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第6章 廃止措置及び放射性廃棄物への対応

6-1 東電福島第一原発の廃止措置

 東電福島第一原発の廃炉は、汚染水・処理水対策、使用済燃料プールからの燃料取り出し、燃料デブリ取り出し等の作業からなり、「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下「中長期ロードマップ」という。)に基づいて進められています。汚染水を浄化した処理水については、地元や全国の関係者からの意見を伺うなどしながら、処分方針を決定しました。
 また、中長期にわたる廃止措置を遂行するためには、廃炉を支える技術の向上や、それらを担う人材の確保・育成を行うことも重要です。国や原子力関係機関は、国際社会に開かれた形で情報発信や協力を行いながら、廃炉に関する技術開発、研究開発、研究者や技術者等の人材育成、研究施設の整備等を進めています。


(1)東電福島第一原発の廃止措置等の実施に向けた基本方針等

 中長期ロードマップでは、東電福島第一原発の具体的な廃止措置の工程・作業内容、作業の着実な実施に向けた、研究開発から実際の廃炉作業までの実施体制の強化や、人材育成・国際協力の方針等が示されています。また、現場の状況等を踏まえて継続的に見直すこととされており、2019年12月に5回目の改訂が行われました(図6-1)。これに基づき、「復興と廃炉の両立」を大原則とし、国も前面に立ち、安全かつ着実に取組が進められています。


中長期ロードマップ(2019年12月27日改訂)の目標工程及び進捗

図6-1 中長期ロードマップ(2019年12月27日改訂)の目標工程及び進捗

(出典)資源エネルギー庁提供資料


 原子力損害賠償・廃炉等支援機構は、中長期ロードマップに技術的根拠を与え、その円滑・着実な実行や改訂の検討に資することを目的として、2015年以降毎年「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン」(以下「戦略プラン」という。)を策定しています。2021年10月に公表された戦略プラン2021では、特に、固体廃棄物の処理・処分方策とその安全性に関する技術的な見通しの提示、新型コロナウイルス感染症の影響を最小限にするための試験的取り出しに向けた課題、取り出し規模の更なる拡大の工法選定に向けた論点整理、ALPS処理水に係る取組の4点をポイントとして、中長期的な視点での技術戦略を提示しています。
 原子力規制委員会は、特定原子力施設監視・評価検討会を開催し、東電福島第一原発の監視・評価や同原発における放射性物質の安定的な管理に係る課題について検討を行っています。また、東電福島第一原発のリスク低減に関する目標を示すため、「東京電力福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ」(2015年2月策定、2022年3月最終改定。以下「リスク低減目標マップ」という。)を策定し、リスク低減目標マップに従って廃炉に向けた措置が着実に実施されていることを確認しています。
 東京電力は2022年3月、中長期ロードマップやリスク低減目標マップに掲げられた目標を達成するため、廃炉全体の主要な作業プロセスを示す「廃炉中長期実行プラン2022」を策定しました。廃炉作業の今後の見通しについて地元住民や国民に丁寧に分かりやすく伝えるとともに、作業の進捗や課題に応じて同実行プランを定期的に見直しながら、廃炉を安全・着実かつ計画的に進めていくとしています。
 なお、東電福島第一原発の廃炉・汚染水・処理水対策に関する体制は、図6-2のとおりです。


東電福島第一原発の廃炉に係る関係機関等の役割分担

図6-2 東電福島第一原発の廃炉に係る関係機関等の役割分担

(出典)原子力損害賠償・廃炉等支援機構「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2021」(2021年)


(2)東電福島第一原発の状況と廃炉に向けた取組

① 汚染水・処理水対策

 東電福島第一原発では、燃料デブリが冷却用の水と触れることや、原子炉建屋内に流入した地下水や雨水が汚染水と混ざること等により、新たな汚染水が発生しています。そのため、「東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針」(2013年9月原子力災害対策本部決定)に基づき、「汚染源を取り除く」、「汚染源に水を近づけない」、「汚染水を漏らさない」という三つの基本方針に沿って、様々な汚染水対策が複合的に進められています(図6-3)。


様々な汚染水対策

図6-3 様々な汚染水対策

(出典)資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ「汚染水との戦い、発生量は着実に減少、約3分の1に」(2019年)


