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6-3 現世代の責任による放射性廃棄物処分の着実な実施

 全ての人間の活動は廃棄物を生み出します。原子力発電所、核燃料サイクル施設、大学、研究施設、医療機関等における原子力のエネルギー利用や放射線利用、施設の廃止措置等においても、廃棄物が発生します。これらの廃棄物には放射性物質を含むものがあり、放射性廃棄物と呼ばれます。人間の生活環境に有意な影響を与えないように放射性廃棄物を処分することは、原子力利用に関する活動の一部として重要です。原子力利用による便益を享受し放射性廃棄物を発生させた現世代の責任として、将来世代に負担を先送りしないという認識の下で、放射性廃棄物の処分が着実に進められています。


(1) 放射性廃棄物の処分の概要と安全確保

① 放射性廃棄物の処分の概要

 放射性廃棄物の処分に当たっては、原子力利用による便益を享受し放射性廃棄物を発生させた現世代の責任として、その処分を確実に進め、将来世代に負担を先送りしないとの認識を持つことが必要です。IAEAの安全要件では、放射性廃棄物の発生は可能な限り抑制することとされており、廃棄物発生の低減、当初意図されたとおりの品目の再使用、材料のリサイクル、そして最終的に放射性廃棄物として処分する、という順序で検討されます。
 我が国でも、最終的に処分する放射性廃棄物について、含まれる放射性核種の種類と量に応じて適切に区分した上で処分するという方針の下で、必要な安全規制等の枠組みの整備を進めています(表6-5)。放射性廃棄物は、高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に大別され、それぞれの性質に応じた取組が進められています。また、放射線による障害の防止のための措置を必要としない放射能濃度のものについては、再利用又は一般の産業廃棄物として取り扱うことができる「クリアランス制度」の運用も行われています。


表6-5 放射性廃棄物の種類と処分方法
廃棄物の種類廃棄物の例発生源処分方法
高レベル放射性廃棄物ガラス固化体再処理施設地層処分
低レベル放射性廃棄物発電所廃棄物放射能レベルの比較的高い廃棄物制御棒、炉内構造物原子力発電所中深度処分
放射能レベルの比較的低い廃棄物廃液、フィルター、廃器材、消耗品等を固形化ピット処分
放射能レベルの極めて低い廃棄物コンクリート、金属等トレンチ処分
超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU13廃棄物)燃料棒の部品、廃液、フィルター再処理施設、MOX燃料加工施設地層処分、中深度処分、ピット処分、トレンチ処分
ウラン廃棄物消耗品、スラッジ、廃器材ウラン濃縮・燃料加工施設未定
研究施設等廃棄物廃液、フィルター、廃器材研究炉、RI使用施設等ピット処分、トレンチ処分
クリアランスレベル以下のもの原子力発電所解体廃棄物の大部分上に示した全ての発生源再利用又は産業廃棄物として処分

(出典)資源エネルギー庁「低レベル放射性廃棄物」等に基づき作成


② 放射性廃棄物の処分の安全確保

 我が国では、放射性廃棄物の処分事業を行おうとする者は、埋設の種類(第一種廃棄物埋設14、第二種廃棄物埋設15)ごとに原子力規制委員会の許可を受ける必要があります。許可を受けるに当たり、廃棄する核燃料物質又は核燃料物質によって汚染されたものの性状及び量、廃棄物埋設施設の位置、構造及び設備並びに廃棄の方法、第二種廃棄物埋設の事業の許可を受けようとする者にあっては、上記に加えて放射能の減衰に応じた第二種廃棄物埋設施設についての保安のために講ずべき措置の変更予定時期等を記載した申請書を原子力規制委員会に提出しなければならないとされています。原子力規制委員会は、許可を与えるに当たり、その事業を適確に遂行するに足りる技術的能力及び経理的基礎があること、廃棄物埋設施設の位置、構造及び設備が核燃料物質又は核燃料物質によって汚染されたものによる災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するもの及び廃棄物埋設施設の保安のための業務に係る品質管理に必要な体制が原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであることを審査します。


