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6-3 現世代の責任による放射性廃棄物処分の着実な実施

 全ての人間の活動は廃棄物を生み出します。原子力発電所、核燃料サイクル施設、大学、研究施設、医療機関等における原子力のエネルギー利用や放射線利用、施設の廃止措置等においても、廃棄物が発生します。これらの廃棄物には放射性物質を含むものがあり、放射性廃棄物と呼ばれます。人間の生活環境に有意な影響を与えないように放射性廃棄物を処分することは、原子力利用に関する活動の一部として重要です。原子力利用による便益を享受し放射性廃棄物を発生させた現世代の責任として、将来世代に負担を先送りしないという認識の下で、放射性廃棄物の処分が着実に進められています。


(1)放射性廃棄物の処分の概要と安全確保

① 放射性廃棄物の処分の概要

 放射性廃棄物の処分に当たっては、原子力利用による便益を享受し放射性廃棄物を発生させた現世代の責任として、その処分を確実に進め、将来世代に負担を先送りしないとの認識を持つことが必要です。IAEAの安全要件では、放射性廃棄物の発生は可能な限り抑制することとされており、廃棄物発生の低減、当初意図されたとおりの品目の再使用、材料のリサイクル、そして最終的に放射性廃棄物として処分する、という順序で検討されます。
 我が国でも、最終的に処分する放射性廃棄物について、含まれる放射性核種の種類と量に応じて適切に区分した上で処分するという方針の下で、必要な安全規制等の枠組みの整備を進めています(図6-13)。放射性廃棄物は、高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に大別され、それぞれの性質に応じた取組が進められています。また、放射線による障害の防止のための措置を必要としない放射能濃度のものについては、再利用又は一般の産業廃棄物として取り扱うことができる「クリアランス制度」の運用も行われています。


放射性廃棄物の種類と処分方法

図6-13 放射性廃棄物の種類と処分方法

(出典)第43回原子力委員会資料第2号 内閣府「低レベル放射性廃棄物等の処理・処分を巡る動向等について」(2021年)に基づき作成


② 放射性廃棄物の処分の安全確保

 我が国では、放射性廃棄物の処分事業を行おうとする者は、埋設の種類(表6-5)ごとに原子力規制委員会の許可を受ける必要があります。許可を受けるに当たり、廃棄する核燃料物質又は核燃料物質によって汚染されたものの性状及び量、廃棄物埋設施設の位置、構造及び設備並びに廃棄の方法を記載した申請書を原子力規制委員会に提出しなければならないとされています。
 原子力規制委員会は、許可を与えるに当たり、①その事業を適確に遂行するに足りる技術的能力及び経理的基礎があること、②廃棄物埋設施設の位置、構造及び設備が核燃料物質又は核燃料物質によって汚染されたものによる災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するもの及び廃棄物埋設施設の保安のための業務に係る品質管理に必要な体制が原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであることを審査します。


表6-5 放射性廃棄物の埋設の種類
埋設の区分 概要 具体的な処分方法
第一種
廃棄物埋設
人の健康に重大な影響を及ぼすおそれがあるものとして政令で定める基準を超える放射性廃棄物を、埋設の方法により最終処分すること 地層処分
第二種
廃棄物埋設
第一種廃棄物埋設に該当しない放射性廃棄物を、埋設の方法により最終処分すること 中深度処分、ピット処分、トレンチ処分

(出典)「原子炉等規制法」等に基づき作成


(2)高レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する取組と現状

① 高レベル放射性廃棄物の発生・処理・保管

 原子炉を稼働させると使用済燃料が発生します。この使用済燃料を再処理することで生じる放射能レベルの非常に高い廃液は、ガラス原料と混ぜて溶融し、キャニスタと呼ばれるステンレス製の容器に注入した後、冷却し固体化します。出来上がったガラス固化体と呼ばれる高レベル放射性廃棄物(図6-14)は、製造直後の表面温度が200℃を超えるため、発熱量が十分小さくなるまで地上の貯蔵施設で30年から50年間程度保管されます。


ガラス固化体の例

図6-14 ガラス固化体の例

(出典)資源エネルギー庁「高レベル放射性廃棄物」に基づき作成


 2022年3月末時点で、国内に保管されているガラス固化体は合計2,492本です(表6-6)。このうち、日本原燃の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで保管されているガラス固化体は、我が国の原子力発電により生じた使用済燃料がフランス及び英国の施設において再処理された際に発生し、我が国に返還されたものです。2016年10月末までに両国から合計1,830本が返還されており、今後、更に英国から約380本の返還が予定されています。


