側からも既存炉・先進炉の開発を支援する取組が進むことが期待されています。また、産業界の自主規制機関である原子力発電運転協会(INPO)や、原子力産業界を代表する組織である原子力エネルギー協会(NEI)も、安全性向上に向けた取組を進めています。
 既存の原子力発電所を有効に活用するため、設備利用率の向上、出力の向上、運転期間延長の取組も進められています。2019年12月にターキーポイント原子力発電所3、4号機が、2020年3月にピーチボトム2、3号機が、2021年5月にサリー1、2号機が、NRCから2度目となる20年間の運転認可更新の承認を受け、80年運転が可能となりました。ただし、このうちターキーポイント3、4号機とピーチボトム2、3号機について、NRCは2022年2月に、環境影響評価手続上の問題のため承認を取り下げる決定を行いました。このほか、2022年3月末時点で、ノースアナ1、2号機、ポイントビーチ1、2号機、オコニー1~3号機、セントルーシー1、2号機について、NRCが2度目の運転認可更新を審査中です。
 1977年のカーター民主党政権が使用済燃料の再処理を禁止したことを受けて、米国では再処理は行われておらず、使用済燃料は事業者が発電所等で貯蔵しています。最終処分場については、民生・軍事起源の使用済燃料や高レベル放射性廃棄物を同一の処分場で地層処分する方針に基づき、ネバダ州ユッカマウンテンでの処分場建設が計画され、ブッシュ共和党政権期の2008年6月にDOEがNRCに建設認可申請を提出しました。2009年に発足したオバマ民主党政権は、同プロジェクトを中止する方針でした。2017年に誕生したトランプ共和党政権は一転して計画継続を表明しましたが、2018から2021会計年度にかけて連邦議会は同計画への予算配分を認めませんでした。バイデン政権下で公表された2022会計年度の予算要求でも、ユッカマウンテン計画を進めるための予算は要求されていません。


② カナダ

 カナダは世界有数のウラン生産国の一つであり、世界全体の生産量の約22%を占めています。カナダでは、2022年3月時点で19基の原子炉がオンタリオ州(18基)とニューブランズウィック州(1基)で稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約15%です。原子炉は全てカナダ型重水炉(CANDU炉)で、国内で生産される天然ウランを濃縮せずに燃料として使用しています。
 州政府や電気事業者は、現在や将来の電力需要への対応と気候変動対策の両立手段として原子力利用を重視しており、近年は、電力需要の伸びの鈍化等も踏まえ、経済性の観点から、原子炉の新増設よりも既存原子炉の改修・寿命延長計画を優先的に進めています。オンタリオ州では10基の既存炉を段階的に改修する計画で、2020年6月にはダーリントン2号機が改修工事を終え、4年ぶりに運転を再開しました。
 一方で、カナダはSMRの研究開発に力を入れています。2018年11月には、州政府や電気事業者等で構成される委員会によりSMRロードマップが策定され、SMRの実証と実用化、政策と法制度、公衆の関与や信頼、国際的なパートナーシップと市場の4分野の勧告が提示されました。ロードマップの勧告を実現に移すために、2020年12月には連邦政府がSMR行動計画を公表しました。同計画では、2020年代後半にカナダでSMR初号機を運転開始することを想定し、政府に加え産学官、自治体、先住民や市民組織等が参加する「チームカナダ」体制で、SMRを通じた低炭素化や国際的なリーダーシップ獲得、原子力産業における能力やダイバーシティ拡大に向けた取組を行う方針です。SMR行動計画の枠組みで出力30万~40万kWの発電用SMRベンダーの選定を進めていたオンタリオ・パワー・ジェネレーション社は、2021年12月に、米国GE日立ニュークリア・エナジー社のBWRX-300を選定したことを公表しました。今後、2022年末までに安全規制機関であるカナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可申請を提出し、早ければ2028年にカナダ初の商業用SMRとして完成させることを目指しています。また、カナダ原子力研究所(CNL)は、同研究所の管理サイトにおいてSMRの実証施設建設・運転プロジェクトを進めています。さらに、CNSCは、事業者による建設許可等の申請に先立ち、予備的な設計評価サービスであるベンダー設計審査を進めています。
 使用済燃料の再処理は行わず高レベル放射性廃棄物として処分する方針をとっており、使用済燃料は原子力発電所サイト内の施設で保管されています。地層処分に関する研究開発は1978年に開始されており、1998年には、政府が設置した環境評価パネルが、技術的には可能であるものの社会受容性が不十分であるとする報告書を公表しました。このような経緯を踏まえ、2002年には「核燃料廃棄物法」が制定され、処分の実施主体として核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立されました。NWMOが国民対話等の結果を踏まえて使用済燃料の長期管理アプローチを提案し、政府による承認を経て処分サイト選定プロセスが進められており、2022年3月時点ではオンタリオ州の2自治体(イグナス、サウスブルース)を対象として現地調査が実施されています。


(2)欧州

 欧州連合(EU)では、欧州委員会(EC)が2019年12月に、2050年までにEUにおける温室効果ガス排出量を実質ゼロ(気候中立)にすることを目指す政策パッケージ「欧州グリーンディール」を発表しました。これに基づき、2021年6月に「欧州気候法」が改正され、2030年までの温室効果ガス排出削減目標が、従来の1990年比40%減から55%減に強化されました。また、同年7月には、ECがこの目標達成に向けた施策案をまとめた「Fitfor55」パッケージを公表しました。
 温室効果ガスの排出削減方法やエネルギーミックスの選択は各加盟国の判断に委ねられており、原子力発電の位置付けや利用方策について、EUとして統一的な方針は示されていません。しかし、EUではこの数年、気候変動適応・緩和などの環境目的に貢献する持続可能な経済活動を示す「EUタクソノミー」について、原子力に関する活動を含めるか否かの検討を進めてきました。加盟各国や専門家グループからの意見聴取等を経て、2022年2月に、ECは原子力を持続可能な経済活動と認定する規則を承認しました。今後、欧州議会・理事会による審議が行われ、2023年1月に発効することが見込まれています。
 また、ECは、低炭素エネルギー技術開発及び域内の原子力安全向上の側面から、原子力分野における技術開発を推進する方針を示しています。これに基づき、EUにおける研究開発支援制度である「ホライズン2020」の枠組みにおいて、EU加盟国の研究機関や事業者等を中心に立ち上げられた研究開発プロジェクトに対し、資金援助が行われてきました。2021年からは、後継となる「ホライズン・ヨーロッパ」の枠組みでの取組が行われています。