(2) 放射性廃棄物の処理・処分に関する取組と現状

① 高レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する取組と現状

1) 高レベル放射性廃棄物の発生・処理・保管

 原子炉を稼働させると使用済燃料が発生します。この使用済燃料を再処理することで生じる放射能レベルの非常に高い廃液は、ガラス原料と混ぜて溶融し、キャニスタと呼ばれるステンレス製の容器に注入した後、冷却し固体化します。出来上がったガラス固化体と呼ばれる高レベル放射性廃棄物(図6-12)は、発熱量が十分小さくなるまで、地上の貯蔵施設で30年から50年間程度保管されます。
 2021年3月時点で、原子力機構の東海再処理施設では合計316本、日本原燃の六ヶ所再処理施設では合計346本のガラス固化体が保管されています。


ガラス固化体(日本原燃の例)

図6-12 ガラス固化体(日本原燃の例)

(出典)資源エネルギー庁「高レベル放射性廃棄物」に基づき作成


 また、我が国の原子力発電により生じた使用済燃料は、フランス及び英国の施設においても再処理されてきました。これにより発生したガラス固化体は、安全対策を施した輸送容器に収納した上で専用輸送船により我が国に返還16され、日本原燃の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで保管されています。2016年10月末までに両国から合計1,830本が返還されており、今後、更に英国から約380本の返還が予定されています。
 2021年3月末時点で、国内に保管されているガラス固化体は合計2,492本です(表6-6)。


表6-6 高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の保管量(2021年3月末時点)
施設名2020年3月末時点の保管量(本)2020年度内の発生量又は受入量(本)2021年3月末時点の総保管量(本)備考
原子力機構東海再処理施設3160316廃止措置の過程で、施設に貯蔵されている廃液の固化を順次実施中
日本原燃再処理事業所再処理施設3460346アクティブ試験の過程で製造されたもの
高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター1,83001,830(内訳)
フランスから返還:1,310本
英国から返還:520本
合計2,49202,492

(出典)原子力機構「再処理廃止措置技術開発センター(週報)」、日本原燃「再処理工場の運転情報(月報)」、日本原燃「高レ ベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの運転情報(月報)」に基づき作成


2) 高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組方針

 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(平成12年法律第117号。以下「最終処分法」という。)により、高レベル放射性廃棄物及び一部の低レベル放射性廃棄物(地層処分対象TRU廃棄物)は、地下300m以上深い安定した地層中に最終処分(地層処分)することとされています。同法に基づき、最終処分事業の実施主体である原環機構が設立されるとともに、処分地の選定プロセスが定められました。最終処分に必要な費用については、2000年以降、廃棄物発生者である電気事業者等から処分実施主体である原環機構へ納付され、その拠出金は、公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センターにより資金管理・運用されています。


最終処分法の概要

図6-13 最終処分法の概要

(出典)総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会放射性廃棄物ワーキンググループ「放射性廃棄物WG中間とりまとめ」(2014年)に基づき作成


3) 高レベル放射性廃棄物の最終処分事業を推進するための取組

 高レベル放射性廃棄物の処分地選定に当たっては、既存の文献により過去の火山活動の履歴等を調査する「文献調査」、ボーリング等により地上から地下の状況を調査する「概要調査」、地下施設を設置した上で地下環境を詳細に調査する「精密調査」といった段階的な調査を行うことが最終処分法により定められています(図 6-14)


処分地選定のプロセス

図6-14 処分地選定のプロセス

(出典)第21回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会資料3 資源エネルギー庁「原子力政策の課題と対応について」(2021年)


