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【資料編】

7 世界の原子力に係る基本政策


(1) 北米

① 米国

 米国は、2021年3月時点で94基の原子炉が稼働する、世界第1位の原子力発電利用国です。米国では、シェールガス革命により2009年頃から天然ガス価格が低水準で推移しており、原子力発電の経済性が相対的に低下しています。こうした状況は電気事業者の原子力発電の継続や新増設に関する意思決定にも影響を及ぼしています。
 米国では2021年1月に、バイデン民主党政権が発足しました。バイデン新大統領は先進的原子力技術をクリーンエネルギーのコスト削減の手段の一つと位置付けています。連邦議会では、おおむね共和・民主両党ともに、原子力発電を支持する姿勢であり、今後も先進炉の開発等に対する連邦政府・議会の支持姿勢は変わらないものと見られています。米国の政府予算は、毎年歳出法を制定することで連邦議会により決定されます。2017年のトランプ前政権の成立後は、原子力分野の研究開発予算について、議会は一貫して政権の予算要求を上回る額を連邦エネルギー省(DOE)に割り当てていました。また、2018年9月には、先進的な原子力技術開発等を促進する「原子力イノベーション能力法」が成立しました。このほかDOEは、「原子力分野のイノベーション加速プログラム(GAIN)」や「革新的原子炉実証プログラム(ARDP)」等を通じた先進炉や小型モジュール炉(SMR)の開発支援や、ボーグル3、4号機建設のために政府の債務保証プログラムを追加適用する手続の推進等の施策を行っています。
 米国において、原子力安全規制は原子力規制委員会(NRC)が担っています。NRCは、我が国の新検査制度である原子力規制検査の制度設計においても参考とされた、稼働実績とリスク情報に基づく原子炉監視プロセス(ROP)等を導入することで、合理的な規制の実施に努めています。2019年1月には、NRCに対し予算・手数料の適正化や先進炉のための許認可プロセス確立を指示する「原子力イノベーション・近代化法」が成立しており、規制の側からも既存炉・先進炉の開発を支援する取組が進むことが期待されます。また、同年12月にNRCは、ターキーポイント原子力発電所3、4号機に対して2度目となる20年間の運転認可更新を承認しました。米国で80年間運転が承認されたのはこれが初です。2020年3月には、ピーチボトム2、3号機も2度目の運転認可更新が承認されました。なお、産業界の自主規制機関である原子力発電運転協会(INPO)や、原子力産業界を代表する組織である原子力エネルギー協会(NEI)も、原子力の安全性向上のための自主的な取組を進めています。
 米国では、民生・軍事起源の使用済燃料や高レベル放射性廃棄物を同一の処分場で地層処分する方針に基づき、ネバダ州ユッカマウンテンでの処分場建設が計画され、ブッシュ政権期の2008年6月にDOEがNRCに建設認可申請を提出しました。しかし、オバマ政権が同プロジェクトを中止する方針を示して以降、膠着状態が続いています。
 なお、1977年のカーター民主党政権が使用済燃料の再処理を禁止したことを受けて、米国では再処理は行われておらず、最終処分場も未整備の状況であるため、使用済燃料は事業者が発電所等で貯蔵しています。


② カナダ

 カナダは世界有数のウラン生産国の一つであり、世界全体の生産量の約22%を占めています。カナダでは、2021年3月時点で19基の原子炉がオンタリオ州(18基)とニューブランズウィック州(1基)で稼働中であり、2019年の原子力発電比率は約15%です。原子炉は全てカナダ型重水炉(CANDU炉)であり、国内で生産される天然ウランを濃縮せずに燃料として使用しています。
 各地方政府と電気事業者は、今後の電力需要への対応と気候変動対策の両立手段として原子力利用を重視していますが、近年は、電力需要の伸びの鈍化等も踏まえ、経済性の観点から、原子炉の新増設よりも既存原子炉の改修・寿命延長計画を優先的に進めています。その一方で、SMRの研究開発には力を入れており、2018年11月には州政府や電気事業者等で構成される委員会により、SMRロードマップが策定されました。ロードマップでは、SMRの実証と実用化、政策と法制度、公衆の関与や信頼、国際的なパートナーシップと市場の4分野で、連邦・州政府や事業者等に対して、資金やリスクシェアの体制、効率的な許認可制度の構築等を促す勧告が提示されました。ロードマップの勧告を実現に移すために、2020年12月には連邦政府がSMR行動計画を公表しました。同計画では、連邦・州政府に加え産学官、自治体、先住民や市民組織等が実施すべき450項目が示されています。こうした中、カナダ原子力研究所(CNL)が同研究所の管理サイトにおいてSMRの実証施設建設・運転プロジェクトを進めているほか、安全規制機関であるカナダ原子力安全委員会(CNSC)が、小型炉や先進炉を対象とした許認可前ベンダー設計審査を進めています。
 カナダは使用済燃料の再処理を行わない方針を採っており、使用済燃料は原子力発電所サイト内の施設で保管されています。2002年に核燃料廃棄物法が制定され、処分の実施主体として核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立されました。NWMOが国民対話等の結果を踏まえて政府に提案し、採用された使用済燃料の長期管理アプローチに基づき、処分サイト選定プロセスが進められており、2021年3月時点では2か所の自治体を対象として現地調査が実施されています。