 「汚染源を取り除く」対策として、ストロンチウム除去装置や多核種除去設備(ALPS)等の複数の浄化設備により、日々発生する汚染水の浄化を行っています。浄化処理を経た処理水の量は日々増え続けており、処理水の貯蔵用タンクの数は2022年3月末時点で計1,000基を超えています。
 2021年4月には、廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議においてALPS処理水の処分に関する基本方針が決定され、各種法令等を厳格に遵守するとともに、風評影響を最大限抑制する対応を徹底することを前提に、2年程度後にALPS処理水の海洋放出を行う方針が示されました。この決定を機に、風評被害の防止を目的としてALPS処理水の定義が変更され、「ALPS等の浄化装置の処理により、トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみをALPS処理水と呼称することとされました。また、同基本方針に定められた対策を、政府が一丸となって、スピード感を持って着実に実行していくため、ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議が新設されました。同年8月には、同会議の下に設置されたワーキンググループにおける意見交換1の内容等を踏まえ、「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分に伴う当面の対策の取りまとめ」が公表されました。この取りまとめに沿って、風評を生じさせない仕組みと、風評に打ち勝ち、安心して事業を継続・拡大できる仕組みの構築を目指し、今回盛り込んだ施策を着実に実行することとしています。当面の対策の取りまとめ以降、政府は対策を順次実施してきました。同年12月には、更に取組を加速させるため、対策ごとに今後1年の取組や中長期的な方向性を整理する「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた行動計画」を策定し、今後も対策の実施状況を継続的に確認して、状況に応じ随時、追加・見直しを行うこととしています(図6-4)。


ALPS処理水の処分に係る対策

図6-4 ALPS処理水の処分に係る対策

(出典)第11回原子力委員会資料第3号 経済産業省「廃炉・汚染水・処理水対策及び福島の産業復興について」(2022年)に基づき作成


 上記の行動計画等に沿った取組が、政府において、着実に進められています。例えば、安全対策については、原子力規制委員会において、東京電力から提出されたALPS処理水の処分に係る実施計画に対する審査が、公開の場で行われています。この審査と並行して、国際原子力機関(IAEA)の国際専門家が繰り返し来日し、東京電力の計画及び日本政府の対応について科学的根拠に基づき厳しく確認するとともに、その結果について国内外に高い透明性をもって発信しています。また、理解醸成の取組としては、漁業者を始めとする生産者や、その取引相手となる流通・小売事業者から消費者に至るまでサプライチェーン全体に係る皆様に対して、ALPS処理水の安全性や処分の必要性に関する説明を行うとともに、国内外の消費者等に対して、新聞広告やパンフレット、動画、SNS等を活用した広報を行うなどの取組が進められています。風評対策としては、2021年度補正予算及び2022年度予算において、事業者が安心して事業を継続・拡大できるよう生産性向上や販路拡大に対する支援など様々な施策を講じるために必要な予算が計上されました。さらに、放出に伴う風評影響を最大限抑制しつつ、仮に風評影響が生じた場合にも、水産物の需要減少への対応を機動的・効率的に実施し、漁業者が安心して漁業を続けていくことができるよう、水産物の一時的買取り・保管、販路拡大等を行うための基金が創設されています。