表6-6 高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の保管量(2022年3月末時点)
施設名 2021年3月末時点の保管量(本) 2021年度内の発生量又は受入量(本) 2022年3月末時点の総保管量(本) 備考
原子力機構
東海再処理施設
316 13 329 廃止措置の過程で、施設に貯蔵されている廃液の固化を順次実施中
日本原燃再処理事業所 再処理施設 346 0 346 アクティブ試験の過程で製造されたもの
高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター 1,830 0 1,830 (内訳)
フランスから返還:1,310本
英国から返還:520本
合計 2,492 13 2,505

(出典)原子力機構「再処理廃止措置技術開発センター(週報)」、日本原燃「再処理工場の運転情報(月報)」、日本原燃「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの運転情報(月報)」に基づき作成


② 高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組方針

 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(平成12年法律第117号。以下「最終処分法」という。)により、高レベル放射性廃棄物及び一部の低レベル放射性廃棄物(地層処分対象TRU廃棄物9)は、地下300m以上深い安定した地層中に最終処分(地層処分、図6-15)することとされています。同法に基づき、最終処分事業の実施主体である原環機構が設立されるとともに、処分地の選定プロセスが定められました。また、2015年5月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」の改定が閣議決定され、国、原環機構、事業者、研究機関が適切な役割分担と相互の連携の下、国民の理解と協力を得ながら、責務を果たしていく方針が改めて示されました。
 最終処分に必要な費用については、2000年以降、廃棄物発生者である電気事業者等から処分実施主体である原環機構へ納付され、その拠出金は、公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センターにより資金管理・運用されています。


地層処分の仕組み

図6-15 地層処分の仕組み

(出典)原環機構「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する対話型全国説明会説明資料」(2022年)


③ 高レベル放射性廃棄物の最終処分事業を推進するための取組

 高レベル放射性廃棄物の処分地選定に当たっては、既存の文献により過去の火山活動の履歴等を調査する「文献調査」、ボーリング等により地上から地下の状況を調査する「概要調査」、地上からに加え地下施設を設置した上で地下環境を詳細に調査する「精密調査」といった段階的な調査を行うことが最終処分法により定められています(図6-16)。


処分地選定のプロセス

図6-16 処分地選定のプロセス

(出典)第21回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会資料3 資源エネルギー庁「原子力政策の課題と対応について」(2021年)


 経済産業省は2017年7月に、地層処分の仕組みや日本の地質環境等について理解を深めていただくため、客観的なデータに基づいて、火山や断層といった地層処分に関して考慮すべき科学的特性を4色の色で塗り分けた「科学的特性マップ」(図6-17)を公表しました。科学的特性マップの公表以降、経済産業省及び原環機構によって対話型全国説明会が実施されています。こうした活動の結果、地層処分に関心を持ち、自主的に勉強や情報発信に取り組むグループ(NPOや経済団体等)が、2021年12月末時点で、全国で約110団体にまで増えてきています。このような中、北海道の寿都町、神恵内村において、文献調査を2020年11月から実施しており、原環機構は2021年3月に「NUMO寿都交流センター」及び「NUMO神恵内交流センター」を開設するとともに、同年4月から神恵内村と寿都町でそれぞれ「対話の場」を開催しています。引き続き、対話活動を通じて、地域理解に取り組むとともに、全国のできるだけ多くの地域で事業について関心を持っていただき、調査を実施できるよう、全国での対話活動を継続しています10


