原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「令和2年度版 原子力白書」HTML版 > 2-1 地球温暖化問題や国民生活・経済への影響を踏まえた原子力のエネルギー利用の在り方

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第2章 地球温暖化問題や国民生活・経済への影響を踏まえた原子力のエネルギー利用の在り方

2-1 原子力のエネルギー利用の位置付けと現状

 世界では、東電福島第一原発事故以降、脱原子力を進める国もありますが、電力需要の増加への対応と地球温暖化対策を両立する手段として原子力発電を活用していこうとする動きも見られます。また、欧州を中心に、新型コロナウイルス感染症の世界的流行からの経済回復に際して脱炭素化も同時に進めていく「グリーン・リカバリー」という考え方が大きな潮流となっており、環境に配慮したグリーン投資を戦略的に推進する動きが見られます。
 一方、我が国では、東電福島第一原発事故により一度全ての原子力発電所の稼働が停止しました。2021年3月末時点で9基の原子炉が再稼働していますが、発電電力量に占める原子力発電比率は事故前に比べて大きく低下しています。このような状況の中、菅内閣総理大臣は2020年10月の所信表明演説において、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力し、2050年カーボンニュートラル1の実現を目指すことを宣言しました。2020年12月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下「グリーン成長戦略2」という。)では、原子力は安定的にカーボンフリーの電力を供給することが可能な上、更なるイノベーションにより多様な社会的要請に応えることが可能であるとしています。このような認識の下で、安全性の確保を前提とした原子力エネルギー利用に係る取組が進められています。


(1)我が国におけるエネルギー利用の方針

 「原子力利用に関する基本的考え方」(2017年7月原子力委員会決定、政府として尊重する旨閣議決定)では、地球温暖化問題に対応しつつ、国民生活と経済活動の基盤であるエネルギーを安定的かつ低廉に供給することを通じて、国民生活の向上と我が国の競争力の強化に資することが求められているとしています。その上で、既に利用可能な技術として、原子力のエネルギー利用は有力な選択肢であり、安全性の確保を大前提に、エネルギー安定供給、地球温暖化問題への対応、国民生活・経済への影響を踏まえながら原子力エネルギー利用を進めるとの基本目標が示されています。
 「第5次エネルギー基本計画」(2018年7月閣議決定)では、安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図るため、最大限の取組を行うという「3E+Sの原則」を2030年に向けたエネルギー政策の立脚点としています。原子力発電については、「安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けています(図2-1)。なお、再生可能エネルギーと原子力発電による「ゼロエミッション電源比率」の2019年度実績は、24%程度でした。


原子力エネルギーの3Eの特性

図2-1 原子力エネルギーの3Eの特性

(出典)第35回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会資料1 資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」(2020年)に基づき作成


 我が国では、「地球温暖化対策計画」(2016年5月閣議決定)等において、温室効果ガスの排出削減について、2030年度において2013年度比26.0%減という中期目標と、2050年までに80%減という長期目標を掲げてきました。しかし、2020年9月に就任した菅内閣総理大臣は、所信表明演説において、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力し、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました3
 2020年12月には、2050年カーボンニュートラルへの挑戦を経済と環境の好循環につなげるための産業政策として、グリーン成長戦略が策定されました。同戦略では、温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、従来の発想を転換し積極的に対策を行うことが産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながっていくとの認識の下で、成長が期待される14の重要分野を示しています。その一つとして、原子力については、「安全最優先での再稼働を進めるとともに、安全性に優れた次世代炉の開発を行っていくことが必要である。」としています2
 これらの動向も踏まえ、地球温暖化対策計画については2020年9月から4、エネルギー基本計画については2020年10月から5、それぞれ見直しに向けた検討が進められています。


(2)我が国の原子力発電の状況

 2010年度における我が国の発電設備に占める原子力発電設備容量6の割合は20.1%、原子力発電の設備利用率7は67.3%、発電量に占める原子力発電電力量の割合は25.1%でした(図2-2、図2-3)。しかし、2011年の東電福島第一原発事故により、我が国の原子力利用を取り巻く環境は大きく変化しました。事故後、全国の原子力発電所は順次運転を停止し、2012年5月には、我が国で稼働している原子炉の基数が42年ぶりに0基となりました。