 また、東京電力は、ALPS処理水の処分に関する基本方針を踏まえて、実施主体として着実に履行するための対応を2021年4月に取りまとめるとともに、同年8月には、取水・放水設備や海域モニタリング等も含め、安全確保のための設備の具体的な設計及び運用等の検討状況、風評影響及び風評被害への対策を取りまとめました。さらに、東京電力は、国際的に認知された手法に従って定めた評価手法を用いて、ALPS 処理水の海洋放出に係る放射線の影響評価(設計段階)を実施し、線量限度や線量目標値、国際機関が提唱する生物種ごとに定められた値を大幅に下回り、人及び環境への影響は極めて軽微であるとする評価結果を公表しました。ALPS処理水を含む海水環境における海洋生物の飼育試験の開始に向けた準備や、取水・放水設備の詳細検討や工事の安全確保に向けた海域での地質調査等、ALPS処理水の海洋放出開始のために必要な取組を順次進めています。
 「汚染源に水を近づけない」対策は、汚染水発生量の低減を目的として、建屋への地下水等の流入を抑制するものです。建屋山側の高台で地下水をくみ上げ海洋に排水する地下水バイパス、建屋周辺で地下水をくみ上げ浄化処理後に海洋へ排水するサブドレン、周辺の地盤を凍結させて壁を作る陸側遮水壁(凍土壁)等の取組が行われています。こうした予防的・重層的な対策を進めたことにより、汚染水の発生量は、対策前の約540㎥/日(2014年5月)に対し、2021度の実績では約130㎥/日まで低減されました。中長期ロードマップでは、2025年内に汚染水発生量を100㎥/日以下に抑制するとされています。また、近年国内で頻発している大規模な降雨に備え、2022年の台風シーズン前までに豪雨リスクの解消を図るため、新たな排水路整備に向けた工事を実施しています。
 「汚染水を漏らさない」対策としては、海洋への流出をせき止める海側遮水壁、護岸エリアで地下水をくみ上げる地下水ドレン、信頼性の高い溶接型の貯水タンクへの置き換え等の取組が実施されています。また、建屋滞留水の漏えいリスクを低減するため、1~4号機建屋水位を順次引き下げています。1~3号機原子炉建屋、プロセス主建屋、高温焼却炉建屋を除く建屋内滞留水については、2020年12月以降、最下階床面より低い水位を維持する運用を継続しています。1~3号機原子炉建屋については、2022年度から2024年度内までに建屋滞留水を2020年末の半分程度(約3,000㎥程度)に低減する計画です。プロセス主建屋及び高温焼却炉建屋については、建屋滞留水の中に高線量の土嚢が残置されているため、まずは土嚢を回収した後で滞留水を処理する方針です。2021年5月から8月にかけて、エリアの線量測定や土嚢の詳細な位置の特定等を目的として、遠隔操作型の水中ロボットを用いた建屋地下階調査が実施されました。
 「汚染源に水を近づけない」と「汚染水を漏らさない」の両面から、津波の建屋流入に伴う建屋滞留水の増加と流出を防止すること等を目的に、防潮堤の設置が進められています。日本海溝津波防潮堤については、2020年4月内閣府の検討会で新たに日本海溝津波の切迫性があると評価されたことを踏まえ、2023年度下期の完成に向け、2021年6月に設置工事が開始されました。

② 使用済燃料プールからの燃料取り出し

 事故当時に1~4号機の使用済燃料プール内に保管されていた燃料は、リスク低減のため、各号機の使用済燃料プールから取り出しを行い、敷地内の共用プール等において適切に保管することとしています。
 1号機は、燃料取り出しプランについて工法の見直しも含め検討が進められた結果、オペレーティングフロア作業中のダスト対策の更なる信頼性向上や雨水の建屋流入抑制の観点から、原子炉建屋を覆う大型カバーを設置し、カバー内でガレキ撤去を行う案が選択されました(図6-5左)。2021年6月には残置されていた建屋カバーの解体工事が完了し、同年4月から大型カバー設置に向けた鉄鋼等の地組作業等が進められています。今後、2027年度から2028年度に燃料取り出しを開始し、2年程度をかけて取り出し完了を目指すとされています。
 2号機では、空間線量が一定程度低減していると判明していることや燃料取扱設備の小型化検討を踏まえ、ダスト飛散をより抑制するため、建屋を解体せず建屋南側に構台を設置してアクセスする工法が採用されています(図6-5右)。建屋内では2021年12月にオペレーティングフロア内の除染作業(その1)が完了し、建屋外では同年10月から燃料取り出し用構台設置に向けた地盤改良工事が実施されています。今後、2024年度から2026年度に燃料取り出しを開始し、2年程度をかけて取り出し完了を目指すとされています。
 3号機使用済燃料プールからの燃料取り出しは2021年2月に、4号機使用済燃料プールからの燃料取り出しは2014年12月に、それぞれ完了しました。また、6号機使用済燃料プールに貯蔵されている4号機の新燃料(180体)については、放射性物質が付着しているガレキの混入量を極力減らすことにより燃料の表面線量率を下げるため、2022年1月から水流を用いた洗浄作業を開始し、同年3月に完了しました。


1号機(左)及び2号機(右)における燃料取り出し工法の概要

図6-5 1号機(左)及び2号機(右)における燃料取り出し工法の概要

(出典)第86回廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議資料3-2 東京電力「1号機使用済燃料取り出しに向けた大型カバーの検討状況について」(2021年)、第98回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議資料3-3 東京電力「2号機燃料取り出しに向けた工事の進捗について」(2022年)に基づき作成