(2) 欧州

 欧州連合(EU)では、欧州委員会が2019年12月に、2050年までにEUにおける温室効果ガス排出量を実質ゼロ(気候中立)にすることを目指す政策パッケージ「欧州グリーンディール」を発表しました。2020年5月に発表された新型コロナウイルス感染症の流行からの復興計画「欧州復興計画」もこのグリーンディールを基軸としています。2021年3月時点で、このグリーンディールや欧州復興計画の実施に必要な法令や制度整備の取組が進められており、2030年までの温室効果ガス排出削減目標についても、従来の1990年比40%から55%に引き上げる調整が進められています。
 温室効果ガスの排出削減方法やエネルギーミックスの選択は各加盟国の判断に委ねられており、原子力発電の位置付けや利用方策について、EUとして統一的な方針は示されていません。しかし、2019年11月には、EU議会が第25回国連気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC COP25)開催に先立ち採択した決議文において、気候目標達成と域内電力供給における原子力発電の役割を評価する文言を盛り込むなどの動きが見られました。
 また、欧州委員会は、低炭素エネルギー技術開発及び域内の原子力安全向上の側面から、原子力分野における技術開発を推進する方針を示しています。EUにおける研究開発支援制度である「ホライズン2020」の枠組みにおいて、EU加盟国の研究機関や事業者等を中心に立ち上げられた研究開発プロジェクトに対し、資金援助が行われてきました。2021年内には、後継となる「ホライズン・ヨーロッパ」の枠組みでの取組が開始される予定です。


① 英国

 英国では、2021年3月時点で15基の原子炉が稼働中であり、2019年の原子力発電比率は約16%です。1990年代以降は原子炉の新設が途絶えていましたが、北海ガス田の枯渇や気候変動が問題となる中、英国政府は2008年以降一貫して原子炉新設を推進していく政策方針を掲げています。2020年11月には「10 Point Plan」を公表し、「英国は原子力技術のリーダーであり続ける」ことを宣言しました。
 2021年3月時点では、フランス電力(EDF)、中国広核集団(CGN)の出資により、ヒンクリーポイントC(欧州加圧水型原子炉(EPR)2基)、サイズウェルC(EPR2基)、ブラッドウェルB(華龍1号2基)の3サイトにおいて新設計画が進められています。このうちヒンクリーポイントCサイトにおける建設プロジェクトについては、2016年9月に政府、EDF、CGNの3者が差額決済契約(CfD)と投資合意書に署名しており、2018年11月に原子力規制局(ONR)からのコンクリート打設の許可が発給され、建設作業が開始されています。CfD制度により、発電電力量当たりの基準価格を設定し、市場における電力価格が基準価格を下回った場合には差額の補填を受けることができるため、長期的に安定した売電収入を見込めることになります。
 EPRのような大型炉以外にも、英国政府はSMRの建設も検討しており、そのための技術開発支援や規制対応支援を実施しています。例えば、英ロールスロイス社は軽水炉をベースとするSMRの開発を進めており、英国政府から2019年に1,800万ポンドの資金援助を受けています。また、英国政府は、より先進的な技術を活用したSMR開発も支援しており、2018年6月にフィージビリティスタディ実施支援対象として選定した8社の中から、実用化に向けた支援を行う対象として2020年7月に3社が選定されました。2020年11月には、2030年代初頭までにSMRの開発と革新モジュール炉(AMR)実証炉の建設を目指し、3.85億ポンドの革新原子力ファンドを創設しました。さらに、SMRの規制審査を行うため、英国政府からONRへの資金提供も実施する方針です。
 このような政府による支援が行われる一方で、原子炉新設は民間企業によって実施されるものであるため、巨額の初期投資コストを賄うための資金調達が大きな課題となります。ウィルファサイトでの新設を計画していた日立製作所が2020年9月にプロジェクトから撤退したことも、英国政府による資金調達支援の協議の難航が要因の一つでした。2021年3月時点で、英国政府は新たな資金調達支援策として、規制機関が認めた収入を事業者が確保できることで投資回収を保証する規制資産モデル(RAB)の導入を検討しています。
 英国では、1950年代から2018年11月まで、セラフィールド再処理施設で国内外の使用済燃料の再処理を行っていました。政府は2006年10月、国内で発生する使用済燃料の再処理で生じるガラス固化体について、再処理施設内で貯蔵した後で地層処分する方針を決定しました。2014年7月に公表した白書「地層処分-高レベル放射性廃棄物の長期管理に向けた枠組み」に基づきサイト選定プロセスの検討を進めてきましたが、2018年12月に新たな白書「地層処分の実施-地域との協働:放射性廃棄物の長期管理」を公表し、地域との協働に基づくサイト選定プロセスが新たに開始されました。
 なお、英国は2016年6月の国民投票の結果を受け、2020年1月末にEU及びユーラトムから離脱し、約1年間の移行期間を経て2020年末に完全離脱しました。英国政府は、ユーラトム離脱に伴い、IAEAと2018年6月に保障措置協定及び追加議定書に署名するとともに、米国との間で同年5月に、オーストラリアとの間で同年8月に、カナダとの間で同年11月に、それぞれ原子力平和利用に関する二国間協定に署名しました。また、2020年12月には、我が国との間で既存の二国間協定を改正する議定書に、ユーラトムとの間でも原子力協力協定に、それぞれ署名しました。