科学的特性マップ

図6-17 科学的特性マップ

(出典)資源エネルギー庁「科学的特性マップ公表サイト


 また、原環機構は、2021年2月に「包括的技術報告:我が国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-」の改訂版を公表しました。同報告は、サイト調査の進め方、安全な処分場の設計・建設・操業・閉鎖、さらに、閉鎖後の長期間にわたる安全性確保に関し、これまで蓄積されてきた科学的知見や技術を統合し、サイトを特定しない一般的なセーフティケース11として説明したものであり、事業の進展に応じて作成するサイト固有のセーフティケースの基盤として活用していくとされています。
 最終処分の実現に向けた各国の取組を加速するため、国際協力の強化も進められています。2019年6月に、世界の主要な原子力利用国の政府が参加する「最終処分国際ラウンドテーブル」が立ち上げられました。2020年8月には、ラウンドテーブルを共催した経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)が、政府の役割や各国の対話活動の知見・経験・ベストプラクティス、研究開発協力の方向性等を盛り込んだ報告書を公表しました。我が国は、ラウンドテーブルで挙げられた研究開発で国際協力を強化すべき分野の具体化に向けて、専門家間で議論するためのワークショップをOECD/NEAとともに開催する意向を示すとともに、ラウンドテーブル参加国との知見の共有や各国の進捗のフォローアップを継続しながら、国内の取組に随時反映させ、日本における最終処分の実現に向けた道筋がつけられるよう、一歩ずつ取り組んでいくこととしています。

④ 高レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発

 高レベル放射性廃棄物の処理に関しては、原子力機構や日本原燃において研究開発が行われています。原子力機構では、高レベル放射性廃液のガラス固化施設の開発、運転を行い、ガラス溶融炉の改良等の技術開発を進め、運転技術、保守技術等を蓄積しています。また、日本原燃は、現行のガラス溶融炉でのトラブル対処で得た情報や知見を反映させた新型ガラス溶融炉の開発を進め、実機への導入判断に向けた検討を行っています。
 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関しては、原環機構において、処分事業の安全な実施、経済性及び効率性の向上等を目的とする技術開発が行われています。また、原子力機構等の関係機関により、基盤的な研究開発が行われています。原子力機構では、深地層に整備した研究施設において、地下坑道の掘削とそれに伴う深部地質環境変化の把握等の調査研究等を行っており、深地層を体験・理解するための貴重な場として見学会等も実施しています。北海道幌延町(堆積岩)の研究施設では、「令和2年度以降の幌延深地層研究計画」に基づき研究開発を進めています。岐阜県瑞浪市(結晶質岩)の研究施設は2019年度末で調査研究を終了し、2022年1月に坑道の埋め戻し及び地上施設の撤去が完了しました。また、茨城県東海村の核燃料サイクル工学研究所において、設計・評価に活用する評価モデルやデータベース等の技術基盤整備に関する研究開発を実施しています。
 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する研究は、地質環境調査・評価技術、工学・設計技術、処分場閉鎖後の長期安全性を確認するための安全評価技術等の多岐にわたる分野の技術を統合し、重複を避け効率的かつ効果的に実施する必要があります。そのため、原環機構や原子力機構を始めとする関係機関で構成される「地層処分研究開発調整会議」において、「地層処分研究開発に関する全体計画(平成30年度~令和4年度)」が策定されました。これらの機関が緊密に連携を図りつつ、地層処分に関する研究開発が計画的に進められています。


コラム ~海外事例:スウェーデンの最終処分地決定・建設承認に至る取組~

 スウェーデン政府は、2022年1月に、エストハンマル自治体のフォルスマルクにおける使用済燃料の最終処分施設の建設計画を承認しました。建設が開始されると、最終処分施設を建設中のフィンランドに続き、世界2例目となります。
 スウェーデンでは、1970年代から高レベル放射性廃棄物の処分に向けた調査研究が開始されており、1984年に制定された「原子力活動法」により、放射性廃棄物を安全に最終処分すること等が原子力発電事業者の責務として規定されました。この責務を果たすために、事業者は同年、共同出資により処分実施主体としてスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)を設立しました。
 SKB社は、1993年から約2年間かけて、2つの自治体においてフィージビリティ調査(我が国の文献調査に相当)を実施しました。しかし、いずれの自治体も住民投票の結果が反対多数となったため、以降の調査は打ち切られました。その後、SKB社は、全国マッピング(我が国の科学的特性マップに近いもの)の作成を含め、地層処分場の立地方法に関する文献ベースの研究である総合立地調査を進めました。この成果を活用してSKB社が申し入れを行い、1995年以降に新たに6つの自治体がフィージビリティ調査を受け入れました。
 さらに、6自治体のうち2つの自治体は、2002年からサイト調査(我が国の概要調査に相当)を受け入れ、2009年に処分地としてフォルスマルクが選定されました。2011年にはSKB社がフォルスマルクにおける最終処分施設の建設許可申請を行い、様々な審査や地元議会の承認を経て、2022年1月に建設計画の承認に至りました。今後、まずは施設の詳細な建設・操業条件の検討が予定されており、最終処分施設が完成し高レベル放射性廃棄物の搬入が完了するまでには約70年かかると見込まれています。
 このように長い時間をかけたプロセスにおいて、SKB社は、研究所や調査現場を積極的に公開し、国民が情報を入手して意見を表明できる場を様々な形で設けてきました。地道な対話等の結果、エストハンマル自治体で2020年に行われた意識調査では、約82%の住民が地元での処分場建設を支持するという結果が得られています。