① 英国

 英国では、2022年3月時点で11基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約14.5%です。
 1990年代以降は原子炉の新設が途絶えていましたが、北海ガス田の枯渇や気候変動が問題となる中、英国政府は2008年以降一貫して原子炉新設を推進していく政策方針を掲げています。2020年11月には、原子力を始めとする地球温暖化対策技術への投資計画である「10-Point Plan」を公表しました。2021年10月に公表された「ネットゼロ戦略」では、「10-Point Plan」を更に進める形で、大型原子炉新設に向けた支援措置を講じることや、SMR等の先進原子力技術を選択肢として維持するために1.2億ポンドの新たなファンドを創設することが示されました。
 2022年3月時点では、フランス電力(EDF)と中国広核集団(CGN)の出資により、ヒンクリーポイントC原子力発電所(欧州加圧水型原子炉(EPR)2基)において建設が、サイズウェルC原子力発電所(EPR2基)及びブラッドウェルB原子力発電所(華龍1号2基)において新設計画が進められています。このうちヒンクリーポイントCサイトにおける建設プロジェクトについては、2016年9月に政府、EDF、CGNの3者が差額決済契約(CfD)と投資合意書に署名しています。CfD制度により、発電電力量当たりの基準価格を設定し、市場における電力価格が基準価格を下回った場合には差額の補填を受けることができるため、長期的に安定した売電収入を見込めることになります。サイズウェルCサイトにおける建設計画については、2022年1月に政府が、プロジェクトを進展させるための資金として1億ポンドを支援すると発表しました。ブラッドウェルBサイトにおける建設計画については、2022年2月に華龍1号の一般設計評価が完了し、設計が規制基準に適合していることが認証されました。なお、一般設計評価とは、英国で初めて建設される原子炉設計に対して、建設サイトを特定せずに安全性や環境保護の観点から規制基準への適合性を認証する制度です。一般設計評価による認証を受けた場合も、実際に建設するためには別途許認可を取得する必要があります。
 EPRのような大型炉以外にも、英国政府はSMRや革新モジュール炉(AMR)の建設も検討しており、そのための技術開発支援や規制対応支援を実施しています。2020年11月には、2030年代初頭までにSMRの開発とAMR実証炉の建設を行うことを目指し、3.85億ポンドの革新原子力ファンドを創設しました。同ファンドを活用したSMR開発支援として、2021年11月には、軽水炉ベースのSMR開発を進めているロールス・ロイスSMR社(ロールス・ロイス社を始めとする3社から約1.95億ポンドの出資を受け、2021年11月に設立)に対して2.1億ポンドの資金援助を決定しました。2022年3月には、ロールス・ロイスSMR社が開発するSMRの一般設計評価が開始されました。AMR開発については、2021年12月に、同ファンドの一部を活用したAMR実証プログラムにおいて、高温ガス炉実証炉の建設を目指す方針が示されました。2022年2月に公表された同プログラムの概要では、同年春から冬にかけて実現性の検討や概念設計、潜在的なエンドユーザーに関する検討等を行う計画が示されています。
 このような政府による支援が行われる一方で、原子炉新設は民間企業によって実施されるものであるため、巨額の初期投資コストを賄うための資金調達が大きな課題となります。ウィルファサイトでの新設を計画していた日立製作所が2020年9月にプロジェクトから撤退したことも、英国政府による資金調達支援の協議の難航が要因の一つでした。英国政府は2021年10月に、新たな資金調達支援策として、規制機関が認めた収入を事業者が確保できることで投資回収を保証する規制資産モデル(RAB)を導入するための法案を議会に提出しました。
 英国では、1950年代から2018年11月まで、セラフィールド再処理施設で国内外の使用済燃料の再処理を行っていました。政府は2006年10月、国内起源の使用済燃料の再処理で生じるガラス固化体について、再処理施設内で貯蔵した後で地層処分する方針を決定しました。2014年7月に公表した白書「地層処分-高レベル放射性廃棄物の長期管理に向けた枠組み」や公衆からの意見聴取結果を踏まえ、2018年12月に新たな白書「地層処分の実施-地域との協働:放射性廃棄物の長期管理」を公表し、地域との協働に基づくサイト選定プロセスが新たに開始されました。2021年11月には、カンブリア州コープランド市中部において、自治体組織の参画を得ながら地層処分施設の立地可能性を中長期的に検討するための組織である「コミュニティパートナーシップ」が英国内で初めて設立されました。さらに、同年12月には同州コープランド市南部で、2022年1月には同州アラデール市で、新たなコミュニティパートナーシップが設立されました。


② フランス

 フランスでは、2022年3月時点で56基の原子炉が稼働中です。我が国と同様にエネルギー資源の乏しいフランスは、総発電電力量の約71%を原子力発電で賄う原子力立国であり、その設備容量は米国に次ぐ世界第2位です。また、10年ぶりの新規原子炉となるフラマンビル3号機(EPR、165万kW)の建設が、2007年12月以降進められています。
 2012年に発足したオランド前政権は、総発電電力に占める原子力の割合を2025年までに50%に削減する目標を掲げ、2015年8月には、この政策目標が規定された「グリーン成長のためのエネルギー転換に関する法律」(エネルギー転換法)が制定されました。2017年に発足したマクロン政権もこの方針を踏襲しましたが、2025年までの原子力比率の削減目標を実現すると温室効果ガスの排出量を増加させる可能性があるとして、目標達成時期を2035年に先送りしました。また、2020年4月に政府が公表した改定版多年度エネルギー計画(PPE)では、2035年の減原子力目標達成のため、合計14基(このうち2基はフェッセンハイム原子力発電所の2基で、2020年6月末までに閉鎖済)の90万kW級原子炉を閉鎖する方針が示される一方で、2035年以降の低炭素電源の確保のため、原子力発電比率の維持を念頭に、6基のEPRの新設を想定して原子炉新設の検討を行う方針も示されました。さらに、2021年10月にマクロン大統領が発表した投資計画「フランス2030」では、原子力分野に10億ユーロを投じ、SMR等の開発を進めるとしました。同月には、送電系統運用会社(RTE)が、複数の電源構成シナリオの比較を実施した分析結果を公表しました。この分析結果では、2050年までにEPR14基を新設し、既存炉と合わせて40GW以上の原子力発電容量を確保するシナリオの経済性が最も高いと評価する一方で、再生可能エネルギー比率が非常に高いシナリオや既存原子炉を60年超運転するシナリオでは技術的課題が大きいとする指摘が示されました。この分析結果を受け、マクロン大統領は、同年11月に原子炉を新設する方針を示し、2022年2月には、EPR6基の新設と更に8基の新設検討を行うとともに、90万kW級原子炉の閉鎖を撤回することを発表しました。マクロン大統領はPPEを改定する意向も示しています。
 フランス政府は原子力事業者による原子炉等の輸出を支持しており、燃料サイクル事業はオラノ社、原子炉製造事業はフラマトム社が、それぞれ担っています。オラノ社には、日本原燃及び三菱重工業株式会社がそれぞれ5%ずつ出資しています。また、フラマトム社の株式の75.5%をEDFが、19.5%を三菱重工業株式会社が、5%をフランスのエンジニアリング会社Assystemが保有しています。フラマトム社が開発したEPRについては、既に中国で2基の運転が開始されているほか、フランス及びフィンランドでは1基ずつ、英国では2基の建設が進められています。
 放射性廃棄物の処分実施主体である放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は、当初は原子力・代替エネルギー庁(CEA)の一部門として1979年に設置されましたが、1991年にCEAから独立した組織となり、処分技術の開発やサイト選定に向けた調査等を実施しています。高レベル放射性廃棄物処分に関しては、2006年に制定された「放射性廃棄物等管理計画法」に基づき、「可逆性のある地層処分」を基本方針として、ANDRAがフランス東部ビュール近傍で地層処分場の設置に向けた準備を進めています。同処分場の操業開始は2030年頃と見込まれています。なお、地層処分場の操業は、地層処分場の可逆性と安全性を立証することを目的としたパイロット操業フェーズから開始される予定です。その後、地層処分の可逆性の実現条件を定める法律が制定され、原子力安全機関(ASN)により地層処分場の全面的な操業許可に係る審査が行われます。