② フランス

 フランスでは、2021年3月時点で56基の原子炉が稼働中です。我が国と同様にエネルギー資源の乏しいフランスは、総発電電力量の約7割を原子力発電で賄う原子力立国であり、その規模は米国に次ぐ世界第2位となっています。また、10年ぶりの新規原子炉となるフラマンビル3号機(EPR、165万kW)の建設が、2007年12月以降進められています。
 2012年に発足したオランド前政権は、総発電電力に占める原子力の割合を2025年までに50%に縮減する目標を掲げ、2015年8月には、この政策目標が規定された「グリーン成長のためのエネルギー転換に関する法律」(エネルギー転換法)が制定されました。2017年に発足したマクロン政権もこの方針を踏襲しましたが、2025年までの原子力比率の削減目標を実現すると温室効果ガスの排出量を増加させる可能性があるとして、目標達成時期を2035年に先送りしました。また、2020年4月に政府が公表した改定版多年度エネルギー計画(PPE)では、2035年の減原子力目標達成のため、合計14基(このうち2基はフェッセンハイム原子力発電所の2基で、2020年6月末までに閉鎖済)の90万kW級原子炉を閉鎖する方針が示される一方で、2035年以降の低炭素電源の確保のため、原子力発電比率の維持を念頭に、6基のEPRの新設を想定して原子炉新設の検討を2021年頃まで行う方針も示されています。
 このように原子力縮減の方向性は示されていますが、一方で、マクロン政権も、フランスの原子力事業者の海外進出等を支援する方針です。政府は、円滑な原子力事業者の協力体制を構築するために、株式の大半を保有するEDF及びアレバ社を中心とする原子力産業界を再編し、アレバ社は燃料サイクル事業を担うオラノ社、原子炉製造事業を担うフラマトム社等に分割されました。フラマトム社の株式の75.5%をEDFが、19.5%を三菱重工業株式会社が、5%をフランスのエンジニアリング会社Assystemが保有しています。また、オラノ社には、日本原燃及び三菱重工業株式会社がそれぞれ5%ずつ出資しています。フラマトム社が開発したEPRについては、既に中国で2基の運転が開始されているほか、フランス及びフィンランドでは1基ずつ、英国では2基の建設が進められています。
 高レベル放射性廃棄物処分に関しては、2006年に制定された放射性廃棄物等管理計画法に基づき、「可逆性のある地層処分」を基本方針として、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)がフランス東部ビュール近傍で地層処分場の設置に向けた準備を進めています。同処分場の操業開始は2030年頃と見込まれています。なお、地層処分場の操業は、地層処分場の可逆性と安全性を立証することを目的としたパイロット操業フェーズから開始される予定です。その後、地層処分の可逆性の実現条件を定める法律が制定され、原子力安全機関(ASN)により地層処分場の全面的な操業許可に係る審査が行われます。


③ ドイツ

 ドイツでは、2021年3月時点で6基の原子炉が稼働中です。東電福島第一原発事故後に行われた2011年の原子力法改正により、各原子炉の閉鎖年限が定められており、2022年までに全ての原子力発電所を閉鎖して原子力発電から撤退することとされています。次の閉鎖は、2021年末に閉鎖年限を迎えるグローンデ、グンドレミンゲンC、ブロックドルフとなる予定です。なお、2020年には、2038年までに石炭火力発電から撤退する脱石炭政策も開始されています。
 ドイツでは、1970年代からゴアレーベンを候補地として高レベル放射性廃棄物処分場計画が進められてきましたが、東電福島第一原発事故後の原子力政策見直しの一環で白紙化されました。その後、公衆参加型の新たなサイト選定プロセスを経て、複数の候補地から段階的に絞り込みを行う方針が決定しました。この方針決定を受け、「発熱性放射性廃棄物の処分場サイト選定法」が制定され、2017年に新たなプロセスによるサイト選定が開始されました。同法では、2031年末までに処分場サイトを確定することが定められています。


④ スウェーデン

 スウェーデンでは、2021年3月時点で6基の原子炉が稼働中であり、2019年の原子力発電比率は約34%です。同国では、国民投票の結果や政権交代により、原子力政策が何度も転換されてきました。
 1980年の国民投票の結果を受け、2010年までに既存の原子炉12基(当時)を全廃するとの国会決議がなされましたが、代替電源確保のめどが立たない中、2006年に政府は脱原子力政策を凍結しました。その後、2014年10月に発足した社会民主党と緑の党の連立政権は脱原子力政策を推進することで合意しましたが、2016年6月には、同連立政権と一部野党が、既存サイトにおいて10基を上限としてリプレースを認める方針で合意しました。しかし、2021年3月時点でリプレースは実現しておらず、一部のプラントでは早期閉鎖が行われています。
 スウェーデンでは、使用済燃料の再処理は行わず、地層処分する方針です。使用済燃料は、各発電所で冷却された後、オスカーシャム自治体にある集中中間貯蔵施設(CLAB)で貯蔵されています。地層処分場については、2009年6月に立地サイトとしてエストハンマル自治体のフォルスマルクが選定され、使用済燃料処分の実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)が2011年3月に立地・建設の許可申請を行いました。原子力施設を建設するためには、環境法典に基づく許可と、原子力活動法に基づく許可の二つの許可が必要となり、前者は土地・環境裁判所、後者は放射線安全機関(SSM)による審査が進められています。環境法典に基づく許可の審査に関して、SSMは政府に対して提出した意見書において、許可を発給するよう勧告しています。しかし、土地・環境裁判所は、政府が環境法典に基づく処分場の許可を発給するためには、SKB社による処分場の安全性立証に関する追加資料の提出が必要であるとの結論を示しました。これを受け、SKB社は2019年4月に追加資料を提出しており、2021年3月時点では政府の判断が待たれています。