フォルスマルクの最終処分場のイメージ図

フォルスマルクの最終処分場のイメージ図

(出典)資源エネルギー庁「諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について」(2022年)


(3)低レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する取組と現状

① 低レベル放射性廃棄物の発生・処理

 低レベル放射性廃棄物は、発生源別に分類されています。具体的には、原子力発電所から発生するもの(発電所廃棄物)、再処理施設、MOX燃料加工施設から発生するもの(TRU廃棄物)、ウラン濃縮施設、ウラン燃料加工施設から発生するもの(ウラン廃棄物)、大学、研究所、医療機関等における原子力のエネルギー利用、放射線利用、関連する研究開発から発生するもの(研究施設等廃棄物)に分類されています。
 原子力施設等の運転、廃止措置に伴い、様々な廃棄物が気体状、液体状、固体状で発生します。気体状の廃棄物(放射性気体廃棄物)は、放射性物質の濃度に応じて、減衰、洗浄等により処理し、高性能フィルターで放射性物質を取り除いた後、排気中の放射性物質濃度が規制基準値以下であることを確認した上で、大気中に放出します。液体状の廃棄物(放射性液体廃棄物)は、ろ過、脱塩、あるいは蒸発濃縮処理を行います。濃縮廃液はセメントやアスファルト等で固化処理し、放射性固体廃棄物としてドラム缶に詰めます。蒸発分や放射性物質の濃度が極めて低いものについては、再利用、あるいは放射性物質濃度が規制基準値以下であることを確認した上で施設外に放出します。固体状の廃棄物(放射性固体廃棄物)は、可燃性、難燃性、不燃性に仕分をしてドラム缶等の容器に入れます。廃棄物の性状によっては、焼却処理、圧縮処理、溶融処理、セメント充填固化処理等の減容・安定化処理を施した後で、ドラム缶等に詰めます。
 一方で、廃止措置等によって発生する蒸気発生器や給水加熱器等の大型金属は、現状、国内では専用の施設や設備を有さず、処理が困難な状況となっています。そのため、第6次エネルギー基本計画では、関連する国際条約や再利用に係る海外の実例等を踏まえ、相手国の同意を前提に有用資源として安全に再利用される等の一定の基準を満たす場合に限り例外的に輸出することが可能となるよう、必要な輸出規制の見直しを進めることとしています。

② 低レベル放射性固体廃棄物の保管

 ドラム缶等に詰められた放射性固体廃棄物は、各原子力施設等で保管されます。2021年3月末時点の、我が国における低レベル放射性固体廃棄物の保管状況は、表6-7のとおりです。
 原子力発電所等については、原子力発電所で約707,300本(200リットルドラム缶換算値、以下同様)、加工施設(ウラン濃縮施設、ウラン燃料加工施設)で約62,500本、再処理施設で約50,400本、廃棄物管理施設では1,100本、それぞれ保管されています。
 研究開発施設等については、原子炉等規制法施設で約357,700本、「放射性同位元素等の規制に関する法律」(昭和32年法律第167号。以下「放射性同位元素等規制法」という。)による規制を受ける施設では約271,200本、それぞれ保管されています12


表6-7 低レベル放射性固体廃棄物の保管量
(地層処分相当低レベル放射性廃棄物と想定されるものを含む)

低レベル放射性固体廃棄物の保管量(地層処分相当低レベル放射性廃棄物と想定されるものを含む)