我が国の発電電力量の推移

図2-2 我が国の発電電力量の推移

(注)2009年度以前分は「電源開発の概要」、「電力供給計画の概要」を、2010年度以降分は「総合エネルギー統計」を基に作成
(出典)経済産業省「令和元年度 エネルギー白書」(2020年)


我が国の原子力発電設備容量及び設備利用率の推移(電気事業用)

図2-3 我が国の原子力発電設備容量及び設備利用率の推移(電気事業用)

(出典)電気事業連合会「INFOBASE」、一般社団法人日本原子力産業協会「2019年度の国内原子力発電所設備利用率は20.6%」、資源エネルギー庁「2019年度電力調査統計表」に基づき作成


 2021年3月22日時点の原子力発電所の状況は、図2-4のとおりです。
 2013年の新規制基準の導入以降、16基の発電所が原子炉設置変更許可を受け、うち9基が営業運転を再開(再稼働)しています。なお、新規制基準では特定重大事故等対処施設8の設置期限を本体の設計及び工事の計画の認可日から5年としており、設置期限に間に合わない再稼働炉は運転停止が求められます。そのため、九州電力株式会社は川内原子力発電所1号機を2020年3月に、同2号機を同年5月にそれぞれ停止しましたが、特定重大事故等対処施設の運用開始に伴い、1号機は同年12月に、2号機は2021年1月にそれぞれ通常運転に復帰しました。また、関西電力株式会社も高浜発電所3号機を2020年1月に、同4号機を同年10月にそれぞれ停止しており、3号機は同年12月に、4号機は2021年3月に特定重大事故等対処施設の運用を開始しています。
 設置変更許可を受けたものの再稼働に至っていない原子力発電所は、7基です。このうち、2020年11月には、女川原子力発電所2号機について、地元から再稼働への理解表明がなされています9
 そのほかに、建設中の原子力発電所も含め、新規制基準への適合性を審査中の炉が11基、適合性の審査へ未申請の炉が9基あります。一方、廃止措置計画が認可され廃止措置中の原子炉が14基、廃止措置が決定された原子炉が4基となり(第6章 表6-2)、特定原子力施設に係る実行計画を基に廃炉が行われる東電福島第一原発6基を合わせて、合計24基の実用発電用原子炉が運転を終了しています。


原子力発電所の状況(2021年3月22日時点)

図2-4 原子力発電所の状況(2021年3月22日時点)

(出典)資源エネルギー庁「日本の原子力発電所の状況」(2021年)に基づき作成


 我が国では、2012年の原子炉等規制法の改正により、原子炉の運転期間が運転開始から40年と規定されました。ただし、運転期間の満了に際し、原子力規制委員会の認可を受けた場合に、1回に限り運転期間を最大20年延長することを認める制度(運転期間延長認可制度)も導入されています。2021年3月末時点で、関西電力株式会社高浜発電所1、2号機、美浜発電所3号機及び日本原子力発電株式会社東海第二発電所が、運転期間の延長を認められています10(図2-5)。


既設発電所の運転年数の状況(2021年末時点注)

図2-5 既設発電所の運転年数の状況(2021年末時点(注))

(注)運転延長認可については2021年3月末時点。
(出典)一般社団法人日本原子力産業協会「日本の原子力発電炉(運転中、建設中、建設準備中など)」(2021年3月4日)情報に基づき、第3回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ資料4 資源エネルギー庁「廃炉を円滑に進めるための会計関連制度の課題」(2014年)を一部編集