⑤ フィンランド

 フィンランドでは、2021年3月時点で4基の原子炉が稼働中であり、2019年の原子力発電比率は約35%です。政府は、気候変動対策やロシアへのエネルギー依存度の低減を目的として、エネルギー利用の効率化や再生可能エネルギー開発の推進と合わせて、原子力発電も活用する方針です。
 この方針に沿って、ティオリスーデン・ボイマ社(TVO社)は国内5基目の原子炉となるオルキルオト3号機(EPR、172万kW)の建設を2005年5月から進めていますが、工事の遅延により、運転開始は当初予定の2009年から大幅に遅れて2022年となる予定です。また、国内6基目の原子炉として、フェンノボイマ社がハンヒキビ原子力発電所1号機の建設を計画しており、2015年9月から建設許可申請の審査が行われています。
 フィンランドは、高レベル放射性廃棄物の地層処分場のサイトが世界で初めて最終決定された国です。地元自治体の承認を経て、政府は2000年末に、地層処分場をオルキルオトに建設する原則方針を決定しました。2003年には、同地において地下特性調査施設(ONKALO)の建設が許可され、建設作業と調査研究が実施されています。その後、地層処分事業の実施主体であるポシバ社が2012年12月に処分場の建設許可申請を行い、政府は2015年11月に建設許可を発給しました。地層処分場は2020年代に操業開始する予定です。


⑥ スイス

 スイスでは、2021年3月時点で4基の原子炉が稼働中であり、2019年の原子力発電比率は約24%です。同国では、2011年3月の東電福島第一原発事故を受けた改正原子力法が2018年に発効し、段階的に脱原子力を進めることになりました。
 改正原子力法では、新規炉の建設と既存炉のリプレースを禁止していますが、既存炉の運転期間には制限を設けていません。また、従来英国及びフランスに委託して実施していた使用済燃料再処理も禁止となったため、今後は使用済燃料の全量が直接処分されます。なお、既存炉の運転期間に法的な制限はありませんが、ミューレベルク原子力発電所については、運転者が経済性の観点から閉鎖する方針を決定し、2019年12月に閉鎖されました。
 放射性廃棄物処分場に関しては、3段階のプロセスで候補地の絞り込みが進められています。2018年11月に「チューリッヒ北東部」、「ジュラ東部」及び「北部レゲレン」の3エリアに候補が絞り込まれ、プロセスの第2段階が完了しました。2021年3月時点で、最終段階となる第3段階の手続が進められており、2030年頃には最終的な立地についての政府決定が行われる見込みです。


⑦ イタリア

 イタリアでは、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故により原子力への反対運動が激化した後、1987年に行われた国民投票の結果を受け、政府が既設原子力発電所の閉鎖と新規建設の凍結を決定しました。その結果、2021年3月時点で、主要先進国(G7)の中で唯一、イタリアでは原子力発電所の運転が行われていません。
 電力供給の約10%以上を輸入に頼るという国内事情から、産業界等から原子力発電の再開を期待する声が上がったため、2008年4月に発足したベルルスコーニ政権(当時)は、原子力発電再開の方針を掲げて必要な法整備を進めました。しかし、2011年3月の東電福島第一原発事故を受けて、国内世論が原子力に否定的な方向に傾く中で、原子力発電の再開に向けて制定された法令に関する国民投票が実施された結果、原子力発電の再開に否定的な票が全体の約95%を占め、政府は原子力再開計画を断念しました。


⑧ 中東欧及びコーカサス諸国

 中東欧及びコーカサス諸国では、2021年3月時点で、ブルガリア(2基)、チェコ(6基)、スロバキア(4基)、ハンガリー(4基)、ルーマニア(2基)、スロベニア(1基)、アルメニア(1基)の7か国で計20基の原子炉が運転中、スロバキアで2基が建設中です。また、ポーランドでも原子力発電の新規導入が計画されています。なお、同地域で運転中の原子炉は、ルーマニアの2基(CANDU炉)とスロベニアの1基(米国製加圧水型軽水炉(PWR))を除き、全て旧ソ連型の炉です。
 このうちEU加盟国では、EU加盟に際し、旧ソ連型炉の安全性を懸念する西側諸国の要請を受けて複数の原子炉が閉鎖されましたが、電力需要の増加と低炭素化、天然ガス供給国であるロシアへの依存度低減等の観点から、2021年3月時点で、複数の国で原子炉の新増設や社会主義体制崩壊後に建設が中断された原子炉の建設再開等が計画されています。ただし、現在の国際的な経済情勢の下、EUの国家補助(State Aid)規則や公正競争に係る規則への抵触を避けつつ、いかに原子力事業に係る資金調達を行うかが大きな課題となっています。
 ポーランドでは、2021年2月に、2040年までの長期エネルギー政策(PEP2040)が閣議決定されました。PEP2040には原子力新規導入のロードマップも含まれており、2033年に初号機を運転開始後、10年間で発電用の中大型炉を合計6基まで拡大していく方針です。また、発電用原子炉の次の段階として、産業での熱利用を想定した小型炉の導入も検討しており、我が国との協力も進められています。我が国の原子力機構とポーランド国立原子力研究センターは、2017年に高温ガス炉技術に関する協力のための覚書を締結し、2019年にはより具体的な実施取決めを締結しています。