(出典)実用発電用原子炉設置者等が原子力規制委員会に提出した「令和2年度下期放射線管理等報告書」(2021年)、原子力規制委員会「規制の現状」に基づき作成


③ 低レベル放射性固体廃棄物の処分

 低レベル放射性廃棄物の発生源、性状等は幅広く、含まれる放射性核種の種類と量に応じて、主にトレンチ処分、ピット処分、中深度処分に適切に区分して処分されます(図6-13)。地層処分の実施主体は原環機構、地層処分以外については、発電所廃棄物等の処分実施主体は原子力事業者等13、研究施設等廃棄物の処分実施主体は原子力機構となっています。
 トレンチ処分とは、放射能レベルが極めて低い廃棄物を、浅地中に定置して覆土する処分方法です。原子力機構は、動力試験炉(JPDR14)の解体で発生した極低レベルのコンクリート廃棄物を対象に、敷地内でトレンチ処分の埋設実地試験を行っています。1997年までの埋設段階終了後、埋設地の巡視点検等を行う保全段階の管理を2025年まで継続する予定です(図6-18)。また、日本原子力発電株式会社は、東海発電所の解体に伴い発生する極低レベル放射性廃棄物を発電所敷地内でトレンチ処分する計画で、原子力規制委員会による審査が進められています。


原子力機構の埋設実地試験における埋設段階(左)及び保全段階(右)の様子

図6-18 原子力機構の埋設実地試験における埋設段階(左)及び保全段階(右)の様子

(出典)原子力機構「埋設実地試験」


 ピット処分とは、放射能レベルの比較的低い廃棄物を、浅地中にコンクリートピット等の人工構築物を設置して埋設する処分方法です。原子力発電所の運転に伴い発生するものは、各原子力発電所で固化処理された後、青森県六ヶ所村の日本原燃低レベル放射性廃棄物埋設センターに運ばれます。同センターの1号埋設施設では、濃縮廃液、使用済樹脂、焼却灰等をドラム缶に収納し、セメント等で固めた廃棄体(均質固化体)を、2号埋設施設では、雑固体廃棄物(金属、プラスチック類、保温材、フィルター類等)をドラム缶に収納し、モルタルで固めた廃棄体(充填固化体)を対象として受け入れており、2022年3月末時点で、ドラム缶換算で合計約34万本の廃棄体を埋設しています(表6-8)。また、3号埋設施設の増設(対象は充填固化体)、1号埋設施設の対象への充填固化体の追加等を行う変更申請について、2021年7月に原子力規制委員会から許可されました。


表6-8 日本原燃における低レベル放射性廃棄物のピット処分量(2022年3月末時点)
2021年3月末時点の延べ埋設量(本) 2021年度の受入量(本) 2021年度の埋設量(本) 2022年3月末時点の延べ埋設量(本)
1号埋設施設 149,435 512 0 149,435
2号埋設施設 174,232 11,137 11,880 186,112
合計 323,667 11,649 11,880 335,547

(出典)日本原燃「低レベル放射性廃棄物埋設センターの運転情報(日報)」に基づき作成


 中深度処分とは、放射能レベルの比較的高い廃棄物を、地表から深さ70m以上の地下に設置された人工構造物の中に埋設する処分方法です。我が国ではまだ実施されておらず、具体的な管理の内容については、今後検討することとされています。
 研究開発施設等の廃棄物については、国が2008年に策定した「埋設処分業務の実施に関する基本方針」に基づき、原子力機構は、「埋設処分業務の実施に関する計画」(2009年11月策定、2019年11月最終変更)において、埋設処分業務の対象とする放射性廃棄物の種類及びその量の見込み等を示しています。また、原子力機構は、2018年12月に取りまとめたバックエンドロードマップ(図6-11)において、研究施設等廃棄物の埋設事業は放射能レベルの低いトレンチ処分及びピット処分から優先的に進め、第2期(2029年度から2049年度まで)での本格化を目指すとしています。この方針に基づき、処分場所の立地対応を進めるとともに、様々な種類の放射性核種が含まれる研究炉廃棄物中の放射能評価手法の確立に向けた検討等が進められています。
 また、原子力委員会は2021年12月に見解を取りまとめ、低レベル放射性廃棄物の処理・処分に当たっての基本的な考え方や、低レベル放射性廃棄物等の処理・処分に当たって留意すべき事項等を示しました(図6-19)。