③ 燃料デブリ取り出し

 1~3号機では、事故により溶融した燃料や原子炉内構造物等が冷えて固まった「燃料デブリ」が、原子炉格納容器内の広範囲に存在していると推測されています。燃料デブリ取り出しに向け、遠隔操作機器・装置等を用いた原子炉格納容器内部の調査により、燃料デブリの分布、堆積物の性状や分布、線量等の状況把握が進められています。また、廃炉の進捗とともに、1~3号機原子炉格納容器内の堆積物等のサンプル取得が徐々に可能となっており、サンプル中の微粒子の化学的特性の分析や粒子形成時の炉内環境の推定が行われています。
 1号機では、原子炉格納容器内部の堆積物の回収手段や設備の検討等に係る情報を収集するため、2022年2月に、遠隔操作型の水中ロボットを用いた調査が開始されました。2号機では、将来の燃料デブリ取り出し工法検討や事故解明に活用するため、2021年8月から、シールドプラグ(原子炉格納容器上部のふたに当たる部分)の穿孔箇所を用いた線量調査を実施しています。
 中長期ロードマップでは2021年内に2号機で燃料デブリの試験的取り出しに着手するとされていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた作業工程の見直しを行い、2022年内を目標に試験的取り出しに着手する予定です。英国との協力により開発を進めていた試験的取り出し装置(ロボットアーム等)は、2021年7月に英国から我が国に到着し、性能確認試験やモックアップ試験、操作訓練等が進められています(図6-6)。


ロボットアームの性能確認試験の様子

図6-6 ロボットアームの性能確認試験の様子

(出典)第98回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議資料3-4 技術研究組合国際廃炉研究開発機構、東京電力「2号機PCV内部調査・試験的取り出し作業の準備状況」(2022年)


④ 廃棄物対策

 事故により、ガレキや水処理二次廃棄物等の固体廃棄物が発生しています。また、今後の燃料デブリ取り出しに伴い、燃料デブリ周辺の撤去物、機器等が廃棄物として発生します。これらは、破損した燃料に由来する放射性物質を含むこと、海水成分を含む場合があること、対象となる物量が多く汚染レベルや性状の情報が十分でないこと等、既往の原子力発電所の廃炉作業で発生する放射性廃棄物と異なる特徴があります。
 中長期ロードマップでは、2021年度頃までに、固体廃棄物の処理・処分方策とその安全性に関する技術的な見通しを示すとされています。これを受け、戦略プラン2021において、物量低減に向けた進め方、性状把握を効率的に実施するための分析・評価手法の開発、処理・処分方法を合理的に選定するための手法の構築について、技術的な見通しが示されました。また、中長期ロードマップでは、2028年度内までに、水処理二次廃棄物及び再利用・再使用対象を除く全ての固体廃棄物の屋外での保管を解消するとされています。東京電力は、2021年7月に「固体廃棄物の保管管理計画」の5回目の改訂を行い、当面10年程度に発生すると想定される固体廃棄物の量を念頭に、遮へい・飛散抑制機能を備えた保管施設や減容施設を導入して屋外での一時保管を解消する計画や、継続的なモニタリングにより適正に固体廃棄物を保管していく計画を示しました。

⑤ 作業等環境改善

 長期に及ぶ廃炉作業の達成に向けて、高度な技術、豊富な経験を持つ人材を中長期的に確保するため、モチベーションを維持しながら安心して働ける作業環境を整備することが重要です。作業環境の改善に向けて、法定被ばく線量限度の遵守に加え、可能な限りの被ばく線量の低減、労働安全衛生水準の不断の向上等の取組が行われています。2021年10月には、高放射線環境下での作業における被ばくリスクを更に減らすため、全面マスクを覆うことができる放射線防護装備が導入されました。また、多くの作業員が作業するエリアから順次、表土除去、天地返し、遮へい等の線量低減対策を実施しており、2021年度の線量状況確認では、1~4号機周辺(図6-7)や固体廃棄物貯蔵庫周辺等の線量低下が確認されています。


1~4号機周辺の平均線量率の推移及び線量分布

図6-7 1~4号機周辺の平均線量率の推移及び線量分布

(注)平均線量率、線量分布ともに、胸元高さ(地表面から1mの高さ)の測定値。線量分布は30mメッシュ。
(出典)第101回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議資料3-6 東京電力「福島第一原子力発電所構内の線量状況について」(2022年)に基づき作成