③ ドイツ

 ドイツでは、2022年3月時点で3基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約11%です。
 東電福島第一原発事故後に行われた2011年の「原子力法」改正により、各原子炉の閉鎖年限が定められており、2022年までに全ての原子力発電所を閉鎖して原子力発電から撤退することとされています。2021年末にはグローンデ、グンドレミンゲンC、ブロックドルフの3基が恒久停止しました。2022年末までに、最後の3基であるイザール2、エムスラント、ネッカル2が閉鎖され脱原子力が完了する予定です。なお、2020年には、2038年までに石炭火力発電から撤退する脱石炭政策も開始されました。さらに、2021年に発足したショルツ政権は、石炭火力発電からの撤退期限を最大2030年まで前倒しし、再生可能エネルギーの拡大を加速する意向を示しています。2022年3月には、ロシアによるウクライナへの侵略を受け、政府が原子炉の運転延長に関する検討文書を公表し、天然ガス供給危機下にあっても原子炉の運転延長を推奨しないとする見解を示しました。
 高レベル放射性廃棄物処分に関しては、1970年代からゴアレーベンを候補地として処分場計画が進められてきましたが、1998年の政権交代を機に、サイト選定手続の在り方やサイト要件等の再検討が開始されました。これに伴いゴアレーベンでの調査活動は2000年に中断され、2010年に再開されたものの、東電福島第一原発事故後の原子力政策見直しの一環で白紙化されました。その後、公衆参加型の新たなサイト選定プロセスを経て、複数の候補地から段階的に絞り込みを行う方針が決定されました。この方針を受け、「発熱性放射性廃棄物の処分場サイト選定法」が制定され、2017年に新たなプロセスによるサイト選定が開始されました。同法では、2031年末までに処分場サイトを確定することが定められています。


④ スウェーデン

 スウェーデンでは、2022年3月時点で6基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約30%です。
 スウェーデンにおける原子力政策は、国民投票の結果や政権交代により何度も転換されてきました。1980年の国民投票の結果を受け、2010年までに既存の原子炉12基(当時)を全て廃止するとの議会決議が行われましたが、代替電源確保の目途が立たない中、2006年に政府は脱原子力政策を凍結しました。その後、2014年10月に発足した社会民主党と緑の党の連立政権は一転して脱原子力政策を推進することで合意しましたが、2016年6月には、同連立政権と一部野党が、既存サイトにおいて10基を上限としてリプレースを認める方針で合意しました。しかし、2022年3月時点でリプレースに向けた計画は具体化しておらず、一部のプラントでは早期閉鎖が行われています。
 スウェーデンでは、使用済燃料の再処理は行わず、高レベル放射性廃棄物として地層処分する方針です。使用済燃料は、各発電所で冷却された後、オスカーシャム自治体にある集中中間貯蔵施設(CLAB)で貯蔵されています。地層処分場のサイト選定は段階的に進められ、2001年にエストハンマル自治体が、2002年にオスカーシャム自治体が、それぞれサイト調査の受入れを決めました。サイト調査や地元での協議等を経て、2009年6月には立地サイトとしてエストハンマル自治体のフォルスマルクが選定され、使用済燃料処分の実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)が2011年3月に立地・建設の許可申請を行いました。原子力施設を建設するためには、「環境法典」に基づく事業許可と、「原子力活動法」に基づく建設・運用許可の二つの許可が必要となり、前者は土地・環境裁判所が、後者は放射線安全機関(SSM)による審査が進められました。2018年1月、土地・環境裁判所とSSMは政府に対して審査意見書を提出し、許可の発給を勧告しました。審査意見書において土地・環境裁判所がSKB社からの補足資料提出を条件とするよう推奨したことを受け、2019年4月に、SKB社は政府に補足資料を提出しました。このような経緯を踏まえ、2022年1月に政府は、SKB社の地層処分事業計画を承認するとともに、地層処分場の建設・操業を許可することを決定しました。今後、処分場の建設、試験操業、通常操業のそれぞれの開始に先立ち、SSMが安全性の精査を行う予定です。


⑤ フィンランド

 フィンランドでは、2022年3月時点で5基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約34%です。
 政府は、気候変動対策やロシアへのエネルギー依存度の低減を目的として、エネルギー利用の効率化や再生可能エネルギー開発の推進と合わせて、原子力発電も活用する方針です。この方針に沿って、ティオリスーデン・ボイマ社は国内5基目の原子炉となるオルキルオト3号機(EPR、172万kW)の建設を2005年5月に開始しました。当初、2009年の運転開始が予定されていましたが、工事の遅延により大幅に遅れて2022年3月に送電網に接続されました。また、国内6基目の原子炉として、フェンノボイマ社がハンヒキビ原子力発電所1号機の建設を計画しており、2015年9月から建設許可申請の審査が行われています。
 フィンランドは、高レベル放射性廃棄物の処分地が世界で初めて最終決定された国です。地元自治体の承認を経て、政府は2000年末に、地層処分場をオルキルオトに建設する方針を決定しました。2003年には地下特性調査施設(オンカロ)の建設が許可され、建設作業と調査研究が実施されています。その後、地層処分事業の実施主体であるポシバ社が2012年12月に地層処分場の建設許可申請を行い、政府は2015年11月に建設許可を発給しました。また、2020年代の操業開始に向け、ポシバ社は2021年12月に地層処分場の操業許可申請書を政府に提出しました。なお、オンカロは、将来的には処分場の一部として活用される計画です。