(3)電力供給の安定性・エネルギーセキュリティと原子力

 3Eの構成要素の一つであるエネルギーの安定供給(Energy Security)の確保のため、我が国では1970年代のオイルショック以降、原子力を含む電源の多様化を進めてきました。しかし、東電福島第一原発事故後、原子力発電所が運転を停止し、我が国の電源構成は石炭や液化天然ガス(LNG11)等の化石燃料に大きく依存する構造となっています(図2-2)。
 エネルギー資源に乏しい国にとって、輸入に依存する化石燃料の価格変動に大きく左右されず、燃料調達が比較的安定している原子力発電は、エネルギーセキュリティを確保する重要な手段の一つです。自国にエネルギー資源を持たない韓国やフランス等は、原子力を除いた場合のエネルギー自給率が低くなっており、原子力を除いた場合、フランスのエネルギー自給率は11%と我が国より若干高い程度ですが、原子力利用により自給率は55%へと大幅に上昇します(図2-6)。


主要国のエネルギー自給率(2018年)

図2-6 主要国のエネルギー自給率(2018年)

(出典)IEA「World Energy Balances」(2020年)に基づき作成


 また、大規模災害時の大規模停電回避等により日本全体で電力供給のレジリエンスを向上させていくためには、再生可能エネルギー等の小規模な分散型電源の導入を進める一方で、地域間の電力融通と併せて、大規模電源も日本全体で分散化させていく必要があります。我が国では、首都圏及び近畿圏の火力発電所の大部分が東京湾岸、大阪湾岸、瀬戸内等に集中していますが、仮にこれらの地域で直下型地震等が発生したとしても、日本海側に電源が十分に整備されていれば、供給力不足を回避できる可能性が高まります。原子力発電所は太平洋側、日本海側に分散して立地しており(図2-4)、災害時のレジリエンス向上に貢献できるという特性を有しています。


(4)電力供給の経済性と原子力

 3Eの構成要素である経済効率性の向上(Economic Efficiency)のためには、低コストでのエネルギー供給を実現することが重要です。我が国では、東電福島第一原発事故後、原子力発電所の運転停止に伴い火力発電の焚き増しが行われたため、化石燃料の輸入が増加しました。また、再生可能エネルギーで発電された電気をあらかじめ決められた価格で電力会社が買い取る「固定価格買取(FIT12)制度」では、買取費用の一部は「賦課金」として電気料金を通じて国民が負担することとされています。これらの影響により、近年、我が国では電気料金が上昇しています。2015年から2016年にかけては、一部の原子力発電所の再稼働と化石燃料の価格下落により電気料金上昇に歯止めがかかりましたが、以降は再び上昇し、家庭向け電気料金、産業向け電気料金ともに高い水準が続いています(図2-7)。


我が国の電気料金の推移

図2-7 我が国の電気料金の推移

(注1)原価CIF価格:輸入額に輸送料、保険料等を加えた貿易取引の価格
(注2)発受電月報、各電力会社決算資料を基に作成
(出典)資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ「2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」(2020年)


 なお、2020年6月に「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第49号)が成立し、FIT制度に加えて新たに、再生可能エネルギーの市場価格の水準に対して、「賦課金」を原資とする一定の補助額を交付する「フィードインプレミアム(FIP13)制度」が定められ、2022年度に導入される予定です。一方で、高い水準の電気料金は、国民生活のみならず、製造業を始めとする産業にも大きな負担となるため、発電に掛かるコストを下げることも重要です。
 原子力発電の経済性に関する特性として、運転コストが低廉であることが挙げられます。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会長期エネルギー需給見通し小委員会が2015年に行った試算では、原子力発電の発電コストは、発電に直接掛かる費用のほか、再処理費、高レベル廃棄物処分費等を含む核燃料サイクル費用、原子炉の廃止措置費用等の将来発生する費用等も全て含めて、10.1~円/kWhと見積もられています(表2-1)。


表2-1 2014年モデルプラント試算による電源別発電コスト
電源 原子力 LNG
火力
石油
火力
石炭
火力
太陽光 陸上
風力
地熱 小水力
設備容量(kW) 120万 140万 40万 80万 2,000 2万 3万 200
設備利用率(%) 70 70 30 70 14 20 83 60
稼働年数(年) 40 40 40 40 20 20 40 40
発電コスト
(円/kWh)
10.1~ 13.7 30.6 12.3 24.2 21.6 16.9 23.3