 経済産業省は2017年7月に、地層処分の仕組みや日本の地質環境等について理解を深めていただくため、客観的なデータに基づいて、火山や断層といった地層処分に関して考慮すべき科学的特性を4色の色で塗り分けた「科学的特性マップ」(図6-15)を公表しました。科学的特性マップの公表以降、経済産業省及び原環機構によって対話型全国説明会が実施されています。こうした活動の結果、地層処分に関心を持ち、自主的に勉強や情報発信に取り組むグループ(NPOや経済団体等)が、2021年3月末時点で、全国で約100団体にまで増えてきています。このような中、北海道の寿都町、神恵内村において、最終処分地選定プロセスの最初の調査である文献調査を2020年11月から開始しています。引き続き、対話活動を通じて、地域理解に取り組むとともに、全国のできるだけ多くの地域で事業について関心を持っていただき、調査を実施できるよう、全国での対話活動を継続しています。
 一方、原環機構は2018年、「包括的技術報告:我が国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-」のレビュー版を取りまとめました。2021年2月には、日本原子力学会によるレビュー等を踏まえ、同報告の改訂版及びその内容を平易に解説した冊子「なぜ、地層処分なのか」が公表されました。同報告は、サイト調査の進め方、安全な処分場の設計・建設・操業・閉鎖、さらに、閉鎖後の長期間にわたる安全性確保に関し、これまで蓄積されてきた科学的知見や技術を統合し、サイトを特定しない一般的なセーフティケースとして説明したものであり、事業の進展に応じて作成するサイト固有のセーフティケースの基盤として活用していくこととされています。


科学的特性マップ

図6-15 科学的特性マップ

(出典)資源エネルギー庁「科学的特性マップ公表用サイト」


 最終処分の実現に向けた各国の取組を加速するため、国際協力の強化も進められています。2019年6月に、世界の主要な原子力利用国の政府が参加する「最終処分国際ラウンドテーブル」が立ち上げられました。2020年8月には、ラウンドテーブルを共催したOECD/NEAが、2回の会合での議論を踏まえ、「ハイレベル政府代表からの国際協力に関するメッセージ」として、政府の役割や各国の対話活動の知見・経験・ベストプラクティス、研究開発協力の方向性等を盛り込んだ報告書を公表しました。同報告書では、政策立案、ステークホルダーの関与、研究開発及び人材育成における国際協力は価値のあるものであること、透明性の確保や地層処分計画の中で地元コミュニティに早い段階から関与してもらうことが極めて重要であること、各国の利用可能な資源、経験、技術力を共有し、課題に対応すべきであること等を示しています。
 我が国は、ラウンドテーブルで挙げられた研究開発で国際協力を強化すべき分野の具体化に向けて、専門家間で議論するためのワークショップをOECD/NEAとともに開催する意向を示すとともに、ラウンドテーブル参加国との知見の共有や各国の進捗のフォローアップを継続しながら、国内の取組に随時反映させ、日本における最終処分の実現に向けた道筋がつけられるよう、一歩ずつ取り組んでいくこととしています。