⑥ スイス

 スイスでは、2022年3月時点で4基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約33%です。
 2011年3月の東電福島第一原発事故を受けて、「改正原子力法」が2018年に発効し、段階的に脱原子力を進めることになりました。改正原子力法では、新規炉の建設と既存炉のリプレースを禁止していますが、既存炉の運転期間には制限を設けていません。また、従来英国及びフランスに委託して実施していた使用済燃料の再処理も禁止となったため、使用済燃料の全量が直接処分されます。なお、法的な運転期限はありませんが、ミューレベルク原子力発電所については、運転者が経済性の観点から閉鎖する方針を決定し、2019年12月に閉鎖されました。
 放射性廃棄物に関しては、管理責任主体として1972年に放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が設立されました。また、1978年の「原子力法に関する連邦決議」により、既存原子力施設の運転継続や新規発電所の認可に当たり、放射性廃棄物が確実に処分可能であることが条件とされました。NAGRAが実施した地層処分の実現可能性に関する調査等を踏ま資料編276第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編用語集特 集はじめにえ、1988年に連邦評議会は、地層処分場の建設可能性や安全性は確認されたとする評価を示しました。地層処分場の候補地の絞り込みは、3段階のプロセスで進められています。2018年11月には、チューリッヒ北東部、ジュラ東部及び北部レゲレンの3エリアに候補が絞り込まれ、プロセスの第2段階が完了しました。2022年3月時点で、最終段階となる第3段階の手続が進められており、2030年頃には最終的な立地についての政府決定が行われる見込みです。


⑦ イタリア

 イタリアでは、1986年のチョルノービリ原子力発電所事故により原子力への反対運動が激化した後、1987年に行われた国民投票の結果を受け、政府が既設原子力発電所の閉鎖と新規建設の凍結を決定しました。その結果、2022年3月時点で、主要先進国(G7)の中で唯一、イタリアでは原子力発電所の運転が行われていません。
 電力供給の約10%以上を輸入に頼るという国内事情から、産業界等から原子力発電の再開を期待する声が上がったため、2008年4月に発足したベルルスコーニ政権(当時)は、原子力発電再開の方針を掲げて必要な法整備を進めました。しかし、2011年3月の東電福島第一原発事故を受けて、国内世論が原子力に否定的な方向に傾く中で、原子力発電の再開に向けて制定された法令に関する国民投票が実施された結果、原子力発電の再開に否定的な票が全体の約95%を占め、政府は原子力再開計画を断念しました。


⑧ ベルギー

 ベルギーでは、2022年3月時点で7基の原子炉(全てPWR)が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約39%です。
 2003年には脱原子力を定める連邦法が制定され、新規原子力発電所の建設を禁止するとともに、7基の原子炉の運転期間を40年に制限し、原則として2015年から2025年までの間に全て停止することが定められました。
 その後も、脱原子力の方針を維持しつつも、電力需給の安定性確保の観点から、原子炉の閉鎖時期の見直しが議論されています。7基のうち、2015年に閉鎖予定であったドール1、2号機及びチアンジュ1号機の合計3基は、閉鎖による電力不足の可能性が指摘されたこと等を受けて、法改正により閉鎖期限が10年後ろ倒しされ、2025年まで運転を継続することが可能になりました。2021年12月に政府は、2025年までに既存炉7基を全て閉鎖することで原則合意しましたが、最も新しいドール4号機とチアンジュ3号機については、エネルギー安定供給を保証できない場合に限り2025年以降も運転継続する可能性を残しました。さらに、2022年3月に、ロシアによるウクライナ侵略等の地政学的状況を踏まえ、化石燃料からの脱却を強化する観点から、政府は両基の運転を10年間延長することを決定し、必要な法改正を行う方針を示しました。
 ベルギーでは、高レベル放射性廃棄物及び長寿命の低中レベル放射性廃棄物は、同一の処分場で地層処分することとされており、1970年代から研究開発が進められています。1980年代には、モル地域に広がる粘土層に設置した地下研究所(HADES)を利用した研究開発が開始されました。なお、ベルギーは使用済燃料の再処理をフランスの再処理会社に委託していたため、ガラス固化体と使用済燃料の2種類が高レベル放射性廃棄物として扱われています。


⑨ オランダ

 オランダでは、2022年3月時点で1基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約3%です。稼働中の唯一のボルセラ原子力発電所(PWR)は、1973年に運転を開始した後、2006年には運転期間が60年間に延長され、2033年までの運転継続が可能となりました。
 1960年代から1970年代にかけてオランダでは2基の原子炉が建設されましたが、1960年代初頭に大規模な埋蔵量の天然ガスが発見されたことや、チョルノービリ原発事故後の世論の影響等を受け、1986年に原子力発電所の新規建設プロジェクトが凍結されました。原子力発電所の建設は法的に禁止されていませんが、それ以来、政権交代等による政策の転換もあり、原子炉の建設は行われていません。しかし、カーボンニュートラル達成に向けて温室効果ガスを排出しないエネルギー源の必要性が高まる中、2021年12月、第4次ルッテ新政権は、2025年までの政策方針をまとめた合意文書において、既存のボルセラ原子力発電所の運転継続と原子炉2基の新設を行う方針を表明しました。
 放射性廃棄物に関しては、1984年の政策文書において、まずは隔離と管理から開始し、最終的に地層処分を行う方針が決定されました。放射性廃棄物は少なくとも100年間地上で貯蔵することとされており、この貯蔵期間に地層処分に関する研究が進められています。初期の研究では、オランダの地下深部にある適切な岩層(岩塩層と粘土層)においてで放射性廃棄物を地層処分することが可能であることが示されました。


⑩ スペイン

 スペインでは、2022年3月時点で7基の原子炉(PWR6基、BWR1基)が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約22%です。
 化石燃料資源に乏しいスペインは、1960年代から原子力発電を導入してきましたが、1979年の米国スリーマイル島事故や1986年のチョルノービリ原子力発電所事故を受け、脱原子力政策に転換しました。近年は、脱原子力を完了する前に、気候変動対策のために既存の原子炉を活用する方針です。政府は、2020年1月に国家エネルギー・気候計画2021-2030を策定し、温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で少なくとも20%削減する目標を掲げました。同計画では、目標達成のため当面は既存原子炉の40年超運転も行い、7基のうち4基を2030年までに、残りの3基を2035年末までに閉鎖するとしました。全ての原子炉は10年ごとに安全レビューを受けることが義務付けられており、その評価に基づき、通常は10年間の運転許可更新が付与されます。2021年10月に運転期間の延長が許可されたアスコ原子力発電所1、2号機を含め、2022年3月時点で、稼働中の7基のうち6基は40年を超える運転が許可されています。
 放射性廃棄物の管理及び原子力発電所の廃止措置は、政府によって承認される総合放射性廃棄物計画(GRWP)に基づき、放射性廃棄物管理会社(ENRESA)が行っています。2022年3月時点で最新のGRWPは、2006年に決定された第6次GRWPです。スペインは、国外に委託して使用済燃料の再処理を実施していましたが、政府は1983年以降、再処理を行わない方針に変更しました。使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の処分に向けて、1980年代にENRESAが施設の立地活動を開始しましたが、自治体等による反対を受けて1990年代に中断され、政府は放射性廃棄物の最終的な管理方針の決定を延期しました。その後も、ENRESAは、花こう岩、粘土層及び岩塩層を候補地層とした地層処分に係る研究開発を続けています。2022年3月時点で審議中の第7次GRWP草案では、地層処分場の操業開始は2073年を目標としており、それまでの間、使用済燃料は各原子力発電所サイト及び集中中間貯蔵施設(ATC)で貯蔵されることとされています。なお、ATCの建設に関する許認可は、第7次GRWPが承認されるまで中断されています。