 さらに、定期的に、東電福島第一原発の全作業員(東京電力の社員を除く)を対象とした、労働環境の改善に向けたアンケートが実施されています。2021年8月から9月にかけて実施された第12回アンケートについては、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を含む労働環境に対する評価、放射線に対する不安、東電福島第一原発で働くことに対するやりがい等の様々な項目に関する要望や意見を踏まえ、2022年1月に改善の方向性やスケジュールが取りまとめられました。


(3)廃炉に向けた研究開発、人材育成及び国際協力

① 廃炉に向けた研究開発

 国、民間企業、研究開発機関、大学等が実施主体となり、廃炉研究開発連携会議の下で連携強化を図りつつ、基礎・基盤から実用化に至る様々な研究開発が行われています(図6-8)。


東電福島第一原発の廃炉に係る研究開発実施体制

図6-8 東電福島第一原発の廃炉に係る研究開発実施体制

(出典)原子力損害賠償・廃炉等支援機構「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2021」(2021年)


 経済産業省は、東電福島第一原発の廃炉・汚染水・処理水対策に係る技術的難度の高い研究開発のうち、国が支援するものについて研究開発を補助する「廃炉・汚染水・処理水対策事業」を実施しており、原子炉格納容器内の内部調査技術や、燃料デブリ取り出しに関する基盤技術、取り出した燃料デブリの収納・移送・保管に関する技術等の開発を進めています。
 文部科学省は、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」(以下「英知事業」という。)を実施しており、原子力機構の廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)を中核とし、国内外の多様な分野の知見を融合・連携させることにより、中長期的な廃炉現場のニーズに対応する基礎的・基盤的研究及び人材育成を推進しています。
 原子力機構は、CLADSを中心として、国内外の研究機関等との共同による基礎的・基盤的研究を進めています。また、廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、遠隔操作機器・装置の開発実証施設(モックアップ施設)として「楢葉遠隔技術開発センター」を運用しています。燃料デブリや放射性廃棄物等の分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う「大熊分析・研究センター」は、2018年3月に一部施設の運用を開始しており、分析実施体制の構築に向けて、低・中線量のガレキ類等の廃棄物やALPS処理水の分析を実施予定の第1棟、燃料デブリ等の分析を実施予定の第2棟の整備を進めています。

② 廃炉に向けた人材育成

 東電福島第一原発の廃炉には30年から40年を要すると見込まれており、中長期的かつ計画的に、廃炉を担う人材を育成していく必要があります。
 東京電力は、廃炉事業に必要な技術者養成の拠点として「福島廃炉技術者研修センター」を設置し、地元人材の育成に取り組んでいます。
 文部科学省は、英知事業の一部として「研究人材育成型廃炉研究プログラム」を実施し、原子力機構を中核として大学や民間企業と緊密に連携し、将来の廃炉を支える研究人材育成の取組を推進しています。
 原子力機構は、学生の受入制度の活用等を通じた人材育成を実施しています。また、CLADSを中心に、国内外の大学、研究機関、産業界等の人材交流ネットワークを形成しつつ、研究開発と人材育成を一体的に進める体制を構築しています。
 技術研究組合国際廃炉研究開発機構は、同機構の研究開発成果を報告するとともに、若手研究者や技術者を育成することを目的として、シンポジウムを開催しています。

コラム ~廃炉現場の汚染分布の3次元的な「見える化」~

 2021年5月に原子力機構は、複数のセンサーを統合し、汚染箇所や空間線量率を見える化した3次元マップを描写することができる統合型放射線イメージングシステム「iRIS」を開発したことを公表しました。機器やガレキ等の複雑な構造物が存在する東電福島第一原発の廃炉現場で、高濃度汚染箇所に近づくことなく短時間の計測を行い、汚染状況を詳細に見える化することができます。今後、iRISの3次元マップを活用することにより、作業者の事前トレーニング、効率的・効果的な除染の計画、作業時の被ばく低減等に貢献することが期待されます。


東電福島第一原発1、2号機排気筒付近における空間線量率と高濃度汚染箇所を
可視化した3次元マップ

東電福島第一原発1、2号機排気筒付近における空間線量率と高濃度汚染箇所を 可視化した3次元マップ

(出典)原子力機構「未来へげんきvol.59」(2021年)