コラム ~海外事例:フランスにおける高レベル放射性廃棄物の処分に向けた国民対話~

 フランスでは、1980年代から高レベル放射性廃棄物の処分地の選定に向けた検討が開始されました。しかし、政府が主導して進めた地質調査は地元への事前説明もなく開始されたため、地域住民等の強い反対を受け、1990年には1年間の活動中断に至りました。この時期を境に、処分地選定の進め方や処分方針の決定プロセスにおいて、国民の意見を反映させる方向への転換が行われました。
 活動中断期間中に議会議員の主導により行われた国民からの意見聴取の結果を踏まえ、1991年に放射性廃棄物管理研究法が制定されました。同法では、地層処分、長期貯蔵及び核種分離変換の三つの代替管理方法について、15年間の研究を行った上で総括評価することが定められるとともに、研究の進捗状況を毎年政府が議会に報告することや、地下研究所の地元に地域情報フォローアップ委員会(CLIS17)を設置し地域との協議を行うことも規定されました。段階的な進捗評価や国民との対話を行いながら進められた研究活動の成果報告書の内容等を受けて、2006年には放射性廃棄物等管理計画法が制定され、「可逆性のある地層処分」を行うという基本方針が決定されました。
 「可逆性のある地層処分」の実施主体である放射性廃棄物管理機関(ANDRA)による地層処分プロジェクトを進めるに当たり、計画段階から国民の意見を反映できるよう、行政、事業者、国民、専門家等が意見交換を行う公開討論会制度が適用されています。2013年には、ANDRAによる地層処分場の設置許可申請に先立ち、7か月間にわたる公開討論会が開催されました。この公開討論会における議論の結果を受けて、地層処分場の操業開始に当たり実際の処分場環境での試験を可能とするパイロット操業期間を設けること、処分場操業基本計画の定期レビューを通じた市民参加の機会を設けること等が定められました。
 このように、フランスの高レベル放射性廃棄物の地層処分プロジェクトは、一度は活動中断にまで至った過去の経験から得られた教訓を生かし、国民の意見を重要な意思決定に反映する仕組みを整え、進捗を適切に管理しつつ段階的に進められており、設置許可申請の段階を迎えようとしています。


公開討論会の様子

公開討論会の様子

(出典)放射性廃棄物管理機関(ANDRA)提供資料



4) 高レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発

 高レベル放射性廃棄物の処理に関しては、原子力機構や日本原燃において研究開発が行われています。原子力機構では、高レベル放射性廃液のガラス固化施設の開発、運転を行い、ガラス溶融炉の改良等の技術開発を進め、運転技術、保守技術等を蓄積しています。また、日本原燃は、現行のガラス溶融炉でのトラブル対処で得た情報や知見を反映させた新型ガラス溶融炉の開発を進め、実機への導入判断に向けた検討を行っています。
 高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、原環機構及び原子力機構における研究開発が行われています。原環機構では、処分事業の安全な実施、経済性及び効率性の向上等を目的とする技術開発を行っています。原子力機構では、深地層の研究施設等を活用し、深地層の科学的研究や安全評価手法の開発等の基盤的・体系的な研究開発を計画的に行っています。原子力機構の深地層の研究施設としては、岐阜県瑞浪市(結晶質岩)と北海道幌延町(堆積岩)に整備した施設において、地下坑道の掘削とそれに伴う深部地質環境変化の把握等の調査研究等を行っており国民との相互理解促進に貢献する観点から深部地質環境を実体験できる場としても活用されています。なお、瑞浪市の研究施設は2019年度末で結晶質岩に関する調査研究を終了しており、2022年1月までに坑道の埋め戻し及び地上施設の撤去を完了する計画であり、幌延町の研究施設では2028年度までを目途に研究課題に取り組む計画です。また、原子力機構の基盤的な研究開発としては、茨城県東海村の核燃料サイクル工学研究所において、設計・評価に活用する評価モデルやデータベース等の技術基盤整備に関する研究開発を実施しています。


幌延深地層研究施設の概要(左)及び調査坑道での見学の様子(右)

図6-16 幌延深地層研究施設の概要(左)及び調査坑道での見学の様子(右)

(出典)原子力機構幌延深地層研究センター「幌延深地層研究計画 令和2年度調査研究計画」(2020年)


 高レベル放射性廃棄物の処分に関する研究は、地質環境調査・評価技術、工学・設計技術、処分場閉鎖後の長期安全性を確認するための安全評価技術等の多岐にわたる分野の技術を統合し、重複を避け効率的かつ効果的に実施する必要があります。そのため、原環機構や原子力機構を始めとする関係機関で構成される「地層処分研究開発調整会議」において、「地層処分研究開発に関する全体計画(平成30年度~令和4年度)」が策定されました。これらの機関が緊密に連携を図りつつ、地層処分に関する研究開発が計画的に進められています。