⑪ 中東欧諸国

 中東欧諸国では、2022年3月時点で、ブルガリア(2基)、チェコ(6基)、スロバキア(4基)、ハンガリー(4基)、ルーマニア(2基)、スロベニア(1基)の6か国で計19基の原子炉が稼働中、スロバキアで2基が建設中です。また、ポーランドでも原子力発電の新規導入が計画されています。なお、この地域で運転中の原子炉は、ルーマニアの2基(CANDU炉)とスロベニアの1基(米国製加圧水型軽水炉(PWR))を除き、全て旧ソ連型の炉です。
 このうちEU加盟国では、EU加盟に際し、旧ソ連型炉の安全性を懸念する西側諸国の要請を受けて複数の原子炉が閉鎖されました。一方で、電力需要の増加と低炭素化、天然ガス供給国であるロシアへの依存度低減等の観点から、複数の国で原子炉の新増設や社会主義体制崩壊後に建設が中断された原子炉の建設再開等が計画されています。国際的な経済情勢の下で、EUの国家補助(State Aid)規則や公正競争に係る規則への抵触を避けつつ、いかに原子力事業に係る資金調達を行うかが大きな課題となっています。
 ポーランドでは、2021年2月に、2040年までの長期エネルギー政策(PEP2040)が閣議決定されました。PEP2040には原子力新規導入のロードマップも含まれており、2033年に初号機を運転開始後、10年間で発電用の中大型炉を合計6基まで拡大していく方針です。2021年12月には、初号機のサイトとしてバルト海沿岸のルビャトボ・コパリノが選定されました。また、発電用原子炉の次の段階として、産業での熱利用を想定した小型炉の導入も検討しています。さらに、エネルギー需要側である化学産業も参画して、SMRの導入検討が進められています。


(3)旧ソ連諸国

① ロシア

 ロシアでは、2022年3月時点で37基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約20%です。このうち2基は、2020年5月に商業運転を開始した、SMRかつ世界初の浮体式原子力発電所であるアカデミック・ロモノソフです。高速炉についても、ベロヤルスクでナトリウム冷却型高速炉の原型炉1基、実証炉1基の合計2基が稼働しています。また、3基が建設中です。このうち1基は、鉛冷却高速炉のパイロット実証炉BREST-300で、2021年6月にシベリア化学コンビナートサイトで建設が開始されました。
 ロシアは、2030年までに発電電力量に占める原子力の割合を25%に高め、従来発電に用いていた国内の化石燃料資源を輸出に回す方針です。加えて、2021年10月には、2060年までにカーボンニュートラルを達成する方針を定めた政令が制定されました。原子力行政に関しては、2007年に設置された国営企業ロスアトムが民生・軍事両方の原子力利用を担当し、連邦環境・技術・原子力監督局が民生利用に係る安全規制・検査を実施しています。原子力事業の海外展開も積極的に進めており、ロスアトムは旧ソ連圏以外のイラン、中国、インドにおいてロシア型加圧水型原子炉(VVER)を運転開始させているほか、トルコやフィンランド等にも進出しています。原子炉や関連サービスの供給と併せて、建設コストの融資や投資建設(Build)・所有(Own)・運転(Operate)を担うBOO方式での契約も行っており、初期投資費用の確保が大きな課題となっている輸出先国に対するロシアの強みとなっています。
 また、政治的理由により核燃料の供給が停止した場合の供給保証を目的として、2007年5月にシベリア南東部のアンガルスクに国際ウラン濃縮センター(IUEC)を設立しました。2010年以降、IAEAの監視の下で約120tの低濃縮ウランを備蓄しています。
 ロシアでは、原則として使用済燃料を再処理する方針であり、使用済燃料は発電所内や集中貯蔵施設で、再処理に伴い発生するガラス固化体は再処理工場のあるマヤークのサイト内で、それぞれ貯蔵されています。ガラス固化体の処分については、2011年7月に「放射性廃棄物管理法」が制定され、地層処分することが定められました。2018年以降、地層処分場のサイト決定に向けた地下研究所の建設が行われています。


② ウクライナ

 ウクライナでは、2022年3月時点で15基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約51%です。
 ウクライナ政府は、2017年8月に策定された新エネルギー戦略において、2035年まで総発電量が増加する中で、原子力発電比率を約50%に維持する目標を設定しています。かつては、核燃料供給や石油・天然ガス等、エネルギー源の大部分をロシアに依存していましたが、クリミア問題等に起因する両国の関係悪化もあり、原子力分野も含めてロシアへの依存脱却に向けた取組を進めています。1990年に建設途上で中断したフメルニツキ3、4号機については、両機をVVERとして完成させる計画で2010年にロシアと協力協定を締結しましたが、議会は2015年に計画の撤回及び同協定の取り消しを決議しました。その後、2016年に韓国水力・原子力会社(KHNP)と協力協定を締結し、ロシアからの事業引継に関する検討を行うなど、ロシア以外の国との関係を強化しています。このほか、既存原子炉への燃料供給元の多様化や寿命延長のための安全対策等にも、欧米の企業や国際機関の協力を得て取り組んでいます。
 なお、チョルノービリ原子力発電所では、1986年に事故が発生した4号機を密閉するため、国際機関協力の下で老朽化したコンクリート製「石棺」を覆うシェルターが建設され、2019年7月にウクライナ政府に引き渡されました。
 2022年2月には、ロシアがウクライナへの侵略を開始しました。同年2月から3月にかけて、ロシア軍は、チョルノービリ原子力発電所やウクライナ最大の原子力発電所であるザポリッジャ原子力発電所を占拠するとともに、放射性廃棄物処分場へのミサイル攻撃や核物質を扱う研究施設への砲撃も実施しました。このような事態に対し、IAEAを始めとする国際社会は重大な懸念を表明しています。


③ カザフスタン

 カザフスタンは、2022年3月時点で原子力発電所を保有していませんが、世界一のウラン生産国です。
 ウルバ冶金工場(UMP)において、国営原子力会社カズアトムプロムがウラン精錬、転換及びペレット製造等を行っています。同社は、2030年までに世界の核燃料供給の3割を占めることを目標に、事業の多国籍化・多角化を図っており、UMP内のプラントにラインを増設して様々な炉型向けの燃料を製造する計画です。また、同社は、低濃縮ウランの国際備蓄にも大きく関与しています。IAEAとの協定に基づきUMPで建設が進められていたウラン燃料バンクは、2017年8月に開所した後、2019年12月までにフランスのオラノ社及びカズアトムプロムから90tの低濃縮ウラン納入が完了し、備蓄が開始されました。さらに、カズアトムプロムは、ロシアのIUECに10%出資しています。
 原子力発電については、中小型炉を中心とした本格導入が検討されています。2030年までに原子力発電設備容量を150万kWとする発電開発計画が2012年に策定され、2014年にはロスアトムとカズアトムプロムの間で設備容量合計30~120万kWの原子炉建設に係る協力覚書に署名しました。ただし、導入計画は進んでおらず、原子力発電所の建設についてカザフスタン政府の決定は行われていません。一方で、2021年12月には、米国ニュースケール社との間で、SMR導入検討に関する覚書を締結しています。