(出典)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会長期エネルギー需給見通し小委員会発電コスト検証ワーキンググループ「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告」(2015年)に基づき作成


 また、原子力発電に使用されるウランと、液化天然ガス(LNG)、石油、石炭等の化石燃料とでは、発電に必要な燃料の量が大きく異なります。100万kWの発電所を1年間運転するために、LNGは95万t、石油は155万t、石炭は235万tが必要となる一方で、ウランの必要量は21tです(図2-8)。自国にエネルギー資源を持たず輸入に依存している我が国にとって、必要な燃料の量が多いということは、燃料の購入費用だけでなく、燃料の国内への輸送コストの増大にもつながります。化石燃料の場合、燃料価格は産出国の政治情勢や為替レートの変動の影響も受けます。このように、原子力発電には、化石燃料と比較して必要な燃料量が少なく、燃料価格変動の影響を受けにくいという特性もあります。
 これらの特性を踏まえ、再生可能エネルギー導入に伴う賦課金増大や化石燃料の市場価格変動による影響を緩和し、電気料金の上昇を抑えるためにも、安全最優先での原子力発電所の再稼働を進めることが必要です。


100万kWの発電設備を1年間運転するために必要な燃料

図2-8 100万kWの発電設備を1年間運転するために必要な燃料

(出典)資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ「原発のコストを考える」(2017年)


(5)地球温暖化対策と原子力

 3Eの構成要素の一つである環境への適合(Environment)に関しては、もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。2020年以降の温暖化対策の国際枠組みを定めた「パリ協定」では、世界共通の目標として、工業化以前からの世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分に下回るものに押さえるとともに、1.5℃に抑える努力を継続することとしています。この目標を達成するためには、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成するカーボンニュートラルを目指すことになります。
 我が国では、2050年カーボンニュートラルを目指し、2020年12月にグリーン成長戦略が策定されました。言葉を並べることは簡単ですが、カーボンニュートラルの実行は並大抵の努力でできることではありません。同戦略では、大胆な投資を行い、イノベーションを起こすといった民間企業の前向きな挑戦を全力で応援することが、政府の役割であるとしています。その上で、予算や税制、金融、規制改革・標準化、国際連携などあらゆる政策ツールを総動員し、関係省庁が一体となって取り組んでいくため、原子力産業を含む14の重要分野において「実行計画」が策定されました(図2-9)。


グリーン成長戦略(2020年12月策定)における重要分野の整理

図2-9 グリーン成長戦略(2020年12月策定)における重要分野の整理

(出典)「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020年)


 2020年12月に策定されたグリーン成長戦略における原子力産業分野の実行計画では、原子力は安定的にカーボンフリーの電力を供給することが可能な上、更なるイノベーションによって、安全性・信頼性・効率性の一層の向上に加えて、再生可能エネルギーとの共存、カーボンフリーな水素製造や熱利用といった多様な社会的要請に応えることが可能であるとしています。軽水炉の更なる安全性向上はもちろんのこと、それへの貢献も見据えた革新的技術の原子力イノベーションに向けた研究開発も進めていくため、3つの目標を掲げ、2050年までの時間軸の工程表を提示しました(図2-10)。


グリーン成長戦略(2020年12月策定)における原子力産業の目標及び工程表

図2-10 グリーン成長戦略(2020年12月策定)における原子力産業の目標及び工程表

(出典)「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020年)に基づき作成


 我が国における発電に伴う二酸化炭素排出量は、東日本大震災後の原子力発電所の運転停止及び火力発電量の増加に伴い、2011年度以降増加傾向でしたが、再生可能エネルギーの導入拡大や原子力発電所の再稼働により、2014年度以降は減少傾向にあります(図2-11)。また、国際エネルギー機関(IEA14)やOECD/NEAは、2019年に公表した報告書において、低炭素電源としての原子力の必要性を示しています。原子力発電所の再稼働を進めることは、温室効果ガス排出削減の観点からも重要であると考えられます。