(3) 旧ソ連諸国

① ロシア

 ロシアでは、2021年3月時点で38基の原子炉が稼働中で、2019年の原子力発電比率は約20%です。また、2基が建設中です。2020年5月には、初の浮揚式原子力発電所であるアカデミック・ロモノソフ2基が商業運転を開始しました。また、高速炉についても、ベロヤルスクでナトリウム冷却型高速炉の原型炉1基、実証炉1基の合計2基が運転中です。
 原子力行政に関しては、2007年に設置された国営企業ロスアトムが民生・軍事両方の原子力利用を担当し、連邦環境・技術・原子力監督局が民生利用に係る安全規制・検査を実施しています。
 ロシアは、2030年までに発電電力量に占める原子力の割合を25%に高め、従来発電に用いていた国内の化石燃料資源を輸出に回す方針です。また、原子力事業の海外展開を積極的に進めており、ロスアトムは旧ソ連圏以外のイラン、中国、インドにおいてロシア型原子炉(VVER)を運転開始させているほか、トルコやフィンランド等にも進出しています。原子炉や関連サービスの供給と併せて、建設コストの融資や投資建設(Build)・所有(Own)・運転(Operate)を担うBOO方式での契約も行っており、初期投資費用の確保が大きな課題となっている輸出先国に対するロシアの強みとなっています。
 また、ロシアは、政治的理由により核燃料の供給が停止した場合の供給保証を目的として、2007年5月にシベリア南東部のアンガルスクに国際ウラン濃縮センター(IUEC)を設立しました。同センターでは、2010年以降、IAEAの監視の下で約120tの低濃縮ウランを備蓄しています。


② ウクライナ

 ウクライナでは、2021年3月時点で15基の原子炉が稼働中であり、総発電電力量の50%以上を供給しています。従来、核燃料供給や石油・天然ガス等、エネルギー源の大部分をロシアに依存してきましたが、クリミア問題等に起因する両国の関係悪化もあり、原子力分野も含めてロシアへの依存脱却に向けた取組を進めています。
 ウクライナ政府は、2017年8月に策定された新エネルギー戦略において、2035年まで総発電量が増加する中で、原子力発電比率を約50%に維持する目標を設定しています。1990年に建設途上で中断したフメルニツキ3、4号機については、両機をVVERとして完成させる計画で2010年にロシアと協力協定を締結しましたが、議会は2015年に、ロシアに発注する計画を撤回し同協定を取り消すことを決議しました。その後、2016年に韓国水力・原子力会社(KHNP)と協力協定を締結し、ロシアからの事業引継に関する検討を行うなど、ロシア以外の国との関係を強化しています。このほか、既存原子炉への燃料供給元の多様化や寿命延長のための安全対策等にも、欧米の企業や国際機関の協力を得て取り組んでいます。
 なお、チェルノブイリ原子力発電所では、1986年に事故が発生した4号機を密閉するため、国際機関協力の下で老朽化したコンクリート製「石棺」を覆うシェルターが建設され、2019年7月にウクライナ政府に引き渡されました。


③ カザフスタン

 カザフスタンは、世界一のウラン生産国です。ウルバ冶金工場(UMP)において、国営原子力会社カズアトムプロムがウラン精錬、転換及びペレット製造等を行っています。同社は、2030年までに世界の核燃料供給の3割を占めることを目標に、事業の多国籍化・多角化を図っており、UMP内のプラントにラインを増設して様々な炉型向けの燃料を製造する計画です。また、カズアトムプロムは、低濃縮ウランの国際備蓄にも大きく関与しています。IAEAとの協定に基づきUMPで建設が進められていたウラン燃料バンクは、2017年に完工し、2019年12月までに90tの低濃縮ウラン納入が完了し、備蓄が開始されました。さらに、カズアトムプロムは、ロシアのIUECに10%出資しています。
 カザフスタンでは、中小型炉を中心とした原子力発電の本格導入も検討されています。2030年までに原子力発電設備容量を150万kWとする発電開発計画が2012年に策定され、2014年にはロスアトムとカズアトムプロムの間で設備容量合計30~120万kWの原子炉建設に係る協力覚書に署名しました。ただし、導入計画は進んでおらず、原子力発電所の建設についてカザフスタン政府の決定は行われていません。
 我が国との間では、2010年に原子力協定が締結されています。2015年には、日本原子力発電株式会社及び丸紅ユティリティ・サービス株式会社がカズアトムプロムと、原子力発電導入に向けた協力に関する協力協定を締結しました。また、原子力機構も、ウラン開発や高温ガス炉の研究開発で継続的に協力しています。