② 低レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する取組と現状

1) 低レベル放射性廃棄物の発生・処理

 低レベル放射性廃棄物は、発生源別に分類されています。具体的には、原子力発電所から発生するもの(発電所廃棄物)、再処理施設、MOX燃料加工施設から発生するもの(TRU廃棄物)、ウラン濃縮施設、ウラン燃料加工施設から発生するもの(ウラン廃棄物)、大学、研究所、医療機関等における原子力のエネルギー利用、放射線利用、関連する研究開発から発生するもの(研究施設等廃棄物)に分類されています(表6-5)。
 原子力施設等の運転、廃止措置に伴い、様々な廃棄物が気体状、液体状、固体状で発生します。気体状の廃棄物(放射性気体廃棄物)は、放射性物質の濃度に応じて、減衰、洗浄等により処理し、高性能フィルターで放射性物質を取り除いた後、排気中の放射性物質濃度が規制基準値以下であることを確認した上で、大気中に放出します。液体状の廃棄物(放射性液体廃棄物)は、ろ過、脱塩、あるいは蒸発濃縮処理します。濃縮廃液はセメントやアスファルト等で固化処理し、放射性固体廃棄物としてドラム缶に詰めます。蒸発分や放射性物質の濃度が極めて低いものについては、再利用、あるいは放射性物質濃度が規制基準値以下であることを確認した上で施設外に放出します。固体状の廃棄物(放射性固体廃棄物)は、可燃性、難燃性、不燃性に仕分をしてドラム缶等の容器に入れます。廃棄物の性状によっては、焼却処理、圧縮処理、溶融処理、セメント充填固化処理等の減容・安定化処理を施した後で、ドラム缶等に詰めます。


2) 低レベル放射性固体廃棄物の保管

 ドラム缶等に詰められた放射性固体廃棄物は、各原子力施設等で保管されます。2020年3月末時点の、我が国における低レベル放射性固体廃棄物の保管状況は、表6-7のとおりです。
 原子力発電所等については、原子力発電所で約701,700本(200リットルドラム缶換算値、以下同様)、加工施設(ウラン濃縮施設、ウラン燃料加工施設)で約60,100本、再処理施設で約48,400本、廃棄物管理施設では1,100本、それぞれ保管されています。研究開発施設等については、原子炉等規制法施設で約354,200本、「放射性同位元素等の規制に関する法律」(昭和32年法律第167号。以下「放射性同位元素等規制法」という。)による規制を受ける施設では約275,200本、それぞれ保管されています18


表6-7 低レベル放射性固体廃棄物の保管量
(地層処分相当低レベル放射性廃棄物と想定されるものを含む)

低レベル放射性固体廃棄物の保管量 表
低レベル放射性固体廃棄物の保管量 注釈

(出典)実用発電用原子炉等が原子力規制委員会に提出した「令和元年度下期放射線管理等報告書」(2020年)、原子力規制委員会「規制の状況」に基づき作成


3) 低レベル放射性固体廃棄物の処分

 低レベル放射性廃棄物の発生源、性状等は幅広く、含まれる放射性核種の種類と量に応じて、主にトレンチ処分、ピット処分、中深度処分に適切に区分して処分され(図6-17)、一部の低レベル放射性廃棄物は地層処分されます(表6-5)。地層処分の実施主体は原環機構、地層処分以外については、発電所廃棄物等の処分実施主体は原子力事業者等19、研究施設等廃棄物の処分実施主体は原子力機構となっています。


トレンチ処分、ピット処分、中深度処分のイメージ

図6-17 トレンチ処分、ピット処分、中深度処分のイメージ

(出典)一般財団法人日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」に基づき作成


 トレンチ処分とは、コンクリートや金属等の化学的、物理的に安定な性質の廃棄物のうち放射能レベルが極めて低い廃棄物を、浅地中に人工構造物を設置せずに定置して覆土する処分方法です。原子力機構は、動力試験炉(JPDR20)の解体で発生した極低レベルのコンクリート廃棄物を対象に、敷地内でトレンチ処分の埋設実地試験を行っています。1997年までの埋設段階終了後、埋設地の巡視点検等を行う保全段階の管理を2025年まで継続する予定です(図6-18)。また、日本原子力発電株式会社は、東海発電所の解体に伴い発生する極低レベル放射性廃棄物を発電所敷地内でトレンチ処分する計画で、原子力規制委員会による審査が進められています。