全電源(事業用発電、自家発電)の発電に伴う燃料種別の二酸化炭素排出量

図2-11 全電源(事業用発電、自家発電)の発電に伴う燃料種別の二酸化炭素排出量

(出典)環境省「2018年度(平成30年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について」(2020年)に基づき作成


コラム ~低炭素化のコスト:電力システム全体のコストの考え方~

 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)は、2019年に報告書「低炭素化のコスト:原子力・再生可能エネルギーのシェア向上時におけるシステムコスト」を公表しました。同報告書では、風力や太陽光等の気象条件によって変動する再生可能エネルギー電力を評価する際には、発電コストに加えて、次の4種類の電力システム全体のコストを考慮する必要があるとしています。


電力システムコスト
コストの種類 概要
供給能力維持・
過剰対策コスト
再生可能エネルギーによる出力変動を調整するため、再生可能エネルギー以外の電力量調整用プラントの容量を確保するためのコストと、調整用プラントの急速稼働と停止の繰り返しによる利用効率の低下や設備消耗に対応するコスト。
需給調整コスト 発電所の計画外停止等の供給変動に対応し、電力系統の安定性を確保するためのコスト。
送配電コスト 発電所の分散性と場所の制約による、送電と配電のコスト。
送電線への接続コスト 発電所を最も近い接続ポイントで送電網に接続するためのコスト。

(出典)OECD/NEA「The Costs of Decarbonisation:System Costs with High Shares of Nuclear and Renewables」(2019年)に基づき作成


 再生可能エネルギー源は出力の不確実性が高く、需給調整コストが増大する傾向があります。送配電コストについては、分散型の太陽光設備等で発電量が地域の需要を上回る場合、逆潮流に対応するために配電網整備への投資が必要となることがあります。また、接続コストについては、洋上風力のように遠距離から接続する場合に大きくなります。


再生可能エネルギー(太陽光を例示)の出力変動に伴う供給能力維持・過剰対策

再生可能エネルギー(太陽光を例示)の出力変動に伴う供給能力維持・過剰対策

(出典)資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ「再エネの大量導入に向けて~『系統制御』問題と対策」(2017年)


(6)世界の原子力発電の状況と中長期的な将来見通し

 2011年以降、2020年までの間に、世界では59基の原子炉の営業運転が開始されているとともに、54基の原子炉が建設開始され、65基が閉鎖されています15。2021年3月末時点で、世界で運転中の原子炉は443基、原子力発電設備容量は3億9,408万kWに達しており、建設中のものを含めると総計497基、4億5,513万kWとなります。また、世界の原子力発電電力量は、2011年の東電福島第一原発事故後に一旦落ち込みましたが、2013年以降は順調に回復しています(図2-12、図2-13)


世界の原子力発電設備容量(運転中)の推移(地域別)

図2-12 世界の原子力発電設備容量(運転中)の推移(地域別)

(注)日本原子力産業協会「世界の原子力発電開発の動向2019年版」を基に経済産業省が作成。
(出典)経済産業省「令和元年度 エネルギー白書」(2020年)


世界の原子力発電電力量の推移(地域別)

図2-13 世界の原子力発電電力量の推移(地域別)

(注)IEA「World Energy Balances 2019 Edition」を基に経済産業省が作成。
(出典)経済産業省「令和元年度 エネルギー白書」(2020年)


 各国の原子力発電の利用動向は、図2-14のとおりです。
 ウクライナ(旧ソ連)のチェルノブイリ原子力発電所の事故16、東電福島第一原発事故を経て、西欧諸国の中にはドイツ、イタリア、スイス等のように脱原子力政策に転じる国々が現れました。アジアでも、韓国が脱原子力の方針を示しました。一方、台湾では、脱原子力政策が掲げられていましたが、2018年の住民投票により脱原子力条文が失効したため、2025年以降の原子力発電所の運転継続等について検討が行われています。
 そのほかのアジア、東欧、中近東等では、経済成長に伴う電力需要と電力の低炭素化に対応するため、東電福島第一原発事故後も原子力開発が進展しています。特に、中国やインドでは、原子力開発が積極的に進められています。
 また、英国等の原子力利用先進国17においても、低炭素電源としての原子力発電の重要性が再認識されてきています。世界最大の原子力利用国である米国(図2-15左)では、2021年3月末時点で94基の原子炉が稼働しています。発電電力量に占める原子力比率が約70%で世界首位のフランス(図2-15右)では、原子力発電電力量の比率を2035年までに50%に縮減する目標を掲げています。