(4) アジア

① 韓国

 韓国では、2021年3月時点で24基の原子力発電所が運転中で、2019年の原子力発電比率は約26%です。また、4基の原子炉が建設中です。
 韓国政府は、エネルギーの安定供給や気候変動対策に取り組むため、二酸化炭素の排出が少ない電源として原子力発電を維持する方針を示し、原子力技術の国産化と次世代炉の開発等、積極的な原子力政策を進めてきました。しかし、2017年5月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、新増設を認めず、設計寿命を終えた原子炉から閉鎖する漸進的な脱原子力を進める方針を掲げています。政府は、討論型世論調査の結果を踏まえ、同年10月に、建設中の新古里5、6号機については建設継続を認めましたが、計画段階にあった6基の新設は白紙撤回し、設計寿命満了後の原子炉の運転延長を禁止する脱原子力ロードマップを決定しました。
 国内で脱原子力政策を進める一方で、文政権は、輸出については、国益にかなう場合は推進する方針を打ち出しています。韓国電力公社(KEPCO)は、アラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原子力発電所において、2012年から4基の韓国次世代軽水炉APR-1400の建設を進めてきました。1号機は2018年に竣工し、2020年2月には60年の運転認可が発給され、2021年内予定の営業運転開始に向けた準備が進められています。また、2号機も2020年7月に竣工し、2021年3月に運転認可を取得しました。
 韓国政府はそのほかにも、サウジアラビア、チェコ等の原子炉の新設を計画する国に対してアプローチしています。サウジアラビアとは、2015年に、10万kW級の中小型原子炉(SMART)の共同開発の覚書を締結しています。ヨルダンには、熱出力0.5万kWの研究用原子炉を建設し、2016年に初臨界を達成しました。


② 中国

 中国では、2021年3月時点で49基の原子炉が稼働中で、設備容量は合計4,700万kWを超えています。また、17基の原子炉が建設中です。原子力発電の拡大が進められており、米ウェスチングハウス(WH)社製のAP1000やフランスのフラマトム社が開発したEPR、中国国産の第3世代炉である華龍1号の初号機(福清5号機)が既に営業運転を開始しています。2019年10月には、福建省の漳州原子力発電所1号機の建設が開始されました。中国で、政府により原子炉の建設開始が承認されたのは、約4年ぶりです。また、東電福島第一原発事故を契機に、安全性の向上に向けた取組も強化されています。
 中国では、米国及びフランスの技術をベースに、中国核工業集団公司(CNNC)と中国広核集団(CGN)がそれぞれ軽水炉の国産化を進めてきましたが、これを統合して国産の華龍1号を開発し、2015年12月には両社出資による華龍国際核電技術有限公司(華龍公司)が発足しました。華龍1号は国内外での展開を想定しており、中国国内では福清5号機に続き、更に8基が建設中です。国外でも、華龍1号を採用したパキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機の建設が進められています。
 中国は近年、原子炉の国外輸出を積極的に進めています。前述のパキスタンに加え、英国でも、2015年の両国首脳合意に基づき、原子力発電所新規建設への中国企業の出資が予定されており(ヒンクリーポイントC、サイズウェルC)、更には華龍1号の建設も検討されています(ブラッドウェルB)。そのほか、中国の原子力事業者は、東欧、中東、アジア、南米等においても、高温ガス炉や、AP1000の技術に基づき中国が自主開発しているCAP1400等を含む各種原子炉の建設協力に向け、協力覚書の締結等を進めています。
 なお、中国はクローズドサイクルの実現に向けた高速炉開発も進めており、2010年には中国実験高速炉CEFRが初臨界を達成し、2011年に送電を開始しました。また、2017年には、高速実証炉初号機の建設が開始されています。


③ 台湾地域

 台湾地域では、2021年3月時点で2か所の原子力発電所で合計4基の原子炉が運転中であり、総発電電力量の10%以上を供給しています。台湾では、住民投票の結果や政権交代により、原子力政策が何度も転換されてきました。
 2000年に発足した民進党政権は、段階的脱原子力政策を掲げていました。その後、2008年の政権交代で発足した国民党政権は、再生可能エネルギー社会に至るまでの過渡的な電源として原子力発電を維持する方針を示し、龍門で建設中であった第四原子力発電所(改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基、各135万kW)の建設を継続するとともに、既存炉のリプレースや増設も検討する意向を示しました。しかし、2011年の東電福島第一原発事故を受け、同年6月、中長期的な脱原子力発電へと再度政策を転換し、既存炉の寿命延長やリプレースを行わないことが決定されました。ただし、例外として、第四原子力発電所については安全性を確認した上で建設を継続する方針が示されていました。
 2013年2月には、台湾当局と議会が第四原子力発電所建設中止の是非を住民投票で決定することで合意したため、住民投票実施まで建設に関する活動を凍結することになりました。しかし、その後も住民投票は実施されないまま、蔡政権(民進党)下の2017年1月に、2025年までに原子力発電を全廃するとの内容を含む改正電気事業法が成立しました。ところが、2018年11月に実施された住民投票により、この脱原子力条文は失効しました。
 住民投票の結果を受け、2025年以降の原子力発電所の運転継続をどのように実現するかについて、当局が検討を行っています。また、第四原子力発電所の建設については、改めて住民投票でその是非を問うことが決定されており、投票は2021年8月に実施予定です。