③ 国際社会との協力

 東電福島第一原発事故を起こした我が国としては、国際社会に対して透明性を確保する形で情報発信を行い、事故の経験と教訓を共有するとともに、国際機関や海外研究機関等と連携して知見・経験を結集し、国際社会に開かれた形で廃炉等を進め、国際社会に対する責任を果たしていかなければなりません。また、廃炉作業の進捗や得られたデータ等を積極的に発信することは、福島の状況に関する国際社会の正確な理解の形成に不可欠です。
 我が国は、IAEAに対して定期的に東電福島第一原発に関する包括的な情報を提供し、IAEAとの協力関係を構築しています。2021年4月には、ALPS処理水の処分に関する基本方針の公表を受けてグロッシーIAEA事務局長がビデオメッセージを発表し、我が国が選択した方法は技術的に実現可能であり国際慣行にも沿っているとの認識を改めて述べました。廃炉に向けた取組の進捗については、同年6月から8月にかけて5回目となるIAEAの廃炉レビューを受けました(図6-9)。また、我が国は、同年9月のIAEA第65回総会2において、東電福島第一原発の状況について国際社会に対して科学的根拠に基づき透明性を持って説明を継続するとともに、ALPS処理水の安全性や規制面及び海洋モニタリングに関するレビューの実施に向けてIAEAと協力していく旨を示しました。さらに、2022年2月にはALPS処理水の処分の安全性について、同年3月にはALPS処理水に関する規制について、IAEAによるレビューが実施されました3


IAEA廃炉レビューによる評価報告書の主なポイント

図6-9 IAEA廃炉レビューによる評価報告書の主なポイント

(出典)経済産業省「IAEA廃炉レビューミッションが来日し、評価レポートを江島経済産業副大臣が受領しました」(2021年)に基づき作成


 IAEAを通じた取組に加え、原子力発電施設を有する国の政府や産業界等の各層との協力関係を構築しており、廃炉・汚染水・処理水対策の現状について継続的に情報交換を行っています。各国の在京大使館向けには累次にわたってブリーフィングを行っており、2021年度は合計7回ブリーフィングを実施しました。さらに、英語版動画やパンフレット等の説明資料を作成し、IAEA総会サイドイベントや要人往訪の機会等、様々なルートで海外に向けて情報を発信するとともに、経済産業省のウェブサイト4にも掲載しています。
 また、廃炉作業に伴い得られたデータも活用し、必要な技術開発等を進めるため、様々な国際共同研究が行われています。経済産業省の廃炉・汚染水対策事業や文部科学省の英知事業では、海外の企業や研究機関等との協力による取組が実施されています。また、原子力機構のCLADSでは、海外からの研究者招へい、海外研究機関との共同研究を実施しており、国際的な研究開発拠点の構築を目指しています。

コラム ~身の回りのトリチウムの存在と取扱い~

 トリチウムとは、水素の放射性同位体で、一般的な水素と同様に酸素と結合して水分子(トリチウム水)を構成します。トリチウムは、宇宙から地球へ降り注いでいる放射線(宇宙線)と地球上の大気が反応することにより自然に発生するため、トリチウム水の形で自然界にも広く存在し、大気中の水蒸気、雨水、海水、水道水、人の体内等にも含まれます。
 トリチウムは、原子力発電所の運転や使用済燃料の再処理でも発生します。トリチウム水は普通の水と同じ性質を持つため、トリチウム水だけを分離・除去することは非常に困難です。そのため、原子力発電所や再処理施設で発生したトリチウムは、過去40年以上にわたり、各国の規制基準を遵守して海洋や大気等に排出されています。我が国では、国際放射線防護委員会(ICRP5)の勧告に沿って規制基準が定められています。
 東電福島第一原発の汚染水の浄化により発生するALPS処理水にも、トリチウムが含まれます。ALPS処理水の処分に関する基本方針では、規制基準等の科学的な観点だけでなく、風評影響等の社会的な観点も含めた対応が示されています。同時に、トリチウム分離に関する技術動向を注視し、現実的に実用化可能な技術があれば積極的に取り入れる方針です。


(出典)経済産業省「ALPS処理水の処分に関する政府の対応について」(2021年)



  1. 第5章5-4(3)「東電福島第一原発の廃炉に関する情報発信やコミュニケーション活動」を参照。
  2. 第3章コラム「~IAEA総会~」を参照。
  3. ALPS処理水の安全性に関するレビューについては、2022年4月29日にIAEAが報告書を公表。
  4. https://www.meti.go.jp/english/earthquake/nuclear/decommissioning/index.html
  5. International Commission on Radiological Protection



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