④ その他の旧ソ連諸国

 アルメニアでは、2022年3月時点で、アルメニア原子力発電所の1基の原子炉(VVER、44.8万kW)が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約35%です。2022年1月には、原子炉増設に向け、ロシアのロスアトムが同発電所との間で覚書を締結したことを発表しました。
 ベラルーシでは、2021年6月に、初の原子炉となるオストロベツ原子力発電所1号機(VVER、111万kW)が営業運転を開始しました。同発電所の建設はロシアのロスアトムが担っており、2022年には2号機の運転開始が見込まれています。
 ウズベキスタンは、原子力発電の導入に向け、2018年9月にロシアとの間でVVER2基の建設に係る政府間協定を締結しました。2030年までの運転開始を目指し、サイト選定やIAEAによる統合原子力基盤レビュー等が行われています。
 エストニアでは、原子力発電の導入に向けた検討を行うため、2021年4月に政府がワーキンググループを設置しました。また、同国のフェルミ・エネルギア社は、SMRの導入を目指し、複数の外国企業と協力覚書を締結しています。


(4)アジア

① 韓国

 韓国では、2022年3月時点で24基の原子炉が稼働中で、2020年の原子力発電比率は約30%です。また、4基の原子炉が建設中です。
 かつての韓国政府は、エネルギーの安定供給や気候変動対策に取り組むため、低炭素電源として原子力発電を維持する方針を示し、原子力技術の国産化と次世代炉の開発等、積極的な原子力政策を進めてきました。しかし、2017年5月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、新増設を認めず、設計寿命を終えた原子炉から閉鎖する漸進的な脱原子力を進める方針を打ち出しました。政府は、討論型世論調査の結果を踏まえ、同年10月に、建設中の新古里5、6号機については建設継続を認めましたが、計画段階にあった6基の新設は白紙撤回し、設計寿命満了後の原子炉の運転延長を禁止する脱原子力ロードマップを決定しました。2020年から2034年までの15年間を対象とした「第9次電力需給基本計画」では、2034年の原子力発電を2020年比3.9GW減となる19.4GWとしています。
 国内で脱原子力政策を進める一方で、文政権は、輸出については国益にかなう場合は推進する方針を打ち出しました。韓国電力公社(KEPCO)は、アラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原子力発電所において、2012年から4基の韓国次世代軽水炉APR-1400の建設を進めてきました。1号機は2018年に竣工し、2020年2月には60年の運転認可が発給され、2021年4月に営業運転を開始しました。また、2号機も2020年7月に竣工し、2021年3月に運転認可を取得し、同年8月に初臨界に達し、同年9月に送電網に接続されました。韓国政府はそのほかにも、サウジアラビア、チェコ、ポーランド等の原子炉の新設を計画する国に対してアプローチしています。サウジアラビアとは、2015年に、10万kW級の中小型原子炉(SMART)の共同開発の覚書を締結しています。ヨルダンには、熱出力0.5万kWの研究用原子炉を建設し、2016年に初臨界を達成しました。
 高レベル放射性廃棄物の管理・処分に関しては、使用済燃料の再処理は行わないこととしています。2016年7月に「高レベル放射性廃棄物管理基本計画」が策定され、中間貯蔵施設や地層処分場を同一サイトにおいて段階的に建設する方針が示されました。文政権による計画見直しが進められましたが、2021年12月に策定された「第2次高レベル放射性廃棄物管理基本計画」においても、中間貯蔵施設や地層処分場を同一サイトに建設する方針が維持されています。
 なお、韓国では2022年3月に大統領選挙が実施され、脱原子力政策を撤回し、原子力発電所の新設再開及び既存炉の運転期間延長等を行うことを選挙公約として掲げた尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が当選しました。


② 中国

 中国では、2022年3月時点で53基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約5%ですが、設備容量は合計5,000万kWを超え、発電電力量では米国に次ぐ世界第2位です。また、19基の原子炉が建設中です。
 原子力発電の拡大が進められており、米国ウェスチングハウス社製のAP1000やフランスのフラマトム社が開発したEPRも運転を開始しています。2021年3月には、2021年から2025年までを対象とした「第14次五か年計画」が策定され、2025年までに原子力発電の設備容量を7,000万kWとする目標が示されています。
 軽水炉の国産化及び海外展開にも力を入れており、米国及びフランスの技術をベースに、中国核工業集団公司(CNNC)と中国広核集団(CGN)が双方の第3世代炉設計を統合して国産のPWRである華龍1号を開発し、2015年12月には両社出資による華龍国際核電技術有限公司(華龍公司)が発足しました。華龍1号は、中国国内では福清5、6号機が運転を開始しており、更に10基が建設中です。国外でも、華龍1号を採用したパキスタンのカラチ原子力発電所において、2021年5月に2号機が営業運転を開始し、2022年3月に3号機が送電網に接続されました。また、英国でも、2015年の両国首脳合意に基づき、原子力発電所新規建設への中国企業の出資が予定されており(ヒンクリーポイントC、サイズウェルC)、華龍1号の建設も検討されています(ブラッドウェルB)。そのほか、中国の原子力事業者は、中東やアジア、南米等においても、高温ガス炉や、AP1000の技術に基づき中国が自主開発しているCAP1400等を含む各種原子炉の建設協力に向け、協力覚書の締結等を進めています。
 さらに、高速炉、高温ガス炉、SMR等の開発も進められています。中国実験高速炉CEFRは2010年に初臨界を達成し、2011年に送電を開始しており、2017年には高速実証炉初号機の建設が開始されました。高温ガス炉については、石島湾発電所の実証炉が2021年9月に初臨界に達しました。SMRについては、2021年7月に玲龍1号の実証炉の建設が開始されました。
 中国では、軽水炉から発生する使用済燃料を再処理する方針であり、使用済燃料は発電所の原子炉建屋内の燃料プール等で貯蔵されています。再処理に伴い発生するガラス固化体の処分については、2006年2月に公表された「高レベル放射性廃棄物地層処分に関する研究開発計画ガイド」に基づき、今世紀半ばまでの処分場建設を目指すこととされています。