「低レベル放射性廃棄物等の処理・処分に関する考え方について(見解)」の概要

図6-19 「低レベル放射性廃棄物等の処理・処分に関する考え方について(見解)」の概要

(出典)原子力委員会「低レベル放射性廃棄物等の処理・処分に関する考え方について(見解)」(2021年)に基づき作成


④ 低レベル放射性廃棄物処分の規制

 浅地中処分(ピット処分及びトレンチ処分)については、2019年12月に、第二種廃棄物埋設の事業規則15や第二種廃棄物埋設の許可基準規則16等が改正され、ピット処分施設や廃棄体に対する要求性能の明確化、規制期間終了後の被ばく評価シナリオの整理と線量基準の変更等が行われるとともに、原子炉施設以外の施設から発生する放射性廃棄物(ただしウラン廃棄物を除く)についてもピット処分及びトレンチ処分の対象に拡張されました。さらに、2021年10月に行われた第二種廃棄物埋設の事業規則の改正により、ウラン廃棄物についてもピット処分及びトレンチ処分の対象に追加されました。
 中深度処分については、2017年4月の原子炉等規制法の改正により、中深度処分における坑道の閉鎖措置計画の認可や規制期間終了後の廃棄物埋設地の掘削制限の制度が定められました。これを踏まえ、2021年10月に第二種廃棄物埋設の事業規則が改正され、中深度処分について、坑道の閉鎖措置計画に関する申請、認可基準及び閉鎖措置の確認に関する申請に必要な事項等が追加されるとともに、ウラン廃棄物が中深度処分の対象に追加されました。また、併せて第二種廃棄物埋設の許可基準規則等も改正され、中深度処分の廃棄物埋設地について、断層運動、火山現象その他の自然現象による人工バリアの著しい損傷の防止、侵食を考慮した深度の確保等の事項が追加されました。
 研究開発施設等の廃棄物については、発生源は多岐にわたることから、発生する放射性廃棄物の処分事業を規制する法律も原子炉等規制法、放射性同位元素等規制法、医療法等17にまたがり、複数の許可が必要となります。2017年4月の放射性同位元素等規制法の改正により、廃棄に係る特例として、許可届出使用者及び許可廃棄業者は、放射性同位元素等の廃棄を原子炉等規制法に基づく廃棄事業者に委託できることとされ、原子炉等規制法と放射性同位元素等規制法の間で処理・処分の合理化が図られました。また、原子力機構が保管している放射性廃棄物の中には、放射性物質で汚染された鉛等が混入しているものがあり、放射性廃棄物に含まれる重金属等の有害物質は、現時点ではどのような法令に基づき規制を行うか明確になっていないことから、安全規制の在り方について検討が行われています。


コラム ~海外事例:諸外国における低レベル放射性廃棄物の分類と処分方法~

諸外国における低レベル放射性廃棄物の分類と処分方法

(注1)地層処分対象を除く
(注2)原子力施設サイトの許可された埋立処分場
(注3)認可された一般の埋立処分場
(注4)原子力施設から発生した廃棄物に限定する環境保護指定施設
(注5)一般の埋立処分場
(注6)このほか、ウラン採鉱・製錬廃棄物がある
免除・クリアランスされた廃棄物は規制上の放射性廃棄物としての管理は受けない。
網掛けは、操業中あるいは実施中であることを示す。網掛けなしは、建設中、サイト選定中、検討中、見直し中のいずれかである。

(出典)内閣府作成



(4)クリアランス

① クリアランス制度

 原子力施設等の廃止措置に伴って発生する廃材等の大部分は、放射性物質によって汚染されていない廃棄物や、放射能濃度が極めて低く、人の健康への影響が無視できることから「放射性物質として扱う必要がないもの」です(図6-13)。このうち、後者については「クリアランス制度」が適用されます。クリアランス制度とは、放射能濃度が基準値以下であることを原子力規制委員会が確認したものを、原子炉等規制法による規制から外し、再利用又は一般の産業廃棄物として処分することができる制度です。2020年8月にクリアランスに係る規則が改正され、施設ごとに分かれていた規則が廃止され、全ての原子力施設から発生する資材及び廃棄物(ウラン廃棄物については金属くずのみ)がクリアランスの対象となりました。さらに、2021年10月に行われたクリアランスに係る規則の改正により、金属くず以外のウラン廃棄物についてもクリアランスの対象に追加されました。