原子力機構の埋設実地試験における埋設段階(左)及び保全段階(右)の様子

図6-18 原子力機構の埋設実地試験における埋設段階(左)及び保全段階(右)の様子

(出典)原子力機構原子力科学研究所「埋設実地試験」


 ピット処分とは、放射能レベルの比較的低い廃棄物を、浅地中にコンクリートピット等の人工構築物を設置して埋設する処分方法です。原子力発電所の運転に伴い発生するものは、各原子力発電所で固化処理された後、青森県六ヶ所村の日本原燃低レベル放射性廃棄物埋設センターに運ばれます。同センターの1号埋設施設では、濃縮廃液、使用済樹脂、焼却灰等をドラム缶に収納し、セメント等で固めた廃棄体(均質固化体)を、2号埋設施設では、雑固体廃棄物(金属、プラスチック類、保温材、フィルター類等)をドラム缶に収納し、モルタルで固めた廃棄体(充填固化体)を対象として受け入れており、2021年3月末時点で、ドラム缶換算で合計約32万本の廃棄体を埋設しています(表6-8)。また、日本原燃は2018年8月に、3号埋設施設の増設(対象は充填固化体)等の申請を行っており、原子力規制委員会による審査が進められています。


表6-8 日本原燃における低レベル放射性廃棄物のピット処分量(2021年3月末時点)
2020年3月末時点の延べ埋設量(本)2020年度の受入量(本)2020年度の埋設量(本)2021年3月末時点の延べ埋設量(本)
1号埋設施設149,107328328149,435
2号埋設施設163,60010,07410,632174,232
合計312,70710,40210,960323,667

(出典)日本原燃「低レベル放射性廃棄物埋設センターの運転情報(日報)」に基づき作成


 中深度処分とは、放射能レベルの比較的高い廃棄物を、地表から深さ70メートル以上の地下に設置された人工構造物の中に埋設する処分方法です。具体的な管理の内容については、今後検討されることとされています。
 研究開発施設等の廃棄物については、国は2008年12月に、埋設処分業務を進める際の基本的な考え方等を示した「埋設処分業務の実施に関する基本方針」を策定しました。原子力機構は同基本方針に基づき、「埋設処分業務の実施に関する計画」(2009年11月策定、2019年11月最終変更)において、埋設処分業務の対象とする放射性廃棄物の種類及びその量の見込み等を示しています。また、原子力機構は、2018年12月に取りまとめたバックエンドロードマップ(図6-10)において、研究施設等廃棄物の埋設事業は放射能レベルの低いトレンチ処分及びピット処分から優先的に進め、第2期(2029年度から2049年度)での本格化を目指すとしています。この方針に基づき、処分場所の立地手順及び立地基準に基づく立地対応を進めるとともに、廃棄体確認や受入基準等の整備の一環として、様々な種類の放射性核種が含まれる研究炉廃棄物中の放射能評価手法の確立に向けた検討等が進められています。