各国の原子力発電の利用動向

図2-14 各国の原子力発電の利用動向

(出典)第21回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会資料3 資源エネルギー庁「原子力政策の課題と対応について」(2021年)


各国の原子力発電電力量(左)及び発電電力量に占める原子力比率(右)(2019年)

図2-15 各国の原子力発電電力量(左)及び発電電力量に占める原子力比率(右)(2019年)

(出典)IAEA「Energy, Electricity and Nuclear Power Estimates for the Period up to 2050」(2020年)に基づき作成


 国際原子力機関(IAEA)が2020年9月に発表した年次報告書「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測2020年版」では、原子力発電の設備容量について、2019年度版の報告書と同様に、①現在の市場や大幅な技術革新等、原子力を取り巻く環境が大きく変化しないと仮定した保守的な「低位ケース」と、②新興国の経済成長や電力需要の増大の継続を仮定し、パリ協定締約国による温室効果ガス排出削減で原子力の果たす役割が拡大することを前提にした「高位ケース」を設定して、それぞれ見通しを示しています。低位ケースでは、中長期的に原子力発電設備容量が減少する傾向が示されている一方、高位ケースでは、2030年には2019年比21%、2050年には2019年比82%増加すると予測されています(図2-16)。このような見通しの傾向は、2019年度版の報告書と大きく変わっていません。


IAEAによる2050年までの原子力発電設備容量の推移見通し

図2-16 IAEAによる2050年までの原子力発電設備容量の推移見通し

(出典)IAEA「Energy, Electricity and Nuclear Power Estimates for the Period up to 2050」(2020年)に基づき作成



  1. 温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量とを均衡させること。
  2. その後、更なる具体化を行い、2021年6月18日に改訂。(https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-3.pdf
  3. さらに、2021年4月22日に開催された気候サミットの首脳級セッションにおいて、菅総理は、温室効果ガス排出削減の野心的な目標として、2030年度において2013年度比46%減を目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける旨宣言。
  4. https://www.env.go.jp/council/06earth/yoshi06-20.html
  5. https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/
  6. 発電設備の最大能力で、発電所が単位時間に作ることができる電力量(単位はW、kW)。
  7. 発電所が、ある期間において実際に作り出した電力と、その期間休まずフルパワーで運転したと仮定した時に得られる電力量(定格電気出力とその期間の時間との掛け算)との比率を百分率で表したもの。
  8. 第1章1-2(1)③1)「新規制基準の導入」、第1章1-3(1)「過酷事故対策」を参照。
  9. 第5章コラム「~東北電力株式会社女川原子力発電所2号機の再稼働に係る地元理解~」を参照。
  10. 2021年4月28日には、高浜発電所1、2号機及び美浜発電所3号機について、地元から再稼働へ理解表明。運転期間40年超の原子力発電所では全国初。さらに、美浜発電所3号機は2021年6月23日に再稼働。
  11. Liquefied Natural Gas
  12. Feed in Tariff
  13. Feed in Premium
  14. International Energy Agency
  15. 資料編6(2)「世界の原子力発電所の運転開始・着工・閉鎖の推移(2010年以降)」を参照。
  16. 1986年4月26日に、旧ソ連ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所4号機で発生した事故。急激な出力の上昇による原子炉や建屋の破壊に伴い大量の放射性物質が外部に放出され、ウクライナ、ロシア、ベラルーシや隣接する欧州諸国を中心に広範囲に飛散。
  17. 第3章3-1(2)「海外の原子力発電主要国の動向」を参照。



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