② クリアランスの実績

 我が国では、これまで、原子炉等規制法に基づく原子力発電所、加工施設、一部の核燃料物質使用施設等の原子力施設の運転及び廃止措置・解体により発生した金属くず、コンクリート破片等にクリアランス制度が適用されています。2022年3月時点で、原子力施設から発生した金属2,160.4tとコンクリート3,866tがクリアランスされており、その一部は再利用されています(図6-20、表6-9)。これまでのところ、我が国では、クリアランス制度が社会に定着するまでの間は、電気事業施設や発電所内の施設で再利用するなど、電気事業者等が自主的に再利用先を限定することで、市場に流通することがないよう運用されています。今後、廃止措置の本格化に伴いクリアランス物の発生量の増加が見込まれる中、廃止措置の円滑な推進や資源の有効利用のため、再利用先の拡大とともに、クリアランス制度が社会に定着することが必要です。原子力規制庁は、2020年3月から「クリアランスの測定及び評価の不確かさに関する事業者との意見交換会」を開催しており、不確かさの取扱いについて理解を深め規制上の検討に役立てるための具体的な議論を行っています。
 なお、放射性同位元素の使用施設等から発生する放射性廃棄物についてもクリアランス制度が導入されていますが、実績はありません。


クリアランスされた金属等の再利用実績例

図6-20 クリアランスされた金属等の再利用実績例

(出典)第22回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会 資源エネルギー庁「着実な廃止措置に向けた取組」(2021年)



表6-9 クリアランスされた金属等の再利用実績例
原子力施設 再利用された廃棄物 再利用先等
日本原子力発電(株) 東海発電所の廃止措置工事から発生した金属 遮へい体、ブロック、車両進入防止ブロック、ベンチ、テーブル、埋込金物、クレーン荷重試験用ウェイト等の加工品を製作し、関連場所で使用又は展示
中深度処分用容器(内容器)を試験製作18
原子力機構
原子力科学研究所
研究炉JRR-3の改造工事により発生し保管廃棄されていたコンクリート 同研究所内の路盤材等に再利用
原子力機構
人形峠環境技術センター
解体、除染した使用済遠心分離機から発生したアルミ材 構内等の花壇の構造物及び土留め、同センター正門前広場に設置したテーブルとベンチに再利用

(出典)原子力規制委員会「クリアランス制度の実績」、電気事業連合会「クリアランス制度に関する国内外の状況」に基づき作成


(5)廃止措置・放射性廃棄物連携プラットフォーム(仮称)

 「廃止措置・放射性廃棄物連携プラットフォーム(仮称)19」では、国内の様々な関係機関の連携により、当該分野における情報体系の整備(図6-21)や、海外情報を含む各関係機関の取組の紹介による情報共有等を実施しています。また、2022年3月からは、2021年12月に原子力委員会が取りまとめた見解(図6-19)を踏まえ、低レベル放射性廃棄物の国内保有量と将来発生量の把握及び関係者間の情報共有や、安全性評価のひな形の整備についても同プラットフォームで実施することとしています。


放射性廃棄物に関する根拠情報の整備に係る関連機関の連携イメージ

図6-21 放射性廃棄物に関する根拠情報の整備に係る関連機関の連携イメージ

(出典)内閣府作成



  1. 超ウラン核種(原子番号92のウランよりも原子番号が大きい元素)を含む放射性廃棄物。
  2. 第5章5-4(1)「国による情報発信やコミュニケーション活動」を参照。
  3. 処分場の安全性が確かなものであることを科学技術的な論拠や証拠を多面的に駆使して説明した一連の文書。
  4. 法令で届出を義務付けられていない医療法等廃棄物は含まれていません。
  5. 一部の発電所廃棄物の処分については、日本原燃がピット処分を実施中。
  6. Japan Power Demonstration Reactor
  7. 「核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の第二種廃棄物埋設の事業に関する規則」。
  8. 「第二種廃棄物埋設施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」。
  9. 「医療法」(昭和23年法律第205号)、「臨床検査技師等に関する法律」(昭和33年法律第76号)、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号)及び「獣医療法」(平成4年法律第46号)。
  10. 経済産業省委託事業「原子力発電所等金属廃棄物利用技術開発」(2015年度から2017年度まで)にて実施。
  11. プラットフォームについては、第8章8-1(3)「原子力関係組織の連携による知識基盤の構築」を参照。



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