③ 台湾地域

 台湾地域では、2022年3月時点で3基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約13%です。
 台湾地域における原子力政策は、住民投票の結果や政権交代により、原子力政策が何度も転換されてきました。2000年に発足した民進党政権は、段階的脱原子力政策を掲げていました。その後、2008年の政権交代で発足した国民党政権は、再生可能エネルギー社会に至るまでの過渡的な電源として原子力発電を維持する方針を示し、龍門で建設中であった第四原子力発電所(改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基、各135万kW)の建設を継続するとともに、既存炉のリプレースや増設も検討する意向を示しました。しかし、2011年3月の東電福島第一原発事故を受け、同年6月、中長期的な脱原子力発電へと再度政策を転換し、既存炉の寿命延長やリプレースを行わないことが決定されました。
 蔡政権(民進党)下の2017年1月には、2025年までに原子力発電所の運転を全て停止するとの内容を含む「改正電気事業法」が成立しましたが、2018年11月に実施された住民投票によりこの脱原子力条文は失効しています。しかし、2019年1月に、政府は脱原子力政策を継続する方針を発表しました。2021年7月には國聖第二原子力発電所1号機が早期閉鎖され、同年12月に実施された住民投票では第四原子力発電所の建設再開への反対意見が多数を占めました。今後、第四原子力発電所の建設や既存炉の運転延長が実施されなければ、運転認可の満了により2025年には全ての原子力発電所が閉鎖されることになります。


④ ASEAN諸国

 ASEANを構成する10か国は、2022年3月時点で、いずれも原子力発電所を保有していません。しかし、気候変動対策やエネルギー安全保障の観点から、原子力計画への関心を示す国が増加しています。
 ベトナムでは2009年に、2020年の運転開始を目指して原子力発電所を2か所(100万kW級の原子炉計4基)建設する計画が国会で承認されました。ニントゥアン第1、第2原子力発電所は、ロシアと我が国がそれぞれ建設プロジェクトのパートナーに選定されました。しかし、2016年11月、政府は国内の経済事情を背景に両発電所の建設計画の中止を決定し、国会もこれを承認しました。
 インドネシアは、2007年に制定された「長期国家開発計画(2005年から2025年まで)に関する法律」において、2015年から2019年までに初の原子炉の運転を開始し、2025年までに追加で4基の原子炉を運転開始させる計画を示しました。しかし、ムリア半島における初号機建設計画は2009年に無期限延期となり、2010年以降は原子力発電所建設の決定には至っていません。一方で、政府は、ロシアや中国の協力を得て実験用発電炉(高温ガス炉)の建設計画を進めるなど、商用発電炉導入に向けたインフラ整備を進めています。
 タイは、2010年に公表した電源開発計画(PDP2010)において、2020年から2028年までの間に5基の原子炉(各100万kW)を運転開始する方針を示していましたが、東電福島第一原発事故や2014年の軍事クーデター後の政情不安等に伴い、計画は先送りされています。軍による暫定政権下で2015年に発表された電源開発計画(PDP2015)では、初号機を2035年、2基目を2036年に運転開始するとされています。
 マレーシアは、2010年に策定した「経済改革プログラム」において原子力発電利用を検討し、2011年にマレーシア原子力発電会社(MNPC)を設立しました。2021年と2022年に原子炉各1基を運転開始することを目標としていましたが、2018年9月にマハティール首相(当時)が行った演説では原子力利用の可能性を否定しています。
 フィリピンでは、ドゥテルテ大統領が2020年7月に大統領令第116号を発出し、原子力政策の再検討や長期的な発電オプションとして原子力を利用する可能性の検討が必要であるとの認識の下、国家原子力計画の策定に向けた省庁間委員会の設置を指示しました。2021年12月に省庁間委員会が提出した報告書を踏まえ、2022年2月には大統領令第146号を発出し、エネルギーミックスに原子力を加える国家原子力計画を承認しました。同大統領令は省庁間委員会に対し、1986年の完成後も運転しないままとなっているバターン原子力発電所(62万kW)の利用や、他の原子力利用施設の設置について検討することを求めました。なお、バターン原子力発電所については、2017年11月にロシアのロスアトムとの間で修復を含むプラント状態の技術監査に係る協力覚書に署名したものの、大統領は、まずは周辺住民の意見を聴取すべきであるとの見解を表明しています。また、フィリピン政府とロスアトムは、2022年1月に、SMRの検討を進めるための予備的な実現可能性調査に関する共同行動計画を策定しました。


⑤ インド

 インドでは、2022年3月時点で23基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約3%です。このうち17基が国産の加圧重水炉(PHWR)、2基が沸騰水型軽水炉(BWR)、2基がVVER、2基がCANDU炉です。また、8基の原子炉が建設中です。
 原子力発電の利用については、急増するエネルギー需要を賄うために拡大する方針です。2018年から2027年までを対象とする国家電力計画では、原子力発電設備容量を、2017年の約600万kWから2027年3月までに約1,700万kWへと拡大する見通しが示されています。また、インドは、2021年11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に際して、2070年までのカーボンニュートラル達成を目指すことを宣言しました。
 核兵器不拡散条約(NPT)未締約国であるインドに対しては、従来、核実験実施に対する制裁として国際社会による原子力関連物資・技術の貿易禁止措置が講じられており、専ら国産PHWRを中心に原子力発電の開発を独自に進めてきました。しかし、2008年以降に米国、フランス、ロシア等と相次いで二国間原子力協定を締結したことにより、諸外国からも民生用原子力機器や技術を輸入することができるようになりました。既に運転を開始しているロシアのVVERに加え、2018年にはフランスからのEPR導入について枠組み合意が結ばれました。2019年には、米国との高官協議においてAP1000導入に合意しました。
 また、インドは独自のトリウムサイクル開発計画に基づき、高速増殖炉(FBR)の開発・導入を進めています。1985年に運転を開始した高速増殖実験炉(FBTR)については、2011年に、2030年までの運転延長が決定しました。また、上述の建設中8基のうちの1基は高速増殖原型炉(PFBR)です。


⑥ その他の南アジア諸国

 パキスタンでは、2022年3月時点で6基の原子炉が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約7%です。2014年に公開された原子力エネルギービジョン2050では、2050年までに原子力発電設備容量を約4,000万kWへと拡大する見通しが示されています。パキスタンは、インドと同じくNPT未締約国であるため、中国や米国等と二国間原子力協定を締結して核物質、原子力、資機材技術の輸入を行っています。特に中国との関係性が強く、中国の華龍1号が採用されたカラチ原子力発電所2、3号機は、2021年5月に2号機の営業運転が開始され、2022年3月には3号機が送電網に接続されました。
 バングラデシュは、2041年までに先進国入りすることを目標とする「ビジョン2041」政策を掲げており、その一環として、電力需要の増加への対応や電気の普及率向上等のため、原子力発電の導入を目指しています。2022年3月時点で、2基(VVER、各120万kW)が建設中です。