④ ASEAN 諸国

 ASEANを構成する10か国は、2021年3月時点で、いずれも原子力発電所を保有していません。しかし、気候変動対策やエネルギー安全保障の観点から、原子力計画への関心を示す国が増加しています。
 ベトナムでは2009年に、2020年の運転開始を目指して原子力発電所を2か所(100万kW級の原子炉計4基)建設する計画が国会で承認されました。同国初の原子力発電所となるニントゥアン第1、第2原子力発電所は、ロシアと我が国がそれぞれ建設プロジェクトのパートナーに選定されました。しかし、2016年11月、政府は国内の経済事情を背景に両発電所の建設計画の中止を決定し、国会もこれを承認しました。
 インドネシアは、2007年に制定された「長期国家開発計画(2005年から2025年)に関する法律」において、2015年から2019年までに初の原子炉の運転を開始し、2025年までに追加で4基の原子炉を運転開始させる計画を示しました。しかし、ムリア半島における初号機建設計画は2009年に無期限延期となりました。2010年以降は、原子力発電所建設の決定には至っていません。一方で、政府は、ロシアや中国の協力を得て実験用発電炉(高温ガス炉)の建設計画を進めるなど、商用発電炉導入に向けたインフラ整備を進めています。
 タイは、2010年の電源開発計画(PDP2010)において、2020年から2028年までに5基の原子炉(各100万kW)を運転開始する方針を示していましたが、東電福島第一原発事故や2014年の軍事クーデター後の政情不安等に伴い、計画は先送りされています。軍による暫定政権下で2015年に発表された電源開発計画(PDP2015)では、初号機の運転開始時期が2035年、2基目が2036年とされています。
 マレーシアは、2010年策定の「経済改革プログラム」において原子力発電利用を検討し、2011年にマレーシア原子力発電会社(MNPC)を設立しました。2021年と2022年に原子炉各1基を運転開始することを目標としていましたが、マハティール現首相は2018年9月に行った演説の中で、原子力利用の可能性を否定しています。
 フィリピンでは、2016年に就任したドゥテルテ大統領が2020年7月に大統領令第116号を発出し、原子力政策の再検討や長期的な発電オプションとして原子力を利用する可能性の検討が必要であるとの認識の下、国家原子力計画の策定に向けた省庁間委員会の設置を指示しました。同大統領令は省庁間委員会に対し、1986年の完成後も運転しないままとなっているバターン原子力発電所(62万kW)を含め、原子力利用のために必要とされるステップについて勧告することを求めました。なお、バターン原子力発電所については、2017年11月にロスアトムとの間で修復を含むプラント状態の技術監査に係る協力覚書に署名したものの、大統領は、まずは周辺住民の意見を聴取すべきであるとの見解を表明しています。


⑤ インド

 インドでは、2021年3月時点で23基の原子炉が運転中です。このうち17基が国産の加圧重水炉(PHWR)、2基が沸騰水型軽水炉(BWR)、2基がVVER、2基がCANDU炉です。また、6基の原子炉が建設中です。
 インドは、急増するエネルギー需要を賄うため、原子力発電の拡大を計画しています。2018年から2027年を対象とする国家電力計画では、原子力発電設備容量を、2017年の約600万kWから2027年3月までに約1,700万kWへと拡大する見通しが示されています。
 核兵器不拡散条約(NPT)未締約国であるインドに対しては、従来、核実験実施に対する制裁として国際社会による原子力関連物資・技術の貿易禁止措置が講じられており、専ら国産PHWRを中心に原子力発電の開発を独自に進めてきました。しかし、2008年以降に米国、フランス、ロシア等と相次いで二国間原子力協定を締結したことにより、諸外国からも民生用原子力機器や技術を輸入することができるようになりました。
 既に運転を開始しているロシアのVVERに加え、2018年にはフランスからのEPR導入について枠組み合意が結ばれました。2019年には、米国との高官協議においてAP1000導入に合意しました。さらに、2017年には、我が国との間で日印原子力協定が発効しています。
 また、インドは独自のトリウムサイクル開発計画に基づき、高速増殖炉(FBR)の開発・導入を進めています。1985年に運転を開始した高速増殖実験炉(FBTR)については、2011年に、2030年までの運転延長が決定しました。また、上述の建設中6基のうちの1基として、高速増殖原型炉(PFBR)の建設が進められています。


(5) その他

① 中東諸国

 中東地域では、2021年3月時点で、唯一イランで原子力発電所が営業運転を行っています。また、その他の国においても、電力需要の伸びを背景として原子力発電所の建設・導入に向けた動きが活発化しています。
 UAEでは、電力需要の増加により、2020年までに4,000万kW分の発電設備が必要との見通しを受け、フランス、米国、韓国と協力し原子力発電の導入を検討してきました。2020年までに100万kW級原子炉4基を建設するプロジェクトに関する国際入札の結果、2009年末に、韓国電力公社(KEPCO)を中心とするコンソーシアムが建設等の発注先として選定されました。建設サイトであるバラカでは、2012年に建設が開始された1号機に対して、2020年2月に60年の運転認可が発給されました。同年8月に同機は初臨界を達成、12月には定格出力に到達しており、2021年内予定の営業運転開始に向けた準備が進められています。また、2号機も2020年7月に竣工し、2021年3月に運転認可を取得しました。
 トルコは、経済成長と電力需要の伸びを背景として、原子力発電の導入を進めています。アックユ原子力発電所ではロシアが120万kW級原子炉4基を建設する予定であり、1号機は2018年4月に、2号機は2020年4月に、3号機は2021年3月に建設が開始されています。
 サウジアラビアは、2030年までに16基の原子炉を建設する計画です。原子力導入に向けて、2018年7月には、2基の商用炉を新設するプロジェクトの応札可能者として米国、ロシア、中国、フランス及び韓国の事業者が選定されています。
 ヨルダンは、フランス、中国、韓国と原子力協定に署名し、同国初の原子力発電所建設を担当する事業者の選定を進めていました。2013年10月にはロシアを優先交渉権者として選定し、2015年10月に原子力発電所の建設・運転に関する政府間協定を締結したものの、2018年7月にロシアからの商用炉導入計画の中止が公表されました。
 イランでは、ロシアとの協力で建設されたブシェール原子力発電所1号機が2013年に運転を開始しました。さらに、両国は2014年、イランに更に8基の原子炉を建設することで合意し、このうちブシェール2号機の建設が2019年11月に開始されています。