4) 低レベル放射性廃棄物処分の規制

 浅地中処分(ピット処分及びトレンチ処分)については、原子力規制委員会が2019年12月に、施設や廃棄体の性能規定化及び規制期間終了後の被ばく評価シナリオの線量基準等に係る規則等の改正を行いました。また、原子炉施設以外の施設から発生する放射性廃棄物についても、ピット処分及びトレンチ処分の対象(ただしウラン廃棄物を除く)に拡張されました。さらに、2020年10月には、日本原燃の廃棄物埋設事業変更許可申請における廃止措置開始後の公衆の被ばく線量評価に係る、将来の人間活動に関する設定の妥当性に関する審査方針が了承されました。
 中深度処分については、2017年4月の原子炉等規制法の改正により、中深度処分における坑道の閉鎖措置計画の認可や規制期間終了後の廃棄物埋設地の掘削制限の制度が定められました。原子力規制委員会では、中深度処分に係る規則等の策定に向けた検討を進めています。中深度処分に係る規制基準等における要求事項のうち、断層に係るものを除いた内容については2020年7月から8月に、断層と地すべり面に係るものについては2021年2月から3月に、それぞれ科学的・技術的意見の募集を実施しました。
 ウラン廃棄物やウランに汚染された資材については、含まれる放射性物質は自然環境中にも存在するものです。ウランに汚染されたものは、数十年から数百年の期間における放射能の減衰は見込めず、子孫核種が生成し放射能量が増える等の特徴を有しています。そのため、従来の処分やクリアランスの規制基準をそのまま適用することについては課題があります。原子力規制委員会では、このような課題を踏まえ、ウラン廃棄物の処分等に係る規制等の策定に向けた検討を進めています。2020年12月から2021年1月には、ウラン廃棄物のクリアランス及び埋設に係る規制の考え方等に対する科学的・技術的意見の募集を実施しました。意見募集の結果も参考にしつつ、中深度処分に係る規制基準等と合わせて、規則案の作成等を進めるとしています。
 研究開発施設等の廃棄物については、発生源は多岐にわたることから、発生する放射性廃棄物の処分事業を規制する法律も原子炉等規制法、放射性同位元素等規制法、医療法等21にまたがり、複数の許可が必要となります。2017年4月の放射性同位元素等規制法の改正により、廃棄に係る特例として、許可届出使用者及び許可廃棄業者は、放射性同位元素等の廃棄を原子炉等規制法に基づく廃棄事業者に委託できることとされ、原子炉等規制法と放射性同位元素等規制法の間で処理・処分の合理化が図られました。また、原子力機構が保管している放射性廃棄物の中には、放射性物質で汚染された鉛等が混入しているものがあり、放射性廃棄物に含まれる重金属等の有害物質は、現時点ではどのような法令に基づき規制を行うか明確になっていないことから、安全規制の在り方について検討が行われています。


コラム ~海外事例:諸外国における低レベル放射性廃棄物の分類と処分方法~

(注1)地層処分対象を除く
(注2)原子力施設サイトの許可された埋立処分場
(注3)認可された一般の埋立処分場
(注4)原子力施設ではないが原子力施設から発生した廃棄物に限定
(注5)一般の埋立処分場
(注6)このほか、ウラン採鉱・製錬廃棄物がある
免除・クリアランスされた廃棄物は規制上の放射性廃棄物としての管理は受けない。
網掛けは、操業中あるいは実施中であることを示す。網掛けなしは、建設中、サイト選定中、検討中、見直し中のいずれかである。

(出典)内閣府作成



(3) クリアランス

① クリアランス制度

 原子力施設等の廃止措置に伴って発生する廃材等の大部分は、放射性物質によって汚染されていない廃棄物や、放射能濃度が極めて低く、人の健康への影響が無視できることから「放射性物質として扱う必要がないもの」です(表6-5)。このうち、後者については「クリアランス制度」が適用されます。クリアランス制度とは、放射能濃度が基準値以下であることを原子力規制委員会が確認したものを、原子炉等規制法による規制から外し、再利用又は一般の産業廃棄物として処分することができる制度です。2020年8月に行われたクリアランス制度に関する規則の改正により、施設ごとに分かれていた規則が廃止され、全ての原子力施設から発生する資材及び廃棄物23がクリアランスの対象となりました。