(5)中東諸国

 中東地域では、2022年3月時点で、イランで1基、UAEで2基の原子炉が稼働中です。また、その他の国においても、電力需要の伸びを背景として、原子力発電所の建設・導入に向けた動きが活発化しています。
 イランでは、ロシアとの協力で建設されたブシェール原子力発電所1号機が2013年に運転を開始しました。また、両国は2014年、イランに更に8基の原子炉を建設することで合意し、このうちブシェール2号機の建設が2019年11月に開始されています。
 UAEでは、電力需要の増加により、2020年までに4,000万kW分の発電設備が必要との見通しを受け、フランス、米国、韓国と協力し原子力発電の導入を検討してきました。2020年までにバラカに100万kW級原子炉4基を建設するプロジェクトに関する国際入札の結果、2009年末に、KEPCOを中心とするコンソーシアムが建設等の発注先として選定されました。2012年に建設が開始された1号機は、2018年に竣工し、2020年2月に60年の運転認可が発給されました。同年8月に同機は初臨界を達成、2021年4月に営業運転を開始しました。また、2号機も2020年7月に竣工し、2021年3月に運転認可を取得、同年8月には運転を開始し、同年9月に送電網に接続されました。
 トルコは、経済成長と電力需要の伸びを背景にして、原子力発電の導入を進めています。アックユ原子力発電所ではロシアが120万kW級原子炉4基を建設する予定で、1号機は2018年4月、2号機は2020年4月、3号機は2021年3月に建設が開始されています。
 サウジアラビアは、2030年までに16基の原子炉を建設する計画です。原子力導入に向けて、2018年7月には、2基の商用炉を新設するプロジェクトの応札可能者として米国、ロシア、中国、フランス及び韓国の事業者が選定されています。
 ヨルダンは、フランス、中国、韓国と原子力協定に署名し、同国初の原子力発電所建設を担当する事業者の選定を進めていました。2013年10月にはロシアを優先交渉権者として選定し、2015年10月に原子力発電所の建設・運転に関する政府間協定を締結したものの、2018年7月にロシアからの商用炉導入計画の中止が公表されました。


(6)アフリカ諸国

 アフリカでは、2022年3月時点で、唯一南アフリカ共和国で原子力発電所が稼働しています。また、その他の国においても、原子力発電所の建設・導入に向けた動きが見られます。
 南アフリカ共和国では、クバーグ原子力発電所で2基の原子炉(PWR)が稼働しており、2020年の原子力発電比率は約6%です。同国では、今後の原子力導入に関する検討が続けられており、2019年10月に策定された統合資源計画(IRP2019)では、2030年以降の石炭発電の減少分をクリーンエネルギーで賄うために、SMRの導入を含めて検討を進める必要性が指摘されています。
 エジプトは、ロシアとの間で、2015年11月に120万kW級の原子炉(VVER)4基の建設・運転に関する政府間協定を締結し、さらに、2017年12月にはダバ原子力発電所建設に係る契約を締結しました。エジプト原子力発電庁は、2021年6月に同発電所1、2号機の建設許可を、同年12月には同発電所3、4号機の建設許可を原子力規制・放射線当局に申請しました。
 アルジェリアは、2027年の運転開始を目指して国内初の原子力発電所の建設を計画しており、2007年12月のフランスとの原子力協定締結を始めとして、米国、中国、アルゼンチン、南アフリカ共和国、ロシアと原子力協定を締結しています。
 モロッコは、2009年に公表した国家エネルギー戦略に基づき、2030年以降のオプションとして原子力発電の導入を検討する方針です。2017年10月には、ロシアとの間で原子力協力覚書を締結しており、モロッコ国内での原子力発電導入を目的とした共同研究を開始することとしています。
 ナイジェリアは、2025年までに120万kW分の原子力発電所の運転開始を目指し、2035年までに合計480万kWまで増設する計画です。同国はロシアとの間で、2009年3月に原子力協力協定を、2017年10月にはナイジェリアにおける原子力発電所の建設・運転に向けた協定を締結しています。
 ケニアは、中長期的な開発計画であるVision2030の中で、総発電電力設備容量を1,900万kWまで拡大する目標を掲げており、この目標の達成に向けて原子力を活用する方針です。この方針に基づき、韓国、中国、ロシアとの協力を進めています。


(7)大洋州諸国

 大洋州諸国は、2022年3月時点で、いずれも原子力発電所を保有していません。
 オーストラリアは、世界最大のウラン資源埋蔵量を有していますが、豊富な石炭資源を背景に、これまで原子力発電は行われていません。ただし、温室効果ガス排出削減の観点から、原子力発電導入の是非が度々議論されています。
 オーストラリアでは、2005年の京都議定書発効後、保守連合政権下で原子力発電の導入を検討する方針が示されましたが、2007年に原子力に批判的な労働党へと政権が交代し、検討は中止されました。近年は、パリ協定の目標達成に向けた気候変動対策と電気料金高騰抑制の観点から、原子力発電導入の可能性を検討する機運が再び高まっています。2017年には、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)が、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)に正式加盟しました。2019年には、連邦議会下院の環境エネルギー常任委員会が政府に報告書を提出し、原子力利用に関して、第3世代プラス以降の先進炉を将来のエネルギーミックスの一部として検討すること等を提言しました。また、2020年5月に連邦政府が公表した温室効果ガス削減に向けた技術投資ロードマップでは、低炭素技術の一つとしてSMRの導入可能性に言及し、海外の開発状況を注視するとしています。
 オーストラリアにおけるウラン輸出については、2021年に初の原子力発電所が営業運転を開始したUAEに加え、長年禁輸対象であったインド、燃料供給のロシア依存度低減に取り組むウクライナ等と協定を締結し、新興国等への輸出拡大を図っています。


(8)中南米諸国

 中南米諸国では、2022年3月時点で、メキシコ(2基)、アルゼンチン(3基)、ブラジル(2基)の3か国で計7基の原子炉が稼働中です。
 メキシコでは、2基のBWRが稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約5%です。2018年に発行された国家電力システム開発プログラム(PRODESEN)2018-2032では、2029年から2031年までに1基ずつ、計3基を運転開始する計画が示されていました。しかし、2021年に公表されたPRODESEN2020-2034では、2034年までの期間について原子力発電所の建設計画は示されていません。
 アルゼンチンでは、PHWR2基とCANDU炉1基の計3基が稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約8%です。2022年2月には、アトーチャ3号機の計画について、中国との間で華龍1号の建設に係る契約を締結しました。また、その後の計画として、ロシア製VVERの建設も検討されています。
 ブラジルでは、2基のPWRが稼働中であり、2020年の原子力発電比率は約2%です。経済不況により1980年代に建設を中断していたアングラ3号機は、2010年に建設が再開されましたが、2015年以降は建設が再度中断されています。2019年には、政府が同機の建設を再開する方針を公表しており、運転開始は2026年頃と見込まれています。さらに、2022年1月に公表されたエネルギー拡張10か年計画(PDE2031)では、新たに100万kW級原子炉の運転を2031年に開始する方針を示しました。また、核燃料工場を始めとする核燃料サイクル施設が立地するレゼンデでは、燃料自給を目的としてウラン濃縮工場が2006年から稼働しており、段階的に拡張されています。
 キューバでは、1980年代に2基の原子炉が着工されましたが、提供者であった旧ソ連の崩壊に伴い建設中止となりました。キューバとロシアは、2016年9月に原子力の平和利用に関する二国間協定を締結しており、2019年には多目的照射センターの建設について合意しています。
 ボリビアでは、ロシアとの協力により、研究炉1基や円形加速器(サイクロトロン)を含む、原子力技術研究開発センターが建設されています。




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