② アフリカ諸国

 アフリカでは、唯一、南アフリカ共和国で原子力発電所が稼働しています。
 南アフリカ共和国では、クバーグ原子力発電所で2基の原子炉(PWR)が稼働しており、2019年の原子力発電比率は約7%です。同国では、今後の原子力導入に関する検討が続けられており、2019年10月に策定された統合資源計画(IRP2019)では、2030年以降の石炭発電の減少分をクリーンエネルギーで賄うために、SMRの導入を含めて検討を進める必要性が指摘されています。
 エジプトは、ロシアとの間で2015年11月に、120万kW級の原子炉4基の建設・運転に関する政府間協定を締結しました。さらに、2017年12月には、ダバ原子力発電所建設に係る契約が発効しています。
 アルジェリアは、2027年の運転開始を目指して国内初の原子力発電所の建設を計画しており、2007年12月のフランスとの原子力協定締結を始めとして、米国、中国、アルゼンチン、南アフリカ共和国、ロシアと原子力協定を締結しています。
 モロッコは、2009年の国家エネルギー戦略に基づき、2030年以降のオプションとして原子力発電の導入を検討する方針です。2017年10月には、ロシアとの間で原子力協力覚書を締結しており、モロッコ国内での原子力発電導入を目的とした共同研究を開始することとしています。
 ナイジェリアは、2025年までに120万kW分の原子力発電所の運転開始を目指し、2035年までに合計480万kWまで増設する計画です。同国はロシアとの間で、2009年3月に原子力協力協定を、2017年10月にはナイジェリアにおける原子力発電所の建設・運転に向けた協定を締結しています。
 ケニアは、中長期的な開発計画「Vision2030」の中で、総発電電力設備容量を1,900万kWまで拡大する目標を掲げており、この目標の達成に向けて原子力を活用する方針です。この方針に基づき、韓国、中国、ロシアとの協力を進めています。


③ オーストラリア

 オーストラリアは、世界最大のウラン資源埋蔵量を有していますが、豊富な石炭資源を背景に、これまで原子力発電は行われていません。ただし温室効果ガス排出削減の観点から、原子力発電導入の是非が度々議論されています。
 2005年の京都議定書発効後、保守連合政権下で原子力発電の導入を検討する方針が示されましたが、2007年に原子力に批判的な労働党へと政権が交代し、検討は中止されました。近年は再び、パリ協定の目標達成に向けた気候変動対策と電気料金高騰抑制の観点から、原子力発電導入の可能性を検討する機運が高まっています。2017年には、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)が、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)に正式加盟しました。2019年には、連邦議会下院の環境エネルギー常任委員会が政府に報告書を提出し、原子力利用に関して、第3世代プラス以降の先進炉を将来のエネルギーミックスの一部として検討することなどを提言しました。また、2020年5月に連邦政府が公表した温室効果ガス削減に向けた技術投資ロードマップでは、低炭素技術の一つとしてSMRの導入可能性に言及し、海外の開発状況を注視するとしています。
 ウラン輸出については、近年、初の原子力発電所建設中のUAEに加え、長年禁輸対象であったインド、燃料供給のロシア依存度低減に取り組むウクライナ等と協定を締結し、新興国等への輸出拡大を図っています。


④中南米諸国

 中南米諸国では、2021年3月時点で、メキシコ(2基)、アルゼンチン(3基)、ブラジル(2基)の3か国で計7基の原子炉が運転中です。
 メキシコでは、2基のBWRが稼働中であり、2019年の原子力発電比率は約5%です。2018年に発行された「国家電力システム開発プログラム(PRODESEN)2018-2032」では、2029年から2031年までに1基ずつ、計3基を運転開始する計画が示されていましたが、2021年に公表された「PRODESEN2020-2034」では、2034年までの期間について原子力発電所の建設計画は示されていません。
 アルゼンチンでは、PHWR2基とCANDU炉1基の計3基が稼働中であり、2019年の原子力発電比率は約6%です。さらに、1基(PHWR)が中国の協力の下で建設される計画です。また、その後の計画として、中国製の華龍1号の導入やロシア製VVERの建設も検討されています。
 ブラジルでは、2基のPWRが稼働中であり、2019年の原子力発電比率は約3%です。経済不況により1980年代に建設を中断していたアングラ3号機は、2010年に建設が再開されましたが、2015年以降は建設が再度中断されています。2019年には、政府が同機の建設を再開する方針を公表しており、運転開始は2026年頃と見込まれています。また、核燃料工場を始めとする核燃料サイクル施設が立地するレゼンデでは、燃料自給を目的としてウラン濃縮工場が2006年から稼働しており、段階的に拡張されています。
 キューバでは、1980年代に2基の原子炉が着工しましたが、提供者であった旧ソ連の崩壊に伴い建設中止となりました。キューバとロシアは、2016年9月に原子力の平和利用に関する二国間協定を締結しており、2019年には多目的照射センターの建設について合意しています。
 ボリビアでは、ロシアとの協力により、研究炉1基や円形加速器(サイクロトロン)を含む、原子力技術研究開発センターが建設されています。



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