② クリアランスの実績

 我が国では、これまで、原子炉等規制法に基づく原子力発電所、加工施設、一部の核燃料物質使用施設等の原子力施設の運転及び廃止措置・解体により発生した金属くず、コンクリート破片等にクリアランス制度が適用されています。2021年3月時点で、原子力施設から発生した金属1,395tとコンクリート3,866tがクリアランスされており、その一部は再利用されています(図6-19、表6-9)。これまでのところ、再利用を行う原子力事業者は、再利用先を原子力施設等に限定しています。今後、廃止措置の本格化に伴いクリアランス物の発生量の増加が見込まれる中、廃止措置の円滑な推進や資源の有効利用のため、再利用先の拡大とともに、クリアランス制度が社会に定着することが必要です。原子力規制庁は、2020年3月から「クリアランスの測定及び評価の不確かさに関する事業者との意見交換会」を開催しており、不確かさの取扱いについて理解を深め規制上の検討に役立てるための具体的な議論を行っています。
 なお、放射性同位元素の使用施設等から発生する放射性廃棄物についてもクリアランス制度が導入されていますが、実績はありません。


クリアランスされた金属等の再利用実績例

図6-19 クリアランスされた金属等の再利用実績例

(出典)第22回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会 資源エネルギー庁「着実な廃止措置に向けた取組」(2021年)


表6-9 クリアランスされた金属等の再利用実績例
原子力施設再利用された廃棄物再利用先等
日本原子力発電(株)東海発電所の廃止措置工事から発生した金属遮へい体、ブロック、車両進入防止ブロック、ベンチ、テーブル、埋込金物、クレーン荷重試験用ウェイト等の加工品を製作し、関連場所で使用又は展示
中深度処分用容器(内容器)を試験製作24
原子力機構原子力科学研究所研究炉JRR-3の改造工事により発生し保管廃棄されていたコンクリート同研究所内の路盤材等に再利用
原子力機構人形峠環境技術センター解体、除染した使用済遠心分離機から発生したアルミ材構内等の花壇の構造物及び土留め、同センター正門前広場に設置したテーブルとベンチに再利用

(出典)原子力規制委員会「クリアランス制度の実績」、電気事業連合会「クリアランス制度に関する国内外の状況」に基づき作成


(3) 廃止措置・放射性廃棄物連携プラットフォーム(仮称)

「廃止措置・放射性廃棄物連携プラットフォーム(仮称)25」では、国内の様々な関係機関の連携により、当該分野における情報体系の整備(図 6-20)や、海外情報を含む各関係機関の取組の紹介による情報共有等を実施しています。


放射性廃棄物に関する根拠情報の整備に係る関連機関の連携イメージ

図6-20 放射性廃棄物に関する根拠情報の整備に係る関連機関の連携イメージ

(出典)内閣府作成



  1. Transuranic
  2. 人の健康に重大な影響を及ぼすおそれがあるものとして政令で定める基準を超える放射性廃棄物を、埋設の方法により最終処分すること。いわゆる地層処分。
  3. 第一種廃棄物埋設に該当しない放射性廃棄物を、埋設の方法により最終処分すること。具体的には、中深度処分、ピット処分、トレンチ処分。
  4. 海外での再処理に伴い発生した低レベル放射性廃棄物についても、今後返還される予定。
  5. Commissions Locales d'Information et de Surveillance
  6. 法令で届出を義務付けられていない医療法等廃棄物は含まれていません。
  7. 一部の発電所廃棄物の処分については、日本原燃がピット処分を実施中。
  8. Japan Power Demonstration Reactor
  9. 「医療法」(昭和23年法律第205号)、「臨床検査技師等に関する法律」(昭和33年法律第76号)、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号)及び「獣医療法」(平成4年法律第46号)。
  10. Ontario Power Generation
  11. ウラン廃棄物については金属くずのみ。廃液や気体は除外。
  12. 経済産業省委託事業「原子力発電所等金属廃棄物利用技術開発」(2015年度から2017年度)にて実施。
  13. プラットフォームについては、第8章8-1(3)「原子力関係組織の連携による知識基盤の構築」を